――“白夜樹”。
どんな形をしているのかどうかなんて、専門で無いので知り得ないけれど。
それがブレスと翔の間に少しの亀裂を生んだ事には違いなかった。
ブレスの話では、白夜樹と呼ばれる木の葉は毒素を持つと言う。
依頼とはいえ、毒薬となる草を求めている翔を警戒するのは仕方のないことだろう。
一人で唸っている
ルーラは差し置いて、翔とブレスの間に緊迫した空気が流れた。
私もプラチナもその雰囲気を察知し、固唾を飲んだ。チリチリと焼け付きそうな程の緊張。
「いくら
ギルドの依頼とはいえ、信用材料に欠ける」
ブレスの答えは厳しいものだった。いくら何でも信用できないと言った様子で、険しい表情で翔を見つめている。
「あーあー、そうですか。 じゃ、俺一人でも探させてもらうよ。
もとより、そのつもりだったしな」
翔はそう言って、荷物を整理しだした。地図でも探すつもりなのだろうか、何かを探っているようにも思う。
「ちょ……」
私が翔の返答に前に足を踏み込んで口を挟もうとするけれど、ブレスがサッと腕を出し、制止させられる。
「待て」
「何だよ、まだ文句でもあんのか」
「白夜樹が薬学知識の全く無い者が探せるほど安易なものではない」
「おいおい、俺はこう見えて……」
お互い一歩も譲ろうとはしない。ブレスもこう見えてあまり会話が得意ではないようだ。
「喧嘩は……」
プラチナがその間に入ろうとした。だが――。
「必殺……猫ぱぁぁぁぁんっち!!」
それより先に、ルーラの拳が華麗にブレスの顎にクリーンヒットした。
その様子を、あちゃー……と言った様子でプラチナが頭を抱える。
「ブレスくんったらひどいよ! 翔くんはそんな悪い人じゃないよっ!」
一方ルーラは、――ようやく状況を理解したようで。
いい方向に会話が進んでいたかと思われたのに、ルーラの鉄拳にてブレスのほうが制裁されてしまった。
「……あの子ったら……」
呆れた顔で、ブレスに往復ビンタをかましはじめるルーラの様子を呆然と見た。プラチナと同じく頭を抱えて。
それを止める気にもならないし、むしろ止めてしまうともっとややこしい事になりそうだと思った。
翔といえば同じく呆けている。目の前で何が起こっているのか解らない、と言いたげな様子で。
「ちょ、ルーラ……!! っっぶ! 痛っ!」
ブレスはそのビンタを顔面を腫らしながら受けている。見るからに痛そうだ。
こちらに助けを求めているようだけれど、誰一人と動こうとしない。それを見て見ているなら止めてくれと言いたげな、その表情。
まともに喋れなさそうなので、ルーラの手首を掴もうとするがなかなか俊敏で、掴めそうになかった。
だからといって他に止められそうな人間はおらず――。
「仕方ない……アレでも使おうかしら」
アレとは。私がルーラを止める際、やむを得ず使う呪文だ。ぶつぶつと呪文を唱える。誰にも聞こえないような微かな声で。
『お、おい……』
今まで黙っていたクロが何か言おうとしている。使い魔だというのなら、何かに感づいたようで。
「え……きゃ、きゃあ!」
ルーラは全身をかきむしるような動作をした。
何をしたかと言うと、一瞬だけ幻覚を見せる魔術だ。この魔術は危険だから、よっぽどでないと使うことのないものだ。
限られた条件下であれば起こすことが出来る。安全な適用時間は数秒で、感情が高ぶっている時にこそ成功しやすい。
勿論ルーラに危険を及ぼさない程度に抑えてある。それに、リフレクターが有るから効き目は多少弱まる筈だ。
「な、何だ……?」
ブレスはいきなりルーラが怯えたことに対し狼狽している。
……それもそうか。私はその効果をかき消す為に、もう一度呪文を唱えた。
それにより、ルーラは何事も無かったかのように、顔から恐怖の表情が消えた。
「もう、シリウスちゃんまた……!」
「ごめんなさい。 ……でも、こうでもしなきゃ、アンタ止まらないでしょう」
私はそう言い放つ。だけど、これはブレスの身を案じてしたことでもある。
「そうだけど……」
ルーラはそれから何も言えなくなった。それから、ブレスの頬を撫でて、ごめんねと言った。
「何をしたんだ……?」
ブレスは少しだけ赤く腫れたさすりながら私に訊ねてきた。
プラチナや翔も、私がしたことに対して疑問を持つ。
私が忌み嫌われる理由の中には、魔術師特有の操作魔法にあった。
滅多に使うことはないけれど、やむを得ず人間に使う時間はたった数秒にしてある。
人間に限らず、生きとし生けるもの総て操ることができるけれど、その力をあまり人に見せることはしない。
なぜならその力を利用されるか、はたまた恐れられるかだ。どちらかにしても、余り好きこのんでされたいことではない。