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悠久幻想曲ネタ-23


 ――傍から見れば、それは不思議な光景だっただろう。
 宙で腕を組みながら眼下を見下ろす少女と、それを見上げる二人の少女と一人の少年。街がヨーグルトで
埋め尽くされることもあるこの街では正直なところ多少目を引く程度かもしれないが、そこから放たれる異様な
雰囲気はさながらカウントが限りなくゼロに近付いた爆弾のようだった。
 その主な原因――∞ジャスティスが鋭い目をシンから外し、その足元で頭を抱えて震えているセイバーへと
向けた。

「部下1号! 貴様私からはぐれてこんなところで遊んでいるとはどういうことだ!?」
「あう……だってセンパイ勝手に先に行っちゃうし」
「言い訳とはどういうつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あうっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいセンパイ~~~!」

 前髪の奥に隠れた瞳がギラリと光り、それに射抜かれたセイバーが半泣き声で必死に謝っていた。
 その二人のやりとりを見つつ、シンは瞬時に思考を巡らす。

 ――ジャスティスにセイバー? なんでオーブとザフトのMSが一緒にいるんだ……?

 共通点といえばどちらもアスラン・ザラの乗機であったことだが、それを踏まえても不自然である。共に
行動している、と言うよりはセイバーが∞ジャスティスに使われているという印象があった。
 しかしその疑問の答えを見つけられないまま頭を切り替えさせられる。鋭い視線が、再びシンへと向けられた
からだ。

「――む? 貴様は……」

 気付いたか、とシンは腰のナイフに手をかける。目の前に立つデスティニーもわずかに腰を低くし、相手の
出方に対応しやすくするべく密かに体勢を整えていた。

「貴様は……!」

 ゆっくりと腕が上がり、細い人差し指だけが建てられた右手が突き付け……
 られなかった。

「…………?」

 シンは眉をひそめる。中途半端に右腕を上げたまま、∞ジャスティスは頬に一滴の汗を垂らしていた。
 時折「えっと、うんと、あれ?」という呟きが聞こえてくる。

「……まさかお前、俺の名前覚えてないとか?」
「なっ!? バッ!? そ、そんなことがあるはずがないだろう!」

 図星だったらしい。

「ま、待て! 今言う! えぇと……さ、し、す、せ、せ、せ」
「人の名前を適当に言おうとするな!」
「というか、もう過ぎてるです……」

 はぁ、と溜息を吐いて身体の力を抜く。デスティニーも同じのようですっかり緊張が解けてしまっていた。

「思い出した! シンだシン! シン・マツナガ!」
「誰だよ!?」
「何、違うのか!? じゃあシン・工藤か!?」
「それも違う! っていうか「じゃあ」ってなんだ「じゃあ」って!」
「むう……そうだ! アルバトロ・ナル・エイジ・アスカだったか!」
「わざと間違えてるのかよお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ひとしきり突っ込んで、ぜぇはぁと荒く呼吸を繰り返す。∞ジャスティスはしばらく腕を組んで唸っていた
が、やがてキッとシンを睨みつけた。

「えぇい、面倒だ! シン、貴様は数多の悪事だけで飽き足らず我が部下1号にまで毒牙にかけるつもりか!」
「面倒の一言で誤魔化すんじゃ……まて、なんだよ数多の悪事って?」

 反射的に突っ込みを入れようとして、あやうく流してしまいそうになった部分に聞き捨てならない単語があっ
たことに気付く。
 しかし∞ジャスティスはその問いかけには答えず、不敵な笑みを浮かべる。

「フン、自分の胸にでも聞けばいいだろう。白を切るなど我ら自警団には通じんぞ」
「じ、自警団!? 自警団に入ってるですか!?」

 声にこそ出さなかったが、シンもデスティニー同様衝撃を受けていた。
 今でこそ住民の援助を受けて活動している独立団体ではあるが、その前身は王国軍の精鋭部隊であったという
話をシェリルから聞いたことがある。それだけの組織が、なぜ∞ジャスティスたちのような得体の知れない存在
を許容しているというのは考え難いことなのだが……

