BIBLIOMANIAX内検索 / 「その4、開始1時間」で検索した結果

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  • その4、開始1時間
    4、開始1時間  卵大の物体が、床に着弾すると同時に爆発する。視界が戻る前に跳び出す。  あちらこちらから銃声と爆発音がする。上の階からも下の階からも音がすることから、自分が今、真ん中あたりの進度なのだと珠月は確認する。  流れるような動きで太もものフォルダーからナイフを抜き出し、そのまま投げつける。拳銃を持ったマネキン人形は、足を切断されて無様に倒れた。遠隔操作型のミスティクなのだろう。だが、どうやらこちらを確認する手段はないらしい。カメラを噴煙で覆った瞬間、動きが鈍くなった。 「意外と面倒くさいな。けど、いい訓練になる」  久々のナイフや銃の感触に、珠月はほほ笑んだ。リスクが大きくあまり多様できない珠月の能力の性質上、射撃やナイフの腕を磨いておくにこしたことはない。実際、隠れて努力はしている。クラスこそミスティックの単独履修だが、並みのスカラーやソルジャーに負ける気はしない。  時計...
  • 篭森 珠月
    ...その3、開始30分 その4、開始1時間 その5、開始1時間15分 その6、開始1時間50分 その7、開始2時間 その8、開始2時間30分 終章、翌日 ties ~束縛の絆~ties 1 ties 2 ties 3 ties 4 ties 5 ties 6 ties 7 ties 8 ties 9 ties 終章 女よりも悪いもの1 女よりも悪いもの2 女よりも悪いもの3 女よりも悪いもの4 コウノトリシンドローム 前編 コウノトリシンドローム 中編 コウノトリシンドローム 後編1 コウノトリシンドローム 後編2 不連続シリーズ 授業風景 一時限目動物学 授業風景 二時限目数学 あの人とおしゃべり あの人とおしゃべり お茶会編 その他 短編水と葉の庵 ロイヤルベルベットブルー お茶とお茶菓子 Sister & brother 少女と推理小説 とある恋の物語 ...
  • その6、開始1時間50分
    6、開始1時間50分  アサルトライフルの鋭い銃撃音が響く。力任せに警備ロボを突破して、朧寺緋葬架は息を吐いた。慎重に残りの銃弾を確認する。12階から4階まで一緒にやってきたアサルトライフルにはもうほとんど銃弾が残っていない。  訓練を受けていない者ならば男でもよろめくほどの銃を片手で担いで、緋葬架は周囲を警戒する。普段は使わない軍用の銃は、初めのうちこそ使いなれない感じがしたものの今ではすっかりに手になじんでいる。  アサルトライフルは、素人が『ライフル』と聞いて思い浮かぶような銃よりややごつい外見をしている。当たり前だ。通常、緋葬架が狙撃に使うスナイパー・ライフルが、遠距離からの単発狙撃を前提として精密射撃にこだわっているのに対し、アサルトライフルは戦場において兵士が使うための銃だ。日本語ではそれぞれ、狙撃銃と突撃銃というように分けられ、おなじライフルでも用途がまったく違うものであ...
  • その5、開始1時間15分
    5、開始1時間15分 「殺す殺す殺す殺す殺す――――建物出たら覚えてろ」 「そう言いながらも、きちんと避難訓練はしてるんですね。ふふ、単純馬鹿で扱い安くてなんともうれしい限りです。そういうところは大好きですよ」  音を立ててバールが振り下ろされた。うお、とおっさんくさい声をあげて、陽狩はそれを回避する。何も事情を知らない相手がみれば、チンピラに若手サラリーマンが絡まれているように見えなくもないが、中身を知っている者はその着崩したスーツの男――陽狩のほうが性質が悪いと知っている。 「危ないですね。当たったら、脳挫傷起こして死にますよ?」 「殺す気でやってるんだよ」 「なんて酷いことを」 「酷くない。ほんの一時間前に人を盾にしようとしたお前には言われたくない」 「その代わり、つい先ほど予告なく非常階段が爆発した時は教えて差し上げたでしょう?」 「その後、がれきで半分埋まってるエレベーターの...
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    ...その3、開始30分 その4、開始1時間 その5、開始1時間15分 その6、開始1時間50分 その7、開始2時間 その8、開始2時間30分 終章、翌日 ties ~束縛の絆~ties 1 ties 2 ties 3 ties 4 ties 5 ties 6 ties 7 ties 8 ties 9 ties 終章 女よりも悪いもの1 女よりも悪いもの2 女よりも悪いもの3 女よりも悪いもの4 コウノトリシンドローム 前編 コウノトリシンドローム 中編 コウノトリシンドローム 後編1 コウノトリシンドローム 後編2 不連続シリーズ 授業風景 一時限目動物学 授業風景 二時限目数学 あの人とおしゃべり あの人とおしゃべり お茶会編 その他 短編水と葉の庵 ロイヤルベルベットブルー お茶とお茶菓子 Sister & brother 少女と推理小説 とある恋の物語 ...
  • その7、開始2時間
    その7、開始2時間  観客席は変なテンションで盛り上がっていた。賭けをしている者は自分の札を握りしめて固唾をのんで勝敗の行方を見つめ、そうでないものはのんびりと菓子や弁当を食べながら観戦モードに突入している。競馬場と映画館を足して二で割ったような感じだ。 「あ、繍ちゃんだ」  ル・クルーゼの弁当を買いそこなった代わりに、ブラックシープ商会が販売していた弁当を購入してモニターを見つめていた、序列189位【スコーレ(暇人の学問)】矯邑繍(ためむら しゅう)は、気だるそうに顔をあげた。その目に手を振りながらこちらに歩いてくる、序列249位【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無(れいぜい かんな)の姿がうつる。繍は片手をあげて挨拶をした。 「観戦、来てたんだ」 「たった今ね。さっきまでブラックシープ商会で商談しててさぁ。まだ終わってなくてよかった」 「終わってないどころか、混戦してるよ。みんな仲悪...
