「おやおや、白黒のゴキブリが巣に引っかかったかと思えば山烏が一匹か、あんまり鳥は食べたくないんだけどね」
「ん? なんだい? 巣を多重に張っているのは卑怯だって? 仕方ないだろどこぞの誰かが変な情報流したお陰だよ」
「変な情報? そりゃ決まってるじゃないか、地霊殿に海産物が特盛りなんて情報、怪情報以外に何があるのさ」
「まったく、お陰で地上から地霊殿に進もうとする奴が多くて困ったよ、特に白黒までまた来るとは思わなかったからね」
「ん? 白黒が殴りこんでるのなら真実は明らかになっているだろうって? お生憎様、泥棒に手加減する奴はこの地中にはいないさ」
「流石の白黒も本気を出した鬼の四天王には叶わなかったようだからね、まぁ、鬼の四天王が本気を出したら寧ろ勝てる奴のが少ないから仕方ないけど」
「それならなんでこんなに多重に張っているのかって? 白黒があれからしばしば地霊殿や私達の巣を目指して突っ込んでくるからだよ」
「しかも、パルスィがキスメと一緒にワカメを使って海鮮サラダを作ってた所を見られたらしくてね、そのせいで最近は余計に過激になったよ」
「海鮮物が地霊殿や私達の巣ににあるのは事実だから、海産物が特盛りって事を怪情報っていうのは間違いだって? いや、怪情報に間違いは無いわ」
「あくまで地霊殿やこの地中に海鮮物があるのはおすそ分けのお陰だからね、地霊殿から産出されていない上に量も豊富とは言えないから怪情報よ」
「んで、その怪情報を流した張本人がこうして捕まったわけだしちょっとお仕置きするのもいいと思わない?」
「お仕置きの内容? そうだね、繭の中に閉じ込めて病に浸して三日放置とか楽しそうだね、後は感染力が鬼の様に強い病にかけて放流もいいかも」
「ん? そんな事をしたら私の立場が悪くなるだって? 何いってるのやら、私は土蜘蛛黒谷ヤマメ、病気を操る程度の能力の持ち主だよ?」
「地中の妖怪達も危ないんじゃないかって? ご生憎、橋姫であるパルスィがいる以上私の病は地中には届かないのさ、私達の関係の学習不足だね」
「それに、病にはするけどばら撒くのは貴方だからね、そんな害鳥の言葉を今度から信じる人はどの程度になるかしらね~」
「あ~、そんなに泣くんじゃないよ、ちょっとした冗談だから、ほら、顔をお拭き、可愛い顔が台無しだよ」
「ふぅ… ま、之に懲りたらもう少し自分が流した情報の影響力を考えるんだね、ん? 閻魔様にも似たような事を言われたことがあるって?」
「…あんた、地獄に落ちないように注意しときなよ、閻魔の説教を聴いて同じ愚を繰り返してると無間地獄に一直線になる可能性が高くなるからさ」
「……之で良しッと、うん、綺麗になった綺麗になった、んで、わざわざ地中に、地上に住むあんたが何のよう… て言うのも野暮か」
「あぁ、わかってるよ、何だかんだで此処最近で一番往復してるからね、んで、今日は誰に取材に向かおうとしてたんだい?」
「ん? 私とキスメに? それでキスメを探してる最中に私の張った網に引っかかったと、なるほど」
「ん~… こういうのは何だけど、キスメに取材は無理だと思うわ、あの子は内気だからね、親しい相手以外にはほとんど話しなんてしないわよ」
「それに、今日は地獄烏の所に遊びに行ってるからこの辺りにもいないし、そう考えると今のこの様子は羽折り損の蜘蛛の巣儲けって所かしら?」
「あはは、ごめんなさい、でも、そうやって怒れるって事はもう平気みたいね、ま、今日は私がキスメの分もついでに話してあげるとしましょうか」
「んで、まずは何からかしら? 私とシンの出会い? そんなに面白い物じゃないわよ、いや、ある意味衝撃的な出会いだったかしら」
「シンが暫くの間地霊殿じゃなくてパルスィの所で住んでいたのは… 知ってるようね、なら話は早いわ」
