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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 C 2/3 - (2010/06/15 (火) 15:46:04) の編集履歴(バックアップ)



正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 C 1/3


 「うりゃああああああ!!」
 「その程度か…?やはり所詮は只の人か…」
 先程から一方的に白石が攻撃を加えるも、狐の化物にはさしてダメージが蓄積していないように見える。
 冴島は「このままではいつまでたっても対象を撃破するのは不可能」と考えていた。となれば弱点を探すのが
常套手段というもの。
 「燃え尽きろ!!」
 「おっと…!?」『"ゲール""レッグ"』
 業火の炎を吐き出す化物。白石は疾風属性を足に付属し、高速バックステップで回避する。そうして冴島の横まで
下がってきた白石は苦笑いをしながらこう言った。
 「全く攻撃が効かないでしょや~…」
 「…何か弱点があればいいのだけど…」
 このままではジリ貧だ。何かいい手はないかと冴島が思考していると…狐の化物は歪んだ笑みを浮かべ口を開いた。
 「ククク…人ごときに我は倒せぬ…同じ寄生の力を持たぬ者にはなぁ…!」
 驕慢しきる狐の化物。そう、"寄生"である悪世巣寄生は、同じ"寄生”と呼ばれる力でないと倒すことが出来ない。
つまり実質、冴島達では悪世巣を倒すことは出来ないのだ。しかし…
 (これだから…馬鹿は…やりやすいわ…)
 冴島はそんな状況下でも余裕の表情を崩さなかった。
 「ふふ…あなた、気がついていないのかしら…?」
 「何…?」
 「その子、まだ本気の半分も出してないのよ…?」
 「デタラメを言うな!」
 冴島は狐の化物を挑発する。嘲笑うかのように、下卑した視線を向け。
 白石は喫驚の色を隠せなかった。自分は全く手など抜いていなかったのだから。つまりは、冴島の言葉はハッタリ。
 「ちょ…冴島さぁん!」
 「いいから…黙って私のいうことを聞いて…ゴニョゴニョ…」
 「あ、なるほど」
 何かを白石に耳打ちした冴島。それは悪世巣を倒すことのできる奇策となり得るのか…?
 「どうした、かかってこないのか?」
 「うっせーしょや、お前みたいなザコ、鼻くそホじりながらでも相手できるべさ!」
 「そうそう、あなたみたいな弱っちい化物、まともに相手をする気なんて無いのよ?」
 白石も冴島の挑発に乗っかり、悪世巣のボルテージを上げる。ここまで人間にコケにされては悪世巣も黙っていない。
 「聞いておれば好き勝手ぬかしおって…いいだろう、最大火力で貴様等を焼き尽くしてくれる!!」
 悪世巣の口元に膨大なエネルギーが集まる。恐らく大きな攻撃がくる、気配を感じ取った冴島は即座に合図を送る。
 「今よ白石さん!!」
 「ラジャー!!」『"ゲール""レッグ"』
 「!?」
 一瞬にして悪世巣目の前にまで移動する白石。彼女の狙いは一つ。
 「馬鹿かお前…そんな真正面で受けたら…この我でさえもただでは済まない規模の攻撃だぞ…?まあよい、死ね」
 化物の大口から、今にもあふれんばかりの炎がその全貌を露にする。紅蓮の業火。悪世巣は勝ちを信じて疑わなかった。
 白石の、ニヤけた口元など全く気にすること無く…

 「また来世」
 『"リフレクト""クロウ"』

 (な、なんだ…!?)
 白石は緑の膜を鉤爪の前に展開させた。すぐそこには悪世巣の炎。炎は間もなくその緑の膜にぶつかり…
蒼い炎と化し、悪世巣に跳ね返っていった。
 「な、何だとォ!?この我の炎を、はねかえッ…グアァァァァァァァァァッッ!!」
 自らの炎に身を焦がす悪世巣。いくら自分の炎とて、これほどの至近距離、しかも自身の本気の攻撃…決着はついた。
 "リフレクト"は相手の攻撃を跳ね返す、白石のデバイスにのみ搭載されているシステムだ。跳ね返した攻撃は、
倍返しとなって相手に返っていく。相手が強ければ強いほど、リフレクトはその力を発揮する。
 「自身の炎に焼かれ、己が咎をその身に刻め」
 ボソリと、冴島はお決まりの台詞を呟く。
 悪世巣は、体が燃え尽きる前に光の粒となって消えていった。術が切れたのだろう…

