ラ・ピュセル&バーサーカー

「―――バーサーカー。僕さ、正しい魔法少女になりたかったんだ」

冬木市の外れにある鉄塔、その上で一人の少年…否、この時は少女が蛇使い座のトランプを手に夜空を仰いでいた。
人間離れした美しさと格好の少女だった。
西洋の騎士をモチーフとした軽鎧だけならばまだコスプレで通ったかもしれないが、頭に生える二本のツノとゆらゆら揺れる尻尾はコスプレでは利かないだろう。
何故そんなものがあるかと言えば―――当然である、今の少女は正しく人間という種族を超越した魔法少女と言う存在なのだから。
少女の名はラ・ピュセル。本名を岸辺颯太。
魔法少女を愛し、魔法少女に憧れ、遂には性別の壁すら飛び越えて本当の魔法少女に選ばれた少年であり、
悪意と狂気に対して余りにも無知だったが故に、無謀な戦いを挑み、無為に命を散らした少年。
本来ならばそのまま消えていくはずの存在だった彼を、聖杯は時空を超えてこの冬木へと招いたのだ。
聖杯戦争のマスターとして。
そしてそんな彼に召喚され、バーサーカーと呼ばれた子供は颯太の背後で眉を僅かにひそめる。
彼、或いは彼女も又、奇抜な格好をしていた。
艶やかな黒髪をポニーテールで纏め、白の束帯を纏い、臀部に颯太と同じく尻尾を生やし、目つきの悪さと鋭く尖った八重歯以外はお伽噺の登場人物の様に整った顔立ちをした子供だった。

「なりたかったって、諦めたんか?」

反英霊であるバーサーカーにとってさほど興味のない、どちらでも良い事だったけれど、
気まぐれに、腕を組みながら、端的に思った事を問う。
問われた少年は苦々しい顔をして、

「諦めてなんかないさ、今でもずっと夢見てる
でもさ、僕負けちゃったんだ。どうしようもなかった」


守ると約束した少女がいた。
笑っていてほしいと願った少女がいた。
彼女を守り抜けば、子供の頃憧れた、画面の向こうの魔法少女達になれると信じて疑わなかった。
けれど、

――――何か勘違いをしてませんか?人知を超えた力を持つ者同士が戦うのですよ。生きるか死ぬかになるのは当然でしょう?

結局、自分は憧れるだけの子供でしかなかったのだ。
それに気づいた時には、全てが手遅れだった。

スノーホワイト。

わななく声で漏らした少女の名は、冷たい夜の闇に塗りつぶされていく。
彼女は今、無事だろうか。
クラムベリーは、あの狂った異常者は、強い者を求めていた。
その視点で見ればスノーホワイトが狙われる可能性は低いだろう。だが0ではない。
シスターナナやウィンタープリズン達は彼女を守ってくれているだろうか、彼女は今、泣いてはいないだろうか。それだけが知りたかった。
そして、同時に怖かった。

「僕、怖いんだバーサーカー。死ぬのも怖いし、誰かを殺すのも怖い。
もし生きて帰っても、またクラムベリーと戦うことになるかもしれない。
何より、生きて帰った時、スノーホワイトがもう生きてなかったら――――」

やめろ、やめろ、やめろと心の中で誰かが叫ぶ。
そんなんじゃなかったはずだろ。魔法騎士ラ・ピュセルはそんな臆病者じゃなかっただろ。
テレビの向こうのキューティーヒーラーだって、何度も負けて、それでも立ち上がってきたじゃないか。
僕は間違ってないだろ。立ち上がれるはずだろ…
幾らそう思っても、クラムベリーの声と赤い瞳がよぎるたびに、震えは止まらなかった。
だって、彼はバッドエンドを知ってしまったのだから。

「……」

沈黙の帳が下り、しん、と静寂が辺りを包む。
バーサーカーは何も言葉を発さなかった。
無言のまま颯太の前まで歩を進め、どこからともなく何か取り出して。

「ま、何や……取り敢えず、飲むとえぇ」

颯太の目の前に出された物、それは琥珀色の液体が注がれた杯だった。
匂いを嗅ぐと、如何やら酒類の様であるらしい。
魔法少女が飲酒なんて如何なものかと一瞬考えたが、結局押し切られる形で受け取り、
酒瓶をぶら下げて歩くかつてのカラメティ・メアリを想起しながら、一口舐めてみる。
複雑な味だった。僅かな憂いと、儚さと、切ない郷愁を誘う味わいだった。
最後には温かな優しさを感じる香りが突き抜けていく。
恐怖が溶けて流れていくような、そんな錯覚すら覚えそうで。
酒の味など分からない颯太であったが、これが珠玉の逸品であることは直感的に理解できた。

「大した酒やろ?本来のオレみたいな『人でなし』が飲んだらいい酒過ぎてあっちゅー間にグースカやけど、人間が飲んだらとびっきりの霊薬に早変わりって訳よ」

肴は無いけど春は夜桜、夏には星、秋には満月、冬には雪、それで酒は十分美味いってな。
謡うように口ずさんで杯を煽り、バーサーカーは続ける。

「さて、正しいとか正しくないとか、しょーじき大将の言うことにはぜーんぜん興味湧かんなぁ。
オレ、生きてた頃は女に酒に、自分のやりたいようにやってきたし、ここへ来たんも、自分の願い叶えるためやしな」
「願いって……」

颯太の問う声にバーサーカーは杯を置いて手を前にかざす。
するとの前で魔力の奔流が発生し、光が彼の視界を一瞬包み、気づけばバーサーカーの手には一本の刀が握られていた。
美しい刀だった。溜息さえ漏れるほど透き通っていて、まるで水晶であった。

「この刀にはな、この霊基…まぁつまりはこの体の本来の持ち主が入っとる」
「?」
「一言で言うなら、人身御供っちゅー奴やな」

人身御供。
武具の鋳造の際に人命を神に捧げる事によって神の加護を得、最高峰の武具を神域の領域まで昇華する儀式。
バーサーカーの刀はそれによってもたらされた物であるらしい。
だが、『この体の本来の持ち主』とはどういう事か。
颯太が怪訝な顔を浮かべるのも気にせず、バーサーカーはボヤく様に言葉を紡