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すすめ!ハルトシュラーズ - (2010/02/14 (日) 18:04:18) の編集履歴(バックアップ)
すすめ!ハルトシュラーズまとめ
+ | すすめ!ハルトシュラーズ |
102 :すすめ!ハルトシュラーズ:2010/02/06(土) 00:14:18 ID:QJpRUg0G
20XX年、日本プロ野球界に新たな球団が誕生した! ○○県創発市を本拠地とする、創発ハルトシュラーズである!
◇ ◇ ◇
無限桃花は、野球選手である。
座津壇高校で1番バッターを打ち、高校通算打率四割という記録を残している。 そして彼女は今日をもって、ハルトシュラーズの一員となることが決まっていた。
「ここか……」
桃花の視線の先には、「ハルトシュラーズ選手一同様控え室」という貼り紙が貼られたドアがある。
今日は球団創設記者会見。会見が始まるまでこの部屋で待機することになっている。
「しかし、控え室が一部屋って無理がないか?」
今日の会見は、選手全員が出席するはずだ。その人数は、40人を超える。
いくら大部屋とはいっても、それだけの人数が一つの部屋に詰め込まれていると考えるとそれだけでめまいがする。
「まあ、だからといっていつまでもここに立ちつくしているわけにもいかないしな……」
独り言を漏らしながら、桃花はドアを開ける。
》く;;;;;;;;;;;;;;@<
(⌒ ソ ⌒) ゝE⌒' ノ ( ̄■ ̄) / ■ ヽ / / ■ヽ | L_ら ■ L_ら
最初に目が合ったのは、顔面が魚の男だった。
「…………」
「おい、姉ちゃん。何ぼけーっとしてるんだ。チームメイトに挨拶ぐらいしたらどうだ?」 「チームメイト?」 「ああ、ここにいるってことはハルトシュラーズの選手以外の何物でもないだろうが」 「……すまない。てっきりマスコットキャラかと」 「おいいいいい!!」
桃花の反応に、魚は大声をあげてリアクションする。
「てめ、このやろ、GGG学園の突撃隊長と呼ばれたアジョ中様をしらねえのかー!」
「その辺にしておけ、アジョ中ー!」
猛る魚に、背後からドロップキックが炸裂する。それをやったのは、桃花よりもさらに小柄な少女だった。
「私はこいつと同じGGG学園出身のよし子だー! あ、こいつはアジョ中な!
これからよろしく頼むぞー!」 「ああ、よろしく」
そう口にする桃花の表情は、若干ほころんでいた。
今や女性のプロ野球選手は珍しくないとはいえ、それでも男性と比べればまだまだ少人数だ。 同じチームに自分以外の女性選手がいるというのは、それだけで心強い。
103 :すすめ!ハルトシュラーズ:2010/02/06(土) 00:15:52 ID:QJpRUg0G
「しかし……」
そのまましばらく雑談を続けていた二人だが、ふいに桃花が話題を変える。
「本当にいろいろな選手が集まっているな、このチームは」
「まったくだなー! 女性選手も私たちだけじゃないし、アジョ中みたいに人間じゃない選手もいっぱいいるぞ! あの人とかなー!」
そう言いながら、よし子が指さした先。そこには、人間を遙かに超える巨体の生物がいた。
/| ,/|
く K 」 _r'" `ヽ ミ(~ ゜-‐ ミ ,i'" ''ヾ`ヽ ミ i'^ ヘ `l ミ _ヽ "'"'゛''""''''゛""´
「あれは……!」
その生物を見た桃花の顔色が変わる。彼の巨体や異形に驚いたのではない。
彼女は彼のことを知っていたのだ。
「ロサンゼルスジブリーズのトトロ選手じゃないか! あんな大物がこのチームに加わってくれるのか?」
「うちのオーナーのコネはすごいらしいぞー! 他にも同じジブリーズのルパン選手とか、京都アニマルズのキョン選手とか引き抜いてきたそうだからなー!」 「何と……」
よし子の口からのぼるビッグネームに、桃花は目を丸くする。
所詮は寄せ集めの新設球団。成績が上を向くには数年かかるだろう。しばらくは我慢の時だ。 桃花はそう考えていた。だが、その考えがたちまち変化する。 このメンバーなら、あるいは……と。 もちろん、現実はそう甘いものではない。スター選手が数人いたところで、それだけで勝てるわけではない。 だがそれでも、桃花は何か手応えのようなものを感じていた。