「私は第1部隊の特別班として編入されたのだ、そこの部下1号もな……っていつまでそうして震えているつも
りなのだ貴様は!」
「あうう~……だって、だってぇ」
「だっても何もない! 先代部下1号が引退した今、貴様は先代同様私の下で粉骨砕身の意をもって全力を尽く
さねばならんというのに!」
「……先代って、ワンちゃんだったじゃないですかぁ」
「犬にできることもできずに何が自警団の一員かぁぁぁぁぁぁ!!」
「ええぇ~~~~~~~~~!?」

 ……犬より立場低かったんだ。
 と涙目で叫んでいるセイバーに同情しないでもないシンだったが、それを頭の片隅に追いやって改めて自分
たちのことについて考える。

 ――自警団が俺をマークしている? なんでそんなことを……

 模範的な市民とまではいかないが、シン自身としては――アルベルトから一方的に因縁をつけられる以外には
――自警団に目をつけられるようなことはしていないはずである。
 それがなぜ、しかも情報収集担当の第二部隊ではなく捜査と戦闘を主任務とする第一部隊が動く事態になって
いるというのか?

「……詳しく話を聞かせてくれ、こっちには何がなんだか」
「話なら私ではなく上官殿がしっかりとしてくれるだろう、詰所の牢屋の中でな」

 ……どうやらすでに捕縛する方向で決めているらしい。あまり気乗りはしないが、状況を把握するには
それしか方法がないのかもしれない。
 そうシンが考えている内に、デスティニーがシンを庇うように一歩前に進み出た。

「デス子……?」

 弛緩した空気が再び張りつめ始める。先ほどの∞ジャスティスの一言でデスティニーの纏う雰囲気が明らかに
変わっていた。

「ほう、抵抗するつもりか?」
「マスターに手出しはさせません。あのときのようにいくとは思わないことです」
「あのとき……?」

 はて、と首を傾げる∞ジャスティスにデスティニーのこめかみにびきりと青筋が浮かんだ。

「なんでもいいです! どうしてもマスターを連れていくつもりなら私を倒してからにするです!」
「おいデス子……」

 興奮気味のデスティニーをたしなめようとするシンだったが、耳に届いた低い笑い声に反射的に振り返って
いた。

「クックックッ……その意気やよし! むしろこちらとしても望むところ!」
「いや止めろよ自警団なら! ただの暴力沙汰じゃ済まないだろ!」
「己が本分を全う出来る絶好の機会! この場でやらずにいつやるというのか! そうだろう部下1号!?」

 あうあうあうと呻くだけのセイバーに声だけかけ、∞ジャスティスは両腰のビームサーベルを引き抜き連結
させる。

「主のために立ち向かう、その覚悟は上々! だが押し通らせてもらうぞデス子とやら!」
「私の名前は……デスティニーです!」

 ∞ジャスティスの覇気に応えるようにデスティニーも背中からアロンダイトを抜き、正眼に構える。
 造形の異なる二つの赤い翼が広がり、今まさに始まろうとする激突を待ち望むかのように唸りを上げる。
 見下ろす者と見上げるもの、二つの視線がぶつかり合った。
 そして、

「――来い!」
「はあああああああああああああああああああ!!」

 デスティニーが大剣を振り上げながら天に舞い、∞ジャスティスがその一撃をビームシールドで受け止めて
さらなる高みへと昇っていった。

「…………マジかよ」

 かくして、渦中の人物を置き去りにしたまま戦いの火蓋が切って落とされた。




 空高く押し上げられながら、∞ジャスティスはビームシールドに阻まれた大剣を見つめ眉根を寄せた。

「この剣……そうか! 貴様はオーブと月の戦いで刃を交えた!」
「ようやく思い出したですか!」
「うむ! だがまさかデス子などという珍妙な名前だとは知らなかったぞ!」
「だ か ら、デスティニーだって言ってるです!」

 怒りを乗せた蹴りで両者の間合いが離れる。デスティニーは再びアロンダイトを構え直し、∞ジャスティスも、リフタ―のスラスターを噴かして体勢を整えた。

「そんなことはどうでもいい。どうでもいいが……わざわざこんなところまで来たことは評価してやろう。
おかげで遠慮することなく全力で戦える!」
「こっちもそのためにここまで来たんです! 三度目の正直、ここで果たします!」
「二度だろうと三度だろうと斬り伏せるまで! 今度はこちらから往くぞ!」

 言うや否や真っ向からジャスティスは突撃を仕掛ける。ナギナタ状に連結したビームサーベルの一撃を大剣で
受け流し、その反動でデスティニーはその場で一回転して反撃の刃を叩きつける。

「むぅっ!?」
「くっ!?」

 顔を逸らして長大な剣を避け、ジャスティスはサーベルを振り上げる。かろうじて避けられたものの切っ先が
髪の先を切り裂き、顔の近くを過ぎたビームの熱にデスティニーは反射的に顔を庇う。その隙に∞ジャスティス
はデスティニーの腹を蹴りつけた反動で反転し、サーベルを突き出し再び突撃を仕掛ける。

「これでどうだっ!」
「っ、まだまだぁ!」

 気合いの雄叫びと共にデスティニーの翼から光の粒子が噴出し、滑るように右へ飛んだ。
 ジャスティスの表情が強張る。回避されることを想定していなかったわけではないが、その予想外の挙動に
一瞬思考が硬直していた。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ!?」

 横薙ぎの一撃を盾に付けられたビームシールドを発生させて防ぐが、その衝撃で∞ジャスティスは弾き飛ばさ
れる。不意を突かれながらも落下することもなく姿勢を安定させたのは流石といったところか。

「……なるほど、一撃の重さではそちらに分があるようだ」

 クックッ、と笑みをこぼしながらジャスティスは熱を帯びた視線でデスティニーを睨みつける。後れを取りな
がらも取り乱すでもなく怒るでもないその異様な気配にデスティニーは思わず息を呑んでいた。

「ならばこちらは……手数で勝負!」

 そう叫ぶのと同時に∞ジャスティスの両脚、盾の先端から光が伸びる。
 ――右手のサーベルと合わせて、5つのビームの刃。それを目にして、デスティニーの脳裏に忌まわしい記憶
が蘇っていた。

「さぁ! 仕切り直しだ!」
「っ!」

 さらに激しい気迫を放つ∞ジャスティスに、デスティニーは左手で引き抜いたライフルの照準を合わせた。


 ――地上では、誰もが空を見上げていた。
 つい1週間前にも似た光景を見ていた住民らではあったが、意外なほどに落ち着いた様子だった。
 それもそうだろう。デスティニーらがこの世界に現れて早三ヶ月、さくら亭にジョートショップとこの街で
知らない者はいないとまで言われるほどの店に居候しているのだ。それだけの時間があれば否が応にもその存在
は街の人々に知れ渡るというものである。
 故に、上空で繰り広げられる戦いも半ば「いつものこと」の延長として見ている者がほとんどだった。

「あいつら……!」

 そんな中、シンは唇を噛みながら必死な形相で戦う二人の姿を睨むように見据えていた。
 ――ZGMF-X19A、インフィニットジャスティス。
 その正式名称までは知らないシンだったが、その能力の高さは嫌というほど味わっている。
 オーブでの一戦、踏み込みの早さでは負けないはずのディスティニーが容易く手首から先を持っていかれたこ
とを思い出す。

 ――接近戦は、マズイ……!

 デスティニーもそのことを分かっているようで、突っ込んでくるジャスティスに対してライフルやビーム砲で
牽制射撃を繰り返しながら距離を保っている。
 その姿に安堵の息をついたが、直後に眉間に皺を寄せた。

 ――……射撃じゃ決定打は得られないか。

 見ればデスティニーの射撃のほとんどは回避され、稀に当たるものも難なくシールドに防がれている。ジャス
ティスも一つ覚えのように突撃しか仕掛けてこないのだが、このままではいずれデスティニーが追い詰められる
ことは目に見えていた。
 ……ギリ、とシンは歯を食いしばる。二人とも眼下の街に被害が及ばないように高所で戦っているようだが、
これではシンも加勢することができない。投げナイフすら届かないのでは黙って見ているしかできないのだ。

 ――魔法……

 自分にも魔法が使えれば、この街に来て初めてそんな考えを抱いていた。

「ッ!?」

 おおっ、という周りのどよめきにシンはいつの間にか地面を向いていた視線を上げる。
 全身から光の刃を生やしたジャスティスが、ついにビームをかいくぐってデスティニーの懐に飛び込んでいた。

「デス子っ……!」

 反射的にシンは叫ぶ。
 その足元で頭を抱えてうずくまっているいる少女には、まったく気付かなかった。

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ッ!?」

 撃てども撃てども当たらないことへの焦りが出たからか、それともジャスティスがデスティニーの射撃に慣れ
たからか、
 理由はともかく、遂にジャスティスは刃の間合いにデスティニーを捉えた。
 回避は不可能と判断したデスティニーはライフルを捨て、両肩のフラッシュエッジを抜く。
 直後に、怖気を感じるほどの連撃が襲いかかった。

「くっ、あ……!」

 四肢を無尽蔵に振り回しながら間断なく放たれる大連撃。無茶苦茶なようでいてその実相手に息つく暇さえ
与えぬ斬撃の数々は、二振りの刃と光の盾を駆使してもなおデスティニーの身体に無数の傷を刻んでいった。
 全身から飛散する光の血、空に滲むように消えていく自身の存在を感じながら、しかしデスティニーの瞳には
未だ戦意は消えていなかった。

 ――いいか? お前はいつも焦りすぎなんだよ。後先考えずに突っ込んだり、あたふたしてるうちに相手の
手玉に取られるから本来の力も出せずにあっという間に詰んじまうんだ。

 いつも文句を言いながらも特訓に付き合ってくれる活発な姉が呆れたような口調で言った言葉を思い出す。

 ――だからこそ、耐えるということを知らなければいけない。伏してチャンスを待つという忍耐をな。

 いつも皮肉っぽい口調の厳しい姉がいつになく真剣な口調で言った言葉を思い出す。

 ――それと、相手から目を離さないこと。耐えてる間にどんなに小さなチャンスも逃さないように、瞬きする
のも惜しむくらいにじっと相手の動きを見るんだよ。

 いつもおどおどしている優しい姉が強くまっすぐな口調で言った言葉を思い出す。
 ……素晴らしい姉たちだ。あのフリーダムにも決して引けを取らなかった姉たちの言葉だ。
 そして、眼下にはその姉たちの勝利を導いた誇れるほどの主がいる。
 だからこそ、教えの通りにデスティニーはじっと耐えた。
 多少の損害はあえて無視し、その代わりに全神経を相手の行動をつぶさにすべて捉えるために費やした。
 主の目の前で、情けない姿を晒さないためにも一時の恥を耐えた。
 そして、

「とどめだっ――――!」

 わずかに体勢が崩れた瞬間を狙い、∞ジャスティスは右手を大きく振りかぶった。
 今まで嵐のように繰り出されていた斬撃とは明らかに違う、溜めの一撃。もしもこれが放たれていたなら、
デスティニーの胴体は両断されてしまうだろう。
 それこそが、デスティニーが待ちかねていた『隙』だった。
 左手のフラッシュエッジを手放し、掌を向ける。サーベルのようにモーションを必要としない光の槍は、ジャ
スティスの一撃よりも速く突き出される。

「むぅっ!?」

 すんでのところで避けるジャスティス。その横っ腹を蹴り飛ばし、デスティニーはビーム砲を展開する。

「トドメは、こっちのセリフです!」

 その言葉と同時に、砲口から吐き出された赤い光の束がジャスティスに直撃した。



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最終更新:2009年03月02日 11:39
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