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&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[星新一っぽいショートショートを作るスレ]]> [[投下作品まとめページ 1>星新一っぽいSSスレ 2 投下作品まとめページ]]>スレ3-4〔3-185~  〕} * 投下作品まとめスレ3-4〔3-185~   〕 #left(){&link_down(ページ最下層へ)} 185 :創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 12:02:45 ID:5GKARDmp 「明日、文理選択用紙の提出だぜ。お前どっちにすんの?」 Tは横のせきのRに聞いてみた。Rが文系を選択していることは知っていたが声をかけた。 「文系にしたけど。」 透き通ったアルトの声。Tはこのアルトがすきだ。 Tは音に詳しくない。だからアルトもソプラノも違いがわからない。しかしRの声だけはアルトだとわかった。 「生物とってるコはほとんど文系よ?考えるだけバカね」 「馬鹿野郎、将来に関係することなんだぞ」 「あー」 無人の体育館に声が響く。 Tは将来何になりたいのか、考えた。 小学生3年からTはバスケをはじめた。その頃はNBAの選手になりたかった。というよりなれるだろうと思っていた。 中学に入ったバスケ部では自分がNBAになれないことを知った。最終年レギュラーにはなれたが、Tは明らかにその中では1番下手だった。それをT自身も気づいていた。 高校でもバスケをしている。 決して強くない部だが、Tは最終年レギュラーになれるかわからないくらいの実力だ。 そういいつつTにはバスケしかないからいまもこうしてシュートをうつ。やっぱり、Tはバスケがすきなのだ。 ガン、とリングにあたり外してしまった。 「お前、文理選択どうすんの?」 後ろからそう言ったのはKだ。Tと同じクラスで部活も一緒。 Kは身長もありバスケの技術もトップクラスで2年にまざってレギュラーを張っている。 また、ひいき目なしにもコイツと1番仲がいいとTは思っている。 「今イロイロ考えてんだよ。Rのやつ、考えるのが馬鹿とか言いやがった」 ぱしゅ、今度のシュートは入った。 「ハハハ。Rちゃんはお前のことお見通しなんだな。ちゃんと考えないと、なんて言ったらお前テキトーに考えるもんな」 Kはふんふんと頷きながら言った。 「そんなんじゃねーよ」 確かにそうだと思ったけど、うんと言うのは悔しかった。 翌日、先生の乗る電車が遅延したため1時間目は自習だった。 「何やってんだ?」 Tはノートを凝視するRに問うた。 自習の時間Rが勉強しているところをはじめて見たからだ。 「いや、なんでもないの」 Rは表紙が虹色のノートをサッと机の中に隠した。 吸い込まれそうな虹色だった。 「で、T。あんた文理どっちにしたの?」 Rは平然を装いTに質問した。 「あぁ、文系だよ」 Rはホッとした表情を浮かべた。 「来年も同じクラスなれるかもね」 予想外のRの言葉にTはあぁとしか返せなかった。 放課後のバスケはいつもより楽しかった。進路のことが少し決まりラクになったのかも知れない。 部活がおわり水道で顔を洗っているとKがTに声をかけた。 「なぁT、おれRちゃんがすきだ」 「おれもすきだ」 Tは反射的にそう返した。 「悲しいけどさ、Rちゃんも多分、Tのことがすきだ」 Tは1番信頼しているKの言葉で決心した。 Rが所属する水泳部が使う室内プールにはまだ明かりがついていたのでTは教室に来いとメールをして着替えた。 「や、待たせたね」 Rが髪をタオルでガシガシ拭きながら教室に入ってきた。 「R、おれ、Rのことがすきなんだ。つきあってくれ」 Rはエッという表情をしてしばらく黙り込んだ。 そしてうん、と呟いて机の中からあの虹色ノートをとりだした。 「T、これをみて。」 ノートにはTがたどってきた人生がびっしり書いてある。 しかし、今日の日付で文系を選ぶと書いてある下には何も書いていない。 「わたし、未来から来たの。あなたの未来をかえるため」 Tは本気で夢だと思って自らの頬をつねったが嫌な痛みが残るだけだった。 「T、あなたは死ぬのよ、22歳で。原因は言えないけど。だけどあなたは死んではいけない人だった」 Tは、死ぬと言われてもさっぱりRの話が理解できないが自分なりに考えてRに聞いた。 