「なあ、よし子」
桃花が自分の感じた思いをよし子に伝えようとした、その時。
「全員揃ったそうやな」
控え室のドアが、外側から開けられた。
____
/__.))ノヽ .|ミ.l _ ._ i.) (^'ミ/.´・ .〈・ リ 今日からわしがお前等を育てる。 .しi r、_) | | `ニニ' / ノ `ー―i´
やっぱり駄目かも知れない。
桃花はあっさり、自分の考えを覆した。 |
+ | すすめ!ハルトシュラーズ 第2話 |
117 :すすめ!ハルトシュラーズ 第2話:2010/02/06(土) 21:47:54 ID:dpJnH19U
開幕戦当日。 満員御礼となったハルトシュラーズの本拠地・ハルトシュラースタジアム。 そんな球場の様子を、VIPルームから満足げに見つめる人物がいた。 彼女を知らぬ者から見れば、その姿は幼さの残る少女にしか見えないことだろう。 だが彼女は、外見の何百倍という月日をすでに生きている。 この人物こそが、S.ハルトシュラー。 世界的大企業「ソーハツ」の創始者にして、ハルトシュラーズのオーナーである。
「なあ、倉刀」
ワインで口をしめらせると、ハルトシュラーは傍らに控えていたチーフスカウトの倉刀作に声をかける。
「ついに開幕戦を迎えたわけだが……。私のチームは勝てると思うか?」
「難しいでしょうね」
ハルトシュラーからの問いに、倉刀は躊躇なくそう答える。
「たしかに、実力のある選手は集めました。ですが、それでもまだ足りない。
高卒ルーキーをレギュラーで使わざるを得ない状態です。 勝てる可能性はもちろんあります。ですが、それは決して高い可能性じゃない」 「そうか」
悲観的とも取れる倉刀の言葉を、ハルトシュラーは素直に受け止める。
だがその口元は、笑みの形に歪められていた。
◇ ◇ ◇
桃花は、ひどく緊張していた。
彼女は、八番セカンドとして開幕戦のスターティングメンバーに選ばれたのだ。 桃花はその事実に嬉しさと同時に、不安も感じていた。 高校時代、評価してもらえるだけの実績を残したという自負はある。 だが、それでも自分は高校を卒業したばかりのルーキーに過ぎない。 そんな自分にスタメンを任せねばならないほど、ハルトシュラーズの選手層は薄いのだ。
「まあ、今更私があれこれ考えても仕方ないか」
蚊の鳴くような声で呟くと、桃花はマウンド上の投手に視線を向ける。
そこにいるのは、移籍組の一人であるキョン。 去年は京都アニマルズのエースとして20勝5敗、防御率1.98という驚異的な成績を残し、先発投手にとって最高の名誉である沢村賞を獲得している。
「さすがだな……」
118 :すすめ!ハルトシュラーズ 第2話:2010/02/06(土) 21:48:56 ID:dpJnH19U
桃花の口から、今一度つぶやきが漏れる。 キャンプで彼女が接したキョンは、大投手のオーラなどまったく感じさせない、むしろ親しみやすい男だった。 /: : : : : : /: : : :/: : : : : : : ヽ: : : : :: : `、
/: : : : : : : :/: : : /: : ,ィ: /l: : : l: : |: : : : : : ::ヽ ;´: : : : : : : /: : /|/ .|/ .!: : /i: : !: l: : : : : :丶 .i: : : : :|: : : : |/ |/ | /|: :|: : i: : : :゙ヽ i: : : : ::i: : : ::/ ´ ̄ ̄ ̄`'''' ´ ヽ|: : | .|: :丶 |: : : :,-リ: : : | "疋;:ソ` '`'-、_.i: : |: |: ヽ .|: : :/-、',: : | , f:テリ` /: : |: i丶 .ソ、::l,.( _ リ、:| l .` /l: :/| i ,|::\__ ヽ| , //|/ |/ リl: ::| | ′ // l::|リ ヽ ` ― - 、 // ,リ `、 `" /リ お前はトマトか! ,----亠--- 、_`.、 / 彡 // ̄ ̄⌒`ヽ` \::`::-、,_, ´.
