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無限桃花~Over the BLOODSKY~」を以下のとおり復元します。
*無限桃花~Over the BLOODSKY~

「数が多過ぎるな。いくら何でもこりゃ大変だ」
「だから言ったんですよこのバカガラス!」

 黒丸と理子は寄生に囲まれている。無数の妖の寄生はいくら倒しても再現なく蘇る。
 天叢雲剣を持ってしても、「寄生」を消す事は出来ない。
 ただ薙ぎ払うのみ。寄生を切り裂けるのは寄生の力しか無いのだ。村正のような。

「先輩!どうするんですか!?弾もそんな無いですよぉ!?」

 理子は叫ぶ。携行したMP5に使用する特殊な9ミリ弾は無限には無い。ここに居る寄生程度ならば、その特性上一発で消す事が出来るが、なにしろ数が多い。
 圧倒的な数の力。それはただの人間である黒丸達には変えられない。
 黒丸は天叢雲剣を振るう。しかしそれでもなお寄生は押し寄せる。皆、捨て身なのだ。
 影糾にとって、彼方にとっては彼等はただの捨て駒に過ぎなかった。
 そもそも、たとえ黒丸を殺しても全滅しても、彼方にはどうでもいい事なのだ。

「先輩‥‥!ヤバイです」
「何がだ!?いいから撃て!!」
「撃つ弾がもう無いんですよ!!」
「何!?ウソだろ!!?」
「ウソ言う余裕無いです!持ってきたマガジン7個もう無いです!!」

 既に黒丸達は数十の寄生を消した。しかし、もう限界に近い。周りはいまだ無数の寄生だらけだ。
 その時‥‥‥‥‥
 突如、寄生の動きが鈍りはじめる。まるで魂が抜けたように。

「なんだ?どうしたんだ?」
「先輩‥‥。どうしましょう‥‥?」
「俺が知るか。まだ動くな」

 寄生は動かない。まるで時が停まったようにーーー


「何が起きている‥‥‥‥?桃花さん‥‥」

 桃花は走っていた。いや、正確には地面スレスレを飛んでいる。
 身体からは黒い影が噴き出す。纏う闇の衣は翼のように広がり、黒い稲妻をたたえる。
 婆盆は言った。覚悟がお前を強くすると。
 桃花の覚悟。それは全てを投げうってでも、彼方を救う事。宿命すら捩曲げる。それほどの覚悟。
 やがて見えてくる湖。その中に立つ剣のように鋭い岩山。その頂上を目指す。
 桃花にはもはや足場など関係なかった。ただ直線的に進むのみ。地面も、水面も。そびえ立つ断崖すら無意味だった。
 剣のような岩山、天神の細道を桃花は登りはじめる。
 頂上は紅い雲が覆っている。血のように紅い、この世の物では無い雲。その先に居る。

「彼方‥‥‥」

 桃花は呟いた。

 歌が聞こえ始めた。初めて聞く声。だが、それは間違いなく彼方の物だとすぐに解った。
 驚くほど透明で、憎しみが篭った声

とおーりゃんせーとおりゃんせー
こーこはどーこの細道じゃー
天神さーまの細道じゃー‥‥‥

クスクスクス‥‥‥‥

 彼方の声は遥か天空から響く。向こうも解っている。もうすぐ相対する事を。


とおーりゃんせーとおりゃんせー‥‥‥

クスクスクス‥‥‥‥‥
姉さん、早く来て。
こーこはどーこの細道じゃー
天神さーまの細道じゃー‥‥‥。

クスクスクス‥‥‥‥


 桃花は紅い雲に飛び込む。その雲は水蒸気では無かった。血だ。血が混じった雲だった。
 分厚い雲が薄くなり、うっすらと太陽の光が見える。もうすぐ雲を抜ける。
 そして‥‥‥‥‥。

「これは‥‥‥‥」

 桃花が見た物。それは紅い雲の海に浮かぶ荒野。
 あの細長い岩山の先、雲に隠れた場所には、ただっ広い地面があった。彼方が用意した、決戦の場所だった。
 そこに一人立つ少女。桃花のように影を纏い、紅く輝く瞳をした‥‥‥。

「‥‥‥彼方」
「久しぶりね。姉さん」

 桃花はそこへ降り立つ。
 そして目の前に少女と目を合わせた。もう桃花の記憶にある彼方ではない。
 歳の割に背が高く、黒い長髪を下ろした少女。少しだけ、自分に似てる気がした。

