「ん~? おやおや、誰かと思えば山に住んでる烏天狗じゃないか、まぁちょうど良い、ささ、飲みな飲みな」
「よ~し、良い飲みっぷりだ、さ、もう二杯飲んだ飲んだ、駆けつけ三杯だよ」
「流石天狗、良い飲みっぷりだね、で、私に何か用でもあるのかい? ん?話を聞きたいって?」
「地霊殿に住む人間について…? あぁ、シンの事かい、了解了解、酒の肴に話すとしようか」
「んで、何処から話すかね… シンと私との出会いから?」
「私とシンが出会ったのはそんな面白い理由じゃないさ、単にシンが地霊殿からの使者として旧都に来たってだけでね」
「まぁ、その頃はまだシンについての情報なんかろくに出回ってなかったからね、単に地霊殿の主が人間をペットにしたって噂だけさ」
「その噂もあってか道中シンを襲うような妖怪もいなかったようだけど、此処にすむ者にとって地霊殿の主はできるだけ避けたい相手だからねぇ」
「ま、そのシンがさとりからの報告書… といっても人間の巫女達がどうにかしたあの地獄烏の騒動に関しての手紙だけどね、それを持ってきたのさ」
「とはいえだ、私達鬼が此処旧都に住むようになった原因でもある人間を好んで迎え入れようって言う鬼なんて居ない、わざわざ決別したくらいだからね」
「そんな理由もあって旧都に入ったとは言え、出迎えも無く暫く迷っていたらしいシンを私が一杯飲んでたときに偶々見つけてね、それからの縁さ」
「あの時の私は幸いというか、あの白黒と人間の巫女のお陰で多少は人間に対して好意的になってたからね、手紙の受け取り事態はあっさりと終わったよ」
「ただね、その後私が思いっきり失言しちゃってね、いや、今だからこそ失言と思えるけど、あの時は単に疑問をシンにぶつけただけだったね」
「ん? その疑問の内容? あぁ、簡単な事だよ『なんであんな嫌われ者のさとりのペットになったりしたんだい?』ってね」
「…仕方ないだろ、私達鬼は嘘はつけないんだ、疑問に思ったら訊くしかなかったんだよ、今ではちょいと後悔してるけどね」
「質問をした後のシンの反応? まぁ、一言で言えば敵意だね、あの頃は知らなかったけどシンにとってさとりは大切な人の一人だからね、そりゃ怒るだろうさ」
「まぁ、シンのほうも私の言葉に対して『アンタは何が言いたいんだ』って噛み返してきたからね、正直『おっ?』と思ったさ、中々気骨がありそうだと感じてね」
「それで少しシンが気に入ってね、もう少し揺さぶったらどうなるんだろうと思ってついつい言い過ぎちゃったんだよ」
「……あんたも野暮だねそこでわざわざ首を突っ込んでくるなんて、天狗らしいと言えばらしいけど… まぁいいさ、後でこっちの要求を呑んでもらう代わりに話すよ」
「安心しな、たいした頼みじゃないさ、ただし、鬼相手に嘘をつこうなんて思わない事だよ、いいね?」
「んで、言い過ぎた事に関してだったね、まぁ簡単と言えば簡単さ、さとりが嫌われ者って言われてる理由を詳細に語っちゃったわけだ」
「あの時はちょいっと飲みすぎだったせいか、気骨がありそうな人間と会えた事で興奮してたのか饒舌になりすぎちゃってね、言い過ぎたって自覚はあるよ」
「まぁ、その私の言葉を一通り聞いた後のシンのあの言葉、今でもこの耳に響いているくらいに強く残ってるよ」
「ん? あぁ、その言葉かい? 『アンタに、さとりの何が分かるっていうんだよ!! そうやって表面だけ見て、勝手にさとりを嫌って、アンタはいったい何様だ!!』さ」
「アハハハハ、良い顔してるねぇ、まぁ普通ならあんたみたいな反応するよね、何せこの四天王の一人たる星熊勇儀に喧嘩売ってるようなものだからね」
「まぁ、シンもあまり深くは考えてなかっただろうさ、ただ、『大切な人を侮辱された』 この怒りだけで私に思いっきり噛み付いてきてただけだったようだから」
「でもまぁ、例えシンが噛み付いてきても私からすれば犬の遠吠え以下、私は本当のことを言っただけだと返して、これ以上吼えると力で黙らせると脅したのさ」
「あの頃のシンは空も飛べなきゃ弾幕どころか弾も出せない、弾幕ごっこでケリをつけるって真似ができない以上殴り合いしかなかったからね」
