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十二使徒~ 第8話

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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第8話


「ひゃっひゃっひゃ…なんだここ…?地下に人間が沢山いるぞオ~!」
 「久々にごちそうタイムといきますかア~アハッアハッアハッ!」


第八話
 「LOST WORD」


前回のあらすじ
第二英雄王鎖珠貴登場!
第七英雄天草五姫登場!
新キャララッシュで更にキャラが分からなくなる負のスパイラル!

長らく遠征に出ていた第二英雄王鎖が本部に帰還した!再生機関の人員が意外にいた事におどろいた。
そして第七英雄も帰ってきた!ゴスロリだった!トエルと喧嘩になった!みたいな感じの前回です。
果たして今回はどうなることやら……的な感じですよ。別に投げやりじゃないっすよ。
以下本編。



―――…

 「ふぇ…?なんだキサマァ…?」
 「君が12番目か。まさかこんなに幼いとは……いや、機械に年齢は関係ないか……」
 「…不快。邪魔しないで」
 「そうはいかないな。英雄同士の闘いを黙って見ているわけにはいかない。君達、無駄な事はやめなさい」

 血気滾る一人と一機を止める一人の男。手に負えぬ状況の中舞い降りた救世主のその姿は、
正に「英雄」の名に相応しきものに見えた…


 「…興冷。部屋に帰る」
 刹那の攻防に突如として介入した第二英雄王鎖珠貴。両手に小冴えた二振りの剣がトエルと天草の動きを牽制する。
 自身にとって面白く無い展開になってきたと感じた天草は一言呟くと、腕のデバイスを外し、
紅き鎧が粒子状にサラサラと解けていく中、王鎖の事を厭うようにして去っていった。なんとも専横な初登場であった。
 天草の様子を見て、王鎖も武装を解除する。解除した武装は光となって一点に集まり、
見慣れた黒い箱へと姿を変える。
 何はともあれ、騒動は無事収束。敵襲でもないのに一階本部は嵐がさった後のごとくズタボロで
コレを補修する人間が哀れでならない。注意すべき相手は味方の中にいたというわけか。
 「…おまえだれだ?いきなりわってはいってきやがってふぇふぇ」
 一頓挫後、突如現れた王鎖に警戒するトエル。面識がないので警戒するのは当然だった。
 トエルは礼儀を知らないロボ幼女なので初対面の相手に無礼な態度を取るも、王鎖は決して怒らず、寛大な心で応える。
 「私が第二英雄……王鎖珠貴だ」
 「ふぇ?おまえが?」
 「そうだ。君のことは局長から聞いている…我らの技術力の集大成。人間の人間による人間のための夢機械」
 「ふえぇ…よせやい、てれる」
 小っ恥ずかしいという仕草を見せるトエルに王鎖は驚愕する。まるで人間だ…と言わんばかりの顔である。
 「人間の科学はついにここまで来たか…素晴らしいな」
 王鎖思わずそう、感嘆の声をあげる。人間の積みあげてきた物、自分達が創り上げてきたものがこのような
形になっていくのは中々感傷深いものがあるのだろう。しかし、そんな事など当の本人であるトエルは知る由もなかった。

