ダイヤモンド&レディ



『仗』
  • 刀や戟などの武器。
  • 頼りにする
  • 護る、護衛する。

Stand(スタンド)
  • 傍に立つ stand by me
  • 困難に立ち向かう stand up



少年は、紛れもない地獄に立っていた。

辺りを見渡せば、ついさっきまで命だった者たちが転がっている。
生きているものも例外なく傷つき、病み、飢え、死神の鎌に怯え―――否、余りの生の苦しみにその鎌を待ち望んでいる者さえいた。

――チクショウがぁ~~!待ってろ、今俺が『治して』やるッ!!

しかし、少年はそんな地獄の真っただ中に居ても臆することは無かった。
彼には、目の前で苦しむ人々を手っ取り早く救える力があるのだから。
自分以外のあらゆるものを治す/直す、この世のどんなことよりも優しい、そんな力が。
背後に現れる彼の精神の像(ヴィジョン)。音すら置き去りにする速度で辺りの人々に手を伸ばす。
これで大丈夫。まだこの人々は死んではいない。自分の力は働くはずだ。
そう、信じて疑わなかった。
が―――そんな少年の目算を裏切るように、像の指はすり抜けていった。
何故だ。
こんなはずはない。
そう思っている間にも、命は少年の目の前で零れ落ちていく。
どれ程その流れを堰き止めようとしても死は器用に少年を躱し、周りの、抵抗する気力もない人々に降り注いでいく。
そばに立つ像は、己だけは治せぬはずのヴィジョンは、この時だけは彼だけを守ったのだ。
この世のどんな事よりも優しい力を持つ少年も、『地獄』では――余りにも無力だった。


―――――――――!!


不衛生の極みの石畳の上、周囲の嗚咽と痛苦に苛まれる声の中で、誰のものとも知れぬ慟哭が響いた。



「マスター、どうしましたか。心ここにあらずと言った顔をしていますが」
「あぁ、すんませんス。セイバーさん
ちょっくら今朝見た夢を思い出してて」
「ちゃんと睡眠は取れているのですか。
まず適切な睡眠と食事運動での予防、そして徹底的な消毒と殺菌こそ―――」
「わ、分かってますって…そりゃもうバッチリ……」

まだ人通りが少ない朝の時間帯。新都を一望できる坂の上で二人の男女が並び立っていた。
一人は、ハンバーグの様なリーゼントヘアーに学ランを着こなした上背のある少年。
もう一人は仄かに朱がかった髪を結わえ、白衣の様な軍服を纏う淑女。
目を引く二人組であった。女性のボディラインは無骨な軍服の上からでも一目でわかる程魅力に満ち、その緋色の双眸は何が起ころうとも砕けることは無い、鍛えられた鋼の様な強靭さに満ちている。
十人とすれ違えば十人が振り向く、そんな女性であった。
対するリーゼントの少年も、その髪型に目をつぶれば女性ほど突出した容姿ではないが、一部の人間にはこれ以上ない程目を引く要素を一つ、背後に有していて。
―――所謂『スタンド使い』と呼ばれる人種にとっては。

「しかし、素晴らしい物ですね、貴方のその『クレイジー・D』は」
「えっ?」
「骨が折れ、肉が裂けようとも完璧に治す。
本来私達サーヴァントの領域の奇跡を、人の身で成すのですから
尤も、それを感情のまま振るうのは如何なものかと意見しますが」
「………すみませんでしたーっ!!」

目立つからこそ、絡まれる。
五分ほど前、美女を連れている自分に因縁をつけ、己の自慢の頭を罵倒した朝帰りのチンピラの顔面を、
自身のスタンド・クレイジーダイヤモンドで愉快なオブジェに変えたのを少年――東方仗助はほんのちょっぴり後悔して、90度で頭を下げる。
普段なら自分の『誇り』である髪型を少しでも貶した者をぶちのめすのに躊躇や後悔など存在しない彼であったが、今連れ添っている相手が相手である。
フローレンス・ナイチンゲール
統計学の才女にして、クリミアの天使の異名を得た看護師。