―――…

 「よぉー…こんなとこまでわざわざ来るなんて、ご苦労なこった…」
 「お前も私達の邪魔をする気か?死にたくなかったらどけ!」
 「ハッ…威勢の良いクズ共だな、気に入った。第一英雄、炎堂虻芳…直々にお前らの相手をしてやるよ。光栄に思えよォ!!」
 炎堂はビル前に陣取っていた。彼はさほど自分が動かなくても他の人員だけで対処できると見ていた。事実、異形
はここまで殆どやって来ない。とはいえ怪しい子供が三人程やって来たが。一人は異形のようにも見える。
 炎堂は銃剣の銃口を子供達に向ける。この先は関係者以外立入禁止だ、子供とて容赦はしない。後数cm動いたら
足を射抜く。それ程の気概で炎堂は引き金に指をかけていた。その時であった。

―遠くに聞いた声の主はただの…僕の祈りをこえて―
 ―今すぐ行く、西の暦から君を呼ぶペンギンかかか…― 

 訳の分からない歌詞に妙に陽気な歌声。どこから聞こえてくるのか…誰が歌っているのか…
その場の人間は皆周りを見回すが…それらしい人物はいない。
 もしや…と、炎堂は空を見上げる。空は満天の星と月が輝くなんてことない夜空…
 「…ん?」
 そんな中、月に重なる黒い何かが炎堂の目に映った。そしてそれは次第に大きくなっていく。人影…奴か!
炎堂は大方声の主はあの人影だろうと判断した。

 「待たせたな!少年少女諸君!!」

 しゅたっ。両者の間に降り立つフードの人物。肩に乗る怪しいペンギン。ローブは色あせてボロボロ。相当な時間
この人物が放浪していたことを伺わさせる。風になびくローブが、月をバックに不敵に微笑む口元が、只者ではないことを予感させる。
 「何だてめぇ!」
 「我、義に流離い義に生きるもの…、今宵、彼らに義がありと判断し…助太刀に参った!!現世に巣食う悪の組織め!
私がムッコロしてあげるから覚悟なさーい!!ふんす!!」
 そう言って、ローブを脱ぎ捨てる彼?彼女?ともかく…今、明らかになるローブの中の真像。
 「"麻"法少女!オールバケーション!見参!!」
 フリフリした短いスカート。ピンク色の髪にシルクハット。そしてその手に握られているは注射器とトイレのギュッポン。
これは痛い。
 「…魔女っ子&変身ヒロイン創作スレでやれ」
 「勘違すんなよ、私は麻法少女だっつってんだろうがハゲ!!…と、失礼、つい汚い言葉が出ちゃって」
 突然現れた『麻』法少女、オールバケーション。彼女の狙いとは一体?炎堂にとってはあまりよろしくない展開のようだったが。

 「ちっ…討ち洩らしたか…全く、俺らが『正義』に歯向かうたァ…いい度胸してんじゃねぇか…お前…」
 オールバケーションの邪魔により、子供達を逃してしまった炎堂。まぁ、中にはトエルがいるので問題はなさそうだが
…炎堂はふと、そのトエルの事が心配になった。妙な胸騒ぎが、蟠りとなって炎堂の胸中に蔓延る。
 (…機械つっても…まだガキだかんな…)
 「私は己の信ずる『信義』を貫き通すだけだわ…行くぞ下郎!玉梓の一番弟子が我が力!地獄世界まで轟け功名!」
 「ふん…往生しろ、カスが」
 そんな不安を振り切るように、炎堂は戦いに興じる。