「王鎖さん、ご苦労様です~」
 「全く、君達……何故彼女達を止めなかったのです?おかげでこのフロアは酷い有様だ」
 「面目ない…」
 騒動が収まり、一段落したところで他の英雄達、白石・青島は王鎖のもとへ労いの言葉を掛けに行くも早々
に的確な指摘を受け反論の言葉も出ない様子。そりゃあんたは平気だったろうけど自分達が止めに入ったら
確実に腕一本は持って行かれるレベルですって…と、いうのが白石達の本心であったが、
王鎖に何を言われるかわからないので黙っていたとか。
 「君達は弛んでいるな。よし、折角の機会だ…私が直々に稽古をつけてあげよう」
 どっちにしろ面倒なことを言われるのには変わりないようであったが。
 「王鎖さんと稽古とか…マジきついっす」
 青島は王鎖の提案を聞いて、呟かずにはいられなかった。機関でも随一の実力を誇る第二英雄・王鎖。
対して強さに順位をつけると自分は下から数えたほうが早いという青島。一応己の力量は理解している
ようで、とてもじゃないが王鎖の相手など青島はしたくなかった。
 「お、王鎖さんも帰ってきたばかりでおつかれでしょう?そんな俺達の為にそこまでしてもらうなんて悪いですって…なあ白石?」
 「そ、そうだべさ~!」
 なんとか王鎖との稽古を回避したい二人はあくまでも建前上は王鎖の体を心配してという理由で上手いこと
断ろうかと話を合わせていたが、王鎖の「私はここ数年疲労を感じたことはない」という一言で無残ににもその
目論見は水泡とかしてしまう。
 「さあ、君達は地下訓練場へ向っていてくれ。私もすぐに行く」
 「とほほー」
 「くはぁ~…あんまりだぜ……おら、北条院、お前いつまで壁に埋まってんだ、行くぞ」
 トボトボと訓練場へと向かう白石・青島と先程まで埋まっていたため事情を把握出来ていない北条院。
北条院に限っては色々ご愁傷さまとしか言いようがない。悪い事というのは連鎖するものなのです。
 「ふう…このフロアは後で戦闘員達に直させるか…ところで…トエル…だったかな?君は」
 「ふぇ!」
 「…君は……何故天草くんと戦闘行為に及んでいたのかな?」
 事情がわからず仕舞いでは困る。事の発端位は知っておきたいと思った王鎖トエルに動機を聞く。すると
トエルからはこんな答えが返ってきた。
 「ふぇ?あいつからいぎょーのはんのうがしたから!とゆーか、あいつほんとにえいゆーだったの?」
 「天草くんから……異形の?」
 (彼女は人間のはずだ……一体どういう事だ…?)

 ―――…


 「誰も……いないよね…?」
 どんなにモノを口にしていなくとも、溜まるものは溜まるし出るものは出る。生きている限り老廃物は
溜まるもの。したがって、篭っていた陰伊がトイレに行く為、部屋から出る事は何らおかしいことではない。
 陰伊は誰とも会いたくないのか、人気が無い事を確認し廊下へと用心深く足を踏み出す。
廊下に出た陰伊は前後に人がいないか警戒し、トイレへとそそくさと向かっていった。
廊下は数m毎に鏡が設置してあり、歩くごとに己の酷く消沈した顔が写る。
何故自分がこんな事をしているのかと陰伊は己が情けなくなった。今の惨めな状況が、
罪の意識に苛まれ沈んだ陰伊の気持ちをさらに沈め、彼女の心はもはや底着き。気分はさながら深海魚。
暗くて寒くて、虚脱感だけが体を支配する。
 「何やってるんだろう……私」
 「これからどうすればいいんだろう?」
 「私に……何が出来るんだろう…」
 陰伊は手違いとは言え、殺意を持って人を殺した。彼女の中で"人殺し"とは到底償いきれぬ罪として存在している。
消えることはない罪に、陰伊は絶望していたのだ。優しすぎる彼女の事だ、罪の意識は
尚更重くその身にのしかかっていることだろう。

―そろそろ…陰伊さんも大人にならなくちゃね…

 冴島の言った言葉が陰伊の頭を過る。先のことは、英雄としてその役目を全うしたの上での事故だったと、
割り切らなければならない事なのかもしれない。
しかし陰伊には……そう簡単に納得出来るものではなかった。
 思考が堂々巡りする中、陰伊はトイレの前までたどり着いていた……