「姉さん‥‥‥」
「彼方‥‥‥。会いたかった」
「最初見た時は姉さんだって解らなかった。でも無限桃花なんていう名前してるのは姉さんしかいない」
「何を言ってるの?」
「覚えてない?練刀と戦う前から、ずっと見てたの。寄生を斬る事が出来る敵として‥‥‥」
「彼方‥‥‥」
「だから練刀との戦いの後、私どうしたらいいか解らなかった。私がこの世に転生したから、私を殺す為にアイツも転生してるハズ。でも‥‥。それが姉さんだったなんて」
「婆盆は‥‥。教えてくれなかったの?」
「うん。自分で確かめろって。過去の私の記憶もそこは教えてくれなかった。多分、相手が誰でも関係ないから」
「過去の‥‥彼方」
「姉さんもたまに過去の記憶と話すでしょ?私はずっと話してた。だから姉さんの秘密も全部知ってる。酷い話だよね。だから、何も知らせたくなかったの」
「私は‥‥‥」
「姉さんが練刀を斬った後、私が止めをさしたの。だってアイツは‥‥私のお父さんを殺した奴だったから‥‥‥」
「あのね、彼方。私は‥‥‥」
「姉さん変わったね。こんな綺麗な人になるなんてビックリしちゃった」
「‥‥‥彼方も変わったね。十年も経てば当然だろうけど‥‥‥」
「姉さん。私は彼方だけど、彼方じゃない」
「‥‥彼方?」
「私は全部知ってる。この世がどれだけ醜いか。人が人の下になった時、それは敗退の始まり」
「彼方‥‥‥」
「私は彼方。でももう一つの名前もあるの。姉さんだってそうでしょ?昔の名前があるはず。私は現代でまたその名前を使う」
「彼方、私は‥‥‥‥」
「クスクスクス‥‥‥。私は彼方。でもそれだけじゃない」

「クスクスクス‥‥‥私の名前は影糾」

「私は影糾寄生・菅原道真。クスクスクス‥‥‥」

「彼方‥‥‥!」
「その名前で呼んでいいのは姉さんと婆盆だけ。婆盆は‥‥まだ生きてるのね。ちょっと安心しちゃった」

「姉さん。私はかつて帝に仕えた。知ってるかな?歴史にもちゃんと載ってるはずよね。でも、嫉まれて殺されちゃった」

「私は憎んだわ。それはもう全てをね。でも、本当の怨みはそこじゃ無いの」

「私は日本最大の怨霊とまで言われたわ。それはそうね。仇を呪い殺したり、京都に何度も火を放ったり。仕方ないと思う。けど‥‥‥」

「後醍醐天皇は私を恐れて太宰府に私を奉ったの。見た事ある?あそこには私‥‥。天神が奉られてる」

「でも真実は違う」

「天皇は私を奉るフリをしたの。私を恐れて。私を消そうとした」

「あれほど仕えたのに‥‥。あれほど‥‥‥貴方の為に‥‥‥!‥‥あれほど‥‥‥あれほど尽くしたというのに‥‥‥!!!」」

「それから何度も陰陽師が現れた。私を再び殺す為に。私はぜーんぶ返り討ちにしたの。」

「表向きは私は天神として奉られてる。だから人々の思いは私に天神の力を与えた。でもそれだけじゃ足りなかった。だって、私は日本を覆そうと思っていたから」

「もう裏切りは要らない。君主も従者も。富める者も貧しい者も。人も神も妖も。全てを一つにまとめようと思ったの。そうでもしなきゃ、人はまた誰かを裏切る。自分の為に他人を殺す」

「そして生み出したの‥‥‥。寄生の力を‥‥‥!」

「同時に私は魔道へと侵入したわ。そこには神と真逆の存在、魔物が居る。彼等を懐柔し、地上を滅ぼす軍団を組織した」

「その頃に、私は闇の天神となったの。稲妻は黒く染まった」

「でもそこでアイツが邪魔をしたの。無限悠斗。‥‥過去の姉さん」

「戦いはあっさり終わったわ。悠斗は自分自身を結界に、自分の身体に私を封印したの。それが無限一族の呪いの始まり」

「私は悠斗の魂と融合し、一緒に転生を待った。その間に悠斗は私の闇の天神の力をコピーしたの。人の持つ奇跡の力。思いの力でね」

「クスクスクス‥‥‥。そして私は彼方として現代に蘇った。それを察知した悠斗は一足早く姉さんとして現れた」

「出来れば教えたくなかった。でも、私と姉さんのどっちかは今日死ぬ。誰かが引き継がねばならない。だから、教えた」

 彼方の口調はもう彼方ではなかった。
 かつて存在した天神・菅原道真。邪悪に染まった天神のそれへと変わっている。

「彼方‥‥。私はね‥‥。」
「何?姉さん」
「私は‥‥。過去なんてどうでもいいの。ただ‥‥‥。彼方に会いたかった。ただそれだけ。」
「姉さん?」
「私は‥‥‥。もう貴方に会えて満足。後は貴方を助けるだけ」
「助ける?私を?フッ‥‥‥‥。はははははははは!!!」
「彼方‥‥‥。」
「何を世迷い事を!私の何を助けるというのだ!!私の名は影糾!影糾寄生・菅原道真!!」
 彼方の纏う影は次第に濃くなる。それは闇の衣となり彼方を包む。そしてその手には一降りの黒い刀、村正が握られていた。

「私は再びこの世に火を放つ!全て焼き払い、浄化してくれよう!そして‥‥‥この世界に真の平等を実現する!
もはや何者にも従う必要は無い!
何処にも隷属する事も!
私は全てに寄生し、全てを統一する!
世界は私一人で十分なのだ!!!」
「彼方‥‥‥!」
「その名で呼ぶな無限の天神!さぁ。決着をつけよう。我等の千年に渡る闘争。今ここで終わりにしよう」
「ええ。そうしましょう‥‥‥。彼方」

 二人は同時に剣を掲げる。そして同時にその一撃を放つ。

「来たれ龍!」
「来たれ龍!」

「爆ぜよ天!」
「爆ぜよ天!」

 二匹の黒い龍は天高く舞い上がる。

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