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悠久幻想曲ネタ-28


「……で、そんな騒ぎ起こしときながらわざわざ準備中のウチに飛び込んできたわけか、このクソお客様は」
「ヘイそこの赤いの、酒くれ酒。米酒を熱燗で」
「ッざけんなこのアホ! だいたい金持ってんのかテメエは!」
「うっさいな、さっさと運んでくれ。でないと乳揉むぞ」
「どんな脅しだよそれは!?」
「ひぅっ!?」
「なんでお前がビビってるんだデス子!?」

 ――そんなやりとりを眺めながら、シンはそっと窓の外を見やる。
 未だ自警団が何人か見回りをしているようだが、先ほどインパルスらが聞き込みに来た団員をなんとか誤魔化
したおかげで踏み込んでくることはないようだった。
 勝手に店に入ってきたストライクフリーダムだけでも引き渡した方がいいのでは、と言われたが、シンには
彼女の話を聞かなければならないという予感もあり、その提案を断った。

「まったく、厄介事に巻き込んでくれたな元マスター?」
「……悪い」
「だ、大丈夫ですよ。今はオーナーさんもパティさんもいませんし」

 それが唯一の救いだった。どちらか、というよりもパティがいれば間違いなくこのテーブルに着く前に店から
叩き出されていたことだろう。

「まぁいい、今さら何を言ったところで状況は変わらん。熱燗だったな? すぐに用意しよう」
「おぉ~、緑のは話がわかるじゃんか」
「ただし値段は通常の5倍だ」
「鬼! 悪魔! 人でなし!」
「クックックッ、最高の褒め言葉だ」
「ぶ、ブラストちゃん……あ、元マスターも手伝ってくれませんか? 人手が足りないので」
「あぁ」

 ブラストの目配せの意味を察してシンは席を立つ。デスティニーから何やら訴える視線を感じたが、すぐ戻る
と告げてインパルスに続き厨房へと向かった。
「しっかし、今度はアイツかよ。なんか変な呪いでもかけられてんじゃないのか元マスターは」
「そう言うなソード。元マスターのトラブル体質は今に始まった話ではない」
「そ、そんなことは……あるかもしれないけど」
「お前ら俺のことそんな風に思ってたのか……?」

 燗の用意を進めるインパルスと並んで、シンは若干凹みながらまかない程度ではあるが即興で米酒に合うつま
みを作る。
 ここで働いた経験から大体の物は作れるようになったシンだが、ここに来た本当の理由はそれだけではない。

「それで、奴はどうするつもりなのだ?」
「……とりあえずは向こうの話を聞く。どうするかはそれからだ」
「甘いんじゃねぇの? アタシらとデス子がいりゃフリーダムだろうが一人なら……」
「でも、絶対に勝てるっていうのは言い切れないと思う」

 フォースの意見にシンは頷く。先ほどの戦いを見る限り、二人がかりで仕掛けたとしてもせいぜい互角がいい
ところだ。現状ではフリーダムの時のように勝てる要素がまるで見つからない。そもそもの目的すら不明ではど
う対策を取ることもできないのだ。
 だからこそ、相手が話し合いの姿勢を見せている今は下手に手出しをせず応じるべき、とシンは考えていた。

「……もどかしいな、アタシとしちゃとっとと叩っ斬りたいとこなんだけどよ」
「ソード」
「わぁってるよ。元マスターの手前、勝手な行動は慎むさ」
「ならばいい……さて、これ以上遅れると怪しまれるかもしれん。そろそろ行くか」
「あぁ」

 徳利と猪口、そしてつまみをそれぞれ持ち、シンとインパルスは厨房から出る。
 たとえ相手が穏健を装っていても、それで油断しないよう気を保ちながら……

「二人っきりになったってことはさっきの続きをしていいってことだな! ってことでおっπ! おっπ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ! 助けておねえちゃぁぁぁん! マスタぁぁぁぁ!」
「「何してんだお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 再びデスティニーを剥きにかかるストライクフリーダムに、ソードインパルスのフラッシュエッジとシンの
投げナイフが飛んでいった。
「ついムラッときたのでやった。今は反省している」
「今度アタシらの妹に手を出したらなます斬りにするぞこの万年酔っ払い」
「失礼な、そんな下劣なものじゃないぞ私は。ただのおっπ紳士だ。紳士の魂以外どこも他の連中と変わらん」
「その魂が爛れまくってるって言ってんだよ!」
「っていうか、紳士じゃなくて淑女じゃないのか……?」

 激昂するソードをもはや止める気も削がれ、シンはさっさと本題に入ることにする。

「それで、お前の話ってのはなんなんだ? デス子とインパルスもいるし今がちょうどいいだろ」
「はな、し……?」
「…………」
「あいそうでした! 私が話があるって言ったんでした! すばらしいおっπと旨いお酒で忘れててすいません!」

 無言で腰のナイフに手をかけるシンを見て慌てて姿勢を正すストライクフリーダムだったが、やはりどこか
芝居くさいように見える。インパルスに軽く視線を送り、シンはナイフから手を離して椅子に座り直す。

「で? さっさと話してくれないか?」
「超簡潔に話すなら、私らは君らと敵対する気はないんで手を出さないでくれってこってす、まぁさっきみたい
に仕掛けられたときは当然反撃もするけど」
「私『ら』? お前以外にもいるのか?」
「あぁ、こないだマイシスタを拾ったんだよ。今はゆ、ゆ……? 名前忘れた、狐のねーちゃんのとこに一緒に
厄介になってる。街であんたらと戦ったことは聞いてるけど、ちゃんと私が躾といたんで安心してくれい」