  • その3、開始30分
    3、開始30分 某チョコレート中毒者の場合 『えーと、予想通りというかなんというか、結構みなさんばらばらに動いてるね★ そんんなワンマンプレイヤーのみなさんには、強調と強力と言う言葉を贈りたいね』 『協調と協力ですね。すでに強調と強力は、十分存在すると思います』 『十分というか、むしろそれしかないというか』  観戦席は異様な盛り上がりを見せていた。ランカーを中心に快進撃が進んでいる――からではない。全員が苦戦しているからこそ、会場は盛り上がっている。誰であっても、普段は頭が上がらない人間が苦労しているところというのは、見ていて気分のいいものだ。 『現在トップは、9階にいる翔さん&揺蘭李さんチーム★ それを追うのが、移動中の篭森さんと篭森さんを物理的な意味で追っているジェイルさん。やや遅れて、緋葬架さんと契さん。そのかなり後ろをガエクワットさん。ゆったり移動してるのが藤司朗さん+αで、不死...
  • その8、開始2時間30分
    その8、開始2時間30分 「なるほど、エレベーター内の点検用梯子か」 「それにしても罠だらけですわねぇ」  珠月と緋葬架は黙々とトラップを解除していく。  珠月は普段から防御のためトラップを仕掛けていて、緋葬架は普段から標的に近付くためトラップをかいくぐっているため、手つきは慣れている。その間、藤司朗は上を警戒する。 「ところでさ、戦闘においては上の位置のほうが下の位置より有利だってことは知ってるよね」 「知ってるから一番上にアーサーがいるんじゃない。余計なこと話かけるな」  視線すら向けようとはせず、珠月は言いきった。慎重に細い糸を外していく。藤司朗はため息をついて、梯子の上のほうにいる白骨を見上げた。 「信用ないなぁ」 「殺意を向けてくる心配はしてないけど、私たちを突き落とすくらいならやりそうだから」 「ふふ、篭森さんに認めてもらえるなんてうれしいな」 「ふふ、どっかで誰かに殺されて...
  • 第二楽章 戦争、開始(1)
       第二楽章  戦争、開始  「うむ……双方、動き出したようだな。タイミングがいいことだ」  地平の彼方に、小さくうごめく人影が見える。この場所からは蟻ほどにしか見えないが、しかしそれらは明確な意思を持って動いていた。  すなわち、勝利という目的のために。  「七重と二十重にはとりあえずしっかりと働いてもらおうか。我らの仕事には全滅――殲滅という形でしか成功はないのだからな」  【デスペラードコンダクター】澪漂・七重と、【ボトルズボトム】澪漂・深重は並んで荒野のど真ん中に立っていた。向かう方向に見えるのは大きな岩山――革命軍が拠点としている地である。  今、視界の奥には地を埋め尽くすほどの人々が押し寄せてこようとしていた。多くは歩兵として、そして一部は装甲車に乗り込んで。おそらく武装は相当レベルの高いものだろう。ゾルルコンツェルンが援助をしているという時点で、装備...
  • 第二楽章 戦争、開始(2)
     七重の猛攻を止めたのは、以外にも軍用サーベルによる一撃だった。  撒き散らされた死体の弾幕を乗り越えて振るわれたサーベルの攻撃を、七重はしかし余裕をもって回避し、その攻撃の主を睨みつける。  「……ふぅん、やっと骨のありそうな人が出てきたわね」  七重に攻撃をしてきたのは他でもない、革命軍の指揮をとっているアンディであった。  「何者だお前等……どうやら【マリアスコール】の手の者じゃなさそうだが……」  アンディはこめかみに青筋を浮かべ、七重にサーベルの先端を突きつける。当然のことだが、相当怒っているようだった。  七重は直刀をくるくると回転させながら、嘲笑にも似た笑みを浮かべる。  「澪漂第七交響楽団団長、【デスペラードコンダクター】の澪漂・七重よ。名前を聞けば分かるかと思うけど、お察しの通り、アンタたちが敵対している【マリアスコール】とは何の関係もないわ」  「澪漂か...
  • 澪漂 二重
    sheep Cooking Psychic and Witch Knife and Fork 8ave Battle (1) Battle (2) Vampire After Day 交響曲第一番 【無能】チューニング 薄暗い部屋の中で 第一楽章 音楽家たちの円卓 第二楽章 戦争、開始(1) 第二楽章 戦争、開始(2) 第三楽章 鋏と死骸(1) 第三楽章 鋏と死骸(2) 第四楽章 終演時間 カーテンコール 見えざる囚人 交響曲第二番 【無礼】チューニング 謎の会合、あるいは一重の憂鬱 第一楽章 虐殺者たち、あるいは擦れ違い(1) 第一楽章 虐殺者たち、あるいは擦れ違い(2) 第二楽章 交錯する者、あるいはヒーロー見参!(1) First Contact澪漂二重&澪漂一重 澪漂二重&朝霧沙鳥 三島広光路&望月遡羅 学園都市トランキライザーの異常な日常バレンタインデー編...
  • その2、訓練開始
    2、訓練開始 『はーい、まもなく開始時間だよ★ ここからはファンキーレディオ放送局の一二三愛が中継しちゃうよ★ コメンテーターは、本日の訓練で使用される色々な機器を用意してくれた、オフィス・フォートランから【LOGO777 (喪失言語)】ユリア・パパラートちゃん、ブラックシープ商会からは建築とデザインの専門家【マジックボックス(驚異的空間)】ミヒャエル・バッハさんが搭乗だ★』  いや、そこは「登場」だろう。聞いていた全員が思ったが、愛の変換ミスはいつものことなので誰もあえて口をはさむことはしない。 『それにしても、何かの陰謀としか思えないくらいにいい別れ方になったね★ これじゃあ、絶対に協力プレイなんてできないと思うよ』 『そうですね……こんなことは言いたくないですが、心配です。今回の訓練には、我がオフィス・フォートランが新しく開発した警備システムを投入しているのですが……あれは単独で...
  • 4、外野席
    4、外野席  盛り上がる料理コンテスト。  それに反比例するように、出店の客は徐々に落ち着きつつあった。朝から立ちっぱなしだった各店の従業員たちも次々と休憩に入り始める。 「お疲れさん」  ブルーローズ社長、雪城白花が顔をあげると、ミルクがたっぷり入ったアイス珈琲が差し出された。グラスを持っているのは、副社長の毎熊匠だ。 「ありがとうございます。匠さん」 「……いっつも言ってるけど、さんはいらない」 「あ、ごめん。ついつい癖で。本当に今日はお疲れ様。モンブランちゃんも」  ゆっくりと近寄ってきたヒグマに向かって、白花は手を振った。  匠のエイリアス【デンジャラステディベア(超危険なクマさん)】の由来でもある、彼の相棒モンブランはヒグマである。正確には、戦闘用に作られた生物兵器の失敗作である。しかし、白花は気にしない。匠はもちろん気にしていない。気にしているのは、むしろ客であるが、そ...
