これは、シンと神衣が同居しはじめる前のお話。
「シン、買い物に行かないか」
夕暮れに染まる帰り道、神衣はシンに聞いた。
「え?そういや明日休みですよね・・・俺はいいですよ」
と、思い出しながら言うシン。明日は開校記念日なので休みだ。
これには理由がある。
彼女は、「恋人同士で買い物に行く」という事を経験したことが無いのだ。
はぁとが言うには「恋人が出来たならぜひ経験するべきこと」とらしいので、
神衣はそれに興味を持ち、行きたいと思った。そしてもう一つ理由があるが――
それはまだ、秘密のお話。
「それでどこに行くんですか?この前新しく出来たオイートーカドーデパートですか?」
「む、そうだな・・・あそこの近くにはフリーマーケットもあるからな」
オイートーカードデパート。豊島区にある大きめのデパートだ。
4階立てで面積はデパートとしては普通の大きさだが4階が広さを高めていた。
そして近くにあるのは、フリーマーケットがある。正確に言えばフリーマーケット用のスペースだが
そこはいつもにぎわってるので住民からは実質フリーマーケットと考えられている。
デパートでは比較的高いものの良いものがあって、フリーマーケットは質が悪いものの安い。
たまにはデパートを越える掘り出し物があるという特徴があるので二つの小売場が共存していた。
「しかし何を買いにいくのですか?」
とシンは聞くと
「あ、ああ・・・その・・・」
と神衣は言い淀んだ。神衣はシンには絶対言えないと思ってたとか。
―――
私、朱鷺宮神衣はシンが好きだ。
恋してる、愛してるのどちらかを言えばいいのか分からないが、好きだ。
だが私は千年守。そのような宿命を持ちつつ
恋をしていいのか、愛することは駄目なのではないか。そういう考えもあった。
だからこその葛藤だろう―か、この感情は葛藤なのだろうか。
―――
「神衣さーん!これなんかどうですか?」
「む、これはいいな・・・だかしかしこちらも・・・」
デパートの服屋。そこで二人は服を選んでいた。
シンが言うには「あの黒いワンピースだけじゃ単調だしもっと色んな服を着て欲しい」との事。
そして選んでいるのはおとなしいが荒々しい模様が書かれている青色のTシャツにジーンズ。
それを今試着をしているわけであるがぶっちゃけ、似合いすぎた。その絹のような黒い髪はポニーテールにしてるのにも関わらず腰まで届く
清い乙女を象徴したかのような美しさを出す髪の毛。
そこに氷のような美貌があるがそこに体のラインが少し強調するかのように
ヘソが出るほど小さめだが荒々しい青色のシャツ。そして長い脚を出すかのようなジーンズ。
それらが全て調和して姉御肌みたいな印象を与えていた。
「む、むう・・・あまりじろじろ見ないでくれ」
「似合うからいいんじゃないですか?見ても減るもんじゃないし」
「むぅ・・・」
と小動物のように困る神衣。それがまたギャップを出す可愛らしさがある。
「だが・・・まあ、その、シンが喜んでくれるなら・・・その、買って欲しい」
「いいですよ、神衣さんも少し喜んでるみたいだし」
「な、ちょ、私は喜んで無いぞ・・・その、恥ずかしいから・・・」
と顔を赤らめる神衣。可愛らしさが出る、純情な女の子の面が出るところだ。
そしておもちゃ屋
シンは、はぁとからこう聞いていた
「かむかむ先輩ってぬいぐるみが好きだそうですよーっ!!だからぬいぐるみをプレゼントするのが良いと思います!」
なので、シンはぬいぐるみを買ってあげようと思った。
そういうわけで、こうしているわけであるが・・・いかんせんどのぬいぐるみを選べばいいのか分からない。
と、その時である。神衣は鳥が好きだと言ってたのを思い出した。
なので、鳥のぬいぐるみをプレゼントしよう、と考えた。
そしてぬいぐるみを持ち、レジに向かうと犬のぬいぐるみを抱えた神衣の姿があった。
値札が切られているところを見ると店員に購入後切るように頼んだのだろう。
「あれ、神衣さん、それは自分用ですか?」
「む、いや・・・そうじゃない」
と神衣は背中に犬のぬいぐるみを隠す。
