グレイ&セイバー

冬木市で若い女性が通り魔に襲われる事件が多発するようになった。
猟奇かつ残虐性に満たされたソレは、誰かが自然と「まるで切り裂きジャックだ」と噂する。
まあ、実在の切り裂きジャックを差して語っちゃいないだろう。
例えに過ぎない。
19世紀、霧の町・ロンドンを恐怖の渦に飲み込んだ殺人鬼は、年齢的に死亡したに違いない。
尤も――それが人であれば、の話。
かの殺人鬼は現代もなお正体が明らかではないが、既に過去の話。過去の伝説。
現代を生きる人々には関係ない。
何より、ここは日本の冬木市である。切り裂きジャックとは無縁な土地だ。


(だってのに)


平凡なキャリアウーマンは一人、夜道を歩いていた。
幾ら気をつけろとニュースやネットで報じられていても、残酷ながら社会は考慮してくれない。
普通だったら女性の残業を減らすなど、気使い位やって欲しいのに。
だけど、平然と残業をやらされて、気がつけばこんな時間。
彼女は通り魔への不安よりかは、精神的かつ肉体的疲労を味わって、一刻も早く帰宅したいだけだった。


「そこの君」


唐突に、自棄に耳残る声色で話しかけられ女性はギョッと振り返る。
怪しい男がいた。
彼女の知識にはない厳格な格好の、多分、宗教の制服みたいな――神父らしき強面の男性。
女性はあまりのことで言葉を発せなかったが。
男が、淡々と続ける。


「このような時間に徘徊するのは宜しくない。次からは気をつけるように」


女性は何とか「どうも」と短く答え、全力で繁華街に踵を返した。
元の道を戻ってきた形になるが、不穏な男性のいるあちらを突き進む勇気はない。
アレが噂の通り魔?
警察にでも伝えようか。
女性が悶々としていると、前方を確認しなかったせいで誰かと衝突してしまう。


「あら! ごめんなさい!! 大変、服が汚れちゃったかしら!」


酒でも飲んでそうな程、テンションの高い語り口調の女性が、尻餅ついた彼女に声をかけた。


「まあ! それって■■■■■■のスカートじゃない? 新作の!!」

「え、ええ」

「すごく似合っているわ! 汚れてないみたいね、良かった~。
……ねえ、どこかに飲みに行く感じ? 折角だし一緒に行かない?」

「あ……私――」


帰宅するのは無理だ。やっぱり恐ろしい。
話に流されて「いいわよ」と頷いてしまった。
酒で浮かれた女子大生と仮定すれば納得する、馬鹿みたいに騒がしい女性は、何故か話が合った。
同じブランドの服を着ていたし。
会社の同僚とは盛り上がらないファッションなどの趣味趣向と意気投合できた。
こんな偶然の出会いの一つ二つ、現実でもあるんだなと。



既に切り裂かれた女性は夢心地に居た。



いつかは自分が殺されたことを自覚するだろう。
だが、本人が自覚しなければ、それは永遠の幸福に等しいのである。







「随分と派手にやったものだ。満足したかね」


一人の神父――グレイという男性が、血まみれの女性に問いかける。
先ほどまでの天真爛漫な態度とは別人で、シニカルな笑みを浮かべる女性は気だるい表情に変えた。
とっ捕まえた女性の殺害に満足したのだろうが。


「人が勝手に自己満してるか一々確認しないと気がすまない訳ェ。神父サマ」


どこぞの舞台女優のように回りながら、殺人鬼は語る。


「アナタってつまらない男ね! 男なんてみぃんな、退屈でブッサイクな連中だけどサ!!
警察(ヤード)の連中みたいよ? どうして貴方は彼女を殺しましたかぁ?って
解答がなきゃ納得できない数学者かよ!! 殺したいから殺すのはいけない事なんですかぁ!!」

「そうは思わぬ」


グレイは不思議にも焦る様子なく否定した。
殺人鬼が動作を止めたのを確認し、彼は続ける。


「セイバー。お前のようにとても単純で、とても純粋な者を私は知っている。
彼もまた純粋に殺意を持つ穢れなきものだ。お前も同じであろう」

「それぇ。要するにソイツ馬鹿ってことっしょ。
あたしは馬鹿じゃないですよ~だ。馬鹿じゃないから捕まらないのよ!」


やれやれと面倒な子供を見守るかのようなグレイ。
彼は神父として、聖杯戦争。即ち、儀式に関して疑念を抱いていた。
それは、自分が召喚したのが『殺人鬼のセイバー』だから、ではなく。
戦争を通じて聖遺物の『聖杯』を巡るという。違和感を覚えるのは普通に違いない。

サーヴァントなる非現実的現象を目撃した身。
『聖杯』が実在しないのを否定できまい。
だからとはいえ『聖杯』とは聖遺物なのか。グレイがそれを手にすれば、あるいは
彼自身の望みを叶えうるかもしれない。