「つまりはおれに死なせないためRが来たのか」 「そうよ。だけどね、この先が消えているの」 Rは心配そうな表情で言った。 「おれさぁ、告白したんだけど」 Tは続ける。 「おれが告白したから、未来がかわったんじゃないか?それで未来がかわったからもう帰るとか言わないでくれよ」 Rは切れ長の目で正面からTを見て言った。 「わたしは未来が変わろうと変わらまいとこれからもこの世界で生きるわ。死ぬまで。わたしもTがすき。」 TはRの顔を見ず、正確には見れずありがとうと言った。 廊下の壁によりかかり虹色ノートをもった背の高い男はフフッと笑った。 「わりぃなT。Tのことは大好きだ。だけどお前に死んでもらわなきゃおれは生まれないんだ。」 189 :創る名無しに見る名無し:2010/11/18(木) 21:44:34 ID:VUHQA69y つまらないかもしませんが 「忘れたいこと」 長年の研究の結果、エフ博士はようやく忘れたいことを忘れさせてくれる薬を完成させた。 「俺が若いときさんざんいじめてきた、エヌ教授、おれを侮辱した同僚のエス、俺を振ったオー、俺を不快にさせた奴の記憶をすべて忘れるのだ。」 エフ博士はそういって、その薬を飲みました。 「ほう、これはなんともすがすがしい気分だ。やっと不快な記憶から解放された。こんな薬を一人占めするのはよくない。 どれ、あいつらにも分けてやろう。」 エフ博士は友人に電話をかけました。 「やぁ、きみか。かくかくしかじかの薬を開発したんだが、ためしてみるかね?」 「なに、そんな薬を…。ぜひ、頂こうか。」 こんな具合に博士は次々と友人たちに薬を分けてゆきました。    1週間後 「ふむ、退屈だ、なにか面白いことは…。そうだ、久々にあいつらと飲みに出も行くか。」 エフ博士は電話をかけはじました。 「やぁ、エフだが。どうだい、久しぶりに飲みにでも行かないか?」 「どちらさまでしょうか?いま忙しいのですが…。」 「おい、きみ、冗談はよしたまえ。エフだよ、エフ。」 「エフ?申し訳ありませんが、エフという名は記憶にありません…。人違いではありませんか?」 「もういい、なんとふざけたやつだ。大学時代からの友人に対して失礼にもほどがある。」 怒り心頭のエフ博士は別の友人に電話をかけました。 「やぁ、きみかね。エフだが、どうだい、今晩一緒に飲もうじゃないか。」 「エフ?いったい誰?」 「きみまでそんなことを…。」 エフ博士ははっと気付きました。 「まさか、あの薬で…。」 その後もエフ博士は友人に電話をかけてゆきましたが、誰一人としてエフ博士のことをおぼていないのでした。 「まさか、友人とばかり思っていたあいつらのわすれたいことが俺自身だったなんて…。こうなったら…。」 「エヌ教授、聞きましたか、エフ博士のこと…。」 「ああ、記憶喪失だそうだな。エス君、きみとエフ君とは大学時代から互いに切磋琢磨して研究に取り組んできたから、辛かろう。」 「エヌ教授こそ大学時代にあれほど熱心にエフ博士を指導してきたのですから。」 「オーさんもひどくショックを受けてるそうだね。」 「しかし、エヌ教授、エフ博士と仲良くしていた連中がだれもエフ博士のことをおぼえていないというのですが。」 「妙な話だが、その程度の間柄だったというこどだろう。」 191 :創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 17:33:33 ID:icEZuwXQ 「夏の少女」 その少年は治療薬のまだ見つかっていない重い病気にかかっていた。 そして調度夏休みになろうとしていた頃、病状が悪化してしまい、郊外の静かな場所にあ る病院に入院をしていた。 1日のほとんどを、友達とも遊べず病院のベッドで過ごす辛い日々であったが、気分転換 のために午後はよく散歩に出かけることにしていた。 夏の美しい花や木々を見ることで華やかな気分になり、日々の憂鬱な気分も解消されるの で少年はこの散歩が大好きであった。 ある午後いつもの散歩に出かけていると、山道で足を踏み外してしまい急な斜面から転落 してしまった。 どれくらい意識を失っていたのだろうか。気が付くと辺りは既に濃い夕闇 が迫っていた。 何十メートルという斜面を滑り落ちたのにも関わらず、幸運なことに怪我はかすり傷程度 であったらしかった。 ふと少年が気付くと、側にとても綺麗な女の子が居た。 