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明 翔

 暗闇に身をやつす水路は、流れをそのままにだんだんと蛇行しはじめ、道幅も狭くなっていった。時折、別れ道もあったがシリウスたちはまるで行き先を知っているかのようにぶれることはない。
五人もの大群がバシャバシャと水音を反響させながら、いつ辿り着くかも知れない(マナを感じない俺だけかもしれないけど…)目的地へと向かって歩いた。
 俺は行軍を続けながら、少し前のブレスとの会話を思い出していた。


 『じゃあ、白夜樹の葉を使った薬がどんなものなのかは知ってるのか!?』
 ――――『毒薬、だよ』

 白夜樹から精製されるのは主に毒薬だと聞いて、妙に納得してしまった自分はある意味で冒険者の鑑と言えるのかもしれない。
 毒薬の精製のための調剤ならば、報酬が割がいいのは当然だろうし、ギルドの資料に記載されていないのも頷ける話だ。ラナセルが善人でだろうが悪人だろうが、金を巻き上げたあとにしょっ引いて貰えば全く構いやしない。冒険者は依頼以上の働きも依頼以下の働きもしないものだ。その点、俺は冒険者の鑑だって言える。

 けど、妙に落ち着かないのはなんでだろ。
 胸の奥がざわざわする。慣れない感覚、むず痒い感じ―――居心地が悪い。
 耐えきれずに後頭部をかきむしった。
 きっとこいつらは――


 「…此処かな」そう言いながらプラチナが足を止めた。
 「ええ、たぶん―――間違いないと思うわ」

 先導していたシリウスたちが足を止めたのは、小さな穴の前だった。入るには屈んで入り込むしかないような狭さの穴だ。この先、続くとしたら洞窟だろう。

 「マナの強さからしてそう遠くにはないと思う、…けど――」シリウスは困った顔をしている。「これは、一体何の蔓?」

 洞窟の入り口には這い出てくるかのように鬱蒼と木の蔓が絡まっていた。
 ブレスが洞窟の入り口に屈みこみ、蔓を観察する。

 「ピアジェの蔓――聖水の調合によく使われるんだ。強いマナを吸って繁殖するんだ。ビンゴだな。」ブレスは立ち上がり、「おーい、翔」と俺の名前を呼んだ。
 「なんだよ」
 「トップバッター」ブレスは洞窟を親指で指しながらさも当然のような顔をして言った。
 「えー!わたしが一番にいきたいよぉっ」
 まぁまぁとプラチナがルーラを宥めながら、「この蔓は魔法を弾く効果があるんだ。聖水に使われるくらいだし。」と説明した。
 「物理的なダメージが一番効果的なんだよ。刃物使いなら一番だろ?」とブレス。
 「・・・・・・・・」

 なんだか素人にいい様に使われると思うと自分が情けなかったが、マナを探知出来ない俺にはこいつらがいなけりゃ到底仕事は達成出来なかった上に違約金を支払うことになっただろう、と思うと、込み上げていくモヤを生唾と一緒に飲み込み、サバイバルナイフを手に取った。(ルーラは今でも後ろで「うー、わたしもトップバッターがよかったよぉ」と項垂れている)
 俺は入り口の前に屈み込み、ナイフに蔓を絡ませながらぶちぶちと切断していった。
 進路を作りながら、ゆっくりと洞窟内に侵入していく。体が洞窟の中に半分ほど入ると、視界が大分開けてきた。入り口付近に群生していた蔓を体が通るくらい切り落とし終える。入り口は小さいが、洞窟内は今まで歩いてきた水路を同じくらいの空間が広がっていた。

 「わぁー!結構広いねえ!」俺が入ったことを確認したあと、入ってきたルーラが声を上げた。「なんだか鍾乳洞みたい!」
 「マナが一層強くなった――もうすぐね」次に入って来たシリウスが言う。
 「このピアジェの蔓は質がよさそうだな…貰っておくか」ブレスは洞窟内部よりも蔓の方にご執心らしく、採取を始めていた。
 最後にプラチナが少し引き腰に入り口から顔を覗かせた。
 「あ、ねえ――あれ」プラチナがまだ下半身を入り口の向こうに隠しながら、指で俺たちの後ろを指す。
 「え?」
 振り向いた先に、こんな仄暗い水路のぼんやりと白光している鈍い光を見つけた。
 「う~~~!もう我慢出来ない!」
 「ちょっ、ルーラ!」
 ルーラはプラチナが入りきる前に深奥目指し走り出す。それを追うシリウスも駆け出し、おれたちは反射的にルーラを追った。
 「あわわわ…!」プラチナも遅れを取り戻そうと入り口から抜け出した。

 ルーラを追い、洞窟の深奥で鈍く白光する正体を追った。
 「もうルーラ!待ちなさいよ!」シリウスが走りながら彼女に言ったが、ルーラは止まらなかった。
 俺たちがルーラの背中に追いついたとき、彼女は既に開けた空間の中に立ち止まっていた。俺たちの存在に気づいていながらも、振り向こうとしなかった。
 その理由は、いわずもがな。

 「…………」
 「…綺麗」

 それは洞窟の中に突如現れたの山の入り口のようにも思えた。
 洞窟の壁に沿い自らが鈍く発光する白樹林が並木を作り、仄暗い洞窟の中に光のアーチを描く。
 頭上からは水滴の代わりに、真っ白な葉が降り注ぎ、それは地面に触れると雪のように溶けた。


 「これが―――白夜樹、だな」

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最終更新:2012年03月02日 19:42