  • 4、ハーベスト・ストリート
    4、ハーベスト・ストリート 「ピーガガガガガ」  機械音がする。  奇妙なのはそれが本当の機械音ではなく、人間の口からこぼれていることだ。 「アルシア……まだ?」 「ギギギギギギ」  うつろな瞳にはなにも映っていない。棒立ちになったアルシアの口からは機械音がこぼれ、それに呼応するように右手のパペットが激しく動いている。 「――――受信完了」  合成音声のような声とともに、アルシアの瞳に光が戻る。それを確認して、桜夜楽は椅子にしていたビールケースから腰を上げた。 「どうだった?」 「直接、天使の粉に関係しそうな情報は受信できなかったが、調達屋連中が近くにいるみてえだから、そいつらに聞いてみるのがいいだろうな」  アルシアの口から少年のような声が出てくる。それに合わせて、右手のパペットが動く。まるで彼がしゃべっているようだ。 「調達屋って、ハーベストストリートの...
  • Happy birthday 宿彌様
    【Happy birthday 宿彌様】 「今年もこの日がきたなぁ」 と、しみじみと呟く序列9位【ドラグーンランス(竜騎槍)】の狗刀 宿彌。 お仕事をほっぽりだして、イーストヤードをウロウロしていた彼の後ろから聞きなれない声が掛けられた。 「はじめまして」 「…………おや。」 特に驚きもせずに後ろを振り向けば、やはり知らない顔があった。 「どちら様かな?」 「あ、すみません…。巫牙裂紅と申します。」 巫牙裂紅…やはり知らない名前だ。はて、いつこの子とかかわりを持っただろうか? 「えと・・・今日が狗刀さんのお誕生日だとお聞きしたので、」 なるほど、この子は僕の誕生日を何故か知って、それで誕生日を祝おうとしているのかな? なんで知っているのかは聞かないほうがよさそうだなぁ。 「お祝いをしようと…!」 「ありがとう」 よくよく見てみれば髪に葉っぱがついていたり腕に擦り傷切り傷がついていたりして...
  • そのチカラ
    うーん、皆出払ってるとは…現場は久しぶりだねー、デスクワークばかりだったけど、腕は鈍ってないかな?  そう思いながら宿彌は石壁を掴む指に少し力を込める。石壁は土くれを砕くように簡単に、ぽしゅと気の抜けた音をたてて崩れ落ちた。  「どうやら力は落ちてないみたいだね、勘はどうだろうか。 どうだと思う? 君たち」  そう、宿彌は対峙する男たちに告げる。 男たちと言っても、実際に無事に対峙しているのは後一人。 残りは壁や地面に体を埋め込まれ、異様なアートができあがっていた。  「どうかな、これ結構シュールな映像だと思うんだけど、笑えない?」  男の顔が強張る。宿彌はにこにこと人の良さそうな笑みを浮かべる。  「笑わないなー、また間違ったかな? まぁさ、君たちにも色んな事情があったと思うんだけど。 僕も依頼主は護らなくちゃいけないし」  男が狂ったよ...
  • 第四楽章 終演時間
      第四楽章  終演時間  おろおろと周囲をうろつく一重に対して、数重は酷く冷静な様子で電話をかけていた。しかし彼女が寄りかかっている発射装置は着々と発射へ向けたエネルギーの充填をしており、そんな状況下、冷静に衛星電話のボタンを押している数重は逆に不自然だった。むしろおろおろとしているだけの一重の方がまだまともな反応である。  「ちょっと一重、あんまりうろうろしないでよ。気が散るでしょ?」  「数重ちゃんこそ、なんでそんなに冷静なの? 早くどうにかしないと、二重が……」  言外に二重が助かればそれでいいというようなことを口走る一重。数重はそれを咎めない。澪漂として、それは当然の反応だからだ。しかし。  「あなたが二重を守りたいように、私も万重をみすみす死なせるつもりはないわよ。老い先短いといっても、私にとっては大事な友達だからね。大丈夫、万重に任せなさい――」  数回コー...
  • その1、訓練当日
    1、訓練当日  『避難訓練』実施日。  問題の建物の周囲には、異様な数の生徒が集まっていた。ただし、九割は見物人である。 「……物見高い方々ですこと」  朧寺緋葬架はため息をついた。思ったより多くのランカーが集まっている。同じ四十物谷調査事務所からは、揺蘭李が参加だ。普段寝てばかりいる彼女がどうやって脱出する気なのか、緋葬架には想像もつかない。  野次馬の間をライカナール新聞社の記者や、野次馬に弁当を売り付けに来たブラックシープ商会のスタッフが歩き回っている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。  トランキライザーにおいては、予科より本科のほうが暇――もちろん進学できた場合だが――特にほとんどポイントをためてしまっているランカーと呼ばれる成績上位者は、多少さぼっても卒業できるため余裕があるのだ。そうでない下位ランカーであっても一日二日さぼっただけで生活がやばくなるような生徒は、全体で見れば多くな...
  • その後
    【噂のあの人-その後-】 今日あった事を桜花に話すと 「………はぁ?」 と呆れたような声を出された。 「うー……」 シュンと頭を下げる牙裂紅に桜花は更に言葉を続ける 「この弟子が行き成り何を言い出すのかと思えば……」 「すみません…。」 「あのねぇ……それは…」 「それは…?」 「なんでもないよ。  それにしても、良く怖がりもしないで話し掛けたものだね」 「? フランベルクの人たちはいい人ですよ?」 「いや、それよりも…よくあの人たちが弟子の話を聞いてやったという事の方が驚きだよ。」 「……。」 「よほど暇だったんだろうね」 「とにかく、サクの『それ』は大した事じゃないから。そんなの気にしてないでさっさとそこの掃除しなさい。」 「はいっ!師匠…あの、変な事聞いてしまってすみませんでした…。ありがとうございました!」 ◆◇◆◇◆ みんなキャラクターが解らないです……。
  • 授業風景 一時限目動物学
    授業風景 一限目動物学 「よくぞ、いらっしゃいました」  まるで道に迷って困り果てた時に思いがけず人に出会ったような、そんな切羽詰まった表情で出迎えられて、【ラブレス(愛を注ぐもの)】空多川契は嫌な予感に襲われた。だが、友人宅に来てこのまま回れ右をして帰るというのもおかしな話だ。 「……突然の訪問失礼するのですよ。篭森ちゃんは御在宅で?」  だから、出迎えた【マジックボックス(驚異的空間)】ミヒャエル・バッハに対してつとめて落ち着いた様子で受け答えをした。答えは聞かなくても分かっている。彼がこんな表情をしているということは、家主たる【イノセントカルバニア(純白髑髏)】篭森珠月の機嫌が悪いか、嫌な客が来ているかのどちらかだ。 「はい……ただお客様がいらしています」  今回は後者らしい。ふんと契は鼻を鳴らした。  契は友人を大事にする主義だ。それが女の子で、かつ可愛ければよりよい。そんな友...
