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明 翔

 暗闇の中の戦闘は久しぶりだった。ずっと一人だったから、誰かを庇いながら戦ったことなんてない。毒消し草ひとつでも節約できることに越したことはない。
 …邪念とは、まさにこれ。
 それで魔物に脇を抜かれるなんて、激ダサ。ざまあねえ。

 随分と幼い失敗を責め立てる心内と諌めようとする心内が葛藤し、刀を持つ手に無駄な力が加わる。倭寇が狼の懐に思った以上に喰い込み、血潮に塗れていく。死屍累々横たわる魔物の亡骸のせいで、もういい加減足の踏み場もない。
 最後の一頭と目が合った。


 ああ、ひと段落ついたらきちんと拭って、マルーンに戻ったら研いでやんねーと…、その前にこの依頼片づけて薬草学者から報酬をがっぽり頂いて……
 あーもう。


 反射的に飛びかかってくる最後の一頭をいなし、止めの一撃を喰らわせた。
 それでも、ムシャクシャは止まらない。
 脳内のどこかで、ふと師匠の顔が思い浮かんだ。その顔は、俺を馬鹿にしている時のあの表情で、小刻みに肩を震わせて、口元を手で覆い隠している。――だっせーのくらい分かってるってば。
 そう思うと、溜めこんでいた空気が、ふっと口から外に噴出した。


 「おい、大丈夫か?」

 ファングたちの死骸を飛び越え、シリウスとプラチナの元に寄る。シリウスはふと戸惑った表情を浮かべながら、口ごもるように「ええ」と小さく呟いた。


 「これで全部かな…」プラチナが辺りを見回しながら心配そうに言う。
 「たぶんな」俺は倭寇を鞘に戻しながら言った。
 確かに気配は消えてるし、こんだけ暴れたあとなら他の魔物であっても多少なりとも野生の習性から警戒もするだろう。逆に興奮させることもあるかもしれないけど。
 「それより、あいつら追わなくていいのか?」
 「そうだね、何があるか分からないし…」

 俺とプラチナは先へ進もうと歩き始めたが、シリウスはその場に立ち止まったままだった。
 おい、どうしたんだ、と声をかけようとした時シリウスが口を開く。

 「ねえ、この魔物ってファングよね?」シリウスは座りこみ、ファングの亡骸に手を触れながら何かを確かめるように言った。
 「ああ、多分な…」
 「トラスタにもときたま出てることがあったんだけど…こいつらって、群れを成すでしょう?」
 それはここにいる数十頭の亡骸が何よりの証拠だった。
 「……もちろん、群れにはリーダーがいるわよね?でもこいつらは、統制が取れてないというか闇雲に私たちを襲ってきただけというか…」

 その時、ふと思い出した。マルーンにあるギルドの手配モンスターの中にこの闇の洞窟に住まうものがあったこと。
 俺は荷物の中から無料配給される、付近の指名手配モンスターの一覧を取り出した。

 「闇の洞窟に住む手配モンスター…。
 性格は非常に凶暴で、牙は強い毒を含んでいる。マルーン近郊の村の住民を噛み重傷を負わせた、ファングの大群を率いる長。名前は『ベノン』、ベノン・ファング。
 住処は洞窟の深奥であるとされている…。」

 はぁ、厄介事はまだまだ山積みらしい――。


 「……ルーラちゃんとブレスくんが!」
 「行きましょうっ!」


 狼の亡骸を残し、駆け出す。
 俺たちは洞窟の深奥へと呑み込まれていく。

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最終更新:2013年02月09日 03:44