だが、今の彼は違う。マウンドに立ったキョンは、鬼神を思わせるほどの圧倒的な闘志を纏っていた。
-‐‐- 、 ,、 ,. -‐‐‐‐- 、
.... .. .:.:::ヽ /,iヽ /:::.:. . . .::::ヽ .:. .::.. .:.::::`、 ´ l | / {::::::.: ..... ........ .:.::::j.、 `゙'ー-、:::::::::} ト j /〃!::::.:. .:.:.:. .:.:.:.:.:. .:.:} | `ヽj ___,.--、___ 」 l L___/∠/ ハ;::::: :::::::: ::::::::::. :シ/ 、 ヽ ヽヽー-‐'、 ヾヲj rトj バ__)'フ ヾ;;:::::::::::::::::::::// .\.:.:.:.:.....:.:.:..jヽ (ヽ\ r-ニ ヾl | `ー'´/`ー-ニ==-//7 ヽ `゙'ー- 、;,;,jヾ;、 `ヽ ゝヽ}`゙ヽ('o)r'フ_/) ......:.:.:.////l `゙'ー- 、_.:.:.:.ヾ、jy-‐-、 /ト、,ハ_(_(Y,)),r'´-、 .:.:////.:ノ `゙'ー--、___`ヽ;,;,;,;jハ ∨ゞ{!iYト、ヽ∨/ノ ヽ,:.:.:} .:.:.:/.:./.://:./ > ヽ三ニ=-‐‐ゝ⌒'ー-‐‐-;ッム、`ー〉∧〈j___,}.:.:.j.:.:./../:∠-‐'ヽ\ `ー-{`゙'ー- 、/ /r'´ ̄/:..._,>ヽヾyシノ_,r-、ノ:::::レ'ー--、 ヽハ |`゙'ー-ト、<<〃/ /⌒ヾ〃⌒ヽ、ソ ̄´,〃ヽ/ー‐´ ̄ ̄ヽ_ jハ \___ゝト、{/ ∠{,,..:::::ソy `、ー-</ /´ ̄二ニー-‐ニコrく__ハ `ー-、 {//´...:.::j ̄´ ヽ、_,.-‐-ヽ, レ'ヾシリ彡ハ、 {´r'/`ヽ`ヾ、 { 〉ゞ,...:::∧ {三彡ミト、jr' ` ̄ ̄´ー-ヾ{ /⌒ヽ \ { ( `)ー' ヽ,,._,,.-ゞ彡シ)lハリ〉 ゝ、ヾ;;,;,シハ、 ヽ ヾ`フ\ 入リシ` ̄∨ソ `ー---‐、_,.-、ト、_ `ヽ ヽ__ノノシ人__,r一'/ ヽ/⌒ヽ) `ー-'ツ二ニ=‐、ノ ,ノト、_ 「`r- ハ く(ヽ/(⌒)ゝ/,r'´/ r' {ゝニソ〃 _〉}\二/ /} / / 〉 `  ̄ ´ 《∨ i Y i l // ト、 jゞリ ` j ´ / | ヽ / _ヽ
※あくまで桃花のイメージです
「プレイボール!」
審判の声が、球場に響き渡る。
20XX年開幕戦、創発ハルトシュラーズ対東京メッツが、この瞬間に開始された。 |
+ | すすめ!ハルトシュラーズ 第3話 |
139 :すすめ!ハルトシュラーズ 第3話:2010/02/07(日) 21:30:13 ID:E2vs77tS
キョンは、その実績に見合う素晴らしいピッチングを見せていた。 曲者揃いのメッツ打線に、二塁を踏ませない。当然無失点だ。 桃花も、「これほど楽な守備は初めてだ」とまで思うほどだった。 だが、好投を見せているのはキョンだけではない。 メッツの先発投手は火浦健。昨シーズンの成績は15勝10敗。 キョンには及ばないが、充分に一流と言える結果を出している。 むしろチームの戦力差を考えれば、キョンに匹敵すると言ってもいいだろう。 そして彼も、今宵その実績に見合うピッチングを披露していた。 試合は投手戦となり、0対0のまま8回裏まで進行した。
8回裏、ハルトシュラーズの攻撃。
この回先頭のアジョ中が倒れ、ワンアウト。打順は、桃花へと回ってきた。 今日の桃花は、3打数ノーヒット2三振。 火浦の球に、まったくタイミングが合っていなかった。 今日の火浦のストレートは、平均して140キロ代中盤だ。プロの投手としては、「やや速い」というレベル。 だが高校を出たばかりの桃花たちにとって、それは「目にも止まらぬ剛速球」である。 むろん、ピッチングマシンが投げるもっと速いボールと対戦したことはある。 だが、人間の投げる球と機械が投げる球が同じはずがない。 物理的にだけではなく、心理的にもだ。 マシンが文字通り機械的に投げ込んでくる球と、一流のエースピッチャーが投げる球をどうして同じと思えるだろうか。 事実、桃花だけでなくハルトシュラーズの高卒ルーキー組は誰一人として火浦からヒットを打てていない。