「その・・・シン。いつもお世話になってるだろう。だから、男がこれを喜ぶかどうか分からないが・・・
犬が、好きだと言っていただろう、シンは、だから・・・その、これは贈り物だ」
と、言って犬のぬいぐるみを両手で手を前に出す。
それが赤く染めた可愛らしい顔で言ってるのだからかなりの破壊力だろう。
「シン・・・プレゼントだ。たまには私からこういう事をさせてくれ」
はっきり言って可愛かった。
これにはシンも驚き、顔を赤らめさせた。
「か、神衣さん・・・ありがとう、ございます」
顔を赤らめつつ言う青年の姿に神衣は胸に何か、キュンと来たと言えばいいのだろうか。
そんな感じの雰囲気が二人を包んだ
―――
私は己の宿命を呪った。千年守という宿命に。
聖霊界と物質界を均衡する使命を持っていながら、なんたる酷態。
千年守という、年をとらぬ身。なのに皆は年をとる。
当然のように、愛しい人も年をとる。
それが、怖かった。痛々しく。
そして、一人で悩んでいた。
―――
そして、帰り際。
少し多めの荷物を持ち、歩いて帰る途中、公園で休んだ。
そこでのお話。といえばいいのだろう。
ここから先は、二人にとっては特別な思い出になるのだから。
「神衣さん・・・」
ベンチに座る二人。そこは二人っきりの空間。
なのにも関わらず神衣の顔は、少し暗い、そんな感じの顔をしていた。
―――
私は、怖かった。
大切な人を。このはや、学校の友達を失くすことを。
眠ってしまったら、大切な人が皆、居ない。
何より、シンが居なくなってしまう事を。
だから、私は出来るだけ任務を第一にした。そんな幸せで、後悔をしないように。
―――
「神衣さん、その・・・」
おめでとう。
「え?」
その声を聞いたとき、信じられないような、そんな顔をした。
何故、おめでとうなのだろうか。
「神衣さん、悩みを持っているんですよね。でも、その悩みは今日でおさらばさせたいんです。
神衣さん、これ、プレゼント」
と、前に出したのは―あの時買った、ぬいぐるみ。
今までぬいぐるみを何に使うか、を話していなかったのである。
「今日は、きっと悩みが取れる日なんじゃないか、と思って」
「シ、シン・・・ありがとう」
と、突然のことなのか、少し戸惑いつつ、受け取る神衣。
「何故・・・私が悩んでいる事を?」
「顔を見れば分かりますよ。時々、寂しそうな顔を、してますから」
「・・・そう、か。私も、まだ隠しきれていなかったか」
―――
その時、シンは気づいてくれたのだろう。
私は、少し嬉しかったかもしれない、そして、愚かだったかもしれない。
何故、早く誰にも相談しなかったのだ、と。
私だけの問題だと決め付けていたのだろうか。
「シン・・・私は、怖いんだ。
お前が・・・どこかに、行くのではないか、と。そして私がどこかに行って、
お前を悲しませることになるんじゃないかと」
「神衣さん。何故、早く俺に言わなかったんです」
「俺は・・・神衣さんの味方です。だから、たまには俺に頼ってください」
その言葉からか神衣はシンに抱きついた。
「シン・・・私は、お前の事が好きだ・・・。
だから、どこにも行かないでくれ・・・私も、お前を置いてどこかには行かないから・・・」
「神衣・・・さん」
神衣の顔には、一筋の涙があった。
―――
私は、一人じゃない。それを分かったところで、ようやく安らげた。
もう少し、任務遂行とは外れて、自分の生活をしてもいいだろうと、思った、。
―――
「シン・・・私は、今日を特別な日にしたい。
だから、今日はこうやって、抱かせてくれ・・・」
呟くように言う神衣、涙が流れているのに、静かな声だった。
「神衣さん。今日は特別な日でもなんでもない。
今日みたいな日はこれからも続く。きっと・・・」
―――
いつかこの日常は破られるかもしれない。
でも、今は続いてる。だから、私は今を大切にしたい。
―――
そして、神衣は抱かれる。もふもふされると言うべきだろうか。
その、シンの暖かい手の中で・・・。
最終更新:2009年02月03日 09:22