 「キング、お前はあっちに行ってなさい…さぁ、行くわよ!我が力ひれ伏せ下郎が!」
 そう言い、肩のペンギンをおろすと、オールバケーションは三本の注射器を取り出した。それぞれ赤青黄の
三色の液体で満たされている。炎堂はその注射器のラベルに描かれる紋章に偶然目をつける。
 「お前…それ…春夏秋冬(ひととせ)家の紋章か…?」
 「?…私の家系のことをご存知で?」
 「ああ…忘れるわけねぇぜ…異形掃伐の忙しい時期…平気な顔して科学省から抜けやがったクソッタレの一族だ」
 「あのクソ親z…お父様をあれこれいうのは勝手ですけどぉー?一族をばかにするのは許せないわ…!」
 オールバケーションは三本の注射器を自分の腕に同時刺しする。
 「なんだぁ…?」
 「赤いのが"魔素倍化剤"青いのが"筋力バーストポーション"黄色いのが"やせ我慢の薬"」
 「そうか…お前の親父は薬師だったもんなァ…とてつもねぇ効き目だが、副作用が強すぎて使いモンになんねーって
有名だったぜ~?」

 「使い物にならないかどうかは…その目で確かめろ!いくわよ悪の大幹部!」
 「来やがれ!生身で英雄に挑むなんざ無謀だっつーこと、教えてやる」
 炎堂は銃剣を向ける。剣の部分で照準を定め…引き金を引く。ドカン。弾がオールバケーションに向かって飛んでいく。
 「引き寄せ☆ぎゅっぽん!"詠唱開始・[spellstart/mist=30 Tw...0.19~]Vmeste tyazhesti iskazhaet 1[end]"」
 対してオールバケーションはトイレのギュッポンをかざし、不思議な言語を口にする。
 するとギュッポンの周りに光の輪ができ、弾丸はそれに吸い込まれるようにして引き寄せられ、ギュッぽんの前まで
来たところで静止。ポトリと落ちる。
 「どうよ!古き科学の遺物では、魔術も科学も兼ね備えた天才の私に敵う訳ないわ~?」
 「あ?その程度で調子にのんじゃねーぞ?」
 「じゃあこんなのは…どうかしらぁ!!」
 オールバケーションが取り出したるは、また別の薬品の入った小瓶。それを体にふりかけると…なんと彼女の姿は
みるみる薄くなり…最終的には消えてしまった。
 「"インビジブルドラッグ"姿を消す薬よ…私の姿、見えるかしらん…?」
 「ほーお、確かに"姿"はみえねぇなぁ…」
 「さぁ、リンチタイムだ!!」
 「だがなぁ…」
 「!?」
 炎堂は自分の背に銃口を向け、発砲する。
 「…サーモグラフィーってやつかしらん…?」
 「そうだ。てめぇの体温をゴーグルが捉えてたんでなぁ…」
 オールバケーションは炎堂の後方に姿を現す。その顔の頬には綺麗な一本線の傷が出来て、血を滴らせていた。
 「ふん、私の力はこんなものじゃない…悪の組織に負けてたまるもんですか」
 「バカ言え、悪はどっちだ?この事態を引き起こしたのは…どっちかなぁ?あん?」
 「ならば黙っていろと言うのか?弱きを見捨てるのが正義か?ふざけんな!正しい人間はいつも少数派で、
誰かが手を差し伸べてやらんといけんのじゃ!それが信義!正しきことに助力は惜しまんのが仁義!
大切なものを守る大義!お前らの悪事はもうとっくにお見通しだぜよ!ってやばい地ががが」
 「…ガキの発想だな…」
 『"エナジー""ブレードライフル"』
 銃剣の銃口に光が集まる。
 「そう軽々と義だとかなんだとかを語んじゃねえ…いくらご立派な考えを持っていようがなぁ…死んだら、意味ねえだろうが…!」
 「…っ!」
 程なくして放たれる光の弾。オールバケーションの体など簡単に飲み込んでしまいそうな大きさの光の玉を、
彼女は何やら怪しげな薬を使い回避するようだ。
 薬品を注射したオールバケーション。その姿は一瞬にして消失する。かと思えば、10m程離れた場所で膝をついて
いた。
 「"瞬間韋駄天丸(1秒ウェイト付き)"…5秒高速で動ける代わりに1秒動けなくなるのが玉に瑕…」
 「さっきから猪口才な、いい加減にしやがれ!」
 「お次はこれよ…はあぁッ!」
 オールバケーションの拳が青白い光に包まれる。高密度の魔素だ。
 「なんだぁ…?」
 「魔素の膜で覆った拳よ…あたったら…痛いわよねぇ~?」
 「おうおうおう…全然魔法少女じゃねえなおい…」
 「"麻"法少女よ!!」
 地を蹴り、弾丸のごとく突っ込み、炎堂に急接近するオールバケーション。筋力バーストポーションによって
強化された筋力に加え、魔素に覆われた重い拳が炎堂に襲いかかる。拳の青く光る魔素の残光が、彼女の進む軌道を描いた。
 炎堂は内心感心していた。生身でここまでやれる人間がいるとは…思いもしなかったためである。
薬剤で自身を強化し、魔術で攻撃。様々な系体の魔術を使ってくる上、戦法も千差万別。一つを習得するのにも
相当苦労するであろうにも関わらずこの若さ。炎堂は危惧する…もしかしたらこいつは本当にとんでもない奴なんじゃないか…と。