(このまま終わりたくはないな……)
声には出さず、おのれの胸の中で桃花は呟く。
彼女は、それほどプライドの高い人間ではない。 それでも、このまま終わるのはいやだった。
この打席こそ、打つ。
静かな決意を胸に、桃花は打席に立った。
だが、決意だけで打てるほどプロ野球の世界は甘くない。 かする気配すらない空振り二回で、桃花はあっという間にツーストライクと追い込まれていた。
ふと、桃花はマウンド上の火浦の顔を見た。
火浦は、平然としていた。道ばたを歩いているときのような、ごく普通の表情だった。 試合の真っ最中だというのに、だ。
つまらない。
桃花は、そう言われているような気がした。
むろん、火浦が本当にそう思っていたのかは当人にしかわからない。 もともと、火浦は感情がさほど顔に出る人間ではないのだから。 だが、桃花はそう感じてしまった。それは、紛れもない事実だ。
舐めるな。
次の瞬間、桃花はボールを見るより先にバットを振っていた。
「え……?」
バットがボールをはじき返す音が、桃花の鼓膜を振るわせる。
一拍の間を置いて、彼女は自分が火浦の球を打ったのだと理解する。 すぐさま、桃花は走った。 桃花の一番の武器は、足の速さだ。 もともと高校通算打率四割という成績も、打撃技術というよりは足で稼いだ数字だ。 例え打撃がまだ通用しなくても、その自慢の俊足はプロでも十分に通用する。
140 :すすめ!ハルトシュラーズ 第3話:2010/02/07(日) 21:31:24 ID:E2vs77tS
「セーフ!」
記録は、ショートへの内野安打。無限桃花、プロ入り初ヒットであった。
ワンアウトランナー一塁となり、打順は九番のピッチャー・キョン。
監督はここで代打を出さず、キョンをそのまま打席に送る。 ____
/__.))ノヽ .|ミ.l _ノ 、_i.) そんなん当たり前やろ (^'ミ/.´・ .〈・ リ 得点圏にランナーがおるならともかく、 .しi r、_) | この場面で完封目前のエースを交替させられるかいな | (ニニ' / ノ `ー―i´
そのキョンは無難にバントを決め、桃花を二塁に進める。
/ .: .: :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. ヽ、ヽ,
/ .: .: :. :. :. :. :. :. :. :. :. : i:. :. :. :. :. :. :ヽヽ ,' .: ,: .:. :. :. :. ;. :. :./l:. :. /l:. ;. :. :. :. :. :. l l .i :.l.: :. :.,.i:.., 'l:. :./ l:. / l:..lヽ;.. ;、:. :. :l l :l:. :l :. :.l l/ l/ l/ l/ l:/ l:. :. :,,! レl:.r.i :. :. l.  ̄`'ー_ 、 , ,._ ' ´^ !:. :./ !l.'´!:. : l ''!ニブ '!ニフ` !:.,i/ ヽーl:. :l' ,':./' レヽl: l u i l:./ 〉N ' ,i/ /l l ヽ , ' ,.イ .:.:.! l ヽ、 c. ニ っ ,イ.. ヽ、 (公式戦でバントなんて5年ぶりだから、 ,.. ' ´. l.:.:.:.:.l. l ヽ、 ´ /. !.:.:.l..`ヽ、 上手くいくかヒヤヒヤしたぜ……) ,. '´ ...:.:.: .:!.:.:.:.:.:l ヽ ー './,' !.:.:.:.!.:.:... `ヽ、 ....:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:.:l ヽ、 / !.:.:.:.:.!.:.:.:.:.:.:.....`ヽ、 .