「まぁ、私が始めてシンと出合ったのはシンがリハビリとやらで地中を軽く歩き回ってた時ね、体を鈍らせない為に、とかいってたわね」
「それで、シンと私が初めて出会う… というよりも、キスメがシンとであったのが先ね、そう、キスメが先に」
「出会うと言っても…あの子は釣瓶落としだからね、こう、シンの頭に一直線に落下よ」
「しかもキスメ、減速し忘れてたらしくてね、下手すれば死んでるんじゃないかって言うくらいな勢いで顔面に直撃したそうよ」
「そう、顔面、どうやらシン、落下してくるキスメに気付いたらしくてね、上を向いた瞬間に加速がついたキスメが直撃、って事らしいわ」
「当然、そんな一撃喰らえば誰だって気絶するわ、寧ろ首の骨とかが折れなくてよかったと言う所よ」
「まぁ、その気絶したシンをキスメが慌てながら私の巣の方に連れてきたのがシンとの出会いになるわね」
「ある意味衝撃的でしょう? その頃には既に地霊殿の人間の噂は聞いてたけど、その当人が気絶した状態で出会いを果たすとは思わなかったわ」
「その噂もあったし、私自身もあんまり人間を積極的に食べようなんて思わないからね、目が覚めるまで面倒を見たわけ」
「シンが起きた後? 別に面白い事なんて無いよ、キスメが謝りたおしているのをシンが必死に止めようとしてただけ、若いっていいわよねぇ」
「まぁ、最終的にはシンがキスメにこのあたりの事を教えて欲しい、で終了よ、こっちの世界に来たばっかりだっていう理由でね」
「シンとはそれ以来の付き合いになるわね、と言ってもこの辺りまでシンは中々来ないからたまに会って話すってくらいだけど」
「キスメの方はシンを気に入ったらしくて時々地霊殿の方にも遊びに行ってるけどね、さとりも妹やペットと遊んでくれる相手が増えたと喜んでるわ」
「シンは何だかんだで面倒見がいいからね、キスメは甘えん坊な部分もあるし兄みたいな感じで甘えてるんだろうね、妖怪と人間?野暮はいわない」
「出会いはそんな感じで、そのあとは別に面白い話なんて… あ~、いや、一個だけあったかな? っとっとっと、落ち着きなって話してあげるからさ」
「あれはそうだね… シンの傷も癒えて、地霊殿の怨霊騒ぎも一通り収まったからシンがあと三日程度で帰るって時だったかな?」
「地上から見慣れない服装をした兎の妖怪…なのかな? いや、えらく妖気が少なかったからね、どっちかと言うと人間っぽい?」
「そいつの特徴? そうだね… 確かシンと同じ赤い目をしてたけどあっちの方が禍々しかったね、ん? それで誰かわかったって?」
「ならいいけど、んで、その兎が地霊殿の方に向かおうとしてたんでね、もうお祭り騒ぎも終わってるし、鬼が退屈そうにしてたしで危険だから警告しようとしたわけ」
「でもね、なんか知らないけどえらく強気でねその兎、『私の目を見て狂わない存在なんているものか!!』とかいっていきなり睨みつけてきたわけよ」
「ん? そいつは月の兎で狂気の瞳を持ってるって? あ~、通りであの時私もやっちゃったわけか」
「何をやっちゃったかって? そうだね、私の能力は… 流石に忘れてないか、あ~、怯えない怯えない、別に病なんて与えないから」
「ま、普段は病をばら撒かないように制御してるんだけどね、その月兎が睨んでくれたおかげで箍が外れて四方八方に病をばら撒いたわけ」
「幸い… と言うべきなのはばら撒いた病が接触感染のみの病だった事だね、空気感染の物だったら目も当てられない事態になってたかも」
「でも、流石にばら撒いた矢先は空気感染もするからね、その月兎は見事に病にかかって倒れてたよ」
「そのお陰で私も正気に戻れたんだろうけど、厄介にもその病はまだ人間達も治療法を確立していない奴だったんだよね」
「だから人里に放り返すわけにも行かないし、かといって放置してて広げられても迷惑だし、仕方ないから巣に持ち帰って処理するかな~と思った時だね」