「人間なんてちょいと力加減を誤っちゃえば直ぐ死んでしまう脆弱な存在、だからちょいと脅かして返そうと思ったのさ、ムダに死なせるには惜しいと思ったからね」
「それでもシンは引かなかった、いや、寧ろ私が力で黙らせようとしたら余計に噛み付いてきたよ、『今までそうやって、踏みにじってきたのかよ!!』って」
「あぁ、脅しだった以上私は殺気も零してたさ、それでもシンは怯えるどころか闘争心を燃え上がらせていた、面白い男だろ?」
「鬼の殺気に怯えるでもなく、搦め手を使う為の挑発ってわけでもない、単に大切な人を侮辱されたのが許せずに強大な相手に真正面から噛み付こうってわけさ、人間が」
「私もそんな人間に此処最近御目にかかった事は無くてね、そう、人間と鬼が友であった頃の、鬼が最も愛した人間の姿、それを見て酷く楽しくなったのさ」
「勿論シンには鬼を倒す技術なんて無い、真正面からやりあえば私の勝ちは揺るぐ筈がない、残酷だけどそれも事実、でもそれじゃあ楽しくならないからね」
「そこで賭け勝負をしたのさ、そう、この私の愛用の杯… これに…… っとっとっと、之くらいだね、八割以上入ってるこの酒、之を一滴でも零させて見ろって勝負をね」
「ん?私が不利だと思うかい? 天狗も鬼の恐ろしさをお忘れかい? 之くらいやってもまだシンの勝率は2割以下さ、別にこっちから攻撃しないってわけじゃないんだから」
「ま、その勝負での賞品は、シンが勝ったら私はさとりに心からの謝罪をする、その代わりに私が勝ったらシンを攫わせてもらうと言う事さ」
「それで両者納得の上での勝負が始まったんだけど、いやぁ、楽しかったよ、未だにあの戦いを思い出し、それを肴に一晩中飲める位にね」
「言うまでも無く鬼の一撃を喰らえば人間なんてひとたまりも無い、多少加減していても骨に皹が入るか、良くても気絶は確実」
「シンはその事を感じ取ってたのか私の攻撃はキッチリ避けて、反撃も警戒してこっちに迂闊に攻撃してくる事はなかったよ」
「でもまぁ、そんなやり取りをしてれば先に限界が来るのは人間だ、当然段々とシンの息も荒くなってきてね、動きもジリジリと鈍り始めた」
「そんな姿を見てそろそろケリをつけるかと力を溜め始めたその時さ、何処からとも無く飛んできた小石が私の杯を掠めたんだ」
「いや、何処からとも無くっていうのは間違いだね、正確にはシンが投げた小石が、地面にあった石とぶつかって跳ね上がってきたものが杯を掠めたのさ」
「あの時は驚いたねぇ、単に私の攻撃から逃げ続けてるんじゃなくて、あたりの状況を確認してこの一手を放つ為に私の隙を伺い続けてたって理解したからなおさらだよ」
「わざわざ小石を他の石にぶつけて跳弾にして杯を狙おうなんて並みの考えじゃないよ、もしかしたら過去に似たような手を使った事もあったのかもしれないね」
「ん?それで決着がついたと思ったかい? 甘いね、この勇儀様はそう簡単には倒されないさ、とは言え酒を零しかけたのも事実だ」
「んでまぁ、私が一滴でも酒を零せば敗北って訳だからね、溜めてた力を全て解放してこう… よっと、こうだね、横になりながらこぼれかけてた酒を全て杯に戻したのさ」
「あの時はギリギリだったよ、一瞬でも私の力の解放が遅れれば一滴、いや、三滴は地面に落ちちゃってただろうね」
「いやぁ、それで嬉しくなっちゃってねぇ、ついつい勝負用に溜めてた筈の酒をこう… グイっと飲んじゃったのさ、杯の二割位になっちゃうほどにね」
「私としては正々堂々と仕切りなおしで改めてやりあいたかったんだけど、シンはそのまま、同じ条件の勝負で良いと言ってきてね」
「でもそれじゃあ私がズルをしたような形になるからね、一つ条件を加えたのさ、私の放つ渾身の一撃、それを避けきるか、耐え切った場合でもシンの勝ちにするってね」
「シンも私の気持ちを汲んでくれたのかその条件を呑んでくれてね、んで、その後は私が渾身の一撃を放つ為の準備でにらみ合いさ」
「その後、睨みあいに焦れてきた私が思いっきり、まさに渾身の一撃をシンに一直線に放ったのさ、全身全霊、掛け値なしの本気の一撃をね」
