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悠久幻想曲ネタ-26



<酔いどれMS娘>

 ――雀のさえずりが、聞こえてきた。

「う~ん……?」

 瞼越しに差し込んできた光に顔をしかめながら、着物に似た服を着た女性はゆっくりと瞳を開く。
 最初に目に飛び込んできたのは……大量の酒瓶。
 米酒がほとんどだったが、その他にも様々な種類のラベルが貼られた瓶が部屋中に転がっていた。

「……そーいえば、昨日はプチ宴会だったわねぇ」

 何の宴会だったかという記憶が微妙に飛んでいたが、たしか『今月の外出記録二桁達成』とかそんな感じだっ
ただろうと適当に回想を打ち切る。
 上半身を起こしながらはだけた服を直し、その部屋――その家の主である橘由羅はあくびを漏らした。
 頭上の人間にはありえない位置に存在する耳をぴくぴくと動かし、床と身体に挟まれて凝り固まった黄金色の
尻尾を左右に振る。
 亜人……その中でも希少種と言われる狐の半獣人、ライシアンである彼女特有の寝起きの癖だった。

「ちょっと早く起き過ぎたわねぇ」

 窓の外に浮かぶ太陽を恨めしそうに睨みながら由羅は呟く。ちなみに陽の高さは正午を少し回った位置にあった。

「というわけで、二度寝ね!」

 他に誰もいるわけでもないのにそう言い放つと、再び床にごろりと寝転がった。
 この女、世が世なら所謂ひとつのニートと呼ばれる存在である。
 そんな混沌とした和室のふすまが、唐突に開け放たれた。

「おねーちゃん! にどねしちゃだめなんだよー?」
「うぅん……メロディ? あと5分だけ~」
「もう! いっつもそーゆーんだから~」

 怒りつつもどこか可愛らしさを残す少女が、髪から覗く白い耳と尻尾わずかに逆立たせながら転がった酒瓶を
大きな肉球の手で器用に集め始めた。

「ん~、そういえばあの娘は~?」
「ちいおねーちゃんはちょっとでてくるっていってたよ?」
「ふぅん、珍しいわねぇ。ま、アタシが言えた義理じゃないけど」

 不承不承と言った様子で身を起こした由羅が愉快そうに八重歯を覗かせる。

「それじゃアタシも、愛しのクリス君やリオ君に会いに行こうかしら~ん」
「も~! そのまえにおへやのおかたずけしようよ~!」

 ぷんすか怒るメロディに「アタシ酒瓶より重いもの持ったことないのに~」と言いながらも片付けをする由羅。
 この女、世が世なら所謂ひとつのショタコンと呼ばれる存在である。

「……そういえば、もう一人の娘も最近見ないわねぇ」

 そう呟きながら、由羅は天井――より正確に言うならこの家の二階の部屋に当たる場所を見上げていた。

 ――同時刻、エンフィールド、さくら通りにて。

「……必要なのは全部揃ったか。予想外の出費もあったけど」

 リストをしまい、片手にぶらさげた買い物袋をチラリと見る。
 当初の予定では野菜と豆腐しか入らないはずのそこに、丁寧に紙で包まれた牛肉があった。

「肉屋のおっさんにうまく言いくるめられた気がしないでもないけど……まぁいいか、今夜は鍋にするかな」

 今日は孤児院で遊んでいるデスティニーが知ったらはしゃぐだろうなと考えながら苦笑を洩らし、ジョート
ショップへ続く道を歩く。
 そこに、

 ――谷間 谷間 ゴッド谷間 パイパイ!

「ブッ!?」

突如耳に届いた猥歌に往来のド真ん中で盛大に吹き出し、シンは辺りを見渡す。

「ん~、たまには街へ出るもんだね~。狐のねーちゃんにメロディもいいけど、そこらへんを歩く娘も捨てがたい。
例え毎日高級レストランで出てくるような料理を食べられたとしても! 時折無性にカップ麺が食べたくな
るように!」

 何の話だ、と突っ込もうにもその相手が見当たらない。シン以外にもその声の主を探す通行人がいないでもな
かったのだが、誰もがすぐに興味をなくしたのか過ぎ去って行く。
 しかし、シンはある予感からそれが誰の声なのかを確かめなければならなかった。

「さてと、んじゃまずは……そこの娘は76! あっちのは81! こっちの娘は78で隣の娘は83……んん?
違うね、形が不自然だ。パット着用とみなして75!」

 何やら数字が告げられる度に周囲にいる女性の顔が強張り、あるいは真っ赤になってその場から逃げるように
立ち去って行く。

 ――いったいどこに……?

 探す。探す。探す。
 喋りながら移動しているのか、声の聞こえる方に目を向けても何もいない。まるで化かされているような気分
だった。

「よし、ウォーミングアップ兼目の保養は終り~。ではでは本題の狩りへレッツ・ゴー……おやぁ?」

 何かに気付いたような呟きが聞こえると同時に、じっと値踏みされるような視線を感じてシンは視線を上げる。
 ――いた。ガス灯の頂点に、蒼い翼の少女。
 右手に杯、左手に徳利を持ち、それほどスペースもないはずの場所に器用に胡坐をかいている。
 顔を含めフリーダムに酷似しているが、、よく見てみればまったく違う。何よりもこの人を食ったような眼差
しは以前見た冷たさなど欠片もなかった。
 フリーダムと似て非なるフリーダム、シンの中で思い浮かぶのはたった一つのMSだった。
 オーブ侵攻、そしてメサイア防衛戦で戦った、ジャスティスとはまた別に因縁のある機体。