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:li , 'ト 、_ ,. 'ヽ l.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..ヽ, .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:.:.:..!! /ヽ l O !! ' >':;ヽ !.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l.! .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.l l /`' 、>ー'-.く/ ヽl.:.:.:.:.:.:.:l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:l
場面はツーアウトランナー二塁と変わり、続く打者は一番のルパン。
彼はわずかに甘くなった変化球を見逃さず、打球をライト前に運ぶ。 桃花は全力で、三塁まで走った。ベースコーチャーが腕を回しているのを確認すると、迷わず三塁を蹴ってホームへ向かう。 ボールの位置を確認する余裕など、今の彼女にはない。 ただ、駆け抜けるのみ。
ハルトシュラーズに、待望の1点が入った。
「ナイスラン」
ベンチに戻ってきた桃花に、穏やかな表情のキョンが声をかける。
「あ……ざ……ます……」
それに応えようとする桃花だったが、全力疾走の直後で満足にしゃべれない。
キョンはそんな彼女の様子に微笑を浮かべながら、その肩を叩く。
「あとは、俺に任せろ」
141 :すすめ!ハルトシュラーズ 第3話:2010/02/07(日) 21:32:31 ID:E2vs77tS
◇ ◇ ◇
九回表、マウンドに立つエースの姿を、ブルペンのモニター越しに見つめる二人の選手がいた。
ハルトシュラーズのリリーフピッチャー、霧崎鋏美とリュウタロス(本名:シン・アスカ)である。 , '  ̄ ヽ
! ノ、ヽ, _! !i _.゚ヮ゚ノi ミ どうやら、今日は我々の出番はないようですね ((!´ ヽ¨ノ ̄]つ `凵 o 厂 ∪ ノiiヽヽ レ ||∥,ヽ! . ヽ|| |ノ _...,,_ _...,,_
‐=ァ´:::::::::::`' ......::`''=- /:::: : .::::::::::::::::::::::'::;'、 /:::: ::::..::.::::::::::::;;;;:::::;;;;:ヾ` //. :::::::::::::::;;;::;;;;:;;;;;;;;;;;;;;ト'、 /イ::::::r'、;;;;;;::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;}` /;::;::::', l;;;;;;;;;;;;:=''" ̄ ̄`ヽ どうでもいいよ ´ |;ハ::::ヾlハ''"_,,,...-―''"´`'''-..__ 俺リュウタロスだし ,.-'‐'"´ ̄_;;;:::-―- 、:::::::::::r―-、`ー、 !ヽ:::::::; '´ `ヽ、/ `ヽ::'、 ,':::::ヽ/ ゙r;', lラシ:/ , }`丶 _{/‐''´ | ', ======:、 f'_,.‐''´ ノ/ } ヽ ___|_|___|_) / /'´ ! ヽ ゙!‐ ┴―――‐''―-...,,,_ | } ―――――― ' `'''ー ‐-...,,,__ {` ノ
わけのわからない理由でふてくされるリュウタロスに、鋏美は苦笑いを浮かべるしかない。
そうこうしているうちにも、キョンはアウトカウントを重ねていた。 二者連続三振で、危なげなくツーアウト。 メッツはここで代打の切り札、「スラッガー10番」こと富樫平八郎を送り出す。 だが彼とて、今日のキョンを止められない。 結果はセンターフライ。ルパンのグラブに打球が収まった瞬間、試合終了が告げられる。 創発ハルトシュラーズは、チーム最初の試合を白星で飾った。 |
