トレアン・ブレス
僕と
ルーラが進んだ先
そこには虹色に輝く石の宝庫だった。
「わぁ…綺麗…!ねぇねぇ、ブレスくん!あれが流星の石?」
ルーラが何か言ってるけど僕は気に留めず流星の石へと走る。
「わわわっ!ま、待ってよブレスく~ん!!」
僕は即座に本を取り出し確かめる。
…七色の乳白色。それでいてところどころ、きらきらと星のように煌めいている。
水晶のように、一部分に群生している。
「…間違いない!これは確かに流星の石だ!」
「本当っ?!わぁああっ!すごい!やった!やったねブレス君っ!!」
「ああ!!」
…なんでお前がそんなに嬉しそうなんだよ。って、思ったけど言わないことにする。
そして僕は採掘道具一式(持ち運び出来るミニミニポケットサイズだ)を取り出し、もくもくと採掘する。
薬に必要なのは…流星の石20g。量はこれで十分だろう。
袋いっぱいに石をいれ、僕は立ち上がる。
そのときだった。
突然の地響きと共に、生温かい突風が僕たちを襲う。
「わっ、風??」
風?そんな馬鹿な。ここは風の通り道なんてない。…いやな予感がする。
フラッシュバックのように、僕は本の記憶思い出す。
脳裏でページがぱらぱらとめくれる。
群をなして行動する危険な魔物。
危険とされる原因の第一は、群を率いる親玉の存在。
かなり巨大なその親玉は「ベノン・ファング」と呼ばれ…
「…ルッ!」
「危ないブレス君!!!」
僕はハッとして、すぐさま後ろにいたルーラに注意を呼び掛け、ようとした。
そのたった、一瞬。
僕の視界一杯に、黒い豪腕が遮った。
そして、耳に響いたのは打撃音…!!
「る…ルーラ…?」
次に、僕の視界に入ったのは
ぐったりと倒れているルーラの姿………!!!
理解する。ルーラは僕を庇ったんだ。僕の反応が、どんくさいばっかりに!
「るっ、ルーラぁ!!!」
僕は駆けた。
ベノン・ファングは巨体だ。いくら僕の足が遅くても、反応は遅い。
「ルーラ!ルーラ!」
腕から血が出ていた。爪だ!引っ掻かれたんだ…!
僕は細長い布を取り出してルーラの上腕部をきつく縛りつけた。
…一時しのぎの応急処置にしかならないけど…爪の毒が全身に回ったら、最悪の事態にしかならない…!
本当なら今すぐに血止め薬を、毒消しを作りたい、回復魔法をかけてあげたい…!!
でも!そんな余裕は無い!
すでに、もう、ベノン・ファングの大きな瞳が僕を、捉えていた…。
「ぶ、ぶれ、すくん…」
「ルーラ!喋っちゃだめだ!」
「ぶれす、くん…逃げて、折角、石手に入ったんだよ、にげて…」
「る、ルーラ…」
ルーラを支える僕の手が、震えた。
こいつは、自分のことじゃないのに、僕の成功を喜んでくれて…
それでいて尚、こんな状況で僕の心配をしてくれるというのか…?
僕は、今までそんな経験をしたことがなかった。
僕が成功すれば、周りは妬むし
僕が失敗すれば、周りは笑った。
…初めて感じる、友情という気持ち、
そして、それを失いたくないと、強く思う、この気持ち…!
「あはは、そんな悲しい顔しなくて大丈夫だよ…私、元気と頑丈さだけが取り柄だもん。全然平気」
そう言って、ルーラは弱弱しく笑った。
大丈夫なわけあるか、ばか。
瞬間。
さっき感じた生暖かい風と、地響き。
…魔物の咆哮だ。
僕はルーラを優しく寝かせて、立ち上がる。
「…ルーラを、傷つけたお前を、僕は絶対許さない…!!
ファイアー!!」
杖を持ち、僕は高らかに唱えた。
豪炎が魔物の巨体を包む…!!!
…………はずは、無かった。
うん。さすが初級魔法。火は出たけど魔物まで届くはずもなく。
…啖呵切った所で、僕の本業は錬金術。こんなボス級(っていうかボスだよ)に
適う魔術なんて使えるはずも無い!!
「グル??」
だめだ、あいつ火が出たことにも気付いてない
…考えろ、あの魔物をどうにかして倒せる術を…!
そうだ、あいつは光に弱い…!!
「…ライトォオオオォオッ!!!」
閃光が煌めく。
流星の石が、反射し光を強めた…!
こ、これなら、初級魔法でも…
「ガアアアアアアアアアアアアアッ」
「…ぅわっ?!!」
突然、奴の雄たけびと同時に風圧が襲う。
…どうやら一瞬の光だけじゃ、まだ足りないようだ…さすが、ボスというか。逆に怒らせてしまったようだ…。
僕は無様に風に負け、吹っ飛び、ぬかるみに顔を直撃させた。
…悔しい。
こんなにも無力な自分が悔しかった。
情けない。男の癖に涙までこぼしている。
女の子が、傷付いて倒れてるのに、しかも僕を庇って、だ。
それなのに僕のこの体たらく!!!
…せめて、ルーラだけでも助けなくちゃいけない。
シリウス達が感づいて、こっちに来てくれるまでの、時間稼ぎだけでも、
僕はしなくてはいけない…!!!
ぴちゃり。
水が頬を滑り降りた。
天井から滴る水。
そして、このぬかるみ。
…水分が多いんだ、この洞窟。
「ガアアアアアアアアアアッ!!!!」
魔物の三度目の咆哮。
ドスドスと、巨体が音を立てて近づいてくる。
吹っ飛ばされたおかげで、僕と奴には距離がある。
少しの時間はある…ッ!!間に合え、間に合ってくれ…!!
カカカッと、僕はチョークを出し地面に魔法陣を走り書く。
僕は弱い。
自信を持ってできることなんて、頭を使うことと、この、錬金術だけだ…ッ!!
「ぶっころ、べぇええええええッッッ!!!!!」
魔法陣が光る、僕は後ろへと飛び退く。
ドボォッッ!!!!!
「…グ、ガ……ッ?!?」
魔物の巨体が。ズベリと滑り、地面へと沈む。
柔らかい地面に、もがけばもがくほど奴は地面にはまる。
水の多い地面。
その水を、魔法陣に集中させて、術を発動させれば。
それはぬかるみどころか沼になる!
僕は即座にまた魔法陣を描く。
今度は水を飛ばす魔法陣。
沈み切った魔物は、これでもう、出てこない…
「やった、やった…!!!」
僕は歓喜の声をあげる。
そうだ、ルーラの怪我の手当を…!
僕はルーラに駆け寄った。苦しそうに息をついている…。
その傷に包帯を巻いてやり、僕は、即効薬の毒消しを作り上げた。
「…ルーラ、飲んで。もう、もう大丈夫だからね」
薬を、静かにルーラは飲み込んだ。
だんだん、ルーラの吐息が落ち着いて行く。…気を失っているけど、よかった、…もう、大丈夫……。
……その時
ぐらり。視界が歪む。
…足に力が入らない。
………僕の……体力の限界…らしい……
「ルーラ…ッ!ブレス…ッ!!!」
僕は、遠い意識の中、シリウスの叫び声を聞いた、…ような気がする…。
最終更新:2013年03月10日 23:36