「いいですか、私は何も突発的に発生した精神負荷…ストレスの解消を諌めている訳ではありません。貴方は精神を健康に保つべきであり、
ストレスの発生源を傷つける事無く処置する明確な手段を持っています
しかし貴方自身が傷を負うリスクは当然発生します、そして貴方のスタンドとやらが私に視えるという事は無論他の参加者のサーヴァントにも目視可能ということであり―――貴方の力に自分を治す効果はないのでしょう?」
「えぇまぁ、その通りっスけど……」
「ならやはりマスターがリスクを負う方法を取るのは却下ですね、もし、また貴方の髪型を罵倒する者がいれば私に任せなさい、えぇ、秒とかからず、誰にも気取られず処置するわ」

(や、やっぱこの人ブッ飛んでるぜ……)

クリミアの天使の実物は、仗助の見てきた女性の中で一、二位を争う威圧感であった。
セイバーが現れてから今に至るまで、まるで頭が上がらない。
いや、正確には彼女が現界して自分の頭のことに触れてから。
『プッツン』して襲い掛かったのは自分なので必然的に悪いのも自分だが…やめよう、あの時のことは思い出したくない。
とにかく、その時の事を抜きにしても彼女の嘘や妥協を一切許さぬ蘭々と光る緋色の瞳で見つめられ、此方の話などそっちのけでマシンガンの様に言葉を放たれれば圧倒されるのも無理からぬ話であろう。
端的に言ってしまえば、会話が成立していなかった。
これでは剣士(セイバー)と言うより、狂戦士(バーサーカー)である。

「……そう言えば、何でセイバー何スか?
いや、看護師がどんなクラスってーのに就くのか、よく分かりませんけど」

考えてみれば剣士と言う称号は『看護婦』『天使』などのイメージに似つかわしくないのではないか?
そんな仗助の疑問にセイバーは相変わらずの鉄面皮だったが、一度瞑目して。

「それは――――こう言う事です」

言葉と共に彼女の背が輝き、仗助が持つスタンドの様に、『翼』が現出する。
大人二人をすっぽりと包めそうなサイズ、色は片方が純白、もう片方が銀。
鳥類が持つ生物的な翼ではなかった。正しく神話に登場人物が持っていそうな、そんな神々しさが感じられる翼だった。

「グレート……!
まさか、『クリミアの天使』は、ホントに『天の御使い』って奴だったんスかぁーッ!?」

驚愕の声を上げる仗助。
しかしそれをセイバーは即座に「いいえ」と否定した。
そして、銀色の翼を示すように仗助の目前へと出す。

「私は天使などではありません。ただの、人間の看護師であり、これはその証です」

目を凝らして確認する翼の正体、それは羽根で構成された翼ではなかった。
それは“夥しい量の手術用メス”だった。
数十、どころの話ではない。数千、数万……もっとかもしれない。
今度はもう片方、純白の翼を検めてみると、セイバーは「この時代でいう”手術用繊維”でできている」と返答した。
現実離れした翼に、医療行為のための合理性を付与する。
そう言えばガキの頃読んだセイバーの生涯を綴った本に、「彼女は徹底した現実主義者(リアリスト)だった」って書いてあったなぁ~と想起して、仗助は納得する。
成程、これは確かに『剣』だ。
ダイヤモンドよりも強固な、一本の鋼鉄の剣だ。

「そう、私は人間なのです。例え全能の神の使いでなくとも、それでも患者の命を救う。
そのためならば私は――かつて自分の影に接吻をした兵士達の信仰すら利用します」

これまで救えなかった全ての命に報いるために。
これから出会う全ての命を、救うために。
己の存在すら捻じ曲げて。
しかし、ともすれば呪いとも取れる生き様だけは砕けることも、曲がることも無く。
天使とは美しい花を撒く者ではなく、苦悩する者のために戦う者のことであるがために。

「故に、私には聖杯にかける願いもありません。いえ、願いはあれど夢は無い、と言いましょうか
願いを夢と同一としてしまうとそれは遠い彼方の物であると人は錯覚しがちです。
現実を睨み続け、絶望を叩き潰し、諦めの地平を踏破する――それが願う人間の歩き方であり、願った未来を唯一実現させる道であると、私は信じています」

