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ルーラ・キャラット

「みんな…気をつけて。この魔物…毒を持ってるよ」

目の前に立ちはだかる、黒々とした毛並みを持つ、ワンちゃんと形容するには凶暴すぎる――強大な魔物。
ようやく身体を動かせる!……と一瞬考えたけれど、プラチナくんの重たい口調に、私は構えた両腕を仕方がなく下ろした。相手が毒を持っているのでは容易に殴りかかっちゃ危ないかもしれないし、さすがの私もそこまでおバカじゃあないよっ。

「メンドーな魔物が出てきたな…獲物は手に入ったし、逃げるのが得策じゃねーか?」
「そうね…厄介な戦いは私も避けたいわ」

無事に白夜樹の葉を手に入れた翔くんは余計な体力を消耗する前にギルドに報告に行きたいだろうし、ムダな争いを避けたいのはシリウスちゃんも同じようだった。だけど……。

「ブレスくん??」

私は、隣にいるブレスくんがある一点を見て顔色を変えたことに気づいていた。
視線を辿れば魔物が立ちふさがる奥の壁。そこには、虹色に輝く神秘的な石が、仄暗い洞窟に光を点している。

(そういえば……)
ふと、洞窟に来る前のブレスくんの言葉を思い出した。



『えぇと、『流星の石』って言う錬金術の材料を探しているんだ。洞窟のどこにあるかは僕もよく分からないんだけど……』



ブレスくんの様子から察するにあれがきっと……流星の石。それがブレスくんが洞窟に訪れた理由だと言う事は、出発前に耳にしていた。
どんな理由で、なんの為にあの石を欲しているかは分からない。でも。

「あの石が、ないと……。ディムアの薬が……フィーネの病気が……」

小さく呟くブレスくんの顔が悲しげに歪む。
――やっぱり、ブレスくんにとってあの石は大事なものなんだ!!



「翔くん! シリウスちゃん!」

魔物に背を向けようとする二人を慌てて呼び止めると、二人とも苦笑しながら振り返ってくれた。私の言いたいことをなんとなく理解してくれたらしい。

「ルーラならそう言うだろうと思った……はぁ、ここまで来たなら私は付き合ってあげるけどね。――翔、アンタは?」
「さっさと帰りてぇけど、俺だけ美味しい思いをするのも悪いし。……しょうがねぇよな」

いつもの不器用な言葉でシリウスちゃんが、困ったように目を逸らしながらも翔くんが苦笑いした。

「微力ながらボクも手を貸すよ、ブレスくん」

流れを見守っていたプラチナくんも二人の様子に安心したように、弓矢を取り出して構える。
みんなの顔を見回した後、ブレスくんは嬉しいような、困ったような表情を浮かべながらポソリと呟いた。

「みんな…………あ……ありがとう」
「礼なら洞窟を抜けた後だ。まずは目の前の邪魔なアイツを」

翔くんが言葉を紡ぐ、ほんの一瞬の出来事。

「――斬るッ」

おぞましい音と凛とした声が共に鳴り響く。気がつけば魔物の片腕から緑色の血が噴き出していた。
轟音のような魔物の雄たけびを背に、刀を引き抜きながら翔くんが低い声で囁く。

「倭寇・一式」

(なっ……なんて素早い動き。翔くんが戦うのは初めて見たけど――強い。これが、ギルドの冒険者……!)

思わず固唾を飲み込んだ。
強い人を見ると血が騒ぐ。体が「私も暴れたいぞ」と力を求め始める。……私もうかうかしてられない!

「お、おいルーラ危ない! 上!!」
「へっ??」

拳を構えて走り出そうとした瞬間、慌てたようなブレスくんの声が耳に届く。
驚いて上を見上げる、と……翔くんに斬られ、逆上した魔物が私目掛けて飛び移ろうとしていた。
(わ、わーん! わ、私食べられちゃうよおおおっ!!)

「ウィンドランス!」
「バレッドアロー!」

聞き慣れた凛とした二つの声が洞窟に反響する。
……恐る恐る前を見ると、シリウスちゃんの疾風の魔法とプラチナくんの迅速な矢が魔物の体内を切り裂いてる。二つの攻撃を食らったワンちゃんは短く呻き大きく仰け反った。

「もう、気をつけなさいよルーラ! 危なっかしいんだから」
「ひとまず戦闘はボク達に任せて。ルーラちゃん、キミとブレスくんは今の内に流星の石を……」

「わ……わかった!」

役立たずに思われているのかもしれないと思うと少し複雑な気持ちになったけど、何もできないより何かを行動した方がいい。そう思った私はブレスくんに目を向けると彼も静かに頷いた。
石の元へ走り出そうとする私達に魔物の目がギラリと輝くが、そこにシリウスちゃんが立ちふさがる。その右掌には紅蓮の炎。


「アンタの相手は私達よ」


暗がりの中で不敵に微笑むシリウスちゃんに気持ちを託すと、私とブレスくんはそのまま一気に流星の石を目指した。

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最終更新:2012年08月03日 03:00