「ちょうどキスメと一緒に周辺の散歩にでてたシンが戻ってきたのさ、当然の様に、シンはその倒れてた月兎に気付いて駆け寄ったわ」
「でも、さっき言ったように接触感染する上に治療法が解らないやつだからね、強引にそれを止めて事情説明とあいなったわけ」
「それで一応渋々ながら納得してくれたのか、巣に連れ帰ろうとしたその時よ、その月兎が『師匠なら治せるかも』とか言い出したの」
「その言葉を聞いて当然シンは助けようとしてたわよ、でもね、その場所とやらが結構遠い所だったから余計に厄介になった」
「確かに其処に連れて行けば治せるのかも知れないけれど、生憎私やヤマメは本来地中に追い出された嫌われ者の妖怪だからね」
「キスメ位の妖怪なら別に洞窟付近を飛んだりしても何も言われないけど、私達が地中の妖怪が地上に出ることは本来歓迎されない事」
「しかも私は病気を操る程度の能力の持ち主、空を飛ぶだけでも十分災いをもたらす事ができる妖怪だからなおさらよ」
「そんな理由もあるし、地上の妖怪連中はシンの事なんて知らないし、病に犯された奴に怯むほど貧弱じゃないでしょ?」
「仮に接触しないように連れていこうにも人間であるシンが襲われるのは目に見えて明らかで、病に犯された月兎だってそれは同じ」
「猫車? あ~、無理無理、確かにあの子地上から死体持ってくる時もあるし、地上に出てもあまり睨まれないけどあの子に渡したら旧地獄に連れて行かれるわよ」
「パルスィも橋姫としての役割もあるし、鬼達やさとり達も私とある意味似たような理由で地上に出るのは困難、それ以前に接触したら感染しかねないしね」
「そんなわけで手詰まりって事で最初の決定どおりその月兎をせめて苦痛なく処理してあげようとしたら、シンが急にその子を背負って外に歩き出したのよ」
「当然必死に止めたわ、感染の恐れもあれば、穴から出て外を彷徨うのは飛べないシンだと妖怪連中の巣の中に突っ込むような行為と変わらないし」
「それでもシンは止まらなかった、『助けれる可能性があるんなら、俺は、もう諦めたくは無いんだ、そうだよ… レイが言った様に誰だって、生きたいんだ!!』 ってね」
「とんでもないでしょ? …って、案外こういう話は聞いてきてるみたいね、何か納得したって顔してるし、まぁ、シンだから仕方ないか」
「でもまぁ、さっき言ったようにシンが外に出るって事は妖怪の巣の中に突っ込むのと同じ、それでもシンは怯む事無く突き進もうとしてる」
「こうなったらもうお手上げ、後で私が殺されるの覚悟でシンとその月兎を引っ張って空を飛んでその師匠とやらの場所に向かうしかなかったわ」
「ん? なんでシンを見捨てるんじゃなくて助けようとしたのかって? そうだね、キスメは私にとって妹のような存在でもあるからね」
「そのキスメのお気に入りの相手が死にに行くのを見過ごすのは流石にね、それにあの頃から私もシンの事は気に入っていたし」
「何で気に入ったかって? だって、自分が『病にかかりにくい体質』だからって病気を操る私と普通に交流してるのよ? 面白くて気に入るにきまってるじゃない」
「だからこそ、そんなシンを見捨てるなんてできなかったわけ、地上とのルールなんかよりも守りたいものが一つか二つくらいはあってもいいでしょう」
「まぁ、そうやってシンとその月兎を引っ張って進むのには何の障害も無かったわ、道中の妖怪が雑魚ばっかりだったお陰か私を恐れてでてこなかったからね」
「それで、その月兎の師匠とやらの場所についたんだけど、その月兎はもちろん、シンの方も直ぐに検査になったわ」
「当然といえば当然よね、病気を操るこの私が危険だと感じている位の病にかかった相手をシンは僅かな時間とは言え背負ったりしたんだから」
