…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
俺が目を覚ました時、蜜蜂の唸るような奇妙な音が聞こえてきた。
その鼓膜に染み込んだ音はねっとりと俺の体を侵蝕し、血に流れ、髄を通り、最後に汗腺を刺激した。
手のひらで額の汗を拭った俺は、辺りを見回し、まず状況を確認しようとした。
天井は高い。白くて綺麗だ。ガキの頃に一度だけ入ったことのあるムショとは大違いだ。
吊るしてあるのは裸電球か? 少々汚いがこれまたムショとは違った感じがする。
「ここはどこだ? 『別に気にならねえな』」
俺の独り言に、もう一人の『俺』が応える。
クソッ! またこれだ。
俺は気怠い身体に鞭打って起き上がった。
……起き上がった? そうだ。俺は寝ていたようだ。
すると、コンクリート製の打ちっぱなしの壁の向こう側からまだあどけない少女の声が聞こえてきた。
「……お父様。お父様。お父様お父様お父様お父様お父様。
……もう一度……今のお声を……聞かせてくださいませ…………」
俺はゴクリと生唾を飲み込むと、声が聞こえてきた方の壁を凝視した。
「……お父様お父様お父様お父様お父様……お隣のお部屋に居らっしゃるお父様……私です。
私です。お父様の娘だった……貴方の妻でした私……私です。
私です。どうぞ……どうぞ今のお声をもう一度聞かせて……聞かせて下さい……聞かせて……聞かせて……お父様お父様お父様お父様……お父様――ッ……」
異常だ。何かかもが異常だ。 『そうか?』
俺は頭のなかに響く『俺』の声が気にならないほどに混乱していた。
どうしてこんなことになっているんだ?
状況を整理しよう。
まず、俺は今、どこにいるんだ?
次に、俺のこと(だよな?)を「お父様」と呼んでいるあの女は誰だ?
そして最後に、知らないうちに俺の右手に握られていたこの【カード】は何だ?
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
またあの音だ。
暫く茫然自失としていた俺の耳に、またあの時計のような音が流れ込んでくる。
――聖杯戦争。
今の音でようやく思い出した。
複数の主従を争わせ、最後に残った一組の願いを叶える。
そんなイカれた戦いに俺は身を投じたのだ。
『イカれてんのはお前のほうさ』
頭の中でもう一人の俺が俺を嘲笑う。
俺はふと頭を触った。
コスチュームが、無い。
「被るもの……早く……! 裂けちまう……!」
俺の中の『俺』が自己主張を始め、瞬く間に俺の『個性』は勝手に発動しそうになる。
――ドゴォン!
何かが爆ぜるような音がし、部屋のコンクリート壁が吹き飛んだ。
「お父様。お衣装をお忘れのようでしたので、僭越ながら私の方から来させていただきました」
もうもうと土煙が立ち込める中、虚ろな目をした少女がにっこりと微笑んで立っていた。
少女の手にはラバーマスク。確かに俺のものだ。
俺は震える手でラバーマスクを少女から受け取ると、それを被った。
「……ハァ、ハァ、ハァ……」
いい。アメスピは無いがテンションが戻ってきた。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
例の時計の音がする。
俺と少女は土煙が収まった部屋で机を挟んで向かい合っていた。
「で、アンタは俺のサーヴァントなのか!? 『別に誰でもいいけどよ!!』」
「はい、私がお父様のサーヴァントです」
バーサーカーの少女――
ガラティアというそうだ――は微笑みを絶やさずにそう応えた。
「じゃあさ、教えてほしいんだけどよぉ……」
「はい。何でもどうぞ。私は全てをお父様のために捧げます」
何となく会話が噛み合っていないような気がしつつも俺は尋ねる。
「バーサーカーちゃんの聖杯にかける望みって何!? やっぱり世界平和とか!? 『だったら俺の望みと一緒だな!!』」
「――それは、もちろん」
少女は目を逸らさずにはっきりと応えた。
「お父様の幸せですとも」
……ブウウウ…………ンン…………ンンン…………。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
ガラティア
【性別】
女
【出典】
ギリシア神話
【属性】
混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:A 耐久:D 敏捷:A 魔力:E 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
狂化:C
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
普段は理性的で意思の疎通も図れるが、「お父様(マスター)」の身体または精神が傷ついたとガラティアが見なした場合、このスキルが自動的に発動され、マスターのことを傷つけた対象を全身全霊を持って排除する。
【保有スキル】
象牙の肢体:EX
アガルマトがガラティアの体を彫る際に付与したスキル。
毒や呪い等のステータス異常効果を完全に無効化する。
水晶眼:D
サーヴァントや宝具、魔術の性能を一目で把握し、分析するスキル。
ただしランクが低いため、ガラティアの分析を信用して良いかどうかはマスターの判断に一任される。
自己修復:B
自身の身体を自動的に修復するスキル。
霊核が損傷しない限り、ある程度の傷であれば直すことが可能。
【宝具】
『彫刻師の接吻(アガルマトフィリア)』
ランク:A 種別:対軍宝具
造高十メートルのガラティアを模した彫刻像を召喚し、意のままに操る宝具。
彫刻像はガラティアの動きと連動しており、その巨大さに見合わず俊敏。
また、腕のみや脚のみの召喚も可能。その場合、魔力消費が抑えられる。
【weapon】
なし
【人物背景】
ギリシア神話に登場するキプロス島の王アガルマトが、女神アプロディーテーの姿に似せて彫刻した象牙の女性型彫刻像。
自らが作った彫像に恋焦がれるアガルマトの祈りを聞き届けたアプロディーテーによって、彫刻像ガラティアは人間となり、最後にはアガルマトと結ばれた。
【特徴】
真っ黒なゴシックロリータとチョーカーを装着した、まだあどけなさの残る球体関節人形の美少女。水晶の瞳に薄鈍色の髪を持つ。
マスターのことをアガルマトだと思い込んでおり、性別に関わらず「お父様」と呼んで慕う。
【サーヴァントとしての願い】
永遠にお父様(マスター)と一緒に暮らす。
【出典】
僕のヒーローアカデミア
【性別】
男
【Weapon】
なし
【能力・技能】
「二倍」
トゥワイスの『個性』
一つのものを二つに増やすシンプルな能力。
対象物をしっかり精緻にイメージすることで増やせる。イメージが足りないと失敗する。コピーは性格や能力も再現されている。
複製はある程度のダメージが蓄積すると、泥の様なものに崩れて無力化する。二つ目まで二倍に増やせるが、二つ目は一つ目より崩れやすい。
また、下記のトラウマのせいで自分自身を増やすことは出来ない。
【人物背景】
全身に黒いラバースーツを纏っている、灰色の肌と白目が特徴的な犯罪者(ヴィラン)の男。
口数が多く、一人で二人分の会話を行っている様な話し方も特徴。先に喋るAは本当のことを言っているが、後に喋るBはAの反対、もしくは、本来言うべき言葉とは反対の言葉を発している。
素顔は額に傷がある金髪のダンディーな男性で普段は寡黙。
過去に悪事の為に自分自身を複製し従えていたが、反乱により分身に殺されかけ額に傷を負わされてしまう。
分身は互いに殺し合い本体の自分だけが残ったものの、トラウマを植え付けられたせいで自分が本物であるか確信が持てなくなった上、常に反対の事を言う二重人格が形成されたために日々葛藤している。
マスクを被ると落ち着き、口調が軽くなる。
【聖杯にかける願い】
本当の自分を確立したい。
最終更新:2017年10月23日 22:43