  • 講談「とら侍」その壱
    【※ ●は張り扇で釈台を叩く音を、_は少しの間、―は_よりも多めの間を表してます。なお( )内に行動などが記してある場合はト書きです】  (早良、スススッと高座に上がり、正座)  ●_●_本日はまことにありがとうございます。お相手は崇道院早良が務めさせていただきます。(一礼)  旧世紀の頃にはどうであったのか、とんと存じ上げないのでございますが善だの悪だのさほど騒がれなくなりました昨今におきましてはぁ●“勧善懲悪”なる事象はその絶滅を危惧されている次第、というのは皆様ご存知の通りでぇございます●●  胸中より爽やかなる薫風が吹きますような、スッ―とするお話はそうそう現実にはないわけでぇございますな_●しかしながらいつ如何なる時代におきましても“時代劇”というのは趣が異なる●●“勧善懲悪”それこそルール、善は栄えて悪は滅びる、愉快・痛快・爽快な、胸のすくような物語なのだとわたくしなんぞは捉...
  • First contact/狗刀宿彌&牡丹
    First Contact 狗刀宿彌&牡丹 B.Z.×× February 『×Kreuzung×』  薄暗く、澱んだ空気が満ちた空間に沢山の円筒状の物体がある。 それは淡い緑の液体に満ちており、よく見ると巨大な試験管であることがわかる。  中には奇妙な形状を為した生き物がいた。  巨大な犬のような生き物だ。 だがその形は酷く歪み、蜥蜴を思わせる鱗が全身に生えていたり、足が四本を超えていたり、犬と蜥蜴の双頭であったりと明らかな異形であった。  そしてそれらは時と共に血を滲ませ崩れていく。  数人の人間たちの失意の溜息が空間に満ちる。  「また失敗作か…ックソ! このクソ犬どもが…いったい幾らのコストをかけてると思ってやがる…!?」  白衣の蒼白の顔をした男が声を荒げていた。  「上は…何もわかってない癖に、成果を出せ出せだせだせだだせだせだせ…そんなことはわかっている! 貴様らが...
  • チューニング 薄暗い部屋の中で
       チューニング 薄暗い部屋の中で  時刻はすでに夜十時を回っていた。学園都市西区画の中央に聳え立つ歪な建造物の集合体――九龍城砦。その幾つもある屋上の中でも一際高みに位置する一つに、二人分の影があった。  一つは東洋人にしては比較的高い身長のシルエット。身長の割に手足は細長く、見るものには針金、あるいは夕方の細く伸びた影法師をイメージさせる。律儀にも返り血を浴びたかのようなくすんだワインレッドの燕尾服に身を包み、肩には同色のマントを掛けている。肩ほどまでの黒髪をぞんざいに一つに束ねているが、頭頂部では特徴的な二本の毛――いわゆるアホ毛とか、アンテナとか呼ばれるものが、風にゆらゆらと揺れていた。  「しかし解せんな。第六管弦楽団に召集が掛かるならばまだしも、団長たる私と副団長たる君しか呼ばれない、というのはどういうことだ? ……まぁウチのメンバーは正式な団員でもないからそれはそれで当然...
  • Folle
    【Folle】 「直せ」  唐突に現れた客は、開口一番の台詞だけで理解しろとでも言うように口を引き結んで、家主が許すより先に部屋の隅にある木箱に腰掛けた。 「……血の臭いをつけたままここに来ないでって何回もお願いしたと思うんだけど」 「あぁ、悪かったよ。さっさと直せ」 「はいはい。どうせまた返り血ついたまんま来るんでしょ? 分かりましたっての」  一度壊したものは二度と直らない――なんて嘯いてるのはどこの誰でしたっけね。  などと心中のみで呟いたのは、これ以上この客人を怒らせたら危ないから。 「まぁ、それも面白そうだけど」 「何がだ?」  つい口に出してしまったらしい。  何でもないと首を振るが、訝しげに睨み付けてくる客人の機嫌は徐々に傾斜がついてきている。 「ただ、この子は今日どんなお仕事をしたのかなって」 「おぉ、知りたいか!」  客人は我が意を得たりとばかりに身を乗り出した。 「ぶ...
  • Happy birthday 2月の皆様
    【はっぴーばーすでぃ2月組さま】 2月半ば。まだまだ寒く、温かい布団にくるまっていたい時期なのだけど。 「はっ、お店っ!!」 牙裂紅はガバッと布団からでた。勢いで掛け布団がすみに飛んでいく。 一瞬それを見送ってから慌てて布団を取りに行き、几帳面に畳んで部屋の角におしやる。また布団のなかにもぞもぞと潜っていきたいのを我慢して、身支度を整え外に出て鍵をしめる。 「よし、今日も余裕を持って、全力疾走しよう。」 カイザーストリートは恐ろしい所なのだと、葉桜に弟子入り志願したときに聞いたことが未だに頭に残っていた。そのせいなのか、いつも店まで走って行くので予定よりも大分早く着いてしまい、師匠である 序列280位【ミューテーション(自家不和合成)】の桐ヶ谷桜花が毎度起こされていた。 今日も無地に早く着いた。いつもより一時間早いのはけして牙裂紅が時計を見間違えたからではなく、意図してのことだ。 ...