「願いってーのは、世界に患者がいなくなるとかっスか?」

「えぇ、ですが今まで言った通りこの聖杯戦争における私の役目は『看護』です。
私が召喚されたという事は、この聖杯戦争に多くの病める者がいるか、
あるいは聖杯戦争自体が病んでいるのかもしれません」

「…………………」

セイバーは朱の瞳で、目前に広がる冬木を睥睨する。
新都は暖かな朝日と静寂に包まれ、これから苛烈な戦争が開始されるなど信じがたいほど平穏な時間が流れていた。少なくとも今は、まだ。
それでも、きっとその時は来るのだろう。彼女が、死力を尽くすその時が。
いや、もしかしたらもう始まっているのかもしれない。
仗助の脳裏に行方不明者増加の見出しを載せた新聞の一面がよぎった。
平穏な様に見えても、その裏ではもう既に。

「……俺には、おまわりを35年やってたじいちゃんがいました。
出世はしなかったけど、毎日町を守るのが仕事だった」

仗助もセイバーから新都の方へと視線を傾け、静かに語り始める。
その瞳は『町を守る男の目』だった。

「正直、聖杯戦争ってのがどんなものなのか、今一ピンと来ねーっスけど…
この街にやべー『危機』が迫ってるってことは、分かります」

少年、東方仗助は生まれついての戦士であり、一市民だ。
多くのスタンド使いと出会い、二人の殺人鬼の凶行に終止符を打った。
しかしそれは一地方都市の狭い話であり、知っているものもほとんどいない。
きっと彼が世界を救う事は無いだろう。歴史に名を残すことも無いだろう。
だが『街を守る』。この一点において話は変わってくる。
登校中に拾った、と虹村億泰に渡され、ここに来る原因となったふたご座のカードを握りしめ、仗助は言う。

「乗りかかった船だ。俺もセイバーさんを協力しますよ。
どんなことが起ころうと、この街を守って気持ちよく杜王町に帰らせてもらいます」

ここは冬木市であり杜王町ではない。そんな事は彼も分かっている。
だが、杜王町程では無いがここもいい街だ、嫌いではなかった。
これから起きる戦いは恐らく『吉良吉影』との戦いと同じかそれ以上に過酷な道行きになるだろう。
それでも、この街の平穏が壊されるのを見過ごそうとはこれっぽっちも思わなかった。
目の前のセイバーを名乗る淑女といると――そんな『誇り高い気持ち』が湧いてくるのだ。

「――――マスターがどんな状況に陥ろうと決して生を手放さないというのなら……
私はあらゆる傷病艱難辛苦を排除し、必ず貴方がどんな傷を負おうと治し、元の居場所に帰すだけです。
この背の翼は、そのためにある」

街を向いたまま、セイバーは…ナイチンゲールは告げる。
どこまでも彼女らしい問いと誓いに仗助は、一度苦笑して。
セイバーの隣に並び立ち、彼も街を眺めたまま。

「勿論っスよ」

そう、答えたのだった。

【クラス】セイバー
【真名】フローレンス・ナイチンゲール
【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運A+ 宝具B

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。
大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。

【保有スキル】
白衣の天使:A
無辜の怪物と自己改造の複合スキル。
無辜の怪物スキルにより獲得した、翼の生えた白衣の天使の姿。
それを自己改造のスキルによって自ら変質させ、本来ならば見た目だけの変化となるはずだった翼を”手術用メスと糸”によって構成される宝具に昇華した。
彼女の中では手術に使用する翼のため清潔に保たねばならず、無辜の怪物スキルでは不可能だった翼の収納が可能となっている。

鋼の看護:A
地獄の様な戦地の中で培った医療技術。
治療スキル。人を救う逸話により強化されているため、重症でも治療可能。また対象は人間もサーヴァントも問わないがセイバー独自の技術のため他の人間がマネをしても同じ治療効果は望めない