 「キヒヒヒ…」

―――…

 「かくして、王鎖さんのスパルタ指導を受けるため私達三人は地下訓練施設へとやってきた訳です」
 「おい白石。誰に向かって話してんだよ」
 「無駄話はやめなさい。訓練とは言え気を抜いてはいけない」
 白石の説明よろしく、王鎖の突発的な思いつきで演習を行うこととなった白石・青島・北条院の三人。
色々異議申し立てたいところではあるがこの王鎖という男にはなんとなく逆らえなかった。そもそもからして
この王鎖に物言いできる人間はそう多くない。彼が特別えらい人間というわけでは断じて無いのだが。
 「一体この状況はどういう事ですのかしら?」
 「北条院さん語尾がおかしい」
 先程頭を強く打ち付けられたのが堪えたのか、北条院の呆けが著しく顕在化する。もともとネジが数本
緩んでいるような頭をしている北条院だが、言語にも異常が出ているのはさすがに打ちどころが悪かったのかもしれない。
 「私語は慎むこと。なんだ?まずは北条院君からか?」
 「だから、何の話……だっピ?」
 「コロコロでまだ連載してんのかなあれ」
 「……ふざけるのはやめなさい」
 「北条院さん、演習するんだよ今から」
 「あひんっ…そうだったのぉぉぉぉぉ!?」
 何だか面白いことになっている北条院。白石としては非常に絡みづらい事この上なく。
 「今度はみさくら語ですか。ちょ、誰か何とかしてー」
 なんて助けを求める始末。
 「ここまで口調がアレになると誰かわからなくなるな」
 「青島くんは口調の特徴とか無いから特に分かりにくいよね」
 「そんな事言ったらお前の"だべさ"とか"でしょや"とか不自然だろうが」
 「人の口調にケチつけるのかなぁ…?良くないな…そういうの…」
 「しゅごいのおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 「君達、ちょっと…頭冷やそうか」

―頭冷やしタイム―

 「すいませんでした」
 「ですわ」
 「だべさ」
 「では気を取り直して、北条院君からか」
 「……演習って、一体何をするのです?」
 王鎖に名指しされ、一歩前に出た北条院はそんな疑問を王鎖にぶつけた。
 「演習と言ったらやることは一つ、戦闘訓練だ」
 「せ、戦闘訓練っ!?」
 何をそこまで驚くことがあるのか、王鎖は小首を傾ける。戦闘自体あまり好きではない北条院は、
こんな事なら部屋で写真の整理でもしていればよかったと悔いたが、後悔先立たず。開き直った北条院は
やああぁぁぁぁってやるぜぇ!ヤリパンサー!と言わんばかりに息巻き、血気に疾り武装展開した。
ヤリパンサーと言うのはラムネ世代。だからなんだって?特に意味はない!
 「第六英雄、北条院佐貴子。正義の名の下、成敗します!」
 「お前にゃ無理だ北条院」
 茶茶を入れる青島のことなど無視して、北条院はいざ参らんと大剣を振りかざす。相手は機関で最も強いと
言われている王鎖だ。小心者の北条院がビビっていない訳がない。しかしこうも青島に馬鹿にされては彼女の
自尊心が黙ってはいなかった。
 「……君は…ちょっと私の相手には不足だな」
 「へ?」
 「ふむ、君の相手は私の部下にしてもらおう。一真、一菜!」
 王鎖が誰もいない廊下奥の暗がりに向かって名前を呼ぶ。よく目を凝らすと、暗がりには二つの人影が
蠢いているのが確認できる。
 暗がりから出てきたのは二人の男女。先程、王鎖の後ろをぴったりとくっついていた黄髪の二人組だ。
 「平民一真(ひらたみかずま)只今参上しました!隊長!」
 「平民一菜(ひらたみかずな)同じくさんじょうしまっした!たいちょー!」
 「へ…あ…?」
 突然現れた二人が何を意味するのか。北条院は普段使わぬ頭を捻り、状況を整理する。
 "君は私の相手には不足"と言われ、"この部下に相手をしてもらおう"と出てきたのがあの黄髪の二人組で
つまり私(北条院)じゃ王鎖さんの相手をするのは弱すぎるから代わりの相手を……
 「プライド崩壊!!」