「なに? 歳老いた身で何か願いたいの」


嘲笑するセイバーに対し「ふむ」とグライは頷く。


「私は神の立ち場を実感する望みが叶うと信じておる」

「ええ……」


セイバーが顔をしかめて素っ頓狂な声を漏らすのは、不自然じゃない。
強面の顔立ちとは裏腹に、ネジが数本はずれた願望で欲望だ。
新世界の神になる。と、馬鹿真面目な表情で宣言されるよりかは。よっぽどどうにかしている。


「うっそぉ、アナタ。そんな顔して神サマになりたいんだ」

「解釈は異なる。これが神の領域に踏み入れる試練ならば、差し詰め、お前は私を導く『天使』であろうな」

「無茶苦茶キショイんですけど!!」


率直な感想を吐き飛ばすセイバーと支離滅裂な会話をするグレイだったが。
精神汚染のスキルを持つサーヴァントじゃなくとも、双方どこか歪んだ価値観が噛み合っていない風にも
第三者からは見えなくなかった。
改めてグレイは言う。


「ならばこそ、聖杯は穢れないものでなければならない」

「今度は何言ってんのサ」

「聖杯が正常な願望機でなければ無意味ではないかね」

「あ、ふーん。そういうこと」


別にどーでもいいけど。セイバーは呆気ない態度で呟く。
彼女は、本当の意味で聖杯への関心はないのだろう。
彼女とは異なる『切り裂きジャック』に各々の願望があれど、彼女に関しては事情が別だ。


「あたしはかわゆい女の子殺せればいいの! 聖杯なんて勝手にしなさいな」


猟奇的に、単純に、あっさりとセイバーが断言する。
そうだ。
切り裂きジャックとは『むしろ』そういうものではないか? と聞き返すような。
殺人鬼のあり方。
女性のみを残虐的に殺害する。文字通りの、正しい意味で、動機も無い殺人に抵抗もない。
夢に描いた。現実的ではない連続殺人鬼らしさが強い。
それが、セイバーの側面としての『切り裂きジャック』だった。






【クラス】セイバー

【真名】ジャック・ザ・リッパー@史実(19世紀 ロンドン)

【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:A 宝具:B

【属性】混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:E
申し訳程度のスキル。
無効化は出来ないが、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。
大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。


【保有スキル】

倫敦の沈殿:A
一種の気配遮断。人口密度の高い場所であるほど、セイバーの気配は消失する。
いかに彼女が派手に目立っても、サーヴァントの魔力を感知されない。
ジャック・ザ・リッパーが『誰であっても可笑しくない』からこそのスキル。

精神汚染:D
精神干渉系の魔術を確率で遮断するスキル。
どうにか対話は可能なのだが、彼女の価値観が歪んでいる。

人体理解:C
治癒に補正をかけるスキルだが、セイバーは急所を理解し、殺害の為に利用する。

【宝具】

『霧夜の悪夢に溺れ眠れ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
一対一の状態かつ、対象が女性で、時刻が夜。以上の条件が揃えば発動する。
対象は極度の催眠状態に陥り、痛覚が遮断される。
生きたまま解体されようとも死んだ事を自覚しないだろう。
被害者たちに警戒心が皆無だった為、浮上した『犯人が女性』という説に基づいた宝具。

『深紅より来る遍く刃』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
手際から切り裂きジャックは『医者』や『肉屋』ではないかと推察が飛び交い。
結局のところ正体は掴めなかったが、人体に精通する、あるいは刃物の扱いが上手だったに違いない。
という説によって誕生した宝具。
凶器として連想される刃物類が突如無数に出現し、対象を切り裂く。武器を召喚するのを除けば
『魔技』と称するのが正しいのかもしれない。

【人物背景】

世界中にその名を知られるシリアルキラー。
日本ではそのまま『切り裂きジャック』と呼称されることが多い。
五人の女性を殺害し、スコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず、捕まることもなく姿を消した。
どこかの誰かが推測した切り裂きジャック。
『自分好み』の女性を惨たらしく、汚し、穢し、手にかけたい殺意だけが動機である。
単純明快、絵にかいたような正真正銘の殺人鬼。

【特徴】

毎度お馴染みセイバークラス定番の『あの顔』っぽい。特攻も入っている。
ただセイバーだからという理由だけなので、何らかの因果関係はない。
黙っていれば、普通にしていれば美人。
本性を露わになれば鮫歯のゲス顔となって代無しに。

【聖杯にかける願い】

女性を汚したい。高潔な女性であれば尚更。



【マスター】

エイブラハム・グレイ@殺戮の天使

【人物背景】

とある新興宗教の神父。
自らの構想を叶える為に、実験場を設立した。
そして、そこに数多の殺人鬼を住まわせている。

【聖杯にかける願い】
聖杯が聖遺物であるかを見極める。

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最終更新:2017年05月20日 21:42