<自由と正義と~飲んだくれと熱血バカ~>
――ガチャリ。
「ふー、久々によく食ったな」
「ごちそうさまですー!」
「今度は元マスター一人で来いよ!」というソードインパルスの声を背中に受けて、シンとデスティニーは
さくら亭を後にした。
今月はジョートショップも久方ぶりの黒字を記録し、シンを含めて従業員の給料も大幅にアップしたのだ。
いつものギリギリな経営から脱却できたという記念も兼ねて、今夜は奮発してディナーと洒落こんだという
わけである。
「やっぱりたまには肉食わないと力が出ないな」
「お肉もお魚もドンと来いな私もはおいしいかおいしくないかくらいしか違いが分からないですけど」
「……お前にも美味い不味いの定義があったのか。今日もあんだけ食ってたから椅子以外はなんでも食うのかと
思ってた」
「何を失礼な、そもそも私は……」と聞いてもいないことを語り出すデスティニーをスルーしつつシンは空を
見上げる。
分厚い雲で覆われ、星の輝きも月明かりも届くことはない。今の気持ちとは真逆な空模様に、ふとシンはあの
男のことを思い出していた。
――シャドウ、か。
あれ以来、まったくその姿を見せたことはない。今どこで何をしているのか、と考えると得体のしれない悪寒
に襲われる。
黒いデスティニーといい、気になる点は挙げればキリがないほどある。
だが今はそれ以上に、この沈黙が不気味で仕方なかった。
「……どうかしたですか、マスター?」
「いや、なんでも……」
ない、と言おうとして、どこからか歌が聞こえてきた。デスティニーも遅れてそれに気付いたのか、シンの
目線の先を向く。
……ガス灯の上に、蒼い羽根の少女が腰をかけていた。どこか悲しげに分厚い雲を眺めながら、哀悼するよう
に歌を口ずさんでいた。
静かな旋律、ともすれば身を委ねてしまいそうな穏やかな音色。自然と耳はその歌を聴き取ろうと聴覚を研ぎ
澄ませていく。
――ペチャパイ この小さな胸で ペチャパイ 夢が育ってる
――ペチャパイ きっとこれから ペチャパイ 輝きだすよ
ズゴゴンッ!!
「……おや? どうしたんだい二人とも。何か思いっきりずっこけたみたいな格好だけど」
「お前のせいだお前の!」
「なんでムードを出しながらそんな歌をうたってるですか!?」
聞こえていなかったとはいえ、少しでも感動を覚えた自分を恨みつつ、心底おかしそうにぐい飲みを煽る
ストライクフリーダムを見上げる。
「……パンツじゃないから恥ずかしくないぞ?」
「誰も覗いてない!」
「こーのラッキースケベ~」と笑うストライクフリーダムに反射的に叫ぶ。が、そう言われると意識してしま
うのが男という生き物なわけで、こうなんというか、下から見るとよく分かるのだが装甲とか武装の下がかなり
際どいビキニで露出率が無闇に高いことに今さら気付いたりしてしまうわけで。
「マスター……顔が赤いです」
半目になったデスティニーの指摘に慌てて視線を背けるが、街灯から舞い降りてきたストライクフリーダムが
目の前まで迫ってきていた。
「別に減るもんじゃないし、いくらでも見ればいいじゃないの。何ならいっそ触ってみる?」
「なっ!?」
「だ、ダメですっ!」
「あっははははは! 予想通りのリアクションあざーっす!」
共に顔を赤くした二人を見てげらげらと笑い転げる。いつも以上にハイな行動だが、それに奇妙な違和感を
覚えてシンはあることに気付く。
「お前……まさか酔ってるのか?」
「そりゃ酔うさ。せっかく外に出たってのにお月さんが見えないってのはどーいうこったっての!」
天を覆う雲にがなり立てるストライクフリーダムに呆れて言葉も出ないデスティニーだったが、シンの疑念は
さらに膨れ上がっていた。
――こいつ、こんな風に酔ったことあったか……?
