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11 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/06(金) 16:19:14 ID:yMlyNS4h
TIPS あの日の約束

興宮署に電話の呼び出し音が鳴り響く。
恰幅の良い男がそれを取る。定年間近だが、今だ志は全盛期のままと自他共に認める熱血刑事だ。
「はいはい、興宮署です。……おんやあ!? お久しぶりですねえ~」
いつになく声のトーンを上げる。一瞬何事かと周りの刑事たちが大石刑事を見る。

『……ええ。宿もとってあります。近いうちにそちらに行こうかと』
「なっはっは! 公安の方のお仕事は大丈夫なんで?」
『ええ。庶務に少々無理言って有給取りました。幸い今までの分が余りに余ってたんで』
「あんまり忙しくして奥さん泣かせちゃ駄目ですよう? それで、ご家族も一緒に雛見沢へ?」
『いえ、今回は単身です』
「ん~? まあいいですが。もしかして、愛人と密会とか? んっふっふ!」
『ははは、だとしたら随分可愛い愛人です。実は、古手梨花に用がありまして』
「ほう? 古手さんと面識が?」
『ええ。五年前に、ちょっとした約束をしたんです』

……。
「以上が連絡員の報告です」
「公安の刑事がRと接触ですか……。身元の見当は?」
「はい。赤坂衛、資料室では相当のやり手だそうです。もしや我々の計画を嗅ぎつけて?」
「かもしれません。とにかく、法的手段で介入されると厄介です。排除しておきましょう」
「わかりました。山狗を二、三人用意します」
「いいえ、彼を使いましょう」
報告をしていた男が顔を上げる。
聞き手の女は口元だけで笑みを作っていた。

41 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/10(火) 23:00:17 ID:tJnXs+tl
小鳥のさえずりが朝を告げる。
「う~ん……。」
顔にやけに硬い感触を感じて目が覚める。思いっきり伸びをすると、くわぁとあくびが出た。
鏡を確認すると、頬にはくっきりと赤い跡が付いてしまっている。どうやら机に突っ伏したまま眠ってしまったらしい。
振り返ると、同じように沙都子が机に突っ伏していた。何処となく疲れきって眠ってしまったように見える。
ええと、昨日はどうしてたんだっけ……?
昨日は放課後デザートフェスタに行って、スネークを部活に誘って、みんなで騒いで……。……そうだ。家に帰って、沙都子に手伝ってもらってアレをやっていたんだ……。
「……みー。沙都子、沙都子。起きるのですよ。」
体を揺すると、沙都子は眩しそうに目を開けた。
「ふわぁ……梨ぃ花ぁ……。……朝ですの……?」
「ええ。ほら、着替えて学校に行くのですよ。」
「……うー。」
まだ寝惚けているらしい。私がしれっと手渡したメイド服に、何の疑問も持たずに袖を通す。わざわざ指摘することでもないので何も言わないでおくことにする。
私も学校の用意をし、……机の上に無造作に散らばった紙束を整頓し、鞄に詰め込む。
「あぅあぅ……。それ、持っていくのですか……?」
羽入がためらいがちにそう尋ねる。
「別にいいでしょ。これは惨劇を回避するのに必要なんですもの。」
「本当にそうでしょうか……。」
私はあえて答えない。踵を返し、朝ごはんの用意に取り掛かった。
42 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/10(火) 23:00:59 ID:tJnXs+tl
いつも通りの登校路。いつも通りの校門を抜け、いつも通りの教室の扉を開く。
「あ、梨花ちゃんおはようー! ……? なんだか眠そうだね?」
教室の中には見慣れたメンバーがすでに揃っていた。圭一までいるのはちょっと珍しい。多分沙都子のトラップ責めを多少なりとも回避しようと早起きして先に登校してしまおうとでもしたのだろう。
「おはようございますですの……。う~、これでは授業中居眠り確実ですわね……。」
もっとも、その当の沙都子はまだ眠気が抜けきっていないらしく、ふらふらと足取りがおぼつかない。……少し昨晩遅くまで付き合せすぎたか。ごめん、と心の中で謝る。
「おはよう二人とも! ……ありゃ? 梨花ちゃん、なんかその鞄やけに中身入ってない?」
流石に目ざとい。私はニヤリと笑い、鞄の中の紙束を彼らの机の上に広げた。
「……お!? これは……へぇ~。」
「うわぁ、梨花ちゃん、これ梨花ちゃんが描いたのかな、かな!?」
「へー、なかなか本格的ですねえ。」
その紙束の正体は……文房具屋で売られているような、ケント紙の原稿。
漫画家が使うようなアレだ。
そこには昨日私が沙都子と執筆した漫画が描かれている。
「私も梨花が漫画を描くなんて知りませんでしたわ。まったく、水臭いですわ。」
「みー。別に隠してたわけじゃないのです、ただ最近描きたくなっただけなのです。」
「ふむふむ……。いや、これ面白ぇよ梨花ちゃん。特にこの、悪の組織に主人公の少女が仲間たちと力を合わせて戦うシーンとか。」
「日本を影で牛耳る謎の秘密結社『東京』に、村ぐるみの奇病ね~! いやはや、梨花ちゃん意外とハードボイルド志向なんだね!」
「はぅ、まだまだ荒削りな部分もあるけど、ストーリーの勢いとキャラクタの個性は○だと思うよ! あとは画面が白黒ばかりでちょっと寂しいかな!」
「ふむ、なるほどね。今度はトーンも使ってみようかしら……。」
そう。鷹野はきっとこの世界でも惨劇を起こす。
それを乗り越えるには、部活のみんなと力を合わせなければならない。だから面倒なようでも、私は毎回こうやって彼らに終末作戦や雛見沢症候群のことを教えているのだ。