年は同い年か少し年上くらいだろうか。 「大丈夫なの? あなたを見つけたからここで気付くのを待っていたのよ」 「うん、大丈夫。でも早く病院に帰らないといけないよ」 少女は優しい笑顔で、「心配しないで、私に付いてきて」と言って病院までの道を導いてく れた。 別れ際に少年は「また会える?」と聞いてみた。 彼女は「うん、私もよくここに散歩に来ているのよ」と笑って答えた。 少年はそれ以来、少女と遊ぶようになった。 少女と出会って以来、以前とは見違えるほど彼は元気になっていった。 それまで友達と遊ぶことも出来ず、厳しい闘病生活を送ってきた少年にとっては生まれて初め て感じる幸せだった。 医者は信じられないといった様子であったが、症状が改善したのでもう退院してもいいと言った。 しかし彼は少女と離れ離れになるのを寂しく感じ、まだ病院から退院したくない気持ちであった。 ある夜、少年がベッドの上で寝付けないでいると、窓の外に人影を感じた。 乗り出してよく見てみると、遠くから少女がこちらを見ているようであった。 少年は急いでベッド から飛び降り病院の外に出てみたが、辺りに少女の姿は見つけられなかった。 少年は気になって彼女の名前を読んでみた。 すると遠くで何か手招きをしているような彼女の姿を見つけた。 彼は少女の後を追いかけ、どんどん森の奥に入っていった。しばらく歩くと、また彼女の姿が見え なくなった。どこに居るのだろうと彼は辺りを見渡してみた。 すると以前この場所に来たことのあるような記憶が蘇ってきた。 そうだ、あれは彼女と初めて会った日、自分が足を踏み外し転落してしまった場所であったと少年 は気が付いた。 目を凝らしてみると、誰か2人の人影が近くに居るようであった。 よく見てみると、一人は彼女であった。 そして側に横たわって動かないもう一人、それはあの転落した時の自分自身の姿であった。 その時急に体が軽くなるような感覚を感じた。 少女が少年を導くようにゆっくりと手を差し出してきた。 彼は幸福と優しい愛に包まれるのを感じながら彼女の導く光の中へと入っていた。 ---- #right(){&link_up(ページ最上部へ)} ----
&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[星新一っぽいショートショートを作るスレ]]> [[投下作品まとめページ 1>星新一っぽいSSスレ 2 投下作品まとめページ]]>スレ3-4〔3-185~  〕} * 投下作品まとめスレ3-4〔3-185~   〕 #left(){&link_down(ページ最下層へ)} 185 :創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 12:02:45 ID:5GKARDmp 「明日、文理選択用紙の提出だぜ。お前どっちにすんの?」 Tは横のせきのRに聞いてみた。Rが文系を選択していることは知っていたが声をかけた。 「文系にしたけど。」 透き通ったアルトの声。Tはこのアルトがすきだ。 Tは音に詳しくない。だからアルトもソプラノも違いがわからない。しかしRの声だけはアルトだとわかった。 「生物とってるコはほとんど文系よ?考えるだけバカね」 「馬鹿野郎、将来に関係することなんだぞ」 「あー」 無人の体育館に声が響く。 Tは将来何になりたいのか、考えた。 小学生3年からTはバスケをはじめた。その頃はNBAの選手になりたかった。というよりなれるだろうと思っていた。 中学に入ったバスケ部では自分がNBAになれないことを知った。 最終年レギュラーにはなれたが、Tは明らかにその中では1番下手だった。それをT自身も気づいていた。 高校でもバスケをしている。 決して強くない部だが、Tは最終年レギュラーになれるかわからないくらいの実力だ。 そういいつつTにはバスケしかないからいまもこうしてシュートをうつ。やっぱり、Tはバスケがすきなのだ。 ガン、とリングにあたり外してしまった。 「お前、文理選択どうすんの?」 後ろからそう言ったのはKだ。Tと同じクラスで部活も一緒。 Kは身長もありバスケの技術もトップクラスで2年にまざってレギュラーを張っている。 また、ひいき目なしにもコイツと1番仲がいいとTは思っている。 「今イロイロ考えてんだよ。Rのやつ、考えるのが馬鹿とか言いやがった」 ぱしゅ、今度のシュートは入った。 