らしくない、と言えるほど付き合いが長いわけではないが、何故だかその姿が無理をしているように見えたのだ。
「予報も今夜はずっとくもりだっていうしもうやってらんねー……ん? どうしたんだい色男」
「S・F。お前、何か隠して」
「おぉそうだ、あれ見ろあれ」
あれ? と酒を煽って少女が指さす方へと振り向く。
いつもの夜の街。ガス灯と家屋の窓から漏れ出る光が、夜陰に包まれた街を照らしていた。
「……何もないぞ?」
訝しげに眉根を寄せながら視線を戻そうとして……固まった。
同じく振り返りながらも何も見つからずきょろきょろと辺りを見渡すデスティニー。
その背後に、音もなくストライクフリーダムは立っていた。
「デス子っ!」
「えっ……っ!?」
名前を呼ばれてようやくデスティニーもその接近に気付く。だが離れようとする刹那、ストライクフリーダム
がフッと笑った。
そして、
「ん……」
「んむっ!?」
――ズキューーーーーーーーーーーーーン!!
色素の薄い唇がデスティニーのそれを塞ぐ。
あまりにも予想外な行動に、シンはおろかデスティニーですら思考と身体が硬直した。
「ん、ふ……ちゅ」
「ぷはっ! やめっ、あむっ……!?」
まるで別の生き物のように舌同士が絡み合う。とはいえ片方は一方的に弄ばれているだけなのだが。
最初こそ抵抗しようともがいていたデスティニーだったが、まるで舌と全身が繋がったかのように徐々に力が
抜けていく。瞳を潤ませながら涙を滲ませて、頬は夜闇の中ですらはっきりと分かるほどに紅潮している。
それからさらに数秒ほど濃厚な口づけが続き、やがて糸を引きながら離れていった。
「ぷっはぁ! ごちそうさまでした&おそまつさまでしたぁ!」
「な、ななな……」
満足そうに身体を伸ばすストライクフリーダムと、ぐったりして地面に崩れ落ちたデスティニーを交互に見な
がら、シンはかける言葉も見つからず伸ばしかけた手を虚空へ泳がせていた。
「う、あ……」
「で、デス子? 大丈夫……か?」
おそるおそる声をかけてみる。緩慢な動きで上半身を起こしたデスティニーは頭をふらつかせながらもシンの
呼びかけに視線をあげ、
「――ふにゃ?」
焦点の定まらない瞳で間の抜けた声を出していた。
「デス、子?」
「うにゅ~、まぁすたぁ~」
猫のようにすりすりと顔を寄せてくるデスティニー。その口元からかすかにアルコールの匂いを感じ取り、
弾かれるようにストライクフリーダムの方へと顔を向ける。
「S・F!?」
「ウィ。ビバ! 口移し!」
意味の分からないファンファーレと共に掲げられた徳利を見て頭を抱えた。デスティニーがここまで酒が飲め
ないとは思いもしなかったが、この酔っ払いの行動はそれ以前の問題だ。
「おい、しっかりしろデス子」
「――マスター」
華奢な身体を抱き起そうとしたが、その手をやんわりと押しのけてデスティニーは立ち上がった。
「今なら、出せるかもしれないです」
「……何を?」
「かめは○波」
……今まで見たこともないような真剣な表情でそう告げるデスティニーに、軽く目眩がした。
「むう、ならば私はビッグバンアタックを」
「頼むからこれ以上話をややこしくさせるな」
わきわきと指を動かすストライクフリーダムをきっぱりと拒絶し、腰を捻り両手を腰だめに構えるデスティ
ニーを止めようとする。
「おいデス子、とにかく落ち着いてだな……!?」
だが、突如沸いてきた嫌な予感にシンの身体を近付くことを拒んだ。わけもわからずシンは混乱する。これか
らいったい何が起こるというのか?
