ルーラ・キャラット

暗闇ドキドキハプニングを終え……私とブレスくんは暗い洞窟の一本道を並んで歩いていた。
ブレスくんはあれ以来私と目を合わせてくれない。並んで歩いてるものの少し距離を取ってるし……薄暗くてよくわからないけど顔が赤い、気がする。
……ブレスくんは私に対してはクールで、少し冷たい。私がいくらアタックしても冷たい言葉でかわしちゃうし、シリウスちゃんの提案で一緒のペアが決まった時も嫌そうな顔してたし。

(……だけど)

ちらり、と少し離れて歩くブレスくんに視線を向ける。

それでも――私に気を遣って歩幅を合わせて歩いてくれるブレスくんに、彼の不器用な優しさが伝わってくるのだ。
それがすごく嬉しくて、気がつけば私はブレスくんに擦り寄っていた。

「ブーレスくんっ♪」
「~~っ!?ああもうっ、あんまり近づくな!僕は男で、お前は女の子なんだぞ……!!」
「何それ~?ブレスくんは優しいから大丈夫ですよーだ」
「あ、あのなぁ、そう言う問題じゃ!!」

ブレスくんは顔を真っ赤にすると私を引き剥がし、再び距離を取る。
やっぱりブレスくんは優しい。なんだかんだで私を心配してくれているんだ。

(……本当はほんの少しだけ心配だったんだよね。もしかして私本気で嫌われてるんじゃないかな……って)

だけどそんな事はなかった。ブレスくんはぶっきらぼうだけど優しくて頼りになる男の子なのだ。遠まわしな優しさがどことなくシリウスちゃんにも似てるな~とも思う。
一連の騒動でブレスくんの事をちょっとだけ知れた気がして、ブレスくんに気づかれないように微笑んだ。


――そんなこんなで、私たちはそのまま洞窟の奥を探索していたのだが。


「……行き止まりか?」
「え~~っ!?こんなに歩いたのに??」

突き進んだ先には何もなく、そこで道は途切れていた。
ブレスくんはうざったそうに髪をかきあげると、深いため息と共によく分からない事を言い出した。

「骨折り損のくたびれもうけだな」
「なぁにそれ?」
「疲れただけで何も収穫ナシって事。……っていうかこの程度のことわざくらい知っておきなよ」

どうやら今の難しい言葉はことわざだったらしい。さすがブレスくん!博識なところも素敵……!!

「シリウスとプラチナが進んだ先が正解ルートだったみたいだな。……仕方がない。戻るか」
「はぁ~い」

(…………ん??)

ブレスくんの言葉に頷き、踵を返そうとした瞬間――私はふと行き止まりの壁が気になった。
なんだかここだけ他の壁と違って突出しているような――。
……あれ?これっていつか漫画で読んだ事ある。確かこういうのって……!

「ブレスくん、待って待って!」
「ん??なんだよ突然……」

慌てて呼び止めると、先を歩いていたブレスくんは少し面倒くさそうにしながらも私の元へ戻ってきてくれた。
うん!私の感が正しければ――この壁は……!!


「おりゃあああああッッ!!キャラット直伝――ウルトラスーパーダイナミックキーック!!!」


私は思いっきり足を振り上げると突出した壁に向かって蹴りを入れる。(……ブレスくんが後ろで唖然としているような気がしたけど気にしない。)
壁は思っていた以上にあっけなく凹んだ。同時に、違う場所からゴゴゴゴゴ……と言う轟音が鳴り響く。
……やっぱり!この壁だけ何かおかしいと思っていたけど、どうやらスイッチの仕掛けがあったみたいだ。

「今の音――どこかで道が開けたのか?」
「うんっ、きっとそうだよ!!シリウスちゃん達の方の道が開けたのかも……!戻って合流してみようよ!!」
「ああ…………その前に」
「?」

すると――さっきまで側にいることを拒んでいたブレスくんが、突然私のもとへと近づいてきた。

(……えっ、えっ?なになに??)

気がつけば目の前にはブレスくんの顔。至近距離で目と目が合う。
思わずゴクリと唾を飲み込む。これは、まさか。

(もしかしてもしかしてもしかしなくても……きっ、キキキ……!?)

ドキドキしながらも思いきって目を瞑った瞬間――。


「い、いったぁ~~い!!!」


額に鈍い痛みが走った。……慌てて目を開けると、どうやら私はブレスくんにデコピン攻撃されたようで。
ブレスくんは呆れたような顔で私を見下ろしていた。

「あのなぁ、お前は女の子なんだぞ!自分が女だって自覚あるのか!!」
「あっ、あるよう!私か弱い乙女だもんっ……!!」
「か弱い乙女が壁に向かって強烈な蹴り入れるか!?……まぁ確かに道を開けた事には感謝するけどさ。その……」

ブレスくんは頭をかきながらなにやら言葉を探し始める。
言葉を紡ぐのが苦手なのか……しどろもどろになりながらも再び口を開いた。

「女の子なんだからあまり無茶なマネするなよ。僕だってその……お、男なんだからさ」
「……えっ?」
「~~だからっ!少しは僕を頼れってこと!!」

顔を真っ赤にしながら叫ぶと、ブレスくんは私の足元へと視線を移した。

「……ほら、足」

ブレスくんの言う通り、生足だから先ほどのキックの衝撃の際に少し擦れちゃったみたいで、そこには擦り傷ができていた。
でもこんなケガなんて日常茶飯事。私は苦笑いすると首を横に振る。

「え、えへへっ、これくらいへーきだよ!なんてことないってば」
「バカ!些細なケガでも放っておけば大変な事になる可能性だってあるんだぞ!」
「あ……う、ううぅ」

笑って誤魔化すつもりだったのにブレスくんに怒られちゃった……。
私が少し落ち込んでいると――ブレスくんはカバンから何かを取り出すと、その場に屈んだ。

「ブレスくん??」
「気休めにしかならないかもしれないけど……ほら」

そう言うなり、ブレスくんは私の擦り傷のできた場所に何か塗る。取り出したそれはどうやら薬のようだった。
傷口に少しツーンとした痛みが襲ったけれどそれも一瞬。すぐに体が馴染んできたようで気がつけば痛みはひいていた。

「洞窟を出たらちゃんと手当てしてやるから……とりあえずシリウス達と合流するぞ?」
「あっ……う、うん!」

……ブレスくんの役に立とうと思ってがんばった筈なのに、結局はブレスくんに助けられちゃった。

(……えへへ。やっぱりブレスくんは優しいや)

笑っちゃいけない場面なのに、思わず顔がニヤけてしまう。
洞窟を出たらちゃんと謝ろう。それから……ありがとうってお礼を言おう。
それからそれから!今の私の想いを伝えよう!

「ブレスくんっ……だ~~いすきっ!!」
「こっ、心の声が漏れてるぞ心の声が!!」

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最終更新:2012年07月31日 01:07