  • 小ネタ
    小ネタ『空多川ケイの告白』 毎熊との関係を否定するために〈ブルーローズ〉に乗り込んでみた 雪城「いらっしゃいませー。あっ、もしかして空多川さんですか? お話は伺ってます、ようこそー」 空多川「…………」 雪城「今日は、いいリンゴが入ったから、タルトタタンがお勧めですよ」 空多川「寧ろお嬢さんを嫁にほしいんですが」 毎熊「え!?」 空多川「毎朝おねえちゃんのためにメープルたっぷりのホットケーキを焼いてくれませんか?」 雪城「え? え? これって私プロポーズされてます? わー、なんか嬉しいです。こちらこそよろしくお願いしますー」 毎熊「!!!」 雪城「えへへ、女の人に告白されちゃいました。私初めてですよ」 毎熊「(俺のプロポーズには気付かなかったのに!! 俺のプロポーズには気付かなかったのに!!!!)」 小ネタ『冷泉カンナの予想』 水葉庵にて 法華堂「冷泉、居るか? また修復を頼みたいんだが...
  • 学園都市前奏ダーククロニクル迷走編/序章 『上海暗躍』
     西暦二〇五六年七月、民族間、宗教間で端を発した戦争の火種は、一気に国家間の本格的武力衝突へと発展した。世に云う〝第三次世界大戦〟の勃発である。  その背景には、当時において、すでに世界の先頭に立ち、独裁的ともとれる思想と理念により、世界の政治経済の方針を指揮していたアメリカ合衆国に反旗を翻した形でもあった。  同年十二月、ロシア連邦共和国は、核兵器妨害装置(NuclearJammerSystem)の開発に成功し、これによって世界が核の脅威にさらされる事態を未然に回避する。  その行為は、地球という星にとって有益なものであり、賞賛に値する功績でもあったが、同時に人々が営む世界に在っては、止まることのない戦争という存在の愚かさをまざまざと見せ付ける結果となった。これより、〝第三次世界大戦〟は、次なるステージ、〝第一次非核大戦〟へと移行した。  アルティメットウェポンとまで称された核兵...
  • 絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重
       Ⅱ.絡み合う音楽家たち ――第九管弦楽団・澪漂鍵重  【澪漂交響楽団】の本拠地は、ユーラシア大陸の極東部、上海シティにある。  本部の建物は、豪州のオペラハウスのような荘厳な外観を持つ建造物であり、しかしどこか暗い雰囲気を纏っていることから、「ファントムハウス(オペラ座の怪人館)」と呼ばれている。  そしてそのファントムハウスの周囲には、【澪漂交響楽団】に列席する団員たちの住居も点在しており、独特の雰囲気を持った区域となっていた。  「背徳の蜂蜜亭」は、そんな中の一つ――澪漂屈指の【異端者】の異名を取る、第九管弦楽団が詰める建物である。                     ♪  「相変わらず甘ったるい匂いのするところだな」  オレンジの長髪を風に靡かせ、黒のレザージャケットに身を包んだ男が、その「背徳の蜂蜜亭」の前に立っていた。まだ幾分の冷たさを孕...
  • ファンキーレディオ放送局1
    奇抜な形の車、ファンキーレディオ号が高速で走り込んできて、建物とぶつかる寸前で超ドリフト。 途中で何人か跳ねた気がするが、気にしない。 『あーテステステイストー! マイク良し、スピーカー良し、被害者良し!』 『いやよくねぇよ!』 轢き逃げ、いや、轢き逃げずの現場を見た誰もがツッコむ。 しかしそこは学園トランキライザー生徒、まだ息はあるようだ。 『病院呼んだから大丈夫! ―――いや大丈夫じゃないよコレ! 逃げて! 病院逃げて!』 『何言ってんだアンタ!?』 脈絡と意味のない言葉に恐れおののく生徒たち。 『にゃーみゃーにゃー』 『本当に何言ってんだ!?』 何か電波を受信しているのではないかと恐れおののく生徒たち。 「おいおい、気にしちゃ駄目だぜ少年ども」 「もしかして予科1年か? だったら知らなくても仕方がねぇな」 「最近大人しかったですからね。ですがまぁ、生で見かけるとやはり嬉しいものです」...
  • First contact/不死原夏羽&不死川陽狩
    First contact 不死原夏羽&不死川陽狩  序列269位【クルワルティワーシプ(残酷礼賛)】不死原夏羽(しなずはら かばね)  序列270位【ヴァイスワーシプ(悪徳礼賛)】不死川陽狩(しなずかわ ひかり)  血のつながりがあるわけでも、同郷というわけでもないこの二人は、いつもセットで行動している。しかし、仲が良いわけではない。隙さえあれば常に互いに殺し合う。それでも一緒にいるのは、ただ決着がつかないためとあきらめが悪いからだ。 「この前はイーストヤードの裏路地にいたよ」 「アンダーヤードを渡り歩いている」 「ノースヤードのスラム街にいた。現地の住人に絡んでいた」 「先月のユーラシアでの戦争で、傭兵中心の遊軍の中に混ざっていたよ」 「ロシアンマフィアのボスが死んだ事件のころ、あっちで見たよ。多分、犯人はあいつらだね。いつだって血の匂いがするところにばかり出る」  堂々と凶器...
  • Genio o Cretino
    【Genio o Cretino】 「1+1=2、1+2=3……999,999+999,999=1,999,998。覚えた?」  丈之助は小さく頷き、初めから一言一句間違える事無く復唱する。 「よし。足し算はオッケーっと。次は引き算だね」  沙鳥は再び延々と数式を口にする。  原理などを説明しても記憶する事が出来ないのなら、徹底的に一から数式を叩き込めば良い。  24時間であればどんな物でも完璧に記憶しておく事が出来るのだから。  そう考えた沙鳥による指導は、試験の24時間前……否、念のためにと22時間前から延々と続いた。  加算から除算までが終わると、ようやく試験に出るであろう数式を文字通り「1」から。 「うにー。ねむー。ねむむー。」  全てを記憶し終わる頃には、すでに日が昇っていた。  試験に行くのにちょうど良い時間だ。 「じゃあ、行って来る」 「うし。行って来い」  眠さを微塵も感...