「か~……め~……」
そうこうしてる内にデスティニーは唸るように言葉を紡ぐ。両掌にわずかに開けられた空間に、光が集まって
きていた。
「は~……ま?」
「亀浜っ!?」
はて? と小首を傾げるデスティニーにツッコむが、まぁいいかと気にせず続けるらしい。
狙いは街の向こうにある山だろうか? あのあたりに人家はないはずだが、こんな街中で意味もなく武器を
使用することは止めなければならない。万が一という危険もあるのだから当然のことだ。
だが、シンの内にある本能はむしろさらに警鐘を鳴らしていた。
――ここにいてはいけない、と。
デスティニーの翼が開き、光の翼が広がる。移動するでもなく、しっかりと足を踏みしめたこの状況で何故
EBMを発動させるのか、シンにはまったく分からなかった。
「――あ、こりゃマズイ。ていりゃ」
タガが外れたように笑っていたストライクフリーダムがいきなり真面目な顔になったかと思うと、デスティ
ニーに接近するや否や突き出しかけていた両手を上に蹴り上げた。
「波――――――――――――!!」
構わずデスティニーは掌に溜めた光を解放する。
その瞬間、シンの目に強烈な光が飛び込んできた。
「なっ!?」
まるで太陽が落ちてきたかのように真白に染め上げられた視界を直視できずに目を瞑る。閉じていてもなお
痛みすら感じるほどの光に思わず顔を伏せる。続いて耳にも激痛、後にそれがこの光が炸裂した轟音に耳がやら
れたのだと気付かされた。
――やがてじんわりと痛みが引いていき、シンはようやく目を開ける。
そこに広がった光景に、言葉のない呻きを漏らした。
石畳の地面が、陥没していた。
さながら巨大な岩でも降ってきたかのようなクレーター、その中心に両手を天に突き出した格好でデスティ
ニーは立っていた。そこでようやく理解する。あのEBMは推進として使ったのではない。『凄まじい反動を
抑えつけるため』に使われたのだ。
ではその反動とは何だったのか? それもすぐに判明した。
「あ、あ……?」
空を仰ぐ。驚きに見開かれた目に映るのは、満天の星空と真円の月。
そう、今までそれらを閉ざしていた分厚い雲が、跡形もなく消えていたのだ。
徐々に目線を下ろしていくと、山のあたりで取り残されたように雲があった。ぐるりと周囲を見渡してみると、
ほぼ等間隔に同じように雲があった。
――まるで、エンフィールドの上空の雲だけが切り取られたように消失していた。
原因は考えるまでもない。吹き飛ばされたのだ、デスティニーの小さな掌から放たれた光の柱に。
「……あ~、」
呆けた意識がその気力のない声に引き戻される。傍らを見やると、シンと同じように空を見つめるストライク
フリーダムが浮かんでいた。
しばらくその場で漂っていたのだが、ふと思い出したようにどこからともなくぐい飲みと徳利を取り出し、米
酒を煽って満足そうに頷きながらフッと微笑を浮かべつつ月を見上げた。
「――今日の天気予報はハズレだな」
「何カッコつけてんのお前!?」
叩き落としてやろうかと考えたところで、ドサッという音に再びデスティニーへと目を向ける。
それまで彫像のように動かなかったデスティニーが、糸が切れたように地面に倒れこんでいた。
「デス子!?」
血の気が引く嫌な感覚を振り切って抱き起こす。装甲がディアクティブモードのように灰色一色になっている
ものの、穏やかな寝息を立てているのを確認してほっと息をついた。
「むぅ、ちょっと騒がしくなってきたねぇ」
ストライクフリーダムの呟きを聞いてシンも気付く。遠くから鳴り響く鐘の音、どうやら自警団が動き出した
らしい。先ほどの一撃を考えれば無理もないことだが。
「急いでここから離れないとな……」
余計なゴタゴタに巻き込まれたくない、というよりもあれを一から説明するのは果てしなく面倒だった。
意外に重いデスティニーを両手で抱える。なんとか走れなくもないことを確認してどこへ逃げようかと考えよ
うとしたところで、
「う、動くな!」
「両手を上に上げろ!」
……できるなら顔を両手で覆いたかった。観念してゆっくりと振り返る。街の住人とは明らかに雰囲気の異な
る鎧を装備した男が二人、槍をシンへと向けていた。