 「せいせいせいせいせーい!!」
 「チッ…なかなかやるじゃねぇかクソにしては…!」
 猛ラッシュ、オールバケーションの拳の応酬。炎堂は一撃一撃を見極め、かわし、受け流す。右ストレート、アッパー、
お次は首を跳ね飛ばす勢いで放たれる裏拳だ!それを炎堂は首を低くして避けた。チャンス!裏拳後の隙を見て炎堂は攻勢に出る。
 「そこだァ!」
 だがしかし、ここぞというところで足が動かない。何かがおかしい。右足に力が入らないのだ。
 「ふ…動かない?そうでしょうね…あなたの右足に微量の痺れ薬を注射しましたわ」
 「いつの間に…?」
 「アッパーの時…予備動作の際にこっそり…感覚はないでしょう?麻酔もはいってるからねぇ?」
 「とはいえ、微量だからすぐ解けちゃうけどねぇ~?」
 その言葉の通り、炎堂の右足の不自由はすぐさま解消された。炎堂も流石に今の無駄の無い攻撃に、
冷や汗を吹き出さずにはいられない。一体この少女はどれだけの技能を有しているのか、底が見えない。
 「クソが…!」
 「どうかしらん?あなたではこの天才秀才人類の宝である私にかなうはずないんじゃなくて?」
 「ほざけ。英雄が負けるわけにはいけねぇんだよ…」
 「はあはあ、そーですか。じゃあ、あなた方の護衛している森喜久雄がどういう人物か教えてあげましょうか~?」
 「…」
 「森喜久雄…第一次掃伐前はヤクザの若頭…異形出現の混乱に乗じて自治区を牛耳る長にまでのし上がった男…
だがその実態は裏で外国に通じ、何やら良からぬ取引をしたり、黒い噂も絶えることが無い裏社会の雄…
そんな男を野放しにする訳にはいかないのよ。今回の騒動にたまたま乗った形になったけど、私の目的は
"森一派"の根絶!そいつらに味方するなら、あなたも悪よ?それが事実!」
 ビシィ!っと確固たる事実を突き付けると共に炎堂を指差すオールバケーション。その顔は自信に充ち溢れ、
己の言葉に間違いはないと言わんばかりのどや顔であった。
 「はぁ…これだからガキは…何が悪だ」
 炎堂は呆れきっていた。これが若さか…と。誰しも若かりし頃は幼稚な持論を持っているものである。
炎堂は、この手のタイプの人間が一番嫌いであった。額に血管が浮かび上がっていく。ただでさえキレやすい
炎堂の頭に下半身の血液を全部持っていく程の勢いで血がのぼる。
 「この世はなぁ…善悪で片付けられる事なんざ…そうねぇんだよ…」
 「…どういうことかしらん?」
 「ヤクザだろうがなんだろうが…この街がここまで復興発展したのは…他でもねぇ森喜久雄のおかげだろうが」
 「!」
 「裏でキタねぇこともやってるだ?それがどうしたってんだよ。綺麗事だけじゃな、世の中やってけねぇんだよ。
昔からそうだろうが…裕福な国の人間が、好きなモン食って寝て生きてられんのは、その分どこかの国が
ひもじい思いをしなきゃなんねー。何かの犠牲の上で平和っつーのは成り立ってんだよ!」
 「犠牲の上での平和…確かにそうかも知れないわね、でも初めから手すら差し伸べないのは間違っているわ!」
 「なら何か?仲良しごっこでハラは膨れんのか?あぁ?俺はな、奴がどんなに汚いことを裏でしていようが、
それが住んでる人間の為になるっつーなら、悪いとは思わねぇ、平和の代償だと思えばいい。俺はそんな森よりも…
力任せにゲリラ戦まがいの犯罪行為を働き、人々を苦しめる連中のほうが圧倒的な悪だと思うがなぁ…違うか?」
 「ふん!悪の組織の考えに耳を傾ける私じゃないもの。いいわ、貴方を本気でやっつけてあげる、キング!」
 炎堂の言葉に、オールバケーションは全く聞く耳を持たない。いまここに存在するのは、正義と悪ではなく、
正義と正義であった。
 「ピギャー」
 皇帝ペンギン、キングがオールバケーションの元へと駆け寄る。
 「いくわよ!変身!」
 「変身だぁ!?」
 白煙弾を地に投げつけ、煙におおわれるオールバケーション。辺り一面に煙が充満する。
煙が気管に入り咽る炎堂であったが、オールバケーションの影からは目を離さなかった。オールバケーションの影に
変化は…みられないように見える。炎堂は「ほんとに変身したのか?」と疑ってしまうほど変化がなかった。
 数秒間の後、煙が退くとそこには、先程と変わらぬ姿のオールバケーションがいた。ただ…
 「…なんも変わってねーじゃねぇか…」
 「よく見なさいよ、横を!」
 「ん…?あ…?」
 蒼い肢体。岩石の如く強靱で盛り上がる筋肉。その様まさに山、筋肉造山帯がオールバケーションの横に存在していた。
 12等身はあるのではないかというその体、よく見てみると心なしか、ペンギンのようにも見えなくも無い。
 「って変身したのそっちかよ!」
 「thisway…」
 「私が変身したら変身ヒロインになっちゃうでしょ?じゃあいくわよ!」
 「……これは酷い」