「あのー、でも梨花。」
「何よ、羽入。」
「ちゃんと話せば部活のみんなが梨花の話を信じてくれるのはこれまでの世界で分かっているのですから、わざわざ漫画仕立てにしなくてもいいのでは……?」
「……分かりやすく説明するにはこれがちょうどいいのよ。」
「でも、気のせいかその漫画だんだんクオリティが上がってきているのような……。最初はネームもなかったのに、いつの間にか下書きが入って、とうとう今回はペン入れまで……」
「あんまりしつこいとまたキムチよ。」
「あぅあぅあぅ! 最近ボクの扱いが酷いのです……!」

羽入が色々と文句を言うが、聞こえないフリをする。
「しかし梨花ちゃんにこんなにお話作りの才能があるなんてね……! ……どうだい梨花ちゃん、実は今度近くでとあるイベントがあるんだけど……」
「……ページ数次第なのですよ? にぱー☆」
魅音の目が普段とは違うオーラを放つ。私と魅音は二人してくっくっく、くすくすくすと含み笑いを交わした。
「嗚呼……梨花が、なんだか今まさに道を踏み外さんとしているのです……。育て方を間違えたかもしれないのです……。」
羽入が頭を抱えているようだが、それも無視する。
そうこうしている内に知恵がやってきて、その場はそれきりとなった。まあいい、また後で部活のみんなには話の続きをしよう。

69 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/14(土) 00:17:59 ID:am/jzRng
「「「いっただっきまーす!」」」
午前の授業が終わると、教室はたちまち賑やかになる。
下級生の子たちがそれぞれ仲良しのお友達と机を寄せ合う。「今日の弁当何だろー!」「ねえねえ、さっきの黒板のとこ・・・」そんな声があちこちから聞こえて、喧騒となる。
「腹減った~・・・俺たちもメシにしようぜ!」
「昨日あれだけ食べたのに、圭一さんは元気ですわねえ。」
「甘い物は別腹だもんね。・・・でも、当分ケーキは見たくないかなあ。」
デザートフェスタだからって調子に乗って食べ過ぎた。・・・結局ゆうべは体重計に乗れなかったなあ。
でも楽しかったからまあ、いいか。
私は昨日のドタバタ騒ぎを思い返して笑う。
「レナ~、圭ちゃ~ん、さっきの問題教えて~」
魅ぃちゃんがのべーっと脱力したように腕を投げ出す。
「うん、いいよ。ノート見せてー」
「さっきってあれか? 魅音は去年習ったはずじゃねえか。」
「へっ、そんな昔のことは忘れたよ・・・」
そうおどけてみせる魅ぃちゃん。
・・・魅ぃちゃんは最近特に勉強をがんばるようになった。ちょっとレベルの高い学校に進路を変更したらしい。・・・圭一くん、頭いいからなあ。微笑ましくて、少しだけ複雑。
・・・だけど、勉強に打ちこみ始めてるのは私だって同じか。
問題の解き方を解説しながら、頭の片隅で思いをはせる。
再来年の春。私は新しい靴を履いて、新しい校門をくぐり抜ける。
そこには同じ制服を着た魅ぃちゃんと詩ぃちゃんと・・・圭一くんが待っていて、私に手を振ってくる。
梨花ちゃんと沙都子ちゃんが入学する頃には卒業しちゃってるのが残念だけど。・・・いっそ、みんなで留年してしまおうか。圭一くんたちなら本気でやっちゃいそうだなあ。
・・・そんな未来を思い描く。そんなことを思う自分に少し驚く自分がいる。
ちょっと前までは今の幸せだけを受け入れようって思ってたのに・・・。
みんなといる時間が心地よくて、ちょっとだけ欲張りになったみたい。
「ありがとうレナ! やっと分かったよ~!」
「どういたしましてなんだよ、はぅはぅ。」
魅ぃちゃんがメモを取ったノートを机にしまうと同時に、教室の廊下側の方からどよめきが沸いた。
好奇心旺盛な下級生の男の子たちが、窓枠から身を乗り出して廊下を覗き見ている。昇降口の方から誰かが歩いてきているらしい。
その人物に何となく予想がついて、私の思考はざわめいた。
70 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/14(土) 00:18:51 ID:am/jzRng
「うむ、今日は大漁だな。」
鷹揚に廊下を横切るのは、三日前に雛見沢にやってきたあの人だ。
手には大きな捕獲用の網を持っている。・・・よく見ると、その中に入っているものが激しくうごめいているようだ。
「せんせー、それ何ですかー?」
男の子の一人がその網を指さして尋ねる。
「ん? ああ、今日の昼食だ。ここの山はわりと鳥が沢山いてな・・・」
スネーク先生がそれを掲げもって説明していると、廊下の逆の方から知恵先生が姿を見せた。・・・呆れたように口が開いている。
「おお、知恵先生。どうかしたか・・・」
「・・・ちょっと職員室まで来てください。」
知恵先生はスネーク先生の言葉を遮り、有無を言わせず職員室まで連れて行くと、扉をぴしゃりと閉めた。気のせいか人目をはばかるようで、連行するといったほうが正しいようにも見える。
私はこっそり教室を出、忍び足で彼らの後を追った。