「お前か!? 街のド真ん中で対要塞クラスの魔法をぶっ離したのは!?」
「その子を解放して大人しく投降しろ!」
そう警告しながらも、二人は腰を引かせたまま近付いてこない。先ほどの魔法を警戒しての怯えか。
「あ~っと、無駄かもしれないけど一応俺の話を聞いてほしい……」
そう弁解しようとして、ふと気付く。
すべての元凶――ストライクフリーダムがいないことに。
「――ビームを相手の足元にシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「は?」
どこから声が聞こえてきたのか確かめる暇もなかった。
二条のビームが自警団の男たちの手前で炸裂し、砕いた石畳ごと吹き飛ばしていた。
唖然とするシン。その目の前にゆっくりと降りてきたストライクフリーダムはガンマンのようにライフルを
クルクルと回して腰にマウントし、ビシッ! と倒れた男たちに突き付けた。
「超! エキサイティン!」
「『エキサイティン!』じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! 何やってんの!? お前何やってんだよ!?」
「だいじょぶだいじょぶ、イッツ峰打ち」
「刃オンリーだろそれぇ!?」
ツッコミすらも笑いのトリガーになっているのか、壊れたように笑い続けるストライクフリーダム。酒乱にも
ほどがある暴挙にシンはどうしようもない絶望感に襲われた。
「いたぞ! あそこだ!」
「ケリーとデイブがやられてるぞ!」
「あいつらぁぁぁ!」
どかどかと地響きのような音を立ててやってくる自警団。どの目も血走り殺意が籠ってるのは気のせいだと
思いたいのに事実である。
「あぁん? お客さん?」
「お前はもう本当に何もするなぁぁぁぁぁぁ!!」
デスティニーを抱えたまま逃げる。逃げる以外どうしろというのか? そのときのシンには分からなかった。
……それがさらなる泥沼を生むと知りながらも。
「ハッハッハー! 祭りだ祭りだぁー!」
羨ましいほどに楽しそうな笑い声が背中についてくるくるのを感じながら、シンはただひたすらに逃げる。
月明かりが淡く街を照らす下、長い長い鬼ごっこの夜が始まった。
「……なんだ?」
眼下に広がる街を見下ろす。先ほどの天を貫いた閃光、その原因を調べるためにやってきたのだが、事態は
彼女が予想していたよりもかなり大きく動いているようだった。
あちらこちらから聞こえてくる自警団の怒号。それにつられて顔を覗かせる住人。そして、何かが炸裂する音
と直後に響く爆音。
「向こうか」
もっとも騒ぎの大きい、先ほど爆発が起こった場所へ向かう。
さながら戦争でも起こったかのような突発的な出来事に、街全体が不安の色に包まれているのが上空からでも
窺えた。
「まさか……」
とある予感に少女の胸の内に焦りが宿る。探し求めていた相手、その影をかろうじて捉えながらもいつも逃が
してしまったあの相手。
想いが膨れ上がるとともに自然とスピードが上がっていく。
どこだ? どこにいる? 早く姿を現わせ、と。
「!」
小さな少女を背負った少年が、鬼気迫る顔で路地を駆け抜けていた。
その背後は武装した男たちの群れ、自警団。
そしてその間に……
「――見つけた」
場違いなほどに無邪気な笑顔を浮かべながら、両手のライフルを乱射するもう一人の少女の姿。
時折前を走る少年に追いついては何か語りかけ、罵倒を受けさらに声を上げて笑いながら再び自警団へと攻撃
を仕掛ける蒼い翼――ストライクフリーダム。
「ハ……ハハハハハハ! アハハハハハハハハ! 見つけた!」
まるでストライクフリーダムの笑みに感染したかのように狂った笑い声を上げる。
……月にその灰色の身体を照らし出されながら、少女は観喜の声を上げた。
「ゲェァーハハハハハァ!(※註:今回のヒロインの笑い) どうしたどうしたぁ!? 自警団の底力ってのは
そんなモンかぁ!?」
――ドカーン!
「たった一匹の小娘にこうも容易く拮抗されるたぁ、失礼ながら大爆笑ですな!」
――ズガーン!
「もっと! 熱くなれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
――ズババババーーーーーーーーーーーーン!!