「ハハハ。Rちゃんはお前のことお見通しなんだな。ちゃんと考えないと、なんて言ったらお前テキトーに考えるもんな」 Kはふんふんと頷きながら言った。 「そんなんじゃねーよ」 確かにそうだと思ったけど、うんと言うのは悔しかった。 翌日、先生の乗る電車が遅延したため1時間目は自習だった。 「何やってんだ?」 Tはノートを凝視するRに問うた。 自習の時間Rが勉強しているところをはじめて見たからだ。 「いや、なんでもないの」 Rは表紙が虹色のノートをサッと机の中に隠した。 吸い込まれそうな虹色だった。 「で、T。あんた文理どっちにしたの?」 Rは平然を装いTに質問した。 「あぁ、文系だよ」 Rはホッとした表情を浮かべた。 「来年も同じクラスなれるかもね」 予想外のRの言葉にTはあぁとしか返せなかった。 放課後のバスケはいつもより楽しかった。進路のことが少し決まりラクになったのかも知れない。 部活がおわり水道で顔を洗っているとKがTに声をかけた。 「なぁT、おれRちゃんがすきだ」 「おれもすきだ」 Tは反射的にそう返した。 「悲しいけどさ、Rちゃんも多分、Tのことがすきだ」 Tは1番信頼しているKの言葉で決心した。 Rが所属する水泳部が使う室内プールにはまだ明かりがついていたのでTは教室に来いとメールをして着替えた。 「や、待たせたね」 Rが髪をタオルでガシガシ拭きながら教室に入ってきた。 「R、おれ、Rのことがすきなんだ。つきあってくれ」 Rはエッという表情をしてしばらく黙り込んだ。 そしてうん、と呟いて机の中からあの虹色ノートをとりだした。 「T、これをみて。」 ノートにはTがたどってきた人生がびっしり書いてある。 しかし、今日の日付で文系を選ぶと書いてある下には何も書いていない。 「わたし、未来から来たの。あなたの未来をかえるため」 Tは本気で夢だと思って自らの頬をつねったが嫌な痛みが残るだけだった。 「T、あなたは死ぬのよ、22歳で。原因は言えないけど。だけどあなたは死んではいけない人だった」 Tは、死ぬと言われてもさっぱりRの話が理解できないが自分なりに考えてRに聞いた。 「つまりはおれに死なせないためRが来たのか」 「そうよ。だけどね、この先が消えているの」 Rは心配そうな表情で言った。 「おれさぁ、告白したんだけど」 Tは続ける。 「おれが告白したから、未来がかわったんじゃないか?それで未来がかわったからもう帰るとか言わないでくれよ」 Rは切れ長の目で正面からTを見て言った。 「わたしは未来が変わろうと変わらまいとこれからもこの世界で生きるわ。死ぬまで。わたしもTがすき。」 TはRの顔を見ず、正確には見れずありがとうと言った。 廊下の壁によりかかり虹色ノートをもった背の高い男はフフッと笑った。 「わりぃなT。Tのことは大好きだ。だけどお前に死んでもらわなきゃおれは生まれないんだ。」 189 :創る名無しに見る名無し:2010/11/18(木) 21:44:34 ID:VUHQA69y つまらないかもしませんが 「忘れたいこと」 長年の研究の結果、エフ博士はようやく忘れたいことを忘れさせてくれる薬を完成させた。 「俺が若いときさんざんいじめてきた、エヌ教授、おれを侮辱した同僚のエス、俺を振ったオー、俺を不快にさせた奴の記憶をすべて忘れるのだ。」 エフ博士はそういって、その薬を飲みました。 「ほう、これはなんともすがすがしい気分だ。やっと不快な記憶から解放された。こんな薬を一人占めするのはよくない。 どれ、あいつらにも分けてやろう。」 エフ博士は友人に電話をかけました。 「やぁ、きみか。かくかくしかじかの薬を開発したんだが、ためしてみるかね?」 「なに、そんな薬を…。ぜひ、頂こうか。」 こんな具合に博士は次々と友人たちに薬を分けてゆきました。    1週間後 「ふむ、退屈だ、なにか面白いことは…。そうだ、久々にあいつらと飲みに出も行くか。」 エフ博士は電話をかけはじました。 「やぁ、エフだが。どうだい、久しぶりに飲みにでも行かないか?」 「どちらさまでしょうか?いま忙しいのですが…。」 「おい、きみ、冗談はよしたまえ。エフだよ、エフ。」 「エフ?申し訳ありませんが、エフという名は記憶にありません…。人違いではありませんか?」 「もういい、なんとふざけたやつだ。大学時代からの友人に対して失礼にもほどがある。」 怒り心頭のエフ博士は別の友人に電話をかけました。 