 明らかに自分の力を過小評価されていることに気がついた北条院はテンションだだ下がりでリストラされた
中年サラリーマンのごとく負のオーラを纏いだした。正直、評価されるほど能力が高いわけでもないが。
 「君には私の直属の護衛……平民兄妹と戦ってもらう。彼らの腕は私も買っている」
 「……いくら王鎖さんのお墨付きでも、英雄デバイスの相手にはなりませんわ。舐められたものです!」
 英雄デバイス……機関が開発した最新鋭の戦闘兵器。その力を身を持って知る北条院は王鎖に忠告する。
 「ふっ……それなら心配には及ばない。一真、一菜、見せてあげなさい」
 王鎖の一声により、平民兄妹は懐から黒い小箱を取り出す。瞬間、北条院の顔色が変わる。当然といえば
当然。英雄デバイスは十二個しか無いはず。しかし二人が手にしているそれは?見紛う事無き英雄デバイスであった。
 「どういうことですの……それは!」
 「俺から説明しますよ、オープン!」『"セットアップ"』
 オープンデバイスと同じように発光したそれは、宙を舞い……武装となって一真の体に装着される。一見、
オープンデバイスのような外面をしているようだが…?
 「これは『汎用デバイス・量産試作型』、英雄デバイスの機能軽量版です」
 「試作……量産!?」
 北条院だけではなく、白石や青島もその事実に驚く。英雄デバイスがよもや量産されていたなどとは
知りもしなかったためである。
 「とはいっても~…まだまだ試作段階だし、量産しているわけじゃないけどね!オープン!」『"セットアップ"』
 妹の一菜も武装展開し、その身を無骨な武具で固める。ここで一つ注釈を入れておこう。英雄システムと
異なり、彼らの汎用デバイスにはメイン武装が存在しない。代わりに"カッティングトリガー"と呼ばれる拳銃に
小ぶりな刃物が装着された武器が備わっている。その上オープンデバイスの機能もそこそこ実装
されてはいるがほぼ下位互換な出力効果となっているようだ。そんなかんじらしいよ!
 「まあ劣化模造品って所……ですの?」
 「その劣化模造品の力……見てみるかい?」
 対峙する両者。準備は整い、後は戦闘開始の合図を待つばかり。
 「彼らを甘く見ないことだな。武装解除させるか参ったと言わせれば勝負有りだ。では、早速始めなさい!」
 「あら、私を甘く見ないで欲しいですわね?コレでも私、"英雄"ですし?」

―戦闘開始!!―

 「行くぞ!一菜!」
 「うん!お兄ちゃん!!」

 「……え?ちょっとまって二人相手なn」

 カッコつけた手前、北条院が一層ヘタレに見えました。


―――…

 (……鬱憤。イライラする)
 施設内を無意味に徘徊するゴスロリ少女、天草。彼女には謎が多い。
 天草は一人でいることが多く、その心の中は誰にも明かさない。
 (だれか遊んでくれないの?つまんない)
 機関でも特に異質な彼女は決して集団に馴染むことは無い。正義のために戦うこともない。
 「……っ…」
 ここで、何かを察知した天草は立ち止まる。懐のデバイスが震える。狂い、疼く。侵食された本能が告げる。

 ―異形が現れた―

 「……好機。丁度暇だったし」
 「行きましょう。餌の時間よ『天后』…」

 そう言って、天草は足取り軽く闇へと溶けていく。彼女の姿はもう見えない。


―――…

 「はぁ!せいッ!」
 「うおっと!」
 「大丈夫お兄ちゃん!?」
 ぐるんぐるんと振り回される大きな剣。いかんせん大きすぎるため太刀筋が分かりやすい。
 北条院もその事を痛感していた。戦闘を開始してから数十分は経つが、自身の刃が平民兄妹に当たる
気がしない。おもしろい程よく避けられる。
 「ありゃー……だめだめだな北条院」
 北条院の戦いっぷりに、青島は思わずそう言葉をこぼさずにはいられない。怠けてきたツケである。
 「五月蝿いですわ!今から巻き返すところなんだから見ていなさい!」
 『"オーラ""ソード"』
 このままではいけないと危機感を顕にする北条院。攻勢に出る為、コードをデバイスに入力する。
電子音と共に発せられる青き光。それは北条院の大剣の刀身を包み、さらに巨大な刃と化す。
 「どうです!」
 「さらに大きくしてどうすんだよ……」
 「くらいなさい!!」
 ぐあっと、振り下ろされる蒼き刃。平民兄妹は後方へと後ずさり回避する。そして間を置かず北条院に
向かって射撃を行った。
 「!?」
 無駄のない動きに焦る。訓練された動きだと、北条院には思えた。
そしてそれは北条院の思い過ごしなどではなく、本当にこの二人、平民兄妹は数多の特訓を乗り越えてきた
精鋭である。それくらいの力量がなければ、とても王鎖の護衛など務まらないのだから。
 「一菜!?ケガはないか!?」
 「大丈夫だよお兄ちゃんっ!」
 「あーよかった!それじゃあこのまま一気にカタをつけるぞ!」『"ラピッド"』
 「うん!」『"ラピッド"』
 コードを入力し、北条院にむかって駆け出す二人。矢の如しスピードを誇る特攻に北条院は内心動揺しつつも
大剣で迎え撃つ構えを取った。迫り来る二つの影。息を飲みその影を睨む。北条院の取る行動は一つ、前後
への回転斬り。二人という利点を彼らが活用しないわけがないと北条院は踏んでいた。となれば前後からの攻撃が濃厚であると考えた為である。

