シリウス・フィーナ
「私はシリウスちゃんの言う通りバカだから……何が正しい事で何が悪い事かなんて分からないよ。
でもだからこそ知りたいの!本当に正しい事、本当に悪い事……旅をして全部この目で確かめていきたいの!!
だから――旅に出て、自信がついて、胸を張った自分になれるまでここには帰らないつもり」
彼女の意志を聞いて私は少し考えていた。
ルーラは、本当に家に帰るつもりがなく村を出たいと私に告げた。
『家出したい』は狼少年のようなルーラの口癖だったけど、私の家でプチ家出をするのではなく
まさか本当に村を出ようとしているなんて思いもしなかった。
ルーラはいつも楽しそうに家族の話をする。家出の途中でも両親の話しをしていたから。
そして、必ずいつも言うの。「……帰ろっと」って。
ルーラは、帰っても迎えてくれる人がいるから――私が引き留める権利なんて、無いに等しかった。
寂しさを忘れたふりをしていたのに、ルーラが帰った後は賑やかだった私の部屋が急に閑散として。
そしてそんな寂寞(せきばく)の気持ちになる時はルーラに依存し始めている自分をいつも情けなく思った。
ルーラが村を出てしまったら、私はまたひとりぼっちになる。
私は、兄さんが出て行く時の言葉を思い出した。
『その強大な魔力は、悪いことに使うべきものじゃない。今はしーちゃんの、大事な仲間を守るためのものだよ』
と。
そうだ、私は……守られるんじゃなくて、誰かを守りたいって思ってたんだ。
それを気づかせてくれたのは、ルーラだった。
バカは、私……ね。
しばらく押し黙っていた私は、やっと口を開いた。
「本気なのね?」
私はルーラにその意志が本当なのかどうかを確かめる。
「……うん」
私に少し遠慮したように、彼女はそう返事をした。
「どうせ……私が止めたって止まらないんでしょうね。アンタって変な所で頑固な暴走娘だから」
でも、そんなルーラが放っておけない私も同類よね。少しだけ自分で自分が可笑しくなった。
「うっ」
いつものようにルーラが私に突っ込みを入れられて変な声を上げる。
「それじゃあ……」
あの時の兄さんのように、背中を向けて歩きだそうとするルーラ。
いつものように放っておけなくなった私は反射的に
「私もついていくわ」
と言った。
何かつっかかっている。彼女の意志を聞いた瞬間にできたモヤモヤの――やっと答えが出た。
そうよ、私は……ルーラを、たった一人の親友のルーラを守りたかったんだ。
「うん!シリウスちゃんも!!…………って、ええええ!?」
ルーラは、ずいぶんと驚いた声を出して私を見た。
「何一人ノリツッコミしてるのよ……私もアンタの旅についていく、って言ってるの」
私がそう言った時、風が吹いてきた。村の花壇の花たちが揺れた。
私は風で少し乱れたスカイブルーの髪をかき上げた。
そして、呆然としているルーラのほうをじっと見つめた。
見つめている目の前の張本人は、どうして、どうしてと壊れたお喋りする人形のようにぶつぶつと呟いたり口をぱくぱくしている。
「私がレーガに旅立つ兄さんについていかなかったのはね、アンタがいたからなのよ……ルーラ」
「え……」
「言ったでしょ、アンタが私の初めてできた友達なんだって」
私は、いつもは照れくさくてあまり話さない本音をルーラに告げた。
どうしても、慣れていないせいなのかいつもぶっきらぼうになってしまう。
本当は、いつでも本心をぶちまけたいって気持ちでいっぱいなのよ。
なんて……どうせ、わかってないんでしょうけど。
「ご、ごめんシリウスちゃん!!私っ」
取り乱したルーラを静止するように、
「いいの。……まぁだから、アンタの事心配だしお目付け役として私もついていく。異論はないわよね??」
と、言った。
本当は心配が8割なのだけど。あとは兄さんからの連絡がないのが気になるしね……。
「それはもちろん……!シリウスちゃんは私の大っ好きな、自慢の親友だもん!!」
私はルーラの言った大好きという単語に少し驚いて、理解したとたんに嬉しさと恥ずかしい気持ちとで頬をかいてさっと目を逸らす。
でも……この子を前にすると、少しだけ自分に素直になれる気がした。
まっすぐで、正義感が強くて問題ばっかり起こすけど――それがルーラなのよね。
なんだかんだいって、皮肉を言っちゃったりするけどそれはちゃんとアンタのことを認めてるからよ。
「シリウスちゃん!」
ルーラは、私の名前を呼んだ。
「……何よ」
私はぶっきらぼうに答える。
「えへへ……ありがとねっ!」
ルーラは子供のような無邪気で純粋な笑顔で私にお礼を言った。
アンタには、ホント――負けるわよ。
私はふっと、ルーラに返すように笑った。
「さて、と。とりあえず荷造りに私の家まで行くわよ」
「はーいっ!!」
ルーラは無邪気にそう返事した。
「あ……それとね、旅に出るにあたって少し条件があるわ」
「条件??」
「一つ。急に「……帰ろっと」と弱音を吐いたり言わないこと!
二つ。死ぬような危険をさらさないこと
三つ。法に触れることや旅先での一般人に迷惑をかけないこと!
……以上よ。それでなくてもアンタはとくに血の気が多いんだから」
私はルーラに条件を三つ出した。
ルーラは、少し唸っている。あーとかうーとか言いながら。
そして、ルーラは口を開いた
「うん、わかった! 私、決めたことはちゃんと守るよ。
今も、……これからも」
「快く聞いてくれたみたいで、関心したわ。
じゃ、ホントに日が暮れちゃうわ。ちゃっちゃと準備するわよ」
そしてルーラと私は、私の家の方向まで歩いて行った。
最終更新:2011年07月17日 21:39