アットウィキロゴ

悠久幻想曲ネタ 番外編-02

<ハロウィンな一日:エンフィールド編~三人の刺客~>

「……こういうのって説明難しいよな」
「私にとっては結果オーライですけど。もぐもぐ」

 ――10月31日、「そういえば今日ってハロウィンだっけ」とシンが呟いた一言でエンフィールドはちょっと
したお祭り騒ぎになっていた。
 街んぽ至る所でクッキーやキャンディが売られ、子供たちはそれを求めて我先にと道を駆け回る。ハロウィン
を知っている人間にしてみれば首を傾げるような光景だったが、そもそもハロウィンという習慣がなかった
この街ではこうなるのも無理もないことなのかもしれない。

「それにしても本当に凄いな、ここでクッキー並べてから何時間も経ってないってのに」

 大元はシンの発言からだが、それが一気に街へと広がっていったのはこのジョートショップの店頭にお菓子
が置かれたことが始まりなのだ。そこからさらにパティを通じてさくら亭でも『一日限定のハロウィンメニュー』が急遽作られ、街の住人に知れ渡って今に至るのである。

「おかげで店には仕事の依頼ついでに届いたお菓子がどんどん増えていくわ、それを居候の消費専門がどんどん
減らしていくわ……」
「むぐ、アリサさんからの許可はちゃんと取ってあるですよ」
「だからって少しは遠慮しとけ。もう7割くらいなくなってるだろ」

 チラリと横目でデスクの上に積まれたお菓子の山を見る。ここにあるだけでも異常な量ではあるが、これ以上
の量を腹に収めるデスティニーのキャパシティは輪をかけて以上と言える。
 それだけの量が届けられたという事実に、シンは改めてこの街においてアリサという人物がどれほど大きな
存在であるのかを思い知った。

「むう、でもでもこんな量アリサさんとテディだけじゃ食べられないですよ」
「どっちかといえば許可を貰ってるとはいえ今出てるアリサさんを待たずに食っちまうのがな」

 はぁ、とシンが溜息を吐くと同時にジョートショップのドアが開く。慌てて顔を上げるシンだったが、客の
顔を見てすぐに入りかけた気が抜けていって。

「なんだリサか……」
「なんだ、とは失礼だね。そりゃ今は仕事仲間じゃないけどね」
「アタシらもいるぜ元マスター」

 そう言いながら店内へと入ってきたのは、ぶしつけな挨拶に眉根を寄せるリサと何やら小包を手に持った
ソードインパルスだった。珍しい組み合わせではあったが、何もやることがなく店から出ることもできない
シンにとっては興味こそ引かれるものの追及したくなるほどのものではなかった。

「で、何の用だ? 今日は仕事ないだろ?」
「パティに頼まれてね、いいことを教えてくれたアリサさんにお礼ってさ」
「わ、私たちも作ったんです。どうぞ」

 おずおずと差し出される小包を受け取る。脇から匂いを嗅ぎにくるデスティニーを押し止めつつ視線だけで
「これは?」と問いかける。

「カボチャメインのデザートの詰め合わせだとさ。あたしにはちょっと物足りないけど味は保証するよ」
「でもインパルスが作ったのもあるんだよな……?」
「安心してくれ、危ういところだったが全力で阻止した」
「ありゃマジで気が抜けなかったぜ……なんで事あるごとに砂糖だの蜂蜜だの使おうとするんだフォースよぉ」
「そ、そんなにおかしいことなんてしてないよぅ!」

 普通に作ってただけなのに~、と顔を赤くするフォースと何やら憔悴仕切った様子のブラストとソードを見て、
シンは小包を開く。
 中にはケーキやクッキーなど様々なお菓子が詰め込まれていた。さすがというべきか、どれもつい口に入れた
くなりそうなものばかりだった。
 その中で、いくらか見栄えの劣るクッキーを手に取りシンはまだわたわたとしているインパルスへ声をかける。

「お前たちが作ったのって、ひょっとしてこれか?」
「え? は、はい。そうですけど……」

 確認を取ってじっとクッキーを見つめる。しばしの間を置いて、端を少しだけかじった。

「……あんまり甘くない」
「念には念と極力使わない方向で作ったからな」
「わ、私ってそんなに信用されてない……?」

 ガックリとうなだれるフォースを一瞥し、シンは残りのクッキーを口に放り込む。サクサクという小気味の
いい音を立てながら咀嚼し、味をたっぷり堪能して飲み込んだ。

「ん、でもカボチャの甘味はあるな。十分おいしい」
「ほ、本当ですか!?」
「そう言ってくれると助かる」
「アタシらの苦労も報われるってもんだ……」

 すっかり機嫌がよくなったフォースと安堵の息をつくブラストとソードの姿に、リサは苦笑を漏らしながら
再びシンへと向き直った。

「こっちは大変だったよ。三人とも味はどうなんだってものすごい剣幕で迫ってきたからね」
「り、リサさん!?」
「……今の説明は正確ではない。実際は私以外の二人が必死になっていただけだ」
「テメェ何嘘ついてやがる! 「う、うまくできただろうか……?」とかボソッと呟いてたのは誰だったよ!?」
「身に覚えがないな。ソード、お前こそ「これでハラとか壊さないよな!?」としつこく聞いていただろう」

