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Galavy Destiny-04d

「いよぅ、シン! 元気にしてるかい?」

 気安い調子で掛けられた挨拶の声で、シンは病人の部屋に無遠慮に踏み込む侵入者の正体を特定した。

「ふぉる、て……?」
「風邪ひいたって中佐に聞いてね、見舞いに来てやったよ」

 ひび割れたように痛む喉を震わせ、突然の来客の名を呼ぶシンに、フォルテ・シュト―レンが見舞い品らしきバスケットを持ち上げながら快活に笑った。

「あんたもドジを踏んだもんだね、ある意味身体が財産の軍人が風邪で倒れるなんて」
「言うな。俺も馬鹿だったって落ち込んでる」
「そうかい、そりゃ悪かったね」

 互いに軽口を交わしながら、シンは筋肉や関節を軋ませながらベッドの上に上体を起こし、フォルテはベッド横に備えつけられたデスクに腰掛ける。

「思ったより大事なさそうじゃないか。ちょっと安心した」
「これが元気に見えるなら、お前も一度病院に行った方が良い」
「ご免被るね。というか、それだけ軽口が叩けるなら問題ないだろ。とっとと風邪治して戻ってきな」

 言いながら、フォルテはバスケットの中から林檎を取り出し、向かい合うようにベッドの上に座るシンへ放り投げる。
 弧を描くように宙を飛ぶ林檎をシンは片手で受け止め、しかしやはり調子が悪いのか取り落とし、ぼすんと音を立てて布団の上に落ちた林檎を改めて拾い上げた。
 仄かな甘い香りが鼻孔をくすぐり、ひんやりとした感触が掌に広がる。
 中身がよく詰まっているのか、それとも風邪で腕力が落ちているのか、片手で持ち上げた林檎は見た目よりも随分と重い。
 渡された林檎にかぶりつきながら、シンは上目遣いで正面のフォルテを一瞥する。

「仕事の方はどうなってる。俺が抜けてデスクワークが溜まったりしてないか?」
「なめるなよ。あんた一人が抜けただけでどうにかなる程、あたし達エンジェル隊はヤワじゃない――と、言いたいところなんだけどねぇ……」

 シンの問いに、フォルテはやれやれと言った調子で肩を竦める。

「お察しの通り、軍務が滞ってにっちもさっちも行かなくなってる。いつの間にかサボり癖がついてたってこともあるけど、何よりあの娘達の精神的な問題がね……。
 余りにも仕事が進まないから、シンが復帰してから死ぬ気で処理しようってことで今は皆適当にやってる。まぁ、だから勤務中にあんたの顔を見に来れたんだけどね」

 何だその開き直りは。
 唖然とするシンにフォルテは「あははー」誤魔化すように乾いた笑みを返し、傍のバスケットに再び片手をのばした。

「――そういう訳で、悪いけどあんたにはとっとと仕事に戻って来て欲しい訳よ。そのために色々と持ってきてやったから、あんたも早めに風邪治しな」

 言いながら、フォルテはおもむろにバスケットをひっくり返す。
 すると……出るわ出るわ。
 ニラや生姜、レモンにオレンジ、卵に牛乳、蜂蜜や酒まで。
 民間療法で「風邪に効く」とよく言われる食べ物が、デスクの上をごろごろと転がる。

「月並みな言い方になるけど、これを食べて元気になりな」

 そんな励ましの言葉と共に、フォルテはどこからかミキサーを取り出し、デスクの上の品々をガラス容器の中に無造作に放り込む。
 蓋を填めた容器を台座にセットし、側面の電源ボタンをポチっとスイッチオン。
 容器内部の金属刃が機械仕掛けの台座に組み込まれたモーターと連結し、唸りを上げて高速回転、獣の咆哮のような音を立てて中身を粉砕する。

 台座から容器を取り外し、フォルテは出来上がった中身をコップに注いでシンに差し出した。
 手渡されたガラスコップの中で、異臭を放つ半液体状の何か――ニラや生姜や果物やその他色々のなれの果てが揺れている。
 再びフォルテに視線を戻すと、半分程度中身が残った容器の注ぎ口を二つ目のコップへと傾けていた、どうやら自分も飲むつもりらしい。
 特に止める理由も無かったので、シンは黙ってフォルテが注ぎ終えるのを待つ。

「それじゃあ、乾杯といこうか?」

 名状し難いドロドロとした液体に満たされたコップを片手で掲げながら、フォルテがおどけたような笑みを浮かべる。

「乾杯って、何にだよ?」
「そんなの決まってるじゃないか。元気になった明日のあんたと、あんたが帰って来たエンジェル隊に……だよ」
「気が早過ぎるだろ、それ」

 フォルテの科白に思わず吹き出しつつも、シンは「まぁ良いか」と言いながらコップを差し出した。
 フォルテもコップを握る片手をのばし、甲高い接触音を小さく響かせながら二つのコップの縁が空中で触れ合う。
 それはどこか、キスをする恋人同士にも似ていた。

「「乾杯」」

 まるで悪戯を思いついた子供のように無邪気な笑みを浮かべながら、二人はコップを傾けて中身を一気に飲み干した。



 そして――、



「――それでアスカもフォルテさんもお腹を壊して、二人揃って軍の医療施設に緊急入院? ……マジですか?」
「残念ながら大マジです」

 唖然とした表情で訊き返す蘭花に、ウォルコットは疲労を滲ませた顔で首肯する。

 ストリートチルドレン出身で、また一時期ゲリラとしても活動していたフォルテは、食べ物に特別なこだわりは――おでんという好物はあるものの――持っていない。
 日々の食事にも困るような過去の生活から、食べられるものは食べられる時に食べるという習慣が心身の奥深くに根づいているのだ。
 一方シンの方も、食べ物に特に頓着するような性格ではなかった。
 何か得体の知れないものであれば流石に口にすることを躊躇するだろうが、今回は食材も、調理(?)過程も間近で見ている、警戒する理由は存在しなかった。

 今回の一件は、このように「食事」に関して非常に大雑把な二人だからこそ起こり得た悲劇だったと言えるだろう。

「しかもフォルテさんの方はシン君の宇宙インフルエンザが伝染ったらしく、仕事は暫く無理だそうです」
「ミイラ取りがミイラになったとはこのことですね」
「ちょっとミント、そんな上手いこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

 呆れたように息を吐くミントに、再起動した蘭花が烈火のような激しい剣幕でがなり立てる。

「アスカもフォルテさんもいない状況で! これ! 一体どーすんのよ!?」

 そう言って蘭花が指差した先には、天井近くまで積み上げられた記憶媒体の山、山、山……仕事が滞り、溜まりに溜まった未処理データである。

「うぇ~ん、終わりませーん!」

 文字通り仕事の山と格闘していたミルフィーユが、敵の物量に遂に音を上げ、悲鳴を上げながらデスクに突っ伏した。
 その隣では蘭花が黙々と作業を続け……倒れた、どうやら余りにも膨大な仕事量に脳の処理能力が追いつかなくなったらしい。

 ここは地球から遥か何万光年も離れた銀河の果て、トランスバール皇国。
 古代文明の遺産〝ロストテクノロジー〟の回収を主な任務とし、銀河の平和と安全を守るために日夜戦い続けるギャラクシーエンジェル隊は、地味に壊滅の危機に陥っていた。

「ばっかやろぉぉぉーーーっ!!」

 欄花の絶望の悲鳴が、エンジェル隊基地に空しく響き渡った。



――BAD END 1:民間療法はほどほどに




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最終更新:2009年01月30日 23:28
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