ルーラ・キャラット

「……あ――っ!す、すっかり忘れてたぁあ!」
「…………そんなことだろうと思った。アンタはいっつもツメが甘いんだから」

シリウスちゃんに指摘されて、私は一番重要なことを忘れていたと気付く。
それはそう、旅立つには欠かせない荷造りである!!
感情の赴くままに暴走した私は旅行用のバッグさえも用意していなかった。
シリウスちゃんに指摘されなかったら気付かぬまま出発していただろう……。

(どっ、どうしよ~っ!?でも今更家になんか戻れないし……!)

慌てふためく私を見て、シリウスちゃんはいつものように気だるげな溜息を吐いた。

「どうせいつもの家族喧嘩が原因なんでしょ?で、私のところまでプチ家出する気だったのよね。
 はぁ……おバカなアンタの行動パターンはよーーっく分かるんだから!」
「ち、違うの!荷造りの事は忘れてたけど、絶対に今日と言う今日は本気で家出するんだから!!」
「へぇ……?ふーん……?」

いつもの事ね、と言いたげな冷ややかな様子のシリウスちゃん。絶対私の言葉を本気にしていない。
うう、確かに昔から『家出してやる』が口癖だったから、信じてもらえないのも仕方が無いか。
――だけど。


「私ね、本気だよ……シリウスちゃん」


決意を示すため強い口調で凛と言い放つ。
いつもと違う私の態度にシリウスちゃんは何かを感じ取ってくれたようで口を閉ざした。

私は日ごろからお母さんに言われていた「女の子なんだから格闘技なんて野蛮な事はやめなさい」という言葉を思い出していた。
あの言葉に私はいつも疑問を抱いていた。どうして女の子は格闘技をかじっちゃいけないのか、と。
私は好きだから格闘技をかじっている。好きだからシリウスちゃんと一緒にいる。それらは全部いけない事なのだろうか?

「私はシリウスちゃんの言う通りバカだから……何が正しい事で何が悪い事かなんて分からないよ。
 でもだからこそ知りたいの!本当に正しい事、本当に悪い事……旅をして全部この目で確かめていきたいの!!
 だから――旅に出て、自信がついて、胸を張った自分になれるまでここには帰らないつもり」

シリウスちゃんは暫く黙っていたが……やがて強いまなざしで私を見た。

「本気なのね?」
「……うん」
「どうせ……私が止めたって止まらないんでしょうね。アンタって変な所で頑固な暴走娘だから」
「うっ」

さすがシリウスちゃん。よくご存知で……。

「それじゃあ……」
「私もついていくわ」
「うん!シリウスちゃんも!!…………って、ええええ!?」
「何一人ノリツッコミしてるのよ……私もアンタの旅についていく、って言ってるの」

さらっとスカイブルーの髪をかきあげるとシリウスちゃんは仏頂面のまま言い放つ。
で、でも、どうして私なんかの旅に関係ないシリウスちゃんまで?
素直な疑問を訊ねると、彼女は目を逸らしながらぼそっとつぶやいた。

「私がレーガに旅立つ兄さんについていかなかったのはね、アンタがいたからなのよ……ルーラ
「え……」
「言ったでしょ、アンタが私の初めてできた友達なんだって」
「!」

しまった!私、自分の事でいっぱいいっぱいでシリウスちゃんの事まで頭が回らなかった……。
両親を早くに亡くしたシリウスちゃんは小さい頃からお兄さんと二人きりで暮らしていた。
だけどそんなお兄さんは遠く離れた王国・レーガの宮廷魔術師になることが決定し、彼女は今、大きな家にひとりきりで住んでいる。
親友の私が旅立ったらシリウスちゃんは本当に独りぼっちになってしまうじゃないか。

「ご、ごめんシリウスちゃん!!私っ」
「いいの。……まぁだから、アンタの事心配だしお目付け役として私もついていく。異論はないわよね??」
「それはもちろん……!シリウスちゃんは私の大っ好きな、自慢の親友だもん!!」

大好きと言う単語に頬をかきながら、シリウスちゃんはぶっきらぼうに目を逸らす。
少し冷たくて不器用だけど、本当は誰よりも優しくて……誰よりも私のことを理解してくれる目の前の親友が大好き。
シリウスちゃんがいてくれるから、私はありのままの自分でいられる。

「シリウスちゃん!」
「……何よ」
「えへへ……ありがとねっ!」

にこっと笑ってお礼を言うとシリウスちゃんは少しだけ驚いた顔をして……やがて不器用に笑った。

「さて、と。とりあえず荷造りに私の家まで行くわよ」
「はーいっ!!」
「あ……それとね、旅に出るにあたって少し条件があるわ」
「条件??」

小首を傾げて彼女の言葉を待つ。
やがて口を開くとシリウスちゃんは私にこう告げた。

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最終更新:2011年09月05日 05:28