―――…

 ビル1F、大広間。
 無機質な大理石でできた灰に近い青色の壁に囲まれたこの空間で、トエルは侵入者と対峙していた。
レーダーで何者かが近づいてきていることはわかっていたが、その正体がまさか…タケゾー達だったとは
思いもしなかっただろう。
 「ふぇ!おやおや、タケゾーにカナミにかりんじゃないですか。いったいどーした?」
 「お前こそ…何でこんなとこにいんだよ…」
 「…そりゃおまえ、このビルのえらーいひとをごえーするためにこうやってここにいるんですし!ふぇふぇ」
 だからと言って、トエルのすることに変わりはない。侵入者を阻み、要人を護衛するだけ。それがいかなる相手であっても。
  「そうか…お前…あいつらの仲間だったのかよ…」
 タケゾーはそう言って腰の刀を抜く。彼からしてみれば、酷く許しがたいことだ。
事情を知っていて、トエルは森側に付いているのだから。
 「ふぇ?なかま?よくわからんけどがそーゆーのじゃないですし。というか、はものをむけるのはやめてください」
 「うるせぇよ…友達だと思ってたのに…嘘だったのかよ…!」
 「?…ともだちじゃないの?ふぇふぇ」
 「友達なら…黙ってここを通せぇ!!」
 「それはできないですし」
 冷たく言い放つトエル。彼女は機械、目的に忠実な心無き使徒。
 「ふぇ!ともだちだからといって、はんざいこーいをみのがすりゆうにはなりませんし」
 「お前…一体なんなんだ…?」