  • カーテンコール 見えざる囚人
    カーテンコール  見えざる囚人  「澪漂は依頼をこなしてくれたようだな。これで我々が新たな土台を築くことができる」  アフリカ大陸北部のとある町。比較的進んだ町並みの中でも一際目を引く高層ビルの一室に、【サハラエレクトロニクス】の幹部が集まっていた。  「とりあえず今日はこれからの方針を話し合います。彼らの仕事は終わりましたが、我々の仕事はむしろここから……気を抜かずにいきましょう」  【マリアスコール】が陥落したことにより生まれた穴を埋めるため、【サハラエレクトロニクス】の役員たちはそれぞれのプランを発表していく。  そんな役員の間を、一人の女性が歩いていた。まるでそれが当然とでもいうように、堂々と。そして彼らはそんな場違いな女性の存在にまるで気づくことなく各々の考えを口にしていく。  やがて女性の足は一人の初老の男性の背後で止まった。役員の言葉を聴きながらあくびをかみ...
  • 第三楽章 鋏と死骸(1)
      第三楽章  鋏と死骸  「何だよこれは…………?」  ドームシティにとんぼ返りした光路と、一緒にやってきた二十重と十重の三名は、町に一歩踏み込んで息を呑んだ。  本来ならば結構な人数が生活しているドームシティ――その多くは【マリアスコール】の社員や家族であるのだが、この空間には全く生き物の気配がなかった。  生き物の気配――生活音だとか話し声だとか、そういった露骨なものどころか、呼吸音や心音といった微弱な気配まで一切が途絶えている。いくら戦争中だからといって、ここまでの無気配は異常としか言いようがない。  二十重は【キャッチインザライ】を振るって手近な建物の外壁を破壊した。そこから覗き込むと、中にはごろごろと、さっきまでは生きていたのであろう人々がすでに物体となって転がっている。二十重と十重はそんな中にずかずかと入り込んで、一つ一つ死体を検分し始めた。光路も仕方なく後に...
  • First Contact/澪漂二重&澪漂一重
     それは、七年ほど昔の記憶。  床に倒れた自分を見下ろすように立ちはだかる、男の姿。逆光でその表情は読み取ることができない。しかし、見えなくともその顔が苦々しく歪み、怒りの表情をかたどっていることぐらい容易に想像できる。  男の口が何事かをまくし立てるように動いた。  虚ろな頭の中を、その怒鳴り声がハウリングするように突き抜ける。  ――貴様はどうしていつもそうなのだ二重(アルオン)! 何故父である私の意思に背き、あまつさえ牙を剥こうとする! まったく、貴様という奴は本当に【無能】だな! 兄の命を奪って生まれてきた図々しい奴め、貴様など、我が候(ホウ)の家系の恥さらし以外の何者でもない…………                    ♪  「……重、二重、ふーたーえ!」  自分の名を呼ぶ声で、机に伏せるように眠っていた澪漂・二重ははっと身を起こした。  「も...
  • 1、ひとりぼっちの兎は死ぬか
    1、一人ぼっちの兎は死ぬか  世界の始まりは神話である。  それは民族地域を問わずに同じだ。どういう神話かは諸説どころではないくらい分かれるが、それでも世界の始まりが神話であることに異論がある人は少ないだろう。歴史書というものを信用するならば、人類史は神話から始まる。  けれど、その神話に事実が隠されていると知る人は少ない。当たり前だ。地球の歴史は科学的に証明されつつあるし、それが当たり前と思っている。けれど――けれど、考えても見てほしい。その証拠が本物だという証明は誰がするのだろう。  例えば、その歴史と歴史があったという証拠を含めて世界が創造されたとしたらどうだろう。それが可能ならば、世界はほんの五分前に生まれたのかもしれず、あるいは一兆年くらい前から人類はいたかもしれないのだ。  だから、オズはとりあえず自分の記憶を信じることにしている。どうせ当てにできるものなどないのだ。だから...
  • Baa,Baa,Black sheep Ⅳ
     夕闇の中、いくつもの影がごちゃごちゃとした路地を滑るように走っていた。壁一枚隔てて存在する住人に気遣えないように、静かにだがすばやく、影は走る。  時折、積みあがったゴミの山や無秩序に取り付けられた看板が行く手を阻むが、影はすぐに別のルートを探してまた走る。 「くそっ、何人くらい脱出できた!?」 「分かりません。煙があっという間に広がって……そもそもいったいどうやって爆弾を仕掛けたのか」  彼らの正体は、からくも爆破を逃れたあるは社外にいて無事だったフォックスグレーシアのメンバーだった。普通なら、その場に残って仲間の救出に当たらねばならないはずの彼らは、今は細い路地を人目を偲んで逃げていた。 「ブラックシープ商会に決まっている。まさか、人を攻め込ませずに建物ごと壊しに来るとは……あの黒羊が!」  男は歯噛みした。数時間前まで、自分たちは圧倒的に優位な立場にいたはずだった。しか...
  • First contact/毎熊匠&雪城白花
    First contact ブルーローズ 毎熊匠 雪城白花  ブルーローズのケーキはすごく美味しい。あれを食べたら、スーパーで売ってるケーキなんて食べられない。まさしく、プロの技だよ。  本科二年目。そろそろ自力でリンクを作る計画を立てていた毎熊匠のもとにそういう噂が飛び込んできたのは、暖かな風が吹く初夏のことだった。 「ブルーローズってあれだろ? なんか篭森珠月と朧寺緋葬架が道楽で作った」「違う!」  飛んできた灰皿を隣に立っていた熊のモンブランが空中で叩き落す。モンブランは匠が何より可愛がっているペットだ。ペットというにはやや怖い姿(ヒグマ)をしているが、それでも彼にとって最愛の熊であることに代わりはない。 「危ないだろう。モンブランに当たったらどうするんだ?」 「いや、その熊は平気だよ。避けるだろうし」  凶器を投げつけておいて、平然とした表情で友人の大豆生田桜夜楽は答えた。彼...
  • 羊の日常 其の二
    羊たちの日常 其の二 アルマの場合  ライザー学園イーストヤードのオフィス街に、ブラックシープ商会本社はある。  世界からすべての国家が消え去った大戦後、かつて日本国と呼ばれた国の跡地に作られた巨大学園都市、トランキライザー。精神安定剤を意味する名前のこの都市には、時代を担う存在が作り出したリンク――旧時代のサークルに相当する――と呼ばれる組織が数多く存在する。ブラックシープ商会は、その中でも特に学園内部の経済活動において大きな貢献を果たしている。  総合製造小売業とは20世紀ごろに、小売業者がより良く他にはない商品を安価で作るために、メーカー機能を取り入れたことにはじまる。ただ、ブラックシープ商会はそれとは違い、もともとは商社として商品を仲介していたのが、いつの間にか実店舗を持つようになり、それに伴って自社ブランドの開発に乗り出したことで、総合製造小売業としての地位を確立していった。...