 …しかしその考えも、突然に響くアナウンスによって無駄となってしまう。

 『全戦闘員に告ぐ全戦闘員に告ぐ!侵入者反応有!異形である可能性大!直ちに索敵行動へと移行してください!繰り返します―』

 「なんだ…?」
 本部施設全域に流れるアナウンス。それは王鎖達の演習を止めるのには十分なものだった。
 「侵入者……ですって?」
 「何かヤバげじゃねぇ?」
 「でしょや」
 相変わらずボケーっとしている白石たちとは相反し、王鎖は何時にも増して顔を強ばらせ、平民兄妹に指示を
出していた。アナウンスを聞いて半ば条件反射的に瞬時、適切な判断をするところはさすがとしか言いようがない。
 「演習は中断だ。悪い鼠が迷い込んだらしい」
 「でしょうね」
 「私たちは早速侵入者の捜索に当たる。君達も各自行動に移ってくれ」
 「ふぁーい」
 「おいーっす」
 王鎖から演習中断の旨が伝えられ、白石と青島は一安心して返事をする。王鎖と戦うくらいなら異形と戦った
方がマシなのだろう。
 「……ふ、ふん!全く、あと少しで勝てるところでしたのに」
 冷や汗を拭い、作ったような残念顔で言う北条院。そんな彼女のある一点を見つめ、白石と青島は「ああ…
これは負けていたな…」と呆れるのだった。
 「さ、なにをしていますの!私たちも行きますわよ!」
 そう言った北条院の下半身は、パンツ一丁であった。

「はぁ……」
 トイレの鏡に向かって溜息をつくのは陰伊女史か。その億劫な表情が彼女の心理状況を物語っている。
苦悩に縛られ重くなった心の蟠りを吐き出すように深い溜息を出そうと彼女の心は一向に晴れることはない。
 「私は……私がわからない……何をすべきなのか…わからない……」
 ただひたすらに繰り返される自問自答。答えのでない自らへの問いかけに、苛立ちだけが募る。
 「もういっそ……死んだら楽になれるかな……?」

―「いいねぇ!そうしなよ……」―

 「!?……誰ッ!」
 自分以外誰もいない筈のトイレに響く他者の声。陰伊は一気に警戒を強める。声の主は何処だと陰伊は室内
全域を見回すが……それらしき姿はない。
 「ど、何処?……出てきなさいっ!」
 「ここだよ」
 「ッ!?」
 耳元で声がしたかと思い、陰伊は後ろを振り向こうとするも、自身の首が何かに掴まれていて振り向くことができない。
腕だ。紫色の腕が陰伊の首を掴んでいる。そしてその腕は、鏡の中へと繋がっていた。
 「か……は……!?」
 「ひっひっひ…くるしいか?おりゃおりゃ!」
 首を締める腕が片手から両手へ増える。ギリギリと締められる己の華奢な首に危機を感じる陰伊。
抵抗しようと手を振り回すも相手には当たらない。何故なら陰伊の首を締めている紫色の腕の持ち主は、
鏡の中に居るのだから。
 「おでの名前は紫鏡……どうしてこんな事になってるかワカンネだろ?おでは鏡の中を移動することがデキンダヨ」
 「な……!?」
 「このままおとなしくおでに喰われろヤ?アハハハ!」
 首を締める力が一層強くなる。落としにかかっているようだ。それを分かっていて、陰伊は抵抗をやめた。
 (ああ……ここで死ぬのかな……でも…もういいや……死ねば……許してもらえるよね……)
 「ごめ…なさい…おと…さん…あかあ…さん…」
 ごめんなさい……陰伊…三……!
 陰伊の大事にしていたカエルのお守りがポトリと床に落ちる。そんな時だった。