 「"えいゆう"です。12えいゆう…HR-500・トエル」

 それが、トエルというモノの正体だった。タケゾーの脳裏に昨日過ごした事がフラッシュバックする。
記憶の中の自分達は皆笑っていた。気兼ねなく、友達だって、言えたはずなのに…今は…
 タケゾーは考えるのをやめた。ここから情は邪魔なだけ。大切なものを守る為に、かつての友を斬るなど、
まだ14歳程度のタケゾーには荷が重すぎるはずなのに。
 (それでも…やらなくちゃいけないんだ…!)
 「…そうかよ…おい、カナミ…」
 「何…タケゾー…」
 「お前、火燐連れて先に行け」
 「は?」
 「こいつは…俺がやらねぇと気がすまねぇー!!だから行け!」
 「そんな…タケゾーを一人になんて出来ないって…」
 「いいから!!」
 タケゾーはカナミの背中を突き飛ばし、火燐は突き飛ばされたカナミの手を引っ張っていく。
それを見計り、足止めするべくトエルに刀で斬りかかるタケゾー。
情は捨てた。目の前に居るのは討つべき敵だ。迷いはなかった。迷っている暇などなかったから。
 …そんな少年のの瞳からは涙がこぼれていた。友に対する憐憫の情までは殺し切れなかったのだろう。
 「トエルゥゥゥ!!何でお前はァァ!!」
 「…ふぇ、ふりかかるひのこはふりはらわねばなりませんし」
 『"ジャンクション""ダブルセイバー"』
 双剣を出現させるトエル。彼女にためらいはない。

 〓AI思考開始...
Mission:要人護衛(クライアント・森喜久雄)
Object:侵入者(personalname・屋久島タケゾー)=異形ではない《生命の優先》
                                          ⇒戦闘不能処理
qes...侵入を許した¬
           人数:[2]が奥へ侵入.........対象の早急な戦闘不能が必須▼
優先度;
 生命>Mission
        ...人体の損傷率の引き上げによる効率の優先⌒Mission遂行との両立▼

 A,身動きを取れなくするor拘束?

 〆

 「ふぇ!しこーかんりょー!」

………………

 「うりゃあ!せいやぁッ!」
 「ふぇ!あくびがでるぜ」
 剣術の心得があるというタケゾー。だがトエルにとってそれはお粗末なものでしかなかった。太刀筋は簡単に読める
上に刀を振る速度も遅い。尤もこれはトエルにとって…という意味で、決してタケゾーの剣術が拙いという訳ではなかった。
 「くそっ!」
 「ふぇ!」
 タケゾーの中段、横からの胴抜き。トエルは軽々と飛び上がって身を翻し、背後に回りタケゾーの背中に一撃を与える。
 激痛。タケゾーの背中に血が滲む。じわじわと痛みが広がる。泣き言を吐いてしまいそうな口をきつく閉ざし、
タケゾーは尚もトエルに挑む。彼は自分とトエルとの実力差を痛感していた。剣術の模擬戦などではない、
真剣勝負。気を抜けば、腕一本持っていかれてしまうプレッシャー。
 「くぅ!はぁ!!」
 「ふぇ!もうあきらめろ。こどもはおうちでぬくぬくとおんしつやさいのよーにそだっていればいいですし」
 背水の陣で臨むもトエルに刃は届かない。追い込まれるタケゾー。そんな彼に援軍が現れる…!
 「やあああぁぁぁぁッッ!!!」
 「!?…カナミ…?」
 先に行った筈のカナミが戻ってきたのだ。彼女は炎の魔法をトエルに放つ…のだが…
 「ふぇ!しょせんはこどもだましですし!」
 『"ガード""ウォール"』
 薄い円形の膜がトエルを中心に広がる。防護壁によって炎の魔法はかき消された。
 「カナミィ!!」
 「タケゾー!生きてたんだ!」
 「勝手に殺すな!!つーか、何で戻ってきやがった!!」
 「言ったでしょ!タケゾーを一人にしないって!それに二人なら…この逆境も乗り越えられると思ったから!」
 「へへ…馬鹿だなぁ…お前…」
 再会の喜びに浸る二人。それも束の間、カナミとタケゾーはトエルを見据える。
 「ふぇ!こりないなおまえら!ふぇ!ふぇ!」
 トエルは双剣の剣先を二人に向ける。キラリと刃が光る。一層引き立つ威圧感が、タケゾー達に降りかかる。
 「なぁ、トエル…もう…お前と昨日みたいに笑いあうことって、できねぇのかな…?」
 タケゾーはこれが最後のチャンスだとトエルに訪ねる。
 「そんなことないですし。いまかれひきかえせばいいだけ、ふぇふぇ」
 (まぁ…こういう答えが返ってくるだろうなとは思ってたけど…これで決心がついたよ)
 「そうかもしれないなぁ…でもよぉー…もう俺達は戻れないとこまできてんだ」
 「ふぇ?」
 「だから…倒させてもらうぜ…お前をッ!!」
 タケゾーは注射器を取り出した。オールバケーションから渡された異形の力を得る薬だ。タケゾーは腕を捲り、そして…針を刺す。
 「うおおぉぉおぉおぉぉぉぉぉおおおおおおッッ!!!』
 先程まで迷いのあった少年は消え、現れた修羅の獣。
 『トエル…おれはぁ…お前を殺してでも…先へ進む!!』
 「…いぎょー…」
 『"異形感知。セーフティーモード解除。対象を殺傷相当と見なし、実行レベルを上げます"』