「・・・あまり目立つことはしないでください! 何考えてるんですか!」
「いや、ちょっと食糧をキャプチャーしていただけなんだが・・・」
「普通の教師は昼休みに山に行って動物をとってきたりしません!」
「そうは言うがな知恵先生・・・」
「・・・はぁ、あなた本当に潜入のプロなんですか? 頭痛い・・・」
・・・・・・・・・。
71 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/14(土) 00:19:28 ID:am/jzRng
教室に戻る。
みんなはお弁当を食べながら談笑しているところだった。特に声もかけず自分の席に着く。
「・・・どうした、レナ?」
「え?」
顔を上げる。
圭一くんが、真面目な表情で私の目を見つめていた。
「どうしたって、何のことかな、かな?」
「いや、なんか考え込んでるような様子だったからよ。なんか気になることでもあるのか?」
どきりとする。
・・・圭一くんは時々とても鋭い。表には出さないようにしていたのに、私があることを気にかけているのを見抜いてしまった。
・・・どうしよう、みんなに相談してみようか・・・・・・。
「ん? レナ、悩み事? もし悩みがあるなら言ってくれるとうれしいな。」
魅ぃちゃんがやんわりと相談を促す。みんなも私たちの会話に気づいて、こちらを見た。
・・・仲間っていうのは、隠し事なんかなしだよね。
うん、と私は決意する。言ってしまおう。
「あのね、スネーク先生のことなんだけど・・・」
「・・・スネークがどうかしたのですか?」
「あの・・・なんかスネーク先生って、ちょっと変わったところがないかな、って・・・」
「変わったところ? ・・・まあ、確かに変人って言えば変人かもねえ。さっきもなんかサバイバルしてたっぽいし。」
「ううん、そういうんじゃなくて、上手く言えないんだけど・・・」
言い淀む。
スネーク先生は沙都子ちゃんを救ってくれた恩人だ。だからこんな疑いを持つのはやはり良くないことかもしれない。
「・・・なんだか、スネーク先生って、とても大きな秘密を抱えてるような・・・・・・・・・私たちに知られたくないと思っているようなことがある気がするの。」
「秘密?」
魅ぃちゃんは首をかしげる。・・・無理もないか、私だって言ってることが抽象的過ぎると思う。
ただ、スネーク先生と会った初日から・・・あの人の周りに、良くない気配を感じるのだ。
スネーク先生本人の立ち居振る舞いに、初日エンジェルモートでこっそりと無線を交わす様子。
・・・そして、昨日保健室で岡村君と話していたこと。
話の内容は掴めなかったけれど、・・・怯えるような岡村君の声音と刃のような先生の口調、そして漏れ聞こえてきた不穏な単語。
「んー・・・悪いけど、ちょっと分からないかな・・・。具体的にスネークが私たちに秘密にしてることって、何だと思うの? それが分かんないと何ともいえないよ。」
「それは・・・ごめんなさい、私にも分からない。本当に何となくなんだけど・・・」
「うーん・・・」
みんな黙り込んでしまった。
・・・言葉にすると、自分のスネーク先生に対する疑いが根拠のないものに思えてくる。
でも、何か嫌な予感がする。こういう予感は当たることを私は知っていた。
「はぅ、そんなに真剣にならなくてもいいんだよ! ちょっとしたことだし、レナの気のせいかもしれないから。」
雰囲気を戻そうとわざと声のトーンを上げる。
・・・そうだ、本人に直接尋ねてみよう。本当に私の気のせいかもしれないし。
気のせいならそれでいい。
今の幸せが壊れなければ、それでいいんだ。

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最終更新:2007年05月19日 18:53