  • 四十物谷調査事務所調査ファイル №1
     髪を伸ばし始めたのは、旧時代、日本という国では長い髪に霊力が宿るといわれていたという話を聞いてからだった。  僕はそういう話が結構好きだ。迷信と笑う人もいるけれど、もしも縁とか霊魂があるならば、それはとても素敵なことだと思う。世界には何億人もひとがいて、しかもその人たちは長くても百年くらいしか生きない。その中で出会えるということは、それこそ目に見えないなにかが働いていたとしてもおかしくない。それに魂と言うものがあるならば、僕らは死んだあとでも誰かに会えるということになる。  素敵な話だ。殺伐としたこの時代だからこそ、僕はそれに惹かれる。  僕は人間が大好きだ。優しい人も残酷なひとも短気な人も寛容な人も大好き。珍しい人間はもっと好きだ。だから幽霊も好き。だって、幽霊は人なのにひとではないから。殺人鬼も好き。人のくせに鬼だから。賢いひとは好き。人なのに人よりずっと賢明だから。愚かなひと...
  • 0、時計の針の終着点はどこか
    0、時計の針の終着点はどこか  チクタクチクタクチクタクチクタク  どこかで時計の針が時を刻んでいる。人間が時間という感覚を失わない限り回り続けるであろうそれは、自分のしっぽを追いかけて回る犬に似ている。どこかでも回るだけで、どこにも行きつけない。  時計は時を刻む。刻み続ける。しかし、精密に作られた時計もやがては年を取り、時を刻めなくなる。そうなった時、時計は死ぬ。人が死ぬように。花が枯れるように。石が風化するように。  チクタクチクタクチクタクチクタク  魂が擦り減っていく音がする。心がこぼれおちていく音がする。 「―――――」  薄暗い部屋の中、少女は小さく息を吐いた。  わずかな呼吸さえなければ、死人と見間違えたかもしれない。それくらい少女には生気がなかった。とはいえ、弱っているわけではない。そういう病人や瀕死人の気配はない。それにもかかわらず、少女はどこか死体に似ていた。...
  • 序章、アフタヌーンティ
    序章 アフタヌーンティ  黄道暦。  第三次世界大戦および、核兵器妨害装置開発により勃発した第一次非核戦争を経てあらゆる国家が崩壊した世界が、国家ではなく企業による統治を選んだことによりはじまった年号。それもすでに半世紀以上。すでに国家というものを経験している世代は、少数派になり始めている。  その中で、かつて日本国と呼ばれる国があった島そのものを買い取って作られた世界最高峰の巨大学園都市・トランキライザー。  あらゆる分野において次代を担う人材の育成を目標に、かつての日本国の上にそのまま建てられたこの都市は、学園敷地面積2187.05km2(東京都に相当)教職員、生徒、企業家、現地住民のすべてを合わせた総人口は約一千三百万人、まさに世界最大の学園都市である。  そのイーストヤードと呼ばれる区画。ここはかつての日本国の面影をもっとも多く残している区画である。  中心部には高層ビルが立ち...
  • 見極める音楽家たち ――第六管弦楽団・ルリヤ=ルルーシェ
       Ⅳ. 見極める音楽家たち ――第六管弦楽団・ルリヤ=ルルーシェ  世界に数あるドームシティの多くは、中核となる企業を中心として大きな都市が展開されているものが多い。その例に漏れず、東欧に位置するこのドームシティも中心部の殆どがオフィス街となっていた。  時刻はまだ夜中とは言いがたい時間帯だが、周囲の殆どが企業の所有するビルという条件もあって人の気配はまったくない。  ただ一つ、隣接するビルの屋上から【ブリランテムーン(眼鏡の輝き)】ルリヤ=ルルーシェが眺めているビルには、ところどころ明かりの点いている窓が見られた。どうやら遅くまで勤務している社員がいるらしい。  「――ふむ、皆さん。持ち場に着きましたか?」  ルリヤは耳に掛けている通信端末に向かってそう呟いた。やや間を置いて、彼女の仲間達からそれぞれ返答がある。それを確認して、ルリヤはずれた眼鏡の位置を直しながら手短...
  • try!! 3
     意識が戻って初めに感じたのは奇妙なほどに適切な温度と湿度。刷り込まれた危機管理の本能は、覚醒と同時に目を開けるよりも先に周囲の気配を探る。複数の気配がする。少しだけ手足を動かすと椅子に座った状態で足を縛りつけられていることが分かった。奇妙なことに腕は手錠か何かをかけられている気配はあるものの、後ろ手にされていることもなければ、縛られてもいない。手だけは決して傷つけないようにとの配慮に、相手の意図が透けてみえる。 「気づいたか……?」  神無は返事をしなかった。タヌキ寝入りを決め込む。だが、髪を掴まれて叩き起こされる。しぶしぶ目を開けると、サングラスや仮面で顔を隠したスーツ姿の男がぞろりと立ちふさがっていた。部屋は妙に暗い。数回瞬きをして目が慣れてくると、その薄暗い部屋一面にあるものがあるのが分かった。 「…………後期印象派」  額縁だ。その中には様々な作家の作品、それも現在行方不明とされ...
  • First contact/朧寺緋葬架&四十物谷宗谷
    First contact 朧寺緋葬架&四十物谷宗谷  生き物が腐っていく臭いがする。序列62位【ホーンテッドアックス(怪奇斧男)】四十物谷宗谷は薄暗い室内に視線を巡らした。周囲は寒い。当たり前だ。今、自分は巨大な業務用冷蔵庫の中にいるのだから。冷蔵庫は食品を安全に保存するための機械だが、完全に腐敗を止めることはできない。だから、腐臭がする。どうせなら冷凍庫を使えばよかったのに、と宗谷は思う。まあ、そう簡単に業務用の冷凍室に出入りできるとは思えないが。この冷蔵庫だって、目の前の相手が野菜の生産関係の仕事についているからこそ出入りできたのだろうし。 「さて、言い逃れはできないと思うんですけど、そろそろ話してくれませんか?」  ぎらぎらとした目の女性は答えない。手に持った鉈のようなものをちらつかせながらこちらをうかがっている。あれで斬られたなら即死だったんじゃないかなと宗谷は被害者のことを思...