+ | すすめ!ハルトシュラーズ 第4話 |
197 :すすめ!ハルトシュラーズ 第4話:2010/02/11(木) 21:49:11 ID:sEksseny
「バームクーヘン!」
奇怪な叫び声と共に、桃花はベッドから飛び起きた。
「ゆ、夢か……」
「なんだなんだ! 敵襲か!? 刺客かー!?」
冷や汗を浮かべながら呟く桃花の横で、その大声に起こされたよし子が慌てふためく。
ここは遠征先のホテル。桃花とよし子の二人は、同じ部屋に宿泊していたのである。
「すまない、よし子。起こしてしまったな」
「んー、どうせもうすぐ起きる予定の時間だったし、それに関してはかまわないぞー! けど、いったい何があったんだー?」 「たいしたことじゃないんだ……。ただ、夢を見た。妙な夢をな……」 「夢ー?」 「ああ。私が刀を持って、無数の化け物を次々と切り伏せていく夢だ。いったいなぜあんな夢を見たのか……」 ┌──┐ i二ニニ二i i´ノノノヽ) Wリ゚ -゚ノリ 夢と聞いて ⊂)_介」つ <__l__〉 〈_ハ_〉 ____
く/',二二ヽ> |l|ノノイハ)) |l|リ゚ー゚ノl| 飛んできたですぅ ,ノl_|(l_介」づ ,≦ノ`ヽノヘ≧ ミく二二二〉
「うわっ、びっくりした!」
突如目の前に現れた二人組に、まだ目が覚めきっていない桃花は大げさに驚く。
しかしそれが誰なのか理解すると、その表情はとたんに冷めたものとなった。
「何だ、変態姉妹か。呼んでないから帰れ」
「なっ、いちおう翠星石たちの方が年上ですのに、何ですかその口の利き方はぁ!」 「そうだよ! 僕たちは変態じゃないよ! 仮に変態だとしても、変態という名の淑女だよ!」 「蒼星石! てめえは黙ってるですぅ!」
ミニコントを開始した双子を見つめながら、桃花は小さく溜め息をつく。
彼女たちは大卒。自分は高卒。たしかに彼女たちの方が年上だ。 だが、外見からいえば二人の方が自分よりずっと幼く見える。
「というか、よし子もそうだが……。このチーム、妙にちっちゃい女の子が多くないか?」
「それはしょうがねえですぅ。創発市の特産品は美少女ですから」 「特産品扱い!?」 「温暖な気候と住民の柔和な人柄で、かわいい女の子に育ちやすいらしいよ」 「どこのマリネラ王国だよ! というか、この板の住民層的に『パタリロ!』ネタが通じるか不安だわ!」 「お前は何を言ってるんだー!」 「はっ!」
198 :すすめ!ハルトシュラーズ 第4話:2010/02/11(木) 21:50:06 ID:sEksseny
よし子のツッコミを受け、桃花は我に返る。
「すまない……。実は私は、昔から突然何かに取り憑かれたようにわけのわからない台詞を口走ることがあるんだ……。
私の家系はもともと神職だから、霊的な何かが関係してるんじゃないかとは言われてるんだが……」 「はっ、この科学全盛の時代に霊ですか? そんなオカルトあり得ないですぅ」 「なんかお前が言うとすごい違和感があるぞー!」
桃花に冷ややかな視線を向ける翠星石に、またしてもよし子のツッコミが飛んだ。
「ふむ……。変な夢というのも、それに関係があるのかも知れないね。
とりあえず、気が向いたら僕たちに相談しなよ。野球の片手間とはいえ、大学じゃ心理学を勉強してたから。 少しは役に立つと思うよ」 「ああ。頼りにさせてもらうよ、変態先輩」 「いや、だから変態言うな」
◇ ◇ ◇
その日の夜、桃花は大阪ドームで行われる大阪ドリームスとの試合に出場していた。
試合は7回表まで進み、得点は2対1。ハルトシュラーズが1点のビハインドだ。 だがハルトシュラーズはこの回、逆転のチャンスを迎える。 ツーアウトからよし子がツーベースヒットを放ち、さらに続くアジョ中がレフト線ギリギリへのポテンヒット。 ツーアウト一塁・三塁という好機で、桃花の打順が回ってきた。 ちなみにここまでの桃花は、いつもの如くノーヒットである。
(なんか遙か遠くでバカにされている気がするが……。まあいい。
私の得点圏打率は、通常の打率と比べて一割以上高い。 つまり自分で言うのもなんだが、チャンスに強いということだ。 今回のチャンスも、ものにしてみせる!)