「やぁ、きみかね。エフだが、どうだい、今晩一緒に飲もうじゃないか。」 「エフ?いったい誰?」 「きみまでそんなことを…。」 エフ博士ははっと気付きました。 「まさか、あの薬で…。」 その後もエフ博士は友人に電話をかけてゆきましたが、誰一人としてエフ博士のことをおぼていないのでした。 「まさか、友人とばかり思っていたあいつらのわすれたいことが俺自身だったなんて…。こうなったら…。」 「エヌ教授、聞きましたか、エフ博士のこと…。」 「ああ、記憶喪失だそうだな。エス君、きみとエフ君とは大学時代から互いに切磋琢磨して研究に取り組んできたから、辛かろう。」 「エヌ教授こそ大学時代にあれほど熱心にエフ博士を指導してきたのですから。」 「オーさんもひどくショックを受けてるそうだね。」 「しかし、エヌ教授、エフ博士と仲良くしていた連中がだれもエフ博士のことをおぼえていないというのですが。」 「妙な話だが、その程度の間柄だったというこどだろう。」 191 :創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 17:33:33 ID:icEZuwXQ 「夏の少女」 その少年は治療薬のまだ見つかっていない重い病気にかかっていた。 そして調度夏休みになろうとしていた頃、病状が悪化してしまい、郊外の静かな場所にあ る病院に入院をしていた。 1日のほとんどを、友達とも遊べず病院のベッドで過ごす辛い日々であったが、気分転換 のために午後はよく散歩に出かけることにしていた。 夏の美しい花や木々を見ることで華やかな気分になり、日々の憂鬱な気分も解消されるの で少年はこの散歩が大好きであった。 ある午後いつもの散歩に出かけていると、山道で足を踏み外してしまい急な斜面から転落 してしまった。 どれくらい意識を失っていたのだろうか。気が付くと辺りは既に濃い夕闇 が迫っていた。 何十メートルという斜面を滑り落ちたのにも関わらず、幸運なことに怪我はかすり傷程度 であったらしかった。 ふと少年が気付くと、側にとても綺麗な女の子が居た。 年は同い年か少し年上くらいだろうか。 「大丈夫なの? あなたを見つけたからここで気付くのを待っていたのよ」 「うん、大丈夫。でも早く病院に帰らないといけないよ」 少女は優しい笑顔で、「心配しないで、私に付いてきて」と言って病院までの道を導いてく れた。 別れ際に少年は「また会える?」と聞いてみた。 彼女は「うん、私もよくここに散歩に来ているのよ」と笑って答えた。 少年はそれ以来、少女と遊ぶようになった。 少女と出会って以来、以前とは見違えるほど彼は元気になっていった。 それまで友達と遊ぶことも出来ず、厳しい闘病生活を送ってきた少年にとっては生まれて初め て感じる幸せだった。 医者は信じられないといった様子であったが、症状が改善したのでもう退院してもいいと言った。 しかし彼は少女と離れ離れになるのを寂しく感じ、まだ病院から退院したくない気持ちであった。 ある夜、少年がベッドの上で寝付けないでいると、窓の外に人影を感じた。 乗り出してよく見てみると、遠くから少女がこちらを見ているようであった。 少年は急いでベッド から飛び降り病院の外に出てみたが、辺りに少女の姿は見つけられなかった。 少年は気になって彼女の名前を読んでみた。 すると遠くで何か手招きをしているような彼女の姿を見つけた。 彼は少女の後を追いかけ、どんどん森の奥に入っていった。しばらく歩くと、また彼女の姿が見え なくなった。どこに居るのだろうと彼は辺りを見渡してみた。 すると以前この場所に来たことのあるような記憶が蘇ってきた。 そうだ、あれは彼女と初めて会った日、自分が足を踏み外し転落してしまった場所であったと少年 は気が付いた。 目を凝らしてみると、誰か2人の人影が近くに居るようであった。 よく見てみると、一人は彼女であった。 そして側に横たわって動かないもう一人、それはあの転落した時の自分自身の姿であった。 その時急に体が軽くなるような感覚を感じた。 少女が少年を導くようにゆっくりと手を差し出してきた。 彼は幸福と優しい愛に包まれるのを感じながら彼女の導く光の中へと入っていた。 ---- #right(){&link_up(ページ最上部へ)} ----

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