  • 美食礼賛 前編
    美食礼賛  学園都市トランキライザー  すべての国家が戦争の末崩壊し、企業や様々な裏組織が世界の表と裏を支配する時代が幕を開けてからはや数十年。かつての暗黒時代に比べれば、世界も安定してきたように見える。  表の世界を治めるのは、ゾアックソサエティ(黄道十二宮協会)と呼ばれる十二の大企業とその他、無数の企業組織。  裏の世界を治めるのは、九つの組織と呼ばれる様々な目的のために集結した九の組織とそれに連なる大小様々な団体。  その十二企業の一つが、かつて日本と呼ばれた土地に作った巨大学園都市。それがトランキライザーである。十二の企業のうちでも一、二位を争うほど次世代の教育に力を注いでいるところのおひざ元ということで、世界中から数多くの若者や子供がこの学園に集まってきている。だが、そんな場所でも闇はある。  まだ開発されていないスラム街。現地の住人が住むさびれた街。学園すら放置するしかなか...
  • 終章、閉幕
    終章 閉幕 「ってわけで、いろいろあったが今回の優勝者はモハメド・アリ!! 勝因はテーマに忠実だった点だな! もっと採点基準が細分化されてたらどうなってたか分からないな。他の出場者も見事な味と工夫でした。はい、拍手!!」  割れるような拍手が上がる。もともと学園主催のイベントではないため、遊び半分に参加していた面子が多いためか、がっかりした様子はあまり見られない。 「おしくも優勝を逃したやつらもがっくりするなよ。参加賞で、無料エステ券と温泉プールフリーパスプレゼントだ! これで日ごろの疲れを癒してくれ。では、これをもって本日のイベントはすべて終了とする!!」  ひときわ大きな拍手が起こり、それが消えると同時に人ごみがちらばり始める。審査員や参加者たちもやれやれといった表情で舞台から降りた。 「よ、春恵さん。お疲れさん」 「沁もね。私の料理うまくいってよかったよ」 「お疲れさま、珠月ちゃ...
  • First contact/戦原緋月&星谷遠
    First contact 戦原緋月&星谷遠  道にうつぶせで人間が横たわっている。手は前に伸ばし、どうみても行き倒れだ。  それ自体はスラム街などでは珍しいことではない。純粋なる疲労や空腹の行き倒れは勿論、行き場のない老人や家を亡くした人間、病人が道の端で横になっていることは珍しくない。たまにそこに薬物中毒者や強盗被害者も混じる。中には行き倒れのふりをして声をかけてきた人間から金をすり取るような悪質なものすらある。  だが、学園内の比較的人通りのある場所にそいつは倒れていた。思わず凝視するが、夢でも幻でもなくそれはそこにいる。 「…………」  戦原緋月。今年で14になる。  現在のところ世界の頂点であり世界の覇者といってもいい十二の企業、黄道十二企業の一角ライザーインダストリーが次世代教育のために作りだした教育機関、巨大学園都市トランキライザーで生活している。数百万の生徒を抱えるこの学...
  • ties 9
     風が吹いている。  複雑な形をした建物が立ちならぶこの都市は、ビル風が強い。  帰ってきた。ニムロッド本社ビル屋上ヘリポートに降り立った織子はそう思った。自分が生まれ育った都市。父が死んで逃げ出すまではずっと暮らしていた街並みだ。見慣れたものだ。だが、今はそれが自分に敵意を持っているのが分かる。 「……警戒しなくとも今更何かをしたりしません」  むすっとした口調で出迎えた社員が言った。あきらかにこちらを歓迎していないのが分かる。雫は相手が怯むほどの迫力でにらみ返し、ジェイルはそもそも相手を眼中に入れていない。ヘリポート全体に視線を彷徨わせている。どうせ、今ここで銃撃戦が起こった場合の脱出ルートの計算でもしているのだろう。  これくらい心が強くなれればなんでもできるんだろうな。織子は思った。 「事故なくて何よりですねぇ、黒雫殿たち」 「ええ。事故が起こらないか心配するあまり、昨夜飛行場に忍...
  • 授業風景 二時限目数学
    授業風景 二時限目数学  一般的な知識レベル――旧時代でいう義務教育やせいぜい高等学校くらいのレベルの教育において、数学や理科や歴史などの授業が速攻で役に立つことは少ない。語学くらいなら場合によっては役に立つが、できなくても死にはしない。  だが、それらが役に立たないのはそれが本当に基礎的な知識にすぎないからだ。重要なのはそれをどう応用し活用するか。例えば数学。プログラムや各種計算を行うためには情報数学の知識が必要だ。計算それ自体はコンピューターがしてくれるとしても、そこに計算させたい数値を入れるのは人間だ。人間が計算結果出てくるものの正体を把握していなければ、話にはならない。もっと身近なところでいうとならば、理科の実験。薬品を使用する量を計るのにも数学の知識は必要だ。設計や経済学にも数学は欠かせない。  そして、黄道暦を迎えた現在世界最高峰の教育機関の一つと称えられる我らがトランキ学園...
  • ドームシティ崩壊 後編
       非常階段を駆け降りていた聖は、同じくこちらに走ってくる同僚の緋葬架に気づいて手を振って合図をした。 「よお、首尾は?」 「誰に聞いてますの? 完璧です。そちらこそどうですの?」 「案外口が堅くて手こずったが、ほら」  聖は片手に持ったアタッシュケースを掲げて見せた。 「薬に手を加えてた証拠と、あとは俺らの抹殺依頼の証拠。これがあればピースメーカーが出てきても正当防衛の言いわけが立つってわけだ」 「法なんてあってないような世界のくせに、けむたいユグドラシルを筆頭に妙なところだけルールが御座いますからね。企業間抗争とはいえ、こちらに非がないことはきちんと証明しなくては」 「煙たいとかいうな。あれでも世界の秩序の一角何だぞ? 下手なこというと消されるぞ」 「ともあれ、御苦労ですわ。そろそろ時間ですもの。撤退です」  聖の役目はすべてが終わった後に、対外的にこの抗争の正当性を証明できるだけ...
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