 後戻りはできない。狂った旋律…それを正す術など…ありはしない。

 『カナミ!!魔導剣だ!!』
 「うん!わかった!」

 タケゾーの刀に宿る、業火の炎。彼の意志の強さに比例するように強く、強く燃え盛る。

 「ふぇふぇ。もうそろそろらくにしてあげますし!」
 『"ブレイブ""ダブルセイバー"』
 『きやがれえええええええッ!!』

 対峙する二人。一太刀が勝負を決める。

―やめて!!―

 そんな声が、トエルの頭に突然響いた。この場に居る誰のものでもない。正体不明の声。
 (またこのこえ…)

―あなたは、今…取り返しの付かないことをしようとしているよ?あの子は友達なんじゃなかったの…?―

 (そんなのかんけいありませんし。わたしはほうとちつじょにしたがうのみです!ふぇふぇ)

―それでいいの…?あなたh…―
 『"エラー”経絡部に異常アリ。問題部の接続を一時的に切断し、動作をマニュアルに切り替えます』

 声は聞こえなくなった。トエルはただ、目の前の異形を排除することだけを考える。

 「ふぇ!しししてしかばね!」
 『…ッ!!』

 同時に斬りかかるトエルとタケゾー。刹那一秒間の世界。トエルの双剣は異形となったタケゾーの体を斬り裂く。
 正中線に沿い、綺麗に入った切れ目から、ドバっと大量の血が吹き出す。返り血がトエルの服にかかった。
血の匂い。膝を折り地に伏す異形。トエルにはそれだけの事実でしかない。

 「ひろうものなし…!!」

 「タケ…ゾー…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
 今度はカナミも異形となった。黒く禍々しい獣の体。トエルはそれを討伐するため再び双剣を構える。
果たしてそこに、情はあったのだろうか?機械であるトエルにはそもそも情など存在しないのだろうか?
 ただ一つ、言えることは…トエルは異形となったカナミを、何の躊躇もなく切り捨てるだろうということであった。
トエルは定められた法と規則に忠実。人の命を狙う”異形”はたとえ誰であれ、倒すように"作られている"。

 「ふぇ!」
 『がッ…ぁ…』

 カナミはトエルに襲いかかるも、返り討ちにされた。力なく倒れこむカナミ。横たわるかつての友を横目にトエルは、
逃した火燐が居るであろう屋上への道を進む。死を尊ぶ間など無い。トエルは死後のことなど考えないのだ。


…機械に死後は存在しないから。


 (わたしは、ともだちができで、うれしかったのでしょうか?)
 (わたしは、タケゾーたちとであい、ふれあうことが、たのしかったのでしょうか?)

 (いまとなっては、それをたしかめることもできません)

 機械は悲しまない。彼らが死んだという事象は、ただの一データとして保管されるだけなのかもしれない。
 (それでも…あのときだけは…)

…ふつーのしょうじょして、わたしは『有った』のかもしれない。

 (…なんてね。きかいはきかいでしかないですし)

 機械に意思は存在しない。ただひたすら、プログラムに忠実で、自己がない。確固たる行動理念が無ければ、
機械は働く事ができないから。動く事ができなくなるから、機械はプログラムに忠実なのである。

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