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*ややえちゃんはお化けだぞ! 第4話



夜々重に案内されてたどり着いたのは、町からいくつかの山を越えたところにある小さな
廃校だった。
それは見た目ずいぶん古いものらしく、木造校舎の外板はほとんどが剥がれ落ち、ところ
どころ覗いている教室も「荒れ果てた」というよりは、もはや自然の一部と呼んでも差し
支えのない物件である。

「ねえ、部屋の死体なんだけど、お家の人に見つかったらまずいことない?」
「大丈夫だろ、週末はいつも出かけて帰ってこないんだ」

ちょうど敷地の裏側に着陸した俺たちは、校舎裏を覆う湿った影を抜け、校庭とおぼしき
開けた場所に出た。

「あ、ホラ見て! バス停まってるよ!」

弾んだ声の先では古ぼけた洋風バスが白煙をもうもうと吹き出していて、入り口あたりで
搭乗の手続きをしている数名の人影が見て取れた。
そうした連中も幽霊とはいえ、足がないことを除けばそこそこ普通の奴らなのだが、その
中心でぱたぱたと対応している少女だけが、何か尋常でないオーラを放っている。

「いらっしゃいませデス! ツアー参加の方デスね!」

その高いテンションの持ち主はちゃんと足があり、頭の両側を覆うようにぐるぐるした角
が生えていた。おまけに満面の笑みの後ろでは、ひらひらと尻尾が見え隠れしている。

「ああ、予約はしてないんですけどね。俺とコイツで参加できますか?」
「ノープロブレムなのデス! くたばり損ない2名様で4980円になりマス!」
「じ、じゃあこれ、よろしくお願いします」
「ハーイ、お釣り20円! ではでは空いてる席へとっとと座りやがれデス!」

ぐいぐいと押されるように車内へと案内され、俺は一体何に乗ってしまったのかと一抹の
不安が頭をよぎるも、振り返れば財布に入っていた金で普通に乗れたという事実。
とりあえずそのことだけに安堵のため息をつき、空いた席に腰を下ろした。

「ねえねえ今の、悪魔の子じゃない? 初めて見たよ私」
「知るか、幽霊も悪魔もこの際一緒だ」

死んでから言うのもなんだが、ここまできたら腹をくくらねばならない。



卍 卍 卍



予想よりも早く到着したおかげで出発までは少々時間があるらしく、暖機を続けるバスに
揺られながら、俺は夜々重のわけの分からない話を聞き流していた。

「――それで私ね、じゃあハナちゃんは何で死んじゃったの? って聞いたのよ」

バスは見た目のオンボロさとは裏腹に、車内はなかなか小奇麗に清掃されていて、座席の
シートも新品とまではいかないが、座り心地も悪くない。

「そしたらハナちゃんさ、死んでないって言うの。なんだっけ、生霊?」

席にはツアーの詳細なパンフレットが備え付けられており、手に取って確認してみると、
殿下宮殿に到着するのはちょうど今日の正午になっていた。

「私そういうの全然わかんなくてさ、――ねえ、さっきから聞いてる?」
「聞いてるよ。聞いてるおかげでハナちゃんの謎は深まるばかりだ」
「もう、聞いてないからだよ」

ツアー自体は日帰りで、その後も様々な地獄を巡るらしいのだが、俺たちにとっては関係
のないことだった。

パンフレットをポケットへ押し込むとエンジン音が一際大きく鳴り響き、天井に付けられ
たスピーカーからイントネーションの狂ったアナウンスが流れ出した。

「本日は当ベリアル観光をご利用いただき、誠にくそ喰らえデス! ワタシ、本日のバス
ガイドのリリベル言いマス、オマエらどうぞ一日よろしくデス!」

愛くるしい笑顔から繰り出されるカタコトの日本語は、なぜだかところどころに禍々しい
表現を含んでいて、まあ、悪魔なら少々態度がでかいぐらい大目にみてやろうとも思うの
だが、まばらにしか起こらない拍手に「あれ?」みたいな表情をしているところを見ると、
どうも素でやっているらしい。

「あの子リリベルちゃんっていうんだ! いいなあ、可愛いなあ」

一方そんなことを気にもとめず、だらしない顔で励ましの拍手を送る夜々重に気付いたの
か、リリベルちゃんは気合を入れるように、きゅっと唇を結んでいた。
その姿はどことなく健気な風があり、リリベルなんていう名前をしているぐらいだから、
外国か何かからやって来たのだろう、きっと日本語が教えた奴がバカに違いない。

