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悠久幻想曲ネタ-22



<ニューフェイス>

「――よし、これで今週の依頼は全部終わったな」

 つい先ほど終えた仕事にチェックを入れ、シンはジョートショップへ続く道を歩いていた。
 今週はシンだけでなく皆かなり調子よく依頼をこなしたので報酬も相応の色が付けられている。しばらくは
久々に贅沢な食事にありつけるかもしれないという希望に軽い感動を覚えつつシンはスケジュール帳をしまう。
 すでに脳内では『さくら亭でもっともオーソドックスかつお手頃な値段のランチ』が乱舞していた。

「あう~……マスターはやく、ごは~ん」
「……わかったからお前はさっさとそこからどけ」

 せっかくの感動に水を差す言葉に眉をヒクつかせつつ、シンは道中ずっと頭の上に乗っていたデスティニーを
引っぺがしてポイと放り捨てた。

「む~! それが一緒に汗水たらして仕事をした愛機に対する仕打ちですか!?」
「お前は俺の近くをずっと飛んでただけだろ! ったく、何もしてないのに飯の量だけは俺の倍は食ってるって
どういう神経してるんだよ……」

 むっとした顔で睨んでくるデスティニーに諦めきった視線を向けながら、シンは改めてこのタダ飯食らいには
何かしら役目を与えなければならないと固く誓った。

「む、何か「このタダ飯食らいめ、少しは人様の役に立ったらどうだ」みたいな視線を感じるです」
「あ、惜しい。最後に「このポンコツが」が入る」
「それが自分の愛機に言うセリフですかっ! 大体私だってちゃんとジョートショップの役に立ってるです!」
「え、ウソ? どんな?」
「食べ物は痛みやすいものを優先に!」
「結局消費専門かよ!?」
「はぶっ!?」

 胸を張って「自分は役立たずです」と宣言したデスティニーにデコピンを見舞い、シンは頭を抱えた。
 聞けばレジェンドはたまにではあるがシーラの屋敷の手伝いをしているという。ピアノの演奏に関しても
偏りのない感想をくれるらしく、シーラとの関係も良好のようだ。
 インパルスたちは今もさくら亭のウェイトレスとして日々奔走している。最近はフォースが調理場も任される
ようになったそうで――ただしデザートに関しては絶対に触れさせないようにしているらしいが――ソードも
ブラストもそれぞれ対抗心を燃やして挑戦しており、看板娘のパティも人手が増えそうで助かると珍しく上機嫌
に報告しに来たこともあった。
 そういった話を聞く度に、目の前で額を抑えながら宙でのた打ち回る相棒に軽い絶望感を覚えるのだった。

「った~……何するんですかいきなり!?」
「やかましい! 大体お前はアリサさんに甘えすぎだ。もう少し遠慮して……ん?」

 もはやエンフィールドのプチ名物となった『往来で使い魔と夫婦漫才する赤目の少年』とまで呼ばれるように
なった恒例行事が始まるかと思われた直後、シンはデスティニーの背後に小さな人影を見つけて眉根を寄せた。

「マスター? どうかしたんですか?」
「……あれ、見てみろ」

 シンが指さす先には、道の真ん中でおろおろと右往左往している少女がいた。
 ――全身に纏った赤い鎧。背中には折り畳まれた翼の付いた巨大なビーム砲がマウントされている。
 大きな紫色の瞳には涙が浮かんでおり、青いメッシュの入った茶髪を揺らしながらおろおろと周りを見渡していた。

「あれってひょっとして……セイバーちゃん!?」

 その姿にとあるMSを思い出したのであろうデスティニーが驚きの声をあげた。
 ……ZGMS-X23Sセイバー。
 インパルスと同じザフトの開発した試作MSシリーズ、『セカンドステージ』に属するMSである。
 元々は大気圏内外での高機動戦に特化した可変型MSなのだが、デスティニーたちの例に漏れず小柄の
少女のような姿となっているようだった。
 本来ならばすぐにでも接触するべきなのだが、シンは眉根を寄せながらどうするべきかと思案していた。

「? マスター、声をかけないんですか?」
「本当ならそうした方がいいんだろうけど、シャドウのこともある」

 その名前を聞いて、デスティニーはビクリと身体を震わせた。
 ……シャドウ、素性も目的も一切不明の黒装束の男。今のところわかっているのはシンへの異常なほどの敵意
のみである。
性格こそ全く違うがデスティニーと瓜二つの姿を黒いデスティニーを引き連れていたこともあり、警戒するの
も無理もないことなのだが……

「……何してるんだあれ?」

 おっかなびっくりで道行く人々に手を伸ばすものの、すぐに手を引っ込めてしまう。その様子に気付いた気の
良さそうな老人が声をかけたようだが、セイバーが何度も頭を下げて謝り、老人は困ったような笑顔を浮かべて
その場を去っていった。