 そう言って猪口を傾け、「うンめー!」と唸った。告げられた言葉を頭の中で反芻しながら、シンは考えを
張り巡らす。

 ――狐の、ってことは由羅のとこにいるのか。予想してたものの中じゃ一応一番マシなものだったけど……

「その言葉、どこまで信用できるかわかったものではないな」
「ありゃ、素直に受け取れないと?」
「当たり前だ。この世界に来る前の我々の関係を考えれば信じられるわけがない」

 射抜くように言葉と視線を叩きつけるブラストに、ストライクフリーダムは変わらず受け流すようにヘラヘラ
と笑う。

 シンの考えもブラストと同じだった。こうして言葉では都合のいいことを並べ、腹の内に抱えた黒いものを
隠していないと言い切れるだけの根拠もない。むしろ何かを隠していて当然だろうと踏んでいた。
 だがしかし、そんな疑いの眼差しを受けてなおストライクフリーダムは笑みを崩さない。

「別にそっちがそう考えてるならそれでも構わんよ? こっちはもう宣言はしたんだ、気にせず過ごすさ。それ
で君らが仕掛けてくるって言うんならさっきも言ったとおり相手にはなるけどな、あくまで正当防衛で。もっと
もそんなのは無駄の極みだろうからお互い得にはならんだろうけど」

 ブラストは黙り込んだ。シンもまた同様に。
 今のところ、言っていることに怪しいところは何も見当たらない。真っ当とは言い難いかもしれないが、少な
くとも正論ではある。

「あぁ、別に普通によろしくする程度なら大歓迎だぞ? こっちとしてももっとヨロシクしたいくらいだし」

 そう言ってネットリとした視線をデスティニーに向ける。もはや天敵と化した相手のハンターな視線にすっか
り怯えきったデスティニーはガタガタと震えながらシンの背中に隠れた。
 溜息をひとつついて、シンは改めてストライクフリーダムを見据える。

「……こっちと戦う気がないならいいさ。それでえっと、S・Fでいいか?」
「おっ、ようやく名前を呼んでくれたか。嬉しいねぇ」

 先ほどまで浮かべられていたものとは違う、あどけない笑顔にシンはわずかながら動揺する。

「『すごい』『Fカップ』と同じ略だな!」
「…………」

 が、すぐにそんな気持ちは萎えた。

「『すンばらすぃ~』『Fカップ』も同じだな!」
「それはもういい……それでこっちも聞きたいことがあるんだけど」
「私の3サイズ? ゴメンそれは国家機密」
「知るかンなこと!」
「きょぬー派はひんぬー派かってことなら……一週間ほど考える時間がほしいかも」
「それもどうでもいい!」
「さっきからツッコミばかりだねシン坊は。ふざけずにさっさと話をしてほしいんだけど」
「お前がさっきから脱線させまくってるんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「お、落ち着いてください元マスター!」

 あ~やだやだと肩をすくめるストライクフリーダムに本気で殴ろうとしたシンだったが、寸でのところで
フォースに止められてなんとか頭をクールダウンさせる。

「……本題だけど、他にお前たちみたいな奴って見たことはあるか?」
「んー? あるぞ。ザクとかダガーとか」
「本当か!?」
「あぁ。みんなどてっ腹に風穴開けてやったけど」

 ――数秒間、卓の回りの空気が凍りついた。

「…………何?」
「いやぁ、あれは参った参った。何せ……」

 薄ら笑いを浮かべながら再び酒を飲もうとするストライクフリーダムだったが、向かい側から二挺のビーム
ライフルを向けられて眉根を寄せつつその動きを止める。

「おいおい、さっきの話聞いてたかい?」
「黙れ! 本性現しやがったなテメェ!」

 猛るソードと怯えの色を消し険しい表情を浮かべるデスティニーを止めるべきかと考えかけたシンだったが、
さすがに今の一言をただ聞き逃すわけにはいかない。

「……今のはどういう意味なんだ?」
「どういう意味も何もそのままだけど」
「先ほどの戦いたくないという言葉、さらに信用できなくなったな。貴様の狙いを含めてこの場で洗いざらい
吐いてもらおうか」
「さっきは不覚を取りましたけど、今度はやられないです!」

 二人分の本気の敵意を受けながら、ストライクフリーダムは呆れたように息を吐いて猪口を置き、名残惜し
そうにテーブルの縁を指でなぞる。

「喧嘩っ早い連中だこと。保護者の苦労が知れるってもんだね、なぁ?」
「口の減らねぇ奴だな」

 溜まりに溜まった怒りが臨界点を突破したのか、ソードはまるで遠慮のない殺意を向けて銃口を直接ストライ
クフリーダムの頭に突き付ける。

「さすが姉妹、熱くなりやすいとこもそっくりだ」

 笑顔を依然そのまま、しかし口元に浮かんだ歪みは一層深くなる。

「――ま、だから対処も楽なんだけど」

 そう呟くや否や這わせていた指がテーブルの縁を掴み、一気に跳ね上げる。
 ひっくり返されるテーブル。散乱する料理と皿。
 シンとデスティニーはなんとかその場を飛び退くことができたが、一人身を乗り出していたインパルスは逃げ
遅れてテーブルの下敷きになった。

「こ、のぉ! どこだぁっ!」

 上に乗ったテーブルを跳ねのけ、ソードは左右を見渡すが……ストライクフリーダムは見当たらない。
 だがその位置を、ほどなくして彼女は知ることとなった。

「呼ばれて飛び出てなんとやらー」
「ッ!?」

 後頭部に硬い感触。それがビームライフルのものであると察知してソードはその場に固まった。

「形勢逆転、ってやつかなこれは」

 距離を取ったが故に容易に手出しができなくなったシンとデスティニーに目を向け、少女は不敵に笑った。

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最終更新:2009年03月30日 12:01
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