「なお本ツアーは地獄への進入許可を一切受けていまセン! 万が一危険な状態に陥った
場合、オマエら幽霊がどうなるのか知ったこっちゃありまセンので、あしからズ!」

ということで、結局リリベルちゃんがどういった人物なのかは闇に葬ることにした。

「本当に大丈夫なんだろうな、コレ」
「し、知らないよ……自分が誘ったんじゃん」

やがてバスはのろのろと旋回を始め、窓から見える景色がゆっくりと動き出す。
見まわす限り道らしい道もなく、一体どこへ向かうつもりなのかと思っていると、がくん
と縦に角度を変えて地面へともぐり始めた。
一瞬闇に包まれた車内を、薄緑がかった蛍光灯がちかちかと照らし出す。

「当バスはこれよりデモンズバイパスを通り、ゲヘナゲートへ向かいマス!」

窓の外はただ黒いうねりが凄まじい速度で流れていて、油断していると意識を吸い込まれ
そうになる。
不安のため息を漏らすと、窓に映っていた夜々重の口が静かに動いた。

「ずっと寝てなかったもんね。いいよ、私ゲートに着いたら起こしてあげるから」

向き直った笑顔に、ようやく自分が眠いのだということに気付かされる。
どうも俺は、非現実の激流に流されまいと気を張るあまり、正確な判断が出来なくなって
いるらしい。

バスの振動は疲れた身体に心地よく、夜々重の鈴をからからと鳴らし続けている。
不規則ながらも単調なそれは、俺を深い眠りの底へと沈めていった――



卍 卍 卍



「やい、オマエら! 右手に見えて参りましたのが超最新式! 閻魔大帝のクソガキ専用
通学路、第25号ゲヘナゲートでありマス!」

きんきん響く声に一瞬で夢から覚め、ふと感じた重みに目をやると夜々重が肩にもたれて
静かな寝息を立てていた。
少し揺すると「あうあ」みたいなことを言いながら、口元から伸びているよだれをぬぐい
取っている。俺は肩一帯に感じる冷たさの正体は確かめずに、窓の外を指差した。
だいぶ長い間眠っていたらしく、すでにそこは暗闇ではなく、青空の広がる雲の上だった。

「アレが地獄の入り口だってよ」
「……うわあ、大きいなあ」

遥か彼方に霞んで見えるその「輪」は想像を絶するほど巨大なもので、円環部になめらか
な光沢を滑らせながら、異界の門であることをゆっくりとした回転で誇示していた。

「ゲートを越えると間もなくクソガキ宮殿に到着デス! オマエら覚悟しやがれデス!」

バスが正面へ進路を変えるに従い、ゲヘナゲートはその内面に赤く鈍い光を蓄え始めた。
俺は勝手にそういうものなのだろうとぼんやり見ていたのだが、不意に運転席から聞こえ
てきた会話に思わず耳を疑った。

「リリベルお嬢様、勘付かれました。ゲートが閉じ始めています」
「さすがは天下の朱天グループ製! このケイオスシェルコーティングを見破るとは日本
の技術もちっとはやるようデスね。ぐずぐずしてたら閉じちゃいます、強行突破デス!」

無許可――記憶の彼方からそんな言葉が掘り起こされる。

「かしこまりました」

恐らく誰もがその会話を聞いていたのだろう、車内にはざわめきが広がり始めたが、すぐ
さまそれを一喝するような声がスピーカーびりびりとを震えさせた。

「オマエら心配するなデス! なにしろこのバスはベリアルコンツェルンの英知の結晶。
666人の魂を原動力にした特殊な加速装置が備わっているのデスよ!」

状況を把握するにはあまりにも意味不明の説明。一瞬静まったバスの外側で、何かが開く
音がした。

「放魂!」

号令と同時に、急激な加速が俺の身体をシートに縛り付ける。
その強烈で未体験な力に目を開けていることもできず、それなのに景色だけは虹のような
光彩をもって瞼を突き抜け、頭の中に映し出されていた。

息をつく間もなくバスはさらに加速を続け、凄まじい速度で迫るゲート。
その赤い光は近づくほどにコントラストを強め、限りない白が一瞬で車内を飲み込んだ。

上も下もわからない、目を開いているのかもわからない白い瞬間。
それはおびただしい数の叫び声と泣き声で満たされているような気がした。



卍 卍 卍



視界が通常の色合いを取り戻すにつれ身体への負担は徐々に和らぎ、ようやく追いついた
聴覚が最初に捕らえたのは、あの運転手の声だった。

「リリベルお嬢様、通過には成功しましたが想像以上にゲートロックが早く、車体後部が
吹き飛んだようです」

固まっていた首を無理やりひねって後ろを見ると、バスはちょうど2列分ほど後ろからが
ぽっかりとなくなり、不気味な赤黒い空が覗いていた。
記憶によれば、確かそこにも誰かいたはずである。

「あらホント。でもこれだけ残ってればノープロブレム! 料金は前払いで貰ってマスし、
ツアーはこれからが本番デスよ!」

このとき俺は、自分にとって今一番危険なのは、このバスに乗っていることそれ自体なの
ではないかと、そう感じ始めていた。

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