「……聞こえない。俺には何も、聞こえない」
「お、一句できたね」
「ドやかましいわこの歩く大災害ッ!」
爆音とそれに混じって聞こえてくる悲鳴とか怒号から逃避しようと心の耳を塞ごうとしたシンだったが、いつ
の間にやら隣を飛ぶストライクフリーダムによって一気に引き戻された。
「あっはっはっは! まぁ楽しめよこういうのも。こんな騒ぎなんてめったに――んあ?」
「今度はなんだよ!?」
不意に空を見上げるストライクフリーダムに何事かと尋ねる。
「……いや、気のせいかね。おっとぉ、待ち伏せだ」
「げっ!?」
小さな指が指し示す先に、通りを塞ぐように自警団が槍を構えていた。
一本道、そして後ろには吹き飛ばされながらもしつこく追いかけてくる自警団。
――これで、終わりか。
諦めの中にしかし安堵も感じつつシンは観念する。これでもう逃げる必要はなくなると。
だが、二挺のライフルが連結される音がそれをあっけなく打ち砕いた。
「レェェェェェェェェェェェッツパァリィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
全速力で走るシンに並びながらも正確に陣の中央へと狙い撃たれるエメラルドグリーンの閃光。その一撃は
屈強な男たちをまとめて吹き飛ばし、シンとストライクフリーダムの血路を切り開いた。
「よしっ!」
「何が「よしっ!」だよ!? 全然よくないだろ!」
「心配すんなって。誰一人として死人はいないよ……死ぬほど痛い目に遭ってるかもしれないけど」
「死ななきゃいいってもんじゃないだろ!」
結局この逃走劇がまだ続くということを知り、シンは再びすでに感覚がないに等しい脚を必死に動かす。
どうしようとバッドエンドが確定なことになるのを嘆きながら、シンはあてもなくただひたすらに走り続けた。
「――――ふ」
彼女は考える。己が存在のある間にいったいどれほど充実した時が過ごせるのだろうか、と。
「ふふふ……」
答えはすぐに出た。そんなものはそうは得られない。自身が人のそれよりも短い時しか生きられないというこ
とだけが理由ではない、おそらくは何十年生きたところで数えるほどしかないだろう。
「ふはぁーーーははははははははは!!」
故に思うのだ、今この瞬間、己が使命を全うするときが来たことを心の底から喜ぶべきだ、と。
「あ、あのうセンパイ……なんでそんなに生き生きしてるんですか?」
「当たり前だ! 見ろこの惨状! この騒動! 街の危機と断言していいほどの大・事・件!」
バッと両腕を広げながら、∞ジャスティスは高らかに声を上げた。その背中に、セイバーは遠慮がちに疑問を
投げかける。
「たしかに凄いことになってるみたいですけど……それでなんで嬉しそうに?」
「わからんのか!? 敵! まごうことなく敵! 我ら自警団にとっての本懐! それはこの街の平和を脅か
す敵を討ち倒すこと! ある意味では待ち望んでいたと言っていいほどの相手が現れたのだ! それに喜んで
何が可笑しい!?」
「さ、さすがにちょっと不謹慎かなぁって……」
「否! 例え望もうが望むまいが危機が来るときは来るのだ! ならば今は憂うよりも責務を全うすることに、
我らがいるということに純粋に喜び事態の早急な解決に当たるべし!」
瞳に炎を宿す少女にいつものごとき諦めの溜息を吐き、セイバーは別に気になっていたことを問いかけた。
「そ、それじゃあ私たちはいったい何をすれば……?」
「フン! 聞こえないか? どうやらこの件の発端である不埒者はこちらへと逃げてきているらしい。ここまで
はほぼ一本道、脇道へ逃げ込もうものなら行き止まりだ。つまり! 犯人はこの道を通るという可能性が濃厚!」
「……えっと、つまり?」
「彼奴が顔を覗かせたところで一気に肉迫し! 我が断罪の蹴りにて叩き伏せる!」
ギンッ! と鋭い視線に射竦められてセイバーはビクリと身体を震わせて建物の影に避難する。
「ま、待ち伏せするってことだよね?」
「たわけ! これは……『正義の奇襲』だ!」
嬉々とした輝きを両目に湛えながら、∞ジャスティスはセイバーを奥へ押しやって影に潜む。
……声がさらに近付いてきた。∞ジャスティスはは自身の読み通りの展開になってきたことに犬歯を剥き出し
にして笑う。その顔を見てセイバーの震えがさらに大きくなった。
声の大きさからいって約20メートル。∞ジャスティスの両脚に光の刃が宿る。
あと15メートル、10メートル、5メートル……
そして、
「――断罪の! ジャスティススラッ……!?」
「!?」
物陰から飛び出し脚を振り上げた∞ジャスティスは、真っ先に飛び込んできた相手の姿に動きを鈍らせた。
対する少女も少なからず動揺したようだが、すぐにその蒼い翼を広げると物理法則を無視するかのような
挙動で蹴りを避けていた。
「っ、ヤツは!?」
慌てて振り返るも、その姿は遠く離れていく。歯噛みをしている内にその傍らを少女を背負ったシンが駆け抜
けていった。
「せ、センパイ! あの人たちって――ひうっ!?」
同じく逃亡者の姿を見たセイバーが∞ジャスティスに近寄るが、直後にその顔を見て悲鳴を上げる。
「あいつめがぁぁぁぁぁぁ……!!」
軋む歯の音と、さながら煮えたぎるマグマのような声。激情に彩られたその顔には、いつも以上に過激な少女
を危険な色に染め上げていた。
「――ん? おいお前ら!」
「えっ……? あ、アルベルトさん!」
少女らの姿を見つけてアルベルトら自警団第一部隊が揃ってやってきた。今の時間はエンフィールド郊外の
警邏を担当しているはずだが、街の騒ぎを察して戻ってきたらしい。
「お前たちも来ていたのか。なら話は早い、とにかくあいつらを捕まえるぞ!」
「は、はい!」
「……上官殿」
ぎょっと全員の視線が∞ジャスティスに集まる。いつもなら不必要なほどに力を込めていの一番に名乗りを
上げるはずの少女が、不気味なくらいに落ち着いた声音で進言してきたからだった。
「あの蒼羽根の相手は私に任せてもらいたいのです。他の者ではおそらくは足止めにもならんでしょう」
「あ? そいつは別に構わないが……」
「ではこれで!」
「何? おいまてっ!」
許可を得ると同時に背中の翼を広げ、∞ジャスティスはシンたちを追いかけていく。その後姿をぼんやりと
眺めていたアルベルトたちだったが、ハッと我に返ると慌ててその後を追い始めた。
「俺と隊の半分はもう一人を追うぞ! 隊長にも連絡に迎え! 残りは怪我人をクラウド医院へ連れていけ!