人体理解:A
彼女は人がどこを斬れば死亡するか、どこを斬れば”生かせる“かを熟知している。
人体特攻。人の形をしているサーヴァントが相手の場合、宝具使用時に筋力と敏捷にボーナス補正がかかる。
ただし、頭がライオンの様なふざけた外見のサーヴァントが対象の場合、スキルの対象外となる。

天使の叫び:EX
セイバーの声が届く範囲で治療行為を行う全ての者(セイバー、マスター、NPC問わず)はあらゆる妨害、精神干渉を無効化しAランク相当の戦闘続行スキルが付与され、いかなる状況でも十全の医療行為を発揮する。
病める者、傷つく者がいる限り、そこは彼女達の不退転の戦場である。

【宝具】
『天使の執刀(エンジェル・オペ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 ~10最大捕捉:1人
高密度の『銀の手術用メス』と『純白の手術用繊維』によって構成された一対の翼。
手術用繊維によって相手を拘束し、人体特攻のスキルで威力を高めたメスの翼による執刀で相手を正確に切除する。
手術用繊維で構成された方の翼は束ねるなどして包帯等に変形可能。糸という性質上、その応用性は高い。

【宝具】
『交わす命が生む賛歌(ナイチンゲール・プレッジ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:0~40 最大捕捉:100人
白亜の巨大看護婦を召喚し、看護婦が放つ黄金の光によって効果範囲内のあらゆる毒性と攻撃性は無効化され、強制的に作り出される絶対的安全圏。
またレンジ内サーヴァント、マスターに魔力とダメージの回復効果を齎す。
バーサーカー時の宝具『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』よりも単体での回復効果は低いが、レンジ内に生きる命が多ければ多いほど、その効果は増大する。

【weapon】
ペーパーボックスピストル
セイバーの癖にちゃっかり持ってきている。ただし銃口からはメスが出る。

【サーヴァントとしての願い】
戦場にいる負傷者と罹患者を救う。

【人物背景】
『Fate/Grand Order』でバーサーカーとして登場した彼女がセイバーとして召喚された姿。
狂化スキルは喪失しているにも拘らず、やっぱり人の話を聞いてくれない。
それもそのはず、彼女の言葉はすべて”自分に向けて”言っているためだからだ。
セイバーとして召喚されてなお、彼女の不屈の執念は何ら衰えることは無い。
ちなみに外見は白い軍服に翼が生えた姿となっている。

【マスター】
東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険part4ダイヤモンドは砕けない

【マスターとしての願い】
冬木市を守る。

【能力・技能】
スタンド『クレイジー・ダイヤモンド』:
【破壊力 - A / スピード - A / 射程距離 - D / 持続力 - B / 精密動作性 - B / 成長性 - C】
近距離パワータイプ、至る所にハートがあしらわれた戦士の外見をしたスタンドで、近距離タイプのスタンド中では最高峰のスペックを持つ。
パワーでは同じく近距離タイプ最強クラスと名高いスタープラチナのガードを破り、スピードでは銃弾を正確にキャッチし、触れた相手を爆弾へと変えるスタンド『キラークイーン』に触れる事すら許さず圧倒する事ができる。
能力は生物、非生物問わず自分以外の『触れたものを治す/直す事』
復元するタイミングは自由自在で地面を壊してから直すことで敵の攻撃を防いだり、凝固した血を利用して誘導弾を作成したりとその応用範囲は多岐にわたる。
ただし、病気や死んでしまった者を治すことはできないし、ガソリンを消費したバイクに触れて燃料を満タンにすることもできないため、魔力の回復も望めない。

【人物背景】
ジョジョの奇妙な冒険、第四部『ダイヤモンドは砕けない』の主人公。
身長185センチ。リーゼントヘアーの16歳。
そのサザエさんの様な(サザエさんに謝れ)髪型と髪型をバカにされた時に現れる性格を除けばジョースターの一族の中でも屈指の好青年であり、本人曰く純愛タイプ。
しかし仲の悪い知り合いから金をだまし取ろうとしたり、手に入れた宝くじを巡って血みどろの戦いを繰り広げたり、やはり父親の血が見て取れる側面も持っている。
吉良吉影戦後、the book編直前の時間軸で参戦している。

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最終更新:2017年06月04日 22:52