「それでどうなったかって? まぁ待ちな、此処から先を話すには今呑んでる酒じゃ物足りない… っとあったあった、この純米大吟醸位はせめてないとね」
「ンッンッ…… プハァー…… んで、私がシンに攻撃した後だったね?」
「まぁ、幾ら私の全力とは言え一直線の軌道の上にシンだって身構えてるんだ、かわされるか、掠めて吹っ飛ぶか、そのどっちかと私は思ってたよ」
「でもね、シンはあまりにも意外な、それでいて非常に面白い行動を取ってくれたよ」
「こう、両腕を交差させて盾にしてね、わざと私のほうに突っ込んできたのさ、当然、そんな事すれば私の攻撃を受けて吹っ飛ばされる」
「でもね、シンはその勢いさえも利用したのさ、わざと頭を引いてこう、縦に一回転するかのように衝撃を逃したのさ… 人間が言うサマーソルトだっけ?」
「あぁ、あってたようだね、そう、そのサマーソルトって技の様に縦に回転しながら… 私の杯を蹴り上げようと狙ったのさ」
「でもまぁ、残念だけど僅かに後ろに吹き飛びながらだからね、シンの蹴りが私の杯に届くはずなんてない… と思ってたが、私の杯は次の瞬間空中を舞っていた」
「なぜかと思って凝視してみるとその理由がわかったよ、シンが履いてた靴が衝撃のあまりに脱げたんだろうね、そして、その靴が杯へと直撃したって訳だ」
「流石に気付いてももう遅かったね、私の杯ごと中に入っていたお酒は全部地面にこぼれた、そして、シンはその光景を見て僅かに微笑むと気絶したよ」
「完敗も完敗さ、後で気づいたんだけどシンは私の体を一切狙わずに杯だけ狙っててね、その理由は『幾ら敵だからって恨みの無い女を簡単に傷つけられるかよ』ってさ」
「驚くだろう? 私たちから見れば脆弱きわまる人間が、私が女だからって杯だけを狙って勝敗を決しようとしたんだからね」
「当然、そんな男を気に入らない筈がないだろう? 私だけじゃなくて、話を聞いた地底の鬼達の大半は今じゃあシンを快く受け入れてるよ」
「過去に我ら鬼が失ったと思った友たる人間の姿、断片的とはいえそれを確りと持ち、鬼の試練を乗り越えた人間なんだ、受け入れない筈がない」
「その後はあまり積極的に語る事はないね、強いて言えばシンが旧地獄の管理仕事に回るって話が出たときに鬼の衣を贈呈したくらいかな」
「そう、鬼の衣さ、冷気も熱気も弾き返し、並大抵の攻撃じゃあ傷つく事もない鬼の衣服、しかもこの四天王星熊勇儀の霊気を込めた逸品をね」
「ん? そういうのをお古と言うんじゃないかって? わかってないね、鬼の衣は、強い鬼が長く着ていれば着ているだけ成長していく物なのさ」
「ましてシンに送ったのは私が最初に四天王として君臨していた頃の衣服を元に作り直したものだからね、旧地獄の熱とかに耐えるには最善の物だよ」
「まぁ、姿形はシンが着てた… ぱいろっとすーつ、だっけ? それにあわせたものに仕立て直して贈ったけどね」
「ま、とりあえず私が今話せるのはこんな所かね~ ん? 質問? 私から見たシンについてだって?」
「そうだね、過去に失ったかけがえの無い友でもあり、最も楽しませてくれる人間でもあり、鬼として迎え入れたくもある逸材だね」
「んでだ、私からの要求だけど、何そんなに怯える事はないさ、簡単な事だよ、そう、シンについての情報を萃香の耳に積極的に入らないようにしてくれるだけでいいのさ」
「ん? 何でかって? そりゃあ簡単だよ、誰だって厄介な敵になりそうな奴は少ない方がいいだろ?」
「この勝負だけは力で捻じ伏せる訳にもいけないし、萃香もシンを気に入るだろうし、何よりシンは小さい女の子には弱いからね、ロリコンってのじゃないようだけど」
「こんな真似はできれば避けたいんだけど 何せさとりにこいしにパルスィ、後さとりのペット達に…ヤマメも怪しいかな、まぁ、敵が既に多いからこれ以上はね……」
「おやおやどうしたそんな呆けた顔して、まぁ、さっきの事は確り頼むよ、んじゃ、酒宴の続きと行こうじゃないか!!」
※ その後妖怪の山で二日酔いならぬ四日酔い状態の射命丸文穣が確認されたという噂が流れたが真実は定かではない
最終更新:2009年02月03日 22:39