「何か聞こうとしてるみたいですけど……?」

 デスティニーの指摘通り、何かを、あるいは誰かを探しているようにも見える。しかし何度も声をかけようと
して自分から退いてしまっている。あのままでは何時間経っても何の進展もないだろう。

「仕方ないな……デス子、一応注意はしておけよ」
「はいです」

 意を決してシンはセイバーにゆっくりと歩み寄っていく。今のところは害意はないようだが、だからといって
安心はできない。意識の弛緩は油断を招き、そして気付けば取り返しのつかなくなることにさえ繋がる。
 たとえ相手が少女のような外見であったとしても、その本質はMSという『兵器』なのだ。

「? なんですかマスター」
「……いや」

 ならば、デスティニーも同じなのだろうか?
 当然、例外ではない。しかしシンの胸の内ではそれを認めると同時に拒む気持ちもあった。
 それはいつかの洞窟のときまであった、デスティニーたちを戦わせたくないというものとも違う感情。
 それが何を意味するのかを考える前に、気付けばシンはセイバーの目と鼻の先にいた。

「デス子、周辺の警戒を」
「はいです」

 そう答えてデスティニーはゆっくりと宙に上っていく。
 かなり目立つが辺りを監視すると同時に、

「……おい」
「あっ……え?」
「セイバー、で間違いないよな?」

 とりあえず声をかけてみる。先ほどまですっかり顔を伏せてしまっていたセイバーはその声に安堵の表情を
浮かべてシンの方へと向き、動きを止めてしまった。

 (やっぱり、誰かを探してたみたいだな)

 誰かと行動していたがはぐれてしまい途方に暮れていた、ということなら先ほどまでの行動も理解できる。
 まずはその同行者を探してから詳しく話を聞くべきだろうと判断したシンは、警戒を緩めずにそのまま
話を進めることにした。

「誰かを探してるのか? だったら手を貸すけど……」

 しかしセイバーは強張った顔でじっとシンの顔を見つめたまま何の反応もしない。
 ガタガタと身体を震わせながら、胸の前で不安げに両の手の指を絡めているだけだ。

「どうかしたのか?」
「……っ!」

 何かあったのかとさらに近づこうとするが、跳ね上がるほどに身体を震わせてセイバーは一歩下がって
しまう。さらに一歩近づいてはまた下がり、大股で一歩近づけば三歩下がり……

「あぁもう! なんなんだよいったい!?」

 ただでさえ我慢強いとは言えないシンの限界値をあっさり振り切った。
 周りの視線が突き刺さるがそんなことは一切構わずシンはセイバーに指を突き付ける。

「別に助けがいらないならいらなでいいけどな、それならそうってはっきり言えばいいだろ!?
だんまりじゃこっちもどうすればいいのか分からな……」

 そこでシンの言葉がピタリと止まった。
 セイバーの両目から、ボロボロと溢れ出るものに気付いたからだった。

「うっ……ひっく」
「あ……わ、悪い。言い過ぎた」

 心に中で自分に毒吐きながら余計にこじれてしまった話をどう修正すればいいのかと頭を抱えるシン
だったが、直後に届いたデスティニーの声に思考が硬直した。

「――マスター! 二時の方向から何か来ます!」
「っ!? 迎撃は!?」
「ダメです! 他の人が近すぎて……危ないっ!」

 警告を受けてシンはハッと『何か』が来る方へと視線を向ける。
 低空から人の間を縫うようにして飛んでくる小さい影。
 それが一気に高度を上げ、シンの顔の高さまで達すると同時に赤い光を発する足が弧を描いた。

「――挙動不審者抹殺キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!」
「なっ!?」

 雄叫びと共に放たれた蹴りをシンはかろうじてかわした。
 逃げ遅れた数本の髪が焼き切られ、ほのかな異臭が嗅覚をついた。

「っ、お前は……!?」

 無理に避けたせいで崩れかけた体勢をなんとか立て直し、シンは襲撃者を見上げる。
 ――やや赤みがかったピンクの鎧。頭には特徴的なV字アンテナの他に白いトサカも付いている。
背中には機首を折りたたんだ戦闘機のようなリフタ―を背負い、細身のシルエットだというのに異様な
威圧感を放っている。
 青紫の散切り頭に釣り上った大きな緑の瞳、口の端から覗く八重歯は愛嬌よりも荒々しさが滲み出て
いた。
 ……忘れるはずのない相手。
こちらに飛ばされる直前に戦った相手、裏切り者のかつての上官の機体。
それがシンを見下ろし、敵意に満ちた瞳を向けていた。

「貴様! 私の部下1号にいったい何をしているかっ!?」
「――ジャスティス!」

 宙に仁王立ちする少女――インフィニットジャスティスを睨みかえしながら、シンはまさかの再会に
鼓動が跳ね上がるのを感じていた。



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最終更新:2009年03月02日 11:33
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