おい小さいの、お前もこっちのサポートに回れ!」
「わ、わかりました~!」
瞬時に各員への支持を済ませ、アルベルトもまたシンらへの追跡を開始する。
実戦部隊の投入、終わりの見えなかったこの騒動が新たな局面を迎えようとしていた……
「――こりゃ驚いた。こんなとこで再会するとはなぁ」
「呑気なこと言ってる場合か! あいつも自警団だぞ!?」
「マジで?」
「マジだ!」
あらら、と緊張感のない声を上げたストライクフリーダムだったが、その眼が一瞬鋭くなった。
「……思ってたよりも辛いことになりそうだ。ま、何事もそうそう楽にはいかないか」
「何の話だ!?」
「うんにゃ別に。ところでこれからどーすんの?」
「知るか! とにかくどこかあいつらを撒ける場所にでも逃げ込むしか……」
「無理だね」
「あぁ!?」
「追いつかれた」
そう言うとストライクフリーダムはライフルを腰に収め、代わりに二本のビームサーベルを抜いた。
その意味をシンが理解する前に、その声は聞こえてきた。
「ストライクフリーダムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
雄叫びと同時に光の刃が弧を描く。突進と同時に振るわれた盾から伸びるサーベルを、二刀が受け止めた。
接触した個所から弾ける光の粒子で一瞬目が眩むシン。ほどなくその視界から白い靄が取り払われ、彼は
襲撃者の正体をようやく確認できた。
「――よう、相棒。元気してたか?」
「私を……相棒と呼ぶなぁ!」
拒絶の言葉と共に∞ジャスティスは胴を薙ぐような中段蹴りを放つ。後ろに加速してその斬撃を回避し、わざ
とらしく驚きながら体勢を整える。
「あっぶねーなぁ。久々に会った相方に対して殺意100パーの蹴りはないんじゃないの?」
「黙れ! 今までどこで何をしているのかと思えば……貴様何が目的だ!?」
「あえて言うなら、酒とおっπ」
ビキリ、と空間に亀裂が走る。
――いい加減勘弁してくれ、そう嘆きたくなったシンだった。
「……もういい。積もる話は牢獄で聞いてやろう。今はただ貴様の犯した過ちのすべてを断罪してやる! 我が
正義の下に散れ!」
「あぁん? 私をヤろうって? お~上等だ上等じゃないか! 軟弱な自警団如きに私の自由を邪魔されて
たまるかってーの! 返り討ちにしてそのやわいやわいおっπ飽きるほど堪能してやる!」
「ちょっ!? おいまてコラ! なんでそんなにやる気になってんだよお前!?」
「オンナノコのハートはガラスみたいに傷つきやすいんだゾ☆ だからちょっと挑発されてムカっときちゃう
のもしょうがないよね☆」
「馬鹿! ふざけんなこの馬鹿! あとその喋り方マジでムカつく!」
てへ☆ と気色悪さ抜群な笑顔を浮かべて、ストライクフリーダムはサーベルを収め再びライフルを構えた。
「さぁ! 来いよ相棒!」
「相棒と呼ぶなと、言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
放たれたビームをシールドで弾きながら、∞ジャスティスは腰からビームサーベルを引き抜いた。
最終更新:2009年08月02日 14:21