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*「真夜中の漆黒」

73 :真夜中の漆黒:2010/10/10(日) 01:51:55 ID:I4iFmosb

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74 :真夜中の漆黒:2010/10/10(日) 01:53:25 ID:I4iFmosb

見上げた空には、星ひとつ無い。今日は新月だ。 
おまけにこれだけ曇っていれば、夜の闇がいつもよりも更に深いのも当然だろう。 
こんな夜には恐らく - そう、あの場所には、誰一人、居ないはずだ。 

僕はそう思いながら、あの場所、横浜のみなとみらい地区へと想いを馳せる。 
とは言っても、僕が想いを馳せたあの場所は、世間一般の人々が知る現実の世界ではない。 

僕が想いを馳せたのは、サイキックと呼ばれる能力者であれば、誰もが魅力的だと思うあの場所だ。 
そう、強大な魔道力を伴う磁場を持つ、こことは違う次元に形成されたもう一つのみなとみらい地区だ。 

もし、今夜が普段よりも一段と深い闇を創りだしているような真夜中などでなく、逆に月が一段と明るく輝い 
ているような真夜中であったなら、あの場所では、僕のような魔道能力者が数十人は集う集会が開かれて 
いた筈だ。 

今晩は、月はおろか星の光さえない、漆黒の新月の闇夜だから、僕の魔道力も極端に低い。 
それでも、僕は、僕の持っている、ありったけの魔道力を使って、僕の部屋からその場所へと跳んだ。 

その魔道力を使っての瞬間移動を終えた直後、僕の目の前には、ランドマークタワーやクイーンズ・イース 
ト、そして、インターコンチネンタルホテルといった、高層ビルの列柱が織りなす、壮麗な光の柱と華やかな 
大観覧車のイルミネーションが創りだしている横浜の夜の風景が広がっている。 

ただし、この場所は、現実世界とは異なる次元に存在する世界だから、観光客などの大勢の道行く人々 
は、全く見当たらない。 
そして、今、この場所には、僕と同じサイキック能力者さえ、誰一人、居ない。 
周囲を彩る華やかな夜景とは対照的に、辺りには静寂を帯びたしんとした空気に包まれていて、秋の気配 
をほんの少しだけ運び始めた海からの向かい風のみが僕の周りを漂っている。 


僕の魔道力は、いつもよりも断然低くなってはいたが、それもこの空間に来るまでのことだ。 
この空間まで来てしまえば、いつもよりも僅かな魔道力であっても、その僅かな力なりに、自然に増幅されて 
いく。 
僕は自らの内側に魔道力が少しずつ甦ってくるのを感じ取ると、自らの手元に金色に輝く剣を呼びだした。 
まあ、いざという時に、即座に対応できるようにする為の護身用というやつだ。 

それから、僕は自分のすぐ傍にそびえ立つ、ランドマークタワーを仰ぎ見ると、そのビルの頂上へと、自らの 
魔道力を使って、一気に跳躍をかけた。 
その大きな跳躍の直後に、僕は自らの眼下にある水面にほんの一瞬だけ視線を向ける。 


77 :真夜中の漆黒 4& ◆DGnREAoxNQ :2010/10/10(日) 01:59:50 ID:I4iFmosb
眼下に映る水面には、自らの魔道力によって、金色の光に包まれながら、大きく跳躍する、金髪碧眼の 
17、8歳の少年の姿 - そう、僕の姿だけが、今、この空間に唯一存在している者が放つ魔道力の光が 
映り込んでいた。 
僕は自らの魔道力によって、なんとかランドマークタワーの頂上へと辿り着くと、自らの両膝に手をついて、 
少し前に屈むような姿勢になりながら、一気に魔道力を使った所為で、少々荒くなっていた呼吸を整えた。 
それから、この地上から一際高い場所故に、先程から勢いを止める事無く常に吹き抜けている強風が、自 
分の周りではその威力が弱くなるようにするため、金色の刀を振り降ろし、再び魔道力を使ったシールドを 
作りあげる。 
そうして魔道力を使ったシールドを作り終えた後で、僕はこのビルの下に広がる風景を見渡すために、ビル 
の縁へと座りこんだ。 


眼下には、この夜の漆黒の闇を更に深くしている原因の1つにもなっていた厚い重みを帯びた灰色の雲が 
このビルよりも更に低い高度にあり、風にのって、ゆっくりと流れていくのが見える。 
そして、その隙間からは、数えきれない程の沢山の灯りによって、地上に映る星空のようにも見える美しい 
夜景が広がっていた。 
また、それとは少し異なる方角に目を遣ると、ベイブリッジの灯や、そのもっと先へと続く大海の水平線まで 
も見渡すことができた。 

僕は暫くの間、片膝を抱え込むようにしたその姿勢で、ビルの端にぼんやりと座り込んでいた。 
自分が一人きりになれるこの場所で、あの時起こった出来事に係わるこの記憶をもう一度、しっかりと受け 
止めたいと思ったからだ。 