 「ちょおおおおおおっとまったあああああああ!!」
 『"ブレイブ""クロウ"』

 鉤爪が、トイレの鏡を割る。紫色の腕はいつの間にか陰伊の首から消えていた。
 ふと、目の前の少女と目が合った。そこには、陰伊の見知った顔があった。
 「幸ちゃん……!」
 「助けに来たべさ」
 白石幸。第十一英雄白石幸である。
 陰伊はすぐにでも「ありがとう」と言いたかった。しかし先程まで無視していた手前、素直になれない。
 「な、なんで助けに来たの…っ!別に……あのまま死んでも……」
 これでは感謝どころか、その逆だ。
 「……陰伊ちゃん」
 「……な、なに?」
 「馬鹿っ!大馬鹿者!」
 「っ!?」
 「愚か者!未熟者!世間知らず!自意識過剰!社会不適合!被害妄想!」
 「…………」
 「クズ!ゴミカス!ゴキブリ!ビッチ!ゴキブリ!ビッチ!ゴキブリ!ゴキブリ!ビッチ!」
 「ちょっとそれ言いすぎじゃない」
 「うん言い過ぎた」

「……何で、死んでもいいなんて言うのさ?」
 白石は陰伊に問う。その言葉の真意はなんなのか、白石には判りかねた。
 「私は……人を殺したんだよ……生きている価値なんて無いよ……」
 「そういうこと……陰伊ちゃん?死んだからって罪は消えないよ?」
 「じゃあ……どうしろっていうの!?わ、私にはこれしか……!」
 「逃げるつもり?」
 「逃げる…?」
 「逃げてるだけだよ、それは。死んで楽になろうだなんて……ホント甘いよね陰伊ちゃんは」
 「そ、そんな事思ってない!」
 「思ってるよ。陰伊ちゃんは現実と向きあおうとしてない。嫌なことから逃げるのが許されるのは子供の間だけ」
 「陰伊ちゃんはいつ大人になるの?」
 「!!」
 陰伊の肩がビクっと震える。まるで自分の心臓を掴まれているような感覚に陥る。
白石はまっすぐと陰伊の瞳に目を合わせていた。幼子を叱る母のように。きびしい目で。
普段とは対照的な白石の様子に、陰伊は戸惑っていた。白石のこんな顔、陰伊は見たことがない。
陰伊には、今の白石が自分よりも遥かに大人に見えた。それと同時に、己の幼さを実感した。
 「人はいつか、変わらなくちゃいけない時があるんだべさ……陰伊ちゃん」
 「ひ、人はそう簡単には変われないよ……私はどうすればいいのか……わかんないよ…」
 「それは……」
 「いーっつまでくっちゃべってんのかなぁ!?アア?」
 そう言って廊下の鏡の中から現れる紫色の皮膚の異形"紫鏡"。針のように先の尖った人差し指をゴムの
ように伸ばし、白石を襲う。白石のゴーグルに紫色の物体が一直線に伸びてきているのが映る。
白石は目を見開き、感覚を研ぎ澄まさせる。単調な動きだ、白石にはそれの動きが手に取るようにわかった。
 「寧ろ何で今まで待っててくれたのか疑問なんだけど~!そおいッ!」
 「うギィ!?」
 白石の目の前まで来たところで、異形・紫鏡の人差し指が切り落とされる。緑色の血飛沫があがる。
自若とした、確実に見切った一撃。いつものおちゃらけた白石の顔は、もう何処にもなかった。
 「ヤッてくれるじゃん……!」
 人差し指を切り落とされ苦痛に表情を歪ませる紫鏡は逃げるように鏡の中へと引っ込む。
 白石はすかさず腰のハンドガンで鏡を射ぬいた。
 「やったしょや?」
 「それって生存フラグだからさぁマジデぇ~」
 別の鏡から上体を覗かせる紫鏡。そこからまたしても指を伸ばし、白石の肩を掠める。
 「くっ…!」
 「まだまだいくぜえぇぇぇぇ!!?」
 調子づいた紫鏡は攻撃の手を強める。鏡から出て白石の身を切り裂いては鏡にまた戻る。
ヒットアンドアウェー、効果的な戦法だ。別名チキン戦法。しかしこれで白石が攻撃できない事もまた事実。
 「うぐ……!卑怯でしょや……!!」
 「卑怯もらっきょも大好きだぜええええ!!」
 攻撃はどんどん激しくなっていく。どんなに切りつけられても、血反吐が出ても、白石は決して膝を折らなかった。
 「幸ちゃん……!」
 (私は…何のために英雄になったの?……あの子との約束を守るため……だったかな……?きっかけは
そうだったかもしれない……何が正しいのかわからないし……どう罪を償っていけばいいのかもわからないけど…でも…!)
 「うあッ!?」
 一方的にいたぶられていた白石は紫鏡の強力な一撃により陰伊の横まで吹き飛ばされた。
衝撃のあまり、武装も解けてしまう。
 陰伊の足元に転がる白石のオープンデバイス。そのすぐ近くでキラリと何かが光った。それは陰伊の大切な
カエルのお守りだった。
 それを見た陰伊は何かを決心したかのような真剣な面持ちとなり、お守りと白石のデバイスを拾う。
 「陰伊……ちゃん?」
 「幸ちゃん……私、もう逃げない」
 強く、自分に言い聞かせるように言う陰伊。瞳に宿る光が、意志の強さに反映されより一層輝きを増した。
 「私は今でも何が正しいのか、正義がなんなのかよくわからない。……でも、変わらなくちゃいけないんだ。
弱いままの自分じゃいられない」
  「戦うのは嫌だ……また誰かを傷つけてしまうかもしれないから…でも…それ以上に……」