 不毛な争いを始める二人とそれに強制的に巻き込まれる形になったフォースといういつもの光景が始まった
が、そんな中一人話の輪に入れなかったデスティニーは頬を膨らませてシンをポカポカと叩き始めた。

「むー! マスター私にもそのクッキーください!」
「あ? あぁ、わかっ……」

 とクッキー(端をわずかにだが食べかけたもの)を渡そうとしたシンだったが、その手がデスティニーへと
届く前に小さな手に遮られた。

「待て、実はデスティニーの分も用意してある」
「え? そうなのか?」
「オイオイ、アタシも聞いてないぞそれ」
「私も今初めて知ったけど……ブラストちゃん、何か用意してたの?」

 うむ、と頷くとブラストはやや大きめな袋から取り出したものをデスティニーへと差し出した。

「さぁ、これを食べろデスティニー。たくさんあるから遠慮はするな」
「ありがとですお姉ちゃん、ガリガリ」

 何やら無色の石のようなものを――あれだけ食べたというのにまだ足りないと言うように――頬張り始めた
デスティニーに眉間に皺を寄せつつ、シンはブラストに誰もが抱いた疑問をぶつけることにした。

「なぁ、なんだあれ? 菓子って感じじゃないんだが」
「あれか? 蛍石(フローライト)だが」

 一瞬、何を言ったのか理解できなかったシンだったが、思考が理解に辿り着いた瞬間思わず叫んでいた。

「鉱物だろそれ!?」
「ガリガリ……ウメーウメーです」
「お前もおいしそうに食うなよ!」

 脇から食べかけのフローライトをかっさらい、「何するんですか!? あとコーブツってなんですか!?」と
奪い返そうとするシンとデスティニーを眺めながらブラストは低く笑い始めた。

「クックックッ……これで準備は整った。あとは密かに光ファイバーを仕込んだソードのエクスカリバーと
デスティニーのアロンダイトが互いのパワーを一切軽減せずに引き合うことができれば『オプティカルパワー・
クロスキャリバー』の完成だな」
「もうどこから突っ込んでいいのかわかんねぇけどいろいろ混ざりすぎだろ……っていうか人の得物を勝手に
魔改造すんなよ!?」

 もはや収拾が不可能な事態になっていたが、それを止めようとするでもなくリサはおかしそうに笑顔を浮かべ
てポツリと呟いた。

「まったく……本当に面白いね、ボウヤとお嬢ちゃんたちは」
『ボウヤ(お嬢ちゃん)って言うな!』

 綺麗に5つの声が重なり、それがさらにリサからからかわれることになったのは言うまでもない。

「……まったく、ついに食い物以外にまで手を出したのか」
「味はないですけど、あの食感はなかなか癖になりそうでした」
「誰も感想なんか聞いてない!」

 いやちょっとだけ気にはなったけど、という言葉の代わりに溜息を吐いてシンは立ち上がる。

「ちょっと出てくる。お前はちゃんと留守番してろよ」
「どこに行くですか?」
「夜鳴鳥雑貨店。アリサさんから買い物頼まれたからな」

 おとなしくしてろよ、と欠伸を噛み殺して扉を開く。
 ついでにコーヒー豆でも買っておくか、とボンヤリと考えていたところで、
 目の前に、地面が迫ってきていた。

「――――は?」

 と間抜けな自分の声が耳に届いた直後、シンは顔から地面に飛び込んでいた。

「ぶふぉっ!?」
「マスター!?」

 次のお菓子に手を伸ばしかけたデスティニーが目にも止まらないスピードでシンの元へと飛んでくる。

「っ……何だ?」

 赤くなった鼻を押さえながら――幸い血は出ていなかった――シンはジョートショップの扉へと目を向ける。
 扉の地面から十数cm上に、細いロープが張られていた。どうやら足を取られたらしい。

「いったい誰がこんなことを……」

 シンの脳裏に今日店を訪れた面子がよぎったが、こんな真似をするとは考えられない者ばかりだった。頭を
振ってありえない想像をした自分を恥じながら辺りを見渡して、
 飛び込んできた光景に、シンの目が点になった。