「……アリス……」 

僕は、あの時と同じように叫びたくなる気持ちをぐっと抑えると、今はもう、逢う事さえ叶わなくなった、その 
愛しい存在の名前をそっと呼んだ。 
そして、自らの瞳をそのまま閉じると、そこには、いつものように藍色の瞳と同じく、濃紺の長い髪をなびか 
せた、15、6歳の少女が、ほんの少しだけ、哀しげな表情で微笑んでいる姿が映る。 

それから更にそのまま瞳を閉じていると、僕との約束を交わすために、ほんの一瞬だけ、僕の唇へと軽く触 
れるような優しい口付けをした後で、とてつもなく大きな光の渦に捲き込まれるように消失していく彼女の姿 
が鮮やかに浮かびあがる。 


彼女は、僕が自ら暴走させた強大な魔道力の犠牲となって、この世界から消えた少女だ。 
その瞬間の出来事を思い出していた僕の瞳からは、いつものように自然と涙がこぼれ落ち始めた。 

「……言ったでしょう? ……必ず君を救けるって。 大好き……だよ」 

彼女の最後の言葉が僕の脳裏にはっきりと甦る。 
それと同時に、僕の心の中には、いつものように、あの痛みを伴った感情が満ちていくのだ。 

違う! 違う!! 僕は……あの時、唯、誰よりも、君を救いたかっんだ!! 
だからこそ、あの場で、ありったけの魔道力を使ったというのに!! 
僕の唯、唯一つの望みさえも、叶わずに……あの力だけが暴走していくなんて!! 

「……っ、あ……」 

僕は、再び絶叫したくなる気持ちを堪えて、今、この真上に広がる夜空の果てしない暗闇だけを見据える。 
眼下の美しい灯りに目を移せば、余計に涙が止まらなくなる気がしたからだ。 
その次の瞬間、僕は自らの背後に、人の気配を感じていた。 


「ミカ、 こんな日に、この場所に一人で来るなんて! 俺を誘ってくれないのは、ひどいと思うぞ」 
「うるさいよ、ユウキ、君は、いつも早く気付きすぎなんだよ」 

僕は相手に直前まで零していた涙を見せたりすることのないように、自らの手でしっかりと拭う。 
それから、自分にも気配を感じさせぬ間に、僕の背後に立っていた、大切な友人-ユウキへと強がり言って 
から振り返る。 

そこには、いつもと同じように、僕をほっとした気持ちにさせてくれる、短く整えられた銀色の髪と、青銀の瞳 
を持つ少年が笑顔で立っていた。 
本当は、彼自身も、あの時に大切なものを護りきれなかったという、自らを強く責める気持ちを僕と同じよう 
に抱えているにもかかわらず、ユウキはいつもそんな様子を微塵も見せようとはしない。 
こんな時、僕はいつも、この芯の強い気持ち保ち続けたままでいる友人が、今も変わらず傍にいてくれる事 
に心から感謝するのだ。 


「ミカ、こんな夜だけど……まあ、いつもよりは少ないけど、魔道力は使えてるし、 
 そろそろ……魔を封じにいこうか」 

「ああ、そうだね」 

ユウキはゆっくりと立ち上がった僕に、いつものように声をかけた。 
僕はその言葉に合せるように短く返事を返す。 

もう、ユウキと互いに笑い合って、シルエッタに興じていたあの頃とは、訳が違うのだ。 
僕が自ら暴走させた魔道力がきっかけとなって、生じたこの次元の綻びは、今も完全に封じ込むには、至っ 
ていない。 
それに加えて、その綻びから度々生じるようになった、強大な負の力を帯びた魔道力は、この次元を超えて 
現実世界にまで、少しずつ影響を及ぼすようになっていた。 


それでも……僕等は、この強い次元の捻じれによって、あちこちに生じるようになった、強大な負の魔道力 
の全てをいつか必ず封じきるだろう。 
僕等二人が互いに手にする、この剣へと、再び封じるその都度、……アリスが消えた、あの次元へとつなが 
るゲートを開くことが出来るかもしれない可能性が生じるのだ。 
その可能性がある限り、僕は魔を封じ続けるだろう。 

そう、だからこそ、僕等は、何度でも立ち上がり、その漆黒の暗闇を切り裂くのだ。 

僕とユウキは、以前、そう、あのシルエッタが始まる前にしていたのと同じように、互いの拳を軽く合せて、こ 
れから闘いへの健闘を祈り合った。 
そして、既に眼下に大きく拡がり始めた漆黒の闇へと、それぞれの身を躍らせるようにして跳躍すると、その 
暗闇を切り裂き始める。 

-end- 

前回、即興で書いた話の続きが書けたというのは、なんだか嬉しかったなw

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