―目の前で誰かが傷ついているのを見たくない!!―

 「英雄『大陰』・『白虎』…出ます!!!」


 二つの黒い箱が宙を舞う。
 眩い光が、陰伊を包む。熱くたぎるような強い光。内なる闘志が燃え上がり、純血の血流が脈打つ。
魂の慟哭。敵を討ち滅ぼさんと鼓動が高鳴る。
 武装展開。光が収まり、装備に身を包んだ陰伊の腕に握られていたものは、いつもとは違う三枚刃の双剣。
 「か、陰伊ちゃん……何か武器いつもとちがくない?」
 「喧嘩って言うのはね……ノリが良い方が勝つんだよ(CV.関○彦)」
 『"ブレイブ""ダブルセイバー・トリブルブレイド"』
 そう言い陰伊はコードを入力する。三枚刃の双剣が振動する。
 「はああああぁぁぁぁぁッ!!」
 怒声と共に斬り込む陰伊。等間隔に立て掛けられた鏡に写る陰伊の姿は徐々に速度を増して、鏡に写る
時間が約一秒未満になったところで陰伊は紫鏡に斬りかかった。
 「無駄だねッ!!」
 紫鏡は余裕の表情を浮かべ、鏡の中へと入っていく。
 「逃がさない!!」
 陰伊はハンドガンで紫鏡の入った鏡を射抜く。しかしそれでは紫鏡を倒すことはできない。
調戯うように紫鏡は他の鏡から顔を出す。今度はそっちかと陰伊が射抜く。するとまた紫鏡は別の鏡……
この流れが数十回繰り返された。
 「陰伊ちゃん……(ホントはどうするかわかってるけどお約束的に)このままじゃ埒があかないべさ」
 そもそもこの手の相手の攻略法となると手段も限られてくるわけで、白石も薄々陰伊のしていることに気がついていたが。
 「まぁ見てて。私の作戦はもう成功してるよ」
 とまぁ、ノリに乗っている陰伊に水を差してはいけないと黙っておいた。
 『"ゲール""ダブルセイバー・トリプルブレイド"』

 「くっくっく……次はこっから顔出してやるか……!」
 陰伊の背後の鏡から攻撃を仕掛けようと鏡の外に上半身を出す紫鏡。彼は確実にやれると思っていた。
その心中は張り裂けそうなほど興奮しており、快楽の堤防が正に今決壊せんとしているところだった。がしかし!
 「そこだっ!」
 「何ぃ!?」
 陰伊は振り返りざまに紫鏡を一閃する。なんかお約束な流れになってきたよっ的な確変タイムである。
 「ぐあぁぁぁぁぁっ!?貴様ァ!何故おでが後ろから出てくると……!?」
 「あなた……馬鹿だよね。最初に"鏡の中を移動できるって"自分の能力をばらしちゃうなんて……」
 「ぐっ…!」
 「幸ちゃんと貴方の戦いを見てて疑問があったの。そしてそれは実際に戦うことで確信に変わった!」