「……デス子、あれ何に見える?」
「書き割り……ですか?」

 道のド真ん中に、巨大な木が描かれた板があった。
 辺りを歩く人々も何なのかと視線を向けているが、その異様な存在感に近づくのをためらっているようだ。

「…………」

 無言で立ち上がり、シンは書き割りに向かって歩き出す。
 その妙に力の入った絵に近づいていくと何やら話し声が聞こえてきた。

「……ふふっ、これで第一段階は成功ですわね」
「なんかショボいんじゃね? こんなまどろっこしいことやってないでさっさと仕掛けりゃいいのに」
「……眠い」

 どうやら書き割りの後ろに誰かがいるらしい。シンは少し躊躇したが、思い切って書き割りの後ろを覗きこんだ。

 ――三つの小さな人影がしゃがみ込んで円陣を組んでいた。
 そのどれもが何故か仮面、いわゆる能面を付けていた。

「そのようなやり方は野蛮です。これを皮切りにシン・アスカを精神的に追い詰め、弱ったところを一気に
叩く、これぞ完璧な作戦ですわ」

 と般若の面を被った少女が誇らしげに語る。

「どんだけ時間かかるんだよそれ。オレはさっさとカタつけた方がいいと思うんだけどな」

 とひょっとこの面を被った少女が呆れたようにボヤく。

「めんどくさい……」

 と小面を被った少女が気だるげに息を吐きながら呟く。

 ――なんなんだコイツら。

 コケたものとは別の痛みがシンの頭を襲う。挙句の果てに「これは異世界の行事を持ち込んだ俺への罰なの
か?」という訳の分からない後悔をしてしまうほどすでに精神的に追い詰められていた。

「とにかく! すでに賽は投げられたのです。作戦の第二段階に入りましょう!」
「はぁ、わかったよ。こうなりゃトコトンやってやろうじゃん!」
「帰りたい……」
『ここは合わせろよ!?』

 とにかく、非常に気が進まないことではあったがまずは連中の正体を知らなければならない。
 回れ右で店に戻りたいという衝動をグッと抑え、シンは大きく息を吸って声をかけることにした。

「――おい」

 ビクッ! と三人の身体が震え、キリキリと顔がシンの方へと向けられる。

「……………」
『……………』

 痛々しい沈黙が流れる。
 相手の出方を待っていたシンだったが、さすがに何も動きがないようでは話が進まない。
 もう一度声をかけてみるか、と考えたところでひょっとこの面が絶叫した。

「っていきなりバレてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おおおおおおち、おちおち落ち着きなさい! まだ慌てるような時間ではありません!」

 いやお前が落ち着いてないだろ、と一応突っ込むシンだったがそんなことは耳に入らないらしい。ちなみに
小面の少女は「くぁ~~~……」と欠伸をしていた。

「そうですわ! この面をしている限り私たちの正体がバレることはありません!」
「そ、そうか! ならまだ大丈夫だな!」

 何がどう大丈夫なのかはともかく、やはりもう一度声をかけるしかないのかとさらにやる気を削がれながらも
シンは改めて息を吸った。

「いったいこんなところで何してるんだ? カオス、ガイア、アビスだろお前ら」
「ってバレてるぞカオスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「な、何故ですの!? ちゃんと顔は隠しているのに!?」

 先ほどよりもさらにうろたえる二人にどう話を進めるかと頭を抱えたが、小面の少女――ガイアがポツリと
呟いた。

「……顔だけ隠しても意味ない」

 その一言で、まるで虚を突かれたように二人の動きが止まった。
 まったくもってその通りであって三人は顔を隠してはいるが、その特徴的な外見である背中の兵装ポッドや肩
のバインダーなどはそのままにしているのだ。これでは元の彼女たちを知っている人間なら一目瞭然である。

「そもそも、彼はこっちの私たちの顔知らない」
「って、なんでそれを最初にそれ言わなかったんだよ!?」
「……聞かれなかったから?」

 しれっと答えるガイアに般若の少女――カオスは拳を握り締めて震えていたが、やがて勢いよく面を剥ぎ取り
地面に叩きつけた。

「あぁもう! こうなったらこのプランはなしですわ!」

 乱れた縦ロールのブロンドを瞬時に直し、優雅に手を掲げてシンへ指を向けた。

「シン・アスカ! 我々の目的のために貴方には少々痛い目に遭ってもらいますわ」

 濃いエメラルドの瞳が突き刺さりそうなほど細められる。その両脇では「なんだ、このダサい仮面もう外して
いいんだ」とアビスとガイアも面を外していた。
 スカイブルーの散切り頭にアクアブルーの活発そうな眼をしたアビスとは対照的に、気力の感じられない黒瞳
をこすりながらガイアはショートブロンドをコックリコックリと揺らしていた。

「今日のところは身を引きましょう。次に会うときは覚悟しておきなさい」
「え? 正体バラしといて結局帰るのかよ?」
「お黙りなさい! こんな成り行きで決着を急ぐなんてみっともないでしょうに!」
「……もう手遅れだと思う」
「うるさいですわよそこ! とにかく、覚えておきなさいシン・アスカ!」

 そう言い放って三人は背を向けて走り出した。去り際にガイアだけ小さくシンに手を振っていたが、それに
気付いたアビスに首を掴まれ引きずられて「あーれー」と無感情な声を上げながら姿を消していった。

「……マスター、なんだったんですあれ?」

 あまりにジェットコースターな展開に付いていけず呆然としていたシンだったが、デスティニーのその声に
ようやく我に返った。

「……正直、わからないけど」

 改めて周りを見渡す。残された巨大な書き割りと捨てられた三つの面を目にし、何もかも諦めきったよう
に息を吐いてシンはただ一つだけ理解できたことを確認するように呟いた。

「――来月も、忙しくなりそうだな」

 空を見上げる。黄昏に染まった空が目に沁みたようにシンの目が憂鬱に染まっていた。




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年03月02日 12:05
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。