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シリウス・フィーナ

 私達は翔と合流してから色々な事を話した。私達がどこから来て、何をする目的で旅をしているのか。取るに足らない他愛もないこと、別の道を歩んでいる仲間達のこと……生まれてきてから家族以外の人間はルーラの存在しかなかった。けれど、私は今こんなに多くの仲間と一緒に行動することになっている。……人生、何があるかわからないわね。本当に。
 その世界は広かった。自分が狭い田舎の村でがむしゃらに四肢をばたつかせていても世界では小鳥のさえずりにもならない。
私がこの人生を歩んできたという証明が偶然と言ってしまうのならば……この出会いもまた偶然なのだろうか。……否、運命なんて信じない。これは必然。まぎれもない、必然。だから私はその証明を紡ぎ続けるために歩むしかないのだ。自分の力では開ききれない道に突き当たるまで。

 ……諦めは、死だ。私が私らしくないというのは、死と同意義だ。最初から、決められたルートばかりじゃつまらない。例え辛い道であったとしても、私は進むしかない。だから、私はそれを知るためにも実感するためにも旅をする。
……理由なんて、それでいいでしょう?

「……それにしても、湿気が高いなこの洞窟は」
「……あんたがそんな格好してるから湿気がモロに来るだけでしょ」
「アンタこそ、そのロングブーツ暑くないの?この季節だよ。さっきも転んでたじゃない」
……翔は、私の地雷を踏んだ。確実に。
「なんですってぇ……?その口キンッキンに冷やしてあげましょうか?」
「そういうアンタの口も塞いであげたいね」
そう言うと翔はずいっと、私の顔に顔近づけてくる。その顔は、真顔だ。
「……ッ!!!」
私は、全身が熱くなるのを感じた。それは、怒りの熱さではなかった。
「なーんてな」
私をバカにするような顔をしてニッと翔が笑う。
その熱さは、すっと怒りの熱さに変わってしまった。
ふるふると、肩が震える。
「……あんたってやつはぁ……!!!!」
その時、私の立っている大地の振動がわかった。でもそれは、私の生み出したものではない。何者かによって動されたものだ。
「……お、おいまさか」
「私じゃないわよ」
「シリウスちゃん、これは」
「……ええ」

 するとその揺れは、次第におさまっていった。
さらに洞窟の奥のほうから、けたたましい音が響き渡る。
「……これ」
「……うん、多分僕らのルートのほうが正解だったのかも」
「おい、勝手にお前らで話しすすめんなよ。俺がついていけねぇだろ」
翔はキョロキョロと私たちの顔を見合わせるように先程のことについての答えを乞う。
その姿に私は勝ち誇ったようにフッと笑う。
「……あら、さっきの会話で解らなかったの?」
「解るわけないだろうが」
翔は少し投げやりになってそう答える。
「こんなに奥に響くようなけたたましい音がする、ということはこの先に空洞があるってことだよ。音は空気の振動で……だから空気がないと……」
プラチナが待ってましたといわんばかりにブツブツとマシンガンの如く先程の状況について説明をする。
……正直、物理的なことは私もあまり得意でないからわからないけど確かに感じたことは一つあった。
「だーーっ!わかったわかった、頭痛くなるからやめろ!」
翔は慌ててプラチナの呪文のような語句を止めようと口を塞ぐ。
そして、プラチナは止められたことにより少し不満そうになりながらその手を剥ぐ。
「ねえ……この洞窟、術者はわからないけどマナに溢れすぎていると思うの……。マナが作られていると考えるのが自然。……それは、1人で使うには十分過ぎるほどよ」
私は先程感じたことを素直に言う。
本来、洞窟のマナとは何かを封印していたり錬金術に使われる薬草などが群生している場合多くなったり状況によって変動する。
魔力を嫌ったものの隠れ洞として使われている場合は、そのマナや魔力を吸収してしまう魔石などが多く置かれている。
しかし、この洞窟はきっと前者のほうだ。“何か”がこの奥に確かに存在するのだ。
「……あんたの言ってた、“白夜樹”……あながち、間違いではないかもしれないわね」
私がそう言うと、翔は目を輝かせた。
「ホントか!?」
「……うん、ボクもシリウスちゃんと同意見だよ。この洞窟はマナが作り出されている環境に最適すぎる。適度な湿気、これは奥に水路があると考えても良い」
「……なるほど」
翔はやっと納得したようで、その説明にうんうんと頷く。
進んでゆくと、たしかにその川のようなせせらぎが聞こえる。上から落ちてくる水滴と相まって、その音は何か音楽を演奏しているようにも聞こえる気にさせてくれる。
「……水音が近いわ」
さらに進む。靴が、次第になめらかになってゆく泥を蹴るようにして前に進んでゆく。
……この洞窟を抜けたら後で、洗いたい。
そう思わせるくらいに。
「……水路だ」
プラチナは目の前を指で指す。
その先には、先程の物音の原因だと思われる分厚い岩がスライドしたように左側にある。そして、ゆく道をふさぐように水が流れている。……けど、確かにその水路の先には道があった。
「……行くわよ」
私は、おもむろにロングブーツを脱ぐ。私の脚が露わになって、プラチナと翔は目を覆う。
「……何よ?」
その行動を不審に思った私が二人に問う。
「……だ、だってそんな」
「それはダメだろ……さすがに」
プラチナと翔は口々に言う。
「……だから、何がよ?ブーツが濡れるのが嫌だから脱いだだけよ」
と言うと、プラチナと翔が安心したようにほっと胸をなで下ろす。
その仕草に私は理解できなかったけど、気にしないことにする。
「……で、ブーツなんて脱いでどうするの?」
プラチナは不思議そうに私のブーツを見つめる。
「どうするのって……先に進むのよ?」
「嘘だろ?」
翔はびっくりした様子で私を見る。私は、あんたなら同じことしてこの先を進むと思ってたけど、意外と潔癖みたい。
「……あんたたち、目の前に水があるだけで諦めるつもりなの?」
「……普通は、進まないよね」
プラチナは翔と顔を合わせて、うんうんと頷く仕草をする。
「はぁ、ルーラでも喜んで行くわよ。これだから街の人間は情けないわね……洞窟の水は、ただの川と違って身体に良いのよ?よくルーラと村の鍾乳洞で遊んだわ」
私は先に進む。冷ややかな水が、私の足を襲う。だけど、そんなことは慣れっこだった。私の姿におずおずと靴を脱ぎ出す二人。
「わ、冷たいっ」
ぴちぴちと跳ねる魚のように、プラチナはばしゃばしゃと足で水を掻き分ける。
翔も恐る恐る水に足を入れる。その冷たさに身を震わせていたが、やがて先に進んで行った。

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最終更新:2011年09月02日 01:53