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F-2-021 - (2010/08/01 (日) 13:52:32) のソース

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*「凶漢ケイン」

21 : ◆6l0Hq6/z.w :2010/08/01(日) 04:05:04 ID:f2CaxkUR

コナンのようなハードファンタジー書きます。 
ハードな感想よろしく。 

22 :凶漢ケイン ◆6l0Hq6/z.w :2010/08/01(日) 04:07:04 ID:f2CaxkUR

 窓の外から複数の馬蹄の音が近付いてきて、荒々しい嘶き声と共に建物の前で止まった。 
 ベッドの上に横になっていたケインは、反射的に半身を起こすと、無言で聞き耳を立てた。
彼が居る二階の窓の下からは、何かを鋭く問 い詰める男たちの声と、それに対応する店の主人の
動揺した声が届いてくる。 
 ケインは枕の下に隠した剣を素早く手に取ると、隣りで眠る赤毛の娼婦をそのままにしてベッド
から降り、長身ではないものの筋骨隆々とした裸体を晒しながら薄暗い中を歩き、窓辺へと寄った。
そっと外を窺うと、繁華街の通りには野次馬が集まって、その輪の中心にいるのは、真夜中でも
なお明るい灯火に照らされて黒光りする鎧を身に着けた、巡邏隊の兵卒たちと、その馬匹だった。
鞍から下りた兵卒たちは、兜の下の目をぎらりと光らせて、門前で何かをまくし立てながら、こち
らを見上げてくる。 
 ケインが瞬間的に壁に身を潜めると、ベッドの上から酒やけした女の声が鳴った。 
「…………なによ、いったい」 
 娼婦は豊満な体を横たえ、掛け布にくるまったまま、どんよりと濁った目を向けてくる。 
「なんの騒ぎ?」 
 ケインは溜め息をつくと、いつもの癖で長い黒髪をくしゃくしゃと掻き毟りながら、 
「巡邏兵だ」 
 困ったような低声で答える。 
「俺を追って来たんだ」 
「なに?」 
 女はすぐに起き上がると、目を剥いて問い質す。 
「あんた、なにやったの?」 
「この宿場に来る前に、二人ほどバラしてきた。二十リードほど向こうでな」 
「はあ?誰を」 
「俺は悪くないぜ」 
 ケインは不服そうに言う。 
「因縁つけてきたのは向こうだ。
女と歩いてたら、急にチンピラが寄って来て横取りしようとしやがった。
だから唾を吐きかけて、相手が得物を抜いたところを、逆にやっつけてやった。正当防衛さ」 
「だったら、その場でそう説明すればよかったじゃない」 
「そうだな」 
 肩をすくめると、 
「それをいつも端折ってるから誤解を招く。お蔭でいまじゃ賞金首さ。自業自得は分かってるよ」 
「あたしは関係ないわよ」 
 赤毛の娼婦は不機嫌そうに顔をしかめる。 
「あんたとはさっき会ったばかりよ。疑われたらたまらないわ」 
「そう言えばいい。疑われるもんか」 
「いいから、さっさと出てってよ。あたしは穏やかに暮らしたいの」 


 ケインは早足で壁際の衣装籠に行くと、革の短衣を取り出して素早く身に付け、ベルトを締めた。
サンダルを履いてマントを羽織ると、途端に旅装一式が完成する。荷物は剣一本と腰の小袋のみ、
それ以外は体ひとつだった。 
「…………待って!」 
 すぐに出口に向かおうとする男に、娼婦は慌てて声を掛けた。 
「代金を払ってちょうだい」 
 男は腰の小袋を取ると、丸ごと投げて寄越す。ベッドの上に落ちたそれを女は手に取り、ずっし
りとした重みを感じると、笑みを浮かべて呑気そうに告げる。 
「あらいいの、こんなに?悪いわね」 
「子供におもちゃでも買ってやれ」 
「子供はいないわ」 
 女は上機嫌で、 
「でも、あんたの子供なら生んであげてもいいわよ」 
「それは願い下げだ。尻の毛まで毟られそうでな」 
「さようなら。元気でね」 
 女はゆらゆらと手を振ると、 
「正面からは出ない方がいいわよ。裏口があるからそっちに」 
「知ってる。確認済みだ」 
「そう。抜け目ない事」 
 ケインは白い歯を見せて笑うと、
「子供は御免だが、その胸は最高だ。また相手したいね」 
「ここを出て、その首と胴体がつながっていられたら、またいつでも触らせてあげるわよ」 
 赤毛の娼婦は剥き出しの乳房を手で触りながら揺すって見せる。 
 ケインは身を翻すと、部屋の外へと出た。廊下を進んで階段を下りようとすると、一階から鎧の
鳴る騒々しい音が響いてきた。
それを聞 いて舌打ちすると、すぐに後戻りして部屋に飛び込む。娼婦は途端に顔色を変えると、 
「ちょっと!戻って来ないでよ!」 
 ケインは無視してベッドをサンダルで踏みつけて横切ると、窓から首を出した。
下方には四、五名の巡邏兵がこちらを見上げていて、下手人の顔を認めると、急いで呼子を吹き鳴
らした。ケインは構わず窓に身を乗り出させると、上枠に外側から掴まって、懸垂の要領で体を引
き上げる。 
次の瞬間、部屋の中に鎧姿の兵士たちが雪崩れ込んで来た。赤毛の娼婦が悲鳴を上げていると、
彼らは窓辺に駆け付け、首を出して上方 を見る。
屋根の上にはケインが顔を覗かせ、不適な笑みを浮かべて見せると、すぐさま首を引っ込めて姿
を消した。
巡邏兵は上るに上れず、下方の兵士たちに怒鳴り声を浴びせる。兵士たちはすぐさま一斉に鞍に
飛び乗ると、野次馬の波をかきわけるようにして馬を進めた。 
 一方のケインは、平屋根の上を次々に飛び移り、星空の下を駆けて行く。マントに包んだ長身を
軽やかに宙に舞わせながら、阻むものの無い天上の道を、黒豹のように走り抜けて行った。 

〈つづく〉

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