 「貴方は、鏡に写った鏡にしか移動できない!!」

 陰伊は確固たる事実を紫鏡に突きつけた!
 「だから貴方の移動できる範囲を徐々に減らすため、誘導しつつ鏡を割っていったの。もう貴方は逃れられない!観念しなさい!」
 「く……畜生!!ここは逃げるが勝チィ!」
 「甘い!」
 紫鏡が動くよりも早く、陰伊の刃が紫鏡を斬り裂く。紫鏡は壊れたラジカセのような情けない声を発し、
鏡の中へと沈んでいった。

 「……やったね、陰伊ちゃん」
 「変われたかな……私?」
 陰伊は白石に聞く。自分から見ただけじゃ変化はわからない。白石は答える。見たままの、ありのままの答を。
 「変わったよ。見違えた」
 人は変わらなくてはいけない。だが、変わることが正しいというわけじゃない。
 (正しいことなんてわからない…だけど…)
 「今自分にできることを、やっていきたいんだ」
 「陰伊ちゃん……」
 「これが人殺しの償いになるかわからないけど……何もやらないよりはマシだと思うから……私は、苦しむ人々の為に戦う!」

 (……もう逃げない…そう、決意したんだから!!)


―――…

 「はあ、はぁ……何だってんだよ…!?」
 満身創痍ながらも、紫鏡は生きながらえていた。惨めに敗走する中、内なる憎悪だけが増幅する。
 「くそーー…アイツウ……今度会ったら…!!」
 「……無理。二度目はない」
 「!?……誰だお前は!?」
 紫鏡の前に立ちふさがるゴスロリ少女・天草。その手に握られている紅いデバイスが禍々しく光る。
 「…雑魚に名乗る名前なんて無い。変身・装着」
 『"Fusion Load"』
 朱肉に覆われる天草。しばらくしてそれを突き破るようにして現れる紅い鎧。
 「今日はイライラするから、貴方で遊ぶことにする」
 「な……お前……!?」
 「ねえ、これ、あなたに耐えられる?」
 『"Predation Load"』
 くぐもった声がどこからか発せられる。瞬間、天草の左腕が肉の管に包まれ、獣のものとも昆虫のものとも
つかぬ大きな口へと変化する。紫鏡はその身の毛もよだつ風貌に声を上げそうになった。だがその声を上げる
口には既に肉の管が巻きついており、声が出せない。そしてその管は天草の左腕の口の中へと繋がっていた。
 「……っ…!?ッ…!!」
 「『天后』の糧となれ」

―――…

 「天草くんについて?」
 「ふぇ!」
 天草との戦闘後、気にかかることがあったトエルは大和局長にそのことを尋ねていた。
 「なぜ……天草くんの事を?」
 「あいつ、いぎょーのはんのうがしましたし!」
 「なるほど、そういうことか……ふむ、君には彼女の事を離してもいいかもしれないな」
 「ふぇ?」
 「まず、天草くんののデバイス。あれは"奴"が開発した…通称"フュージョンデバイス"……成長するデバイスだ」
 「せい…ちょう?」

―――…

 ぐちゃ……ぐちゃ……

 「雑魚。全然強くなった気がしない」 
 血肉を啜り、紫鏡だったものを喰らう天草の左腕。
 「これじゃあ全然足りない。もっともっと、強くならなくちゃ」

 その様相は、異形そのものであった。

 …かくして、十二人の英雄が舞台にあがり、いよいよ物語は次の局面へと移行する。
はてさて、彼らを待ちうけるものとは……?

                                  続く


―次回予告―
……姉さん、事件です。

 「火燐たーーーん!!」
 「うせろ!」

私、変態に拾われてしまいました。

 「火燐たんは……生理とか、まだなの……?」
 「……何でそんな事聞くんだ…?」
 「え…だって経血……あ、やっぱなんでもない」
 「経血!?一体何するつもりだよ!!」

毎日のように節操の危機を感じています。

 「私天才ですから!!パンツぐらい被るわぁ~!」
 「そんなに被りたきゃ自分のパンツかぶれよ!!今すぐ私のパンツを脱げ!」

それでもなんとか、人並みに生きています。 

次回。正義の定義・第九話
 「超弩級変態魔法少女ひととせたん!春夏秋登ー場ッ!!」
はっぴーらっきーみんなにとーどけ!!



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