「その師匠と言うのがまたとんでもなかったわね、物凄い速度で人間達がまだ作れて居ないはずの特効薬を作って月兎に飲ませていたのは未だに良く覚えているわ」
「それはまた置いておいて、シンの話の続きをしましょうか、さっき言ったようにシンも当然検査になったんだけど」
「その調査の結果、シンもある能力の持ち主だって事がわかったのよ、ん? どんな能力か聞きたいって?」
「それはね、『ありとあらゆる毒や病を無効化する程度の能力』 よ、いや~、之を聞いた瞬間私はゾッとしたわ」
「ん? あぁ、別に私の能力が無効化されるからじゃないわよ、……ん~、あなた、薬って本来どんな物かは知ってるわよね?」
「薬ってのは言い換えれば毒、既に内部に存在している毒に対抗する為の毒が薬なのよ、だから飲みすぎればどんな薬だって害になる、適量を守らないとね」
「この理論は病にもいえるわね、一度病にかかった人間は、普通は二度と同じ病にはならない、ん? 風邪は毎回かかるじゃないかって?」
「あ~、それは違うのよ、病気の風邪は同じ症状だけど毎回違う病気なの、まぁ、症状が殆ど同じだし違いも少ないから風邪で一括りでいいけどね」
「話を戻すわよ、さっき言ったように病にかかったらもう同じ病にかからなくなるって言うのは、その病に対する毒を体が持つから、抗体、というほうが言いかしらね」
「さて、此処でさっき私が言ったシンの能力を思い出してみて、そう、『ありとあらゆる毒や病を無効化する程度』の能力」
「…気付いたようね、そう、シンがその能力を持っているということは、逆に言えばシンはありとあらゆる毒を体に持っているということよ」
「まぁ、厳密には違うらしいわ… 月兎の師匠とやらは『究極抗体』の持ち主とかいってたわね、よくわかんなかったけど」
「とりあえず、シンは能力のお陰で感染しなかったってわけでその場は収まって、私とシンは洞窟へと帰ることになったわ」
「その後? まぁ、心配なのか嫉妬してなのかよくわかんないけど洞窟の入り口近くまで迎えに来てたパルスィにシンを引き渡すついでに事情を話して」
「それからもうじき来るだろう妖怪の賢者を待ったわ、そ、ルールを真正面から破ったわけだし、月兎一匹助けた所でお咎め無しとは思わなかったから」
「でも意外や意外、無罪放免どころか逆に感謝されたわよ、一歩間違えば幻想郷を揺るがすような騒動を引き起こしかねなかったってね」
「その原因はアッチ側にあるってことで、私は被害者扱いで無罪放免、寧ろ騒動阻止に結果として貢献したから感謝ってわけよ」
「さぁ? あの胡散臭い賢者の事なんて私は理解できないわよ、ま、死ぬかも知れないと思ってたから、拾った命はありがたく大事にさせてもらうけどね」
「ま、私から話せる面白そうな話はこんな所かな? シンが地霊殿に帰って旧地獄の管理手伝い始めてからは会う機会が減ってるしね」
「ん?もう一個だけ質問 私にとってのシンについて?」
「そうだね、どこか生意気だけど心優しい弟か、息子って感じかな? 異性としてはどうかって? あはははは、まぁ、確かに悪くは無いかも知れないけど」
「いったでしょ?私にとってキスメは妹分だって、可愛い妹が気に入ってる相手を奪うつもりは無いわよ、それにシンも私から見ればまだまだ子供だし」
「ん? もしシンが立派な大人になったら? そうだね…… 土蜘蛛でありながら女郎蜘蛛でもある私の存在を教え込む、といえば満足かな?」
「さ~て、それじゃ大人しくしてなよ、今絡まってる糸を切り取ってあげるからね」
「しかしあんたも根性あるね、巣に絡まったままインタビューを行うなんてちょっとは見直したよ… これでよし、さ、自由な場所に飛んでおいき」
「ただし、また変なデマ流したら次捕まえた時には容赦しないからね、覚えときなよ」
最終更新:2009年02月06日 22:39