不敵な笑みを口元に浮かべ、桃花はバットを構えた。
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+ | すすめ!ハルトシュラーズ 第5話 |
238 名前:すすめ!ハルトシュラーズ 第5話[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 16:16:02 ID:H57fH7yb
「ボール! フォア!」
審判のコールと同時に、桃花はバットを足下に置き一塁へと向かう。
(ちっ、できれば私のところで決めたかったが……。だからといってあんなボール球を打ちにいくわけにもいかないしな。
仕方ない。次のバッターに任せよう)
渋い表情を浮かべつつ、ベース上で立ち止まる桃花。
次はピッチャーの打順だが、ここで監督は代打を送る。
『ハルトシュラーズ、選手の交代をお知らせします。バッター、門矢に代わりまして……』
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名前をコールされた蒼星石の表情は固い。
彼女のポジションはキャッチャーだ。双子の姉である翠星石と、リトルリーグ時代からずっとバッテリーを組んできた。 だがハルトシュラーズのキャッチャーは、元メジャーリーガーのトトロがいる。 足こそ遅いが、打撃も守備も超一流。彼がいる以上、蒼星石に出場の機会はめったに回ってこない。 だから、これはチャンスなのだ。蒼星石は打撃も悪くない。 結果さえ残せば、また使ってもらえる。例え代打要員だとしても、まったく試合に出られないよりは遙かにましだ。 蒼星石は燃えていた。だがその闘志は、体に余分な力みをもたらしていた。 第三者からでも、それがわかるほどに。
「わっ!」
打席に向かおうとする蒼星石の顔面すれすれに、ロージンパックが飛んでくる。
蒼星石は、反射的に飛んできた方向へ顔を向けた。 そこには、筋骨隆々の巨漢が立っていた。
「スミスコーチ!」
ジョン・スミスヘッドコーチ。蒼星石は、その男の名を呼ぶ
239 名前:すすめ!ハルトシュラーズ 第5話[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 16:16:53 ID:H57fH7yb
「いったいどういうつもりですか! こんなことして……」 「いや何、お前がずいぶん力んでたように見えたからな。少しリラックスさせてやろうと思って」 「僕が……力んでた?」 「ああ。気合いが入るのはおおいにけっこう。だが、無駄な力は入れるな。 力が余分に入れば、体の動きが鈍くなる。ほどほどってものを忘れるな」 「……はい!」
伝えられた言葉は、シンプルなもの。だがそれは、蒼星石の心に深く染みこんでいく。
改めて打席に向かう彼女の顔には、先程までの力みはすっかり見られなくなっていた。
(力を余分に入れず……。ほどほどに……)
打席に立ってからも、蒼星石はスミスの言葉を心の中で繰り返す。
そして初球。インハイへのストレートを、彼女は右方向へ流し打った。 打球はファーストの頭を越え、ライトの前に落ちる。 その間に、よし子とアジョ中が生還。得点は2対3となり、ハルトシュラーズが逆転した。
(やった……。やった……!)
表面上は平静を装いつつ、蒼星石はその胸の内で喜びの感情を爆発させた。
◇ ◇ ◇
9回裏、ドリームスの攻撃。得点は蒼星石のタイムリー以降両チーム共に変化なく、2対3。
マウンドには、ハルトシュラーズの守護神が向かう。
『ハルトシュラーズ、ピッチャーの交替をお知らせします。
やる小笠原に代わりまして、霧崎。背番号、833』
刃物のように鋭い目つきを深くかぶった帽子で隠し、長い髪の少女がダイヤモンドの中央に立つ。
彼女こそが、霧崎鋏美。ハルトシュラーズ不動のストッパーだ。
「さて……。今宵も、魅せますか」
誰に言うでもなく呟くと、鋏美は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
ボールのスピードでは、女性がいくら鍛えようと男性に勝つのは難しい。
だから鋏美は、野球人生の中で早々に球速をアップさせることを放棄した。 その代わりに、彼女は変化球を磨いた。 ただ黙々と、おのれの武器を作り上げるために。 そして、刃のごとき変化を見せるシュートが完成した。 一流打者ですら捉えることが困難なそのシュートは、鋏美にプロ一年目からストッパーという重要なポジションを与えるにいたる。
そして今宵も、鋏美のシュートは冴え渡っていた。
「ストライク、バッターアウト! ゲームセット!!」
ドリームスの強力クリーンナップを、完全シャットアウト。
「鋼の女神」は、今日もその実力を見せつけた。
「……斬り捨て御免」
勝利の喜びもさほど表に出さず、クールに呟く鋏美を観て桃花は思う。
「この人と私って、微妙にキャラかぶってるんじゃないだろうか」と。
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