アットウィキロゴ

シリウス・フィーナ

「シリウスちゃん、気を付けて!」
 炎を敵に向かって撃とうとした時、その背後からプラチナが大きく叫んだ。
「なに!」
 私の目の前には今に飛びかかろうと待ちかまえている敵がいて、背を向ける行為は危険な状況だ。
そんな振り返る余裕もない時に、一体プラチナは何を気をつけろと言うのか。
 私は敵から目を離すことなく睨み付けたまま、敵の様子を見る。
双方目を逸らすことも、攻撃をすることもなく張り詰めた空気が流れた。

 掌から消えることなく燃えさかる炎の熱気と、場の緊張感でこめかみから一筋汗が流れるのを感じた。
それ程までに戦闘に集中し、自分の全神経がびりびりとしているのがわかる。
トラスタ村に居ればまず遭遇しない量の敵との対峙だ。
「ここはマナの力が強くて、威力も強くなる――」
「分かってるわよ、そんなの!」
 神経が張っていることもあって、いつもより強めの口調でプラチナの言葉を振り切るように言う。
プラチナはまだ私に何か言おうとしていたが、私の先程の返答で諦めたように、唇をかみしめて言葉を飲み込んだ。
そんな中、真っ先に翔が軽やかに走って敵の方へ向かい、斬りかかる。
 翔の刀で斬りつけられた敵が雄叫びを上げて、血しぶきを散らし倒れ込んだ。
ドクドクと敵の体内から吹き出す緑が、その被毛を汚していく。
 戦う翔の姿は白く輝く白夜樹の背景と相俟って、まるで銀世界の中で戦っているみたいに見えた。

 私も負けていられない、と翔の攻撃の間に出る隙を埋めるように魔法を唱えながら敵と応戦する。
その横でプラチナが、弓を発射させるために用意をしているのが見えた。
 何頭かは翔の手によって倒されたが、生き残っている敵はまだいる。
あの数の敵を相手したというのに、翔は息一つあがらない。
(――さすがね、ギルドに所属していたら戦闘にも慣れるのかしら)
 ふと、後ろを振り返るとプラチナがぎこちない手つきで弓を引いているのが見えた。
射程距離の長い弓では攻撃自体が難しい。前衛に当てないようにするのも一苦労だ。
 ――それは、私も同じ条件ではあるけれど。
本格的な戦闘といえば、兄さんに魔法を教えてもらった時以来だった。

 考え事をしていた、その時。
「ッ――!?」
 翔の身体をすり抜けて私の方をめがけて走ってくる敵がいた。
翔がその事に気づき、後ろを振り向くが間に合わない。
「危ない! シャワー・アロー!」
 咄嗟に私が防御の態勢を取ろうとしたとき、プラチナが私の前にさっと出て一気に無数の矢を解き放つ。
それは風のような動きだった。敵にいくつもの矢が刺さり、滑り込むように倒れた。
 プラチナの一つに纏められた絹のように艶のある銀髪が、前方から来る風でぶわりと揺れる。
コンマ一秒の差で自分に飛びかかられていたかもしれなかったと思うと、腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
「シリウスちゃん、……大丈夫?」
 プラチナが振り向いて、笑顔で手を差し伸べてくれる。
「ごめんなさい。大丈夫よ」
 我ながら情けない、と思った。
目の前には敵がいて、またいつ襲われるかわからない状況なのに。
 彼の手につかまり、少しだけ力を借りて起き上がる。
その様子を、翔は一瞥したが特に何も言葉をかけてくることはなかった。

【NEXT】暗雲
【BACK】白夜樹を貪るモノ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月23日 00:17