「お前……!?」

 驚愕に顔を歪めるシンを見て満足そうに口の端を吊り上げ、ビシッと片手を上げる。
 そして、

「や、おっぱいよー」

 ――最低な挨拶を受け、シンは壮絶にズッコケた。

「ん? あれ? 通じない? くっそー、最近の若いのはちょっと昔のネタも分からないのかねまったく」

 ケッ、と吐き捨てて少女は杯を一気に煽る。瞬く間にその中身を飲み干すと、眉間に深い皺を寄せながらも
満足そうに唸っていた。

「~~~~~~っ! くぁ~、やっぱ米のお酒はいいねぇ! 五臓六腑に沁み渡らぁ!」
「――っ、フリーダム!」
「ノンノン、それじゃマイシスタと同じっしょ。まぁ好きなように呼んでいいんだけどね、ストライクフリーダ
ムが長いんならストフリでもS・Fでもいいし。あ、でもスーフリは勘弁な」

 聞いてもいないことをベラベラと喋りながら、少女――ストライクフリーダムはひょいっとガス灯から飛び
降りる。地面に足が着くかという瞬間、重力を打ち消したようにフワリと浮かんでシンと目線の高さを合わせた。

「いやいや、でもいーいタイミングだ。ちょっと話したいこともあるから挨拶でもと思ってたもんで」
「……俺に何の用だ?」
「おっぱいの素晴らしさについて小一時間ほど語り合おうかと」
「…………」
「怖っ!? 軽いジョークなのにそんなに睨まなくてもいいじゃんか! 別にマイシスタみたくケンカ売りに
来たわけじゃないからその右手のナイフも何か隠してる左手も楽にしてくださいお願いします!」

 ピクッ、とシンの眉がわずかに跳ねる。
 腰に下げたナイフは当然として、左袖に仕込んだ投げナイフをいつでも出せるようにしていたことまで見抜か
れていた。大げさなリアクションで後ずさってはいるが、どうにも芝居臭さが鼻についた。
 どうする? と考えるシンだったが、相手の出方が分からない以上他に思い浮かぶ手段がない。仕方なく両手
を自然体に戻す。

「わかった。お前の話を聞く。ただしおかしな真似をしたらこっちも容赦しないからな」
「オーケイオーケイ、まぁ心配しなさんな。こっちも荒事は気が進まないから。あとデスティニーとかインパル
スも呼んでほしいんだけど……それは後でいっか。ともあれ、ナイスな判断に感謝するよ」

 そう言ってストライクフリーダムは手をシンに差し出す。その何の変哲もないように見える掌とストライク
フリーダムの顔を見て、シンは訝しげに眉を寄せる。

「何のつもりだ?」
「ほらほら、こっちの話を聞いてくれるってことになったじゃん? 一応これでも感謝してるわけで」

 「マジでマジで」言いながらニッと笑うストライクフリーダムは差し出した右手をそのままにさらに一歩進み
出てニッコリと笑う。

「ん」
「ん、って……ったく」

 呆れながらもシンは渋々手を伸ばす。敵意もないようだし、握手するくらいなら問題はないだろう。そう考え
ていた。

 ――が、

「あ、ちょいと失礼」

 そう言いながら、
 目の前の少女は、
 腰からビームサーベルを引き抜いた。

「え?」

 そんな気配はまったく感じなかった。
 だからこそシンは伸ばした腕もそのままに呆けていた。
 振り上げられる光の刃、握手のために差し出されたと思われた手はシンの襟首を掴んで眼前へと引き寄せる。
 絶対不可避の状況。コンマ数秒遅れで命の危機に気付いたシンは目を見開き……
 即座に真横に放り投げられた。

「わぶっ……!」

 石畳の上を転がったシンは額を打った痛みで顔をしかめる。先ほどまでとはうってかわったストライクフリー
ダムの態度に非難の声を上げようとして、

「なっ!?」

 目の前の光景に、息を呑んだ。
 口の端を吊り上げてビームサーベルで一撃を受けとめるストライクフリーダムと、
 険しい形相でアロンダイトを叩きつけたデスティニーがそこにいた。

「……タイミングがいいのは大歓迎だけど、余計なトラブルは御免被りたいんだけどなぁ」
「あなたは! 私のマスターにいったい何をするつもりですか!?」
「お~、こわいこわい。でも今のところは話ひとつ以上の用はないよ。そんなわけで剣を納めてほしいとこなん
だけどどーよ?」
「あなたは、あなたたちは……」

 ストライクフリーダムの言葉には一切の聞く耳を持っていないのか、デスティニーは赤い翼を広げてさらに
大剣に力を込める。

「これ以上、マスターから何を奪うんですか!?」

 その血を吐くような問いかけを、しかしストライクフリーダムは呆れたようにこめかみに指を押しあてて唸った。

「はぁ……健気なのも結構、忠義に厚いのも結構。だけど熱くなりすぎるのはいただけないね、もっと心に自由
を持たないとどうにもこっちの肩が凝っちまうよ」

 溜息を洩らし講釈を垂れながら、しかし次の瞬間その目に鋭さが宿った。

「でも、ま……それでそっちの気が済むなら相手をしてやるよ。さぁ本気出してみな? いっちょ揉んでやるから」
「――――ッ!!」

 その挑発で一気に沸点を超えたデスティニーは、声にならない叫びを上げてアロンダイトを強引に押し込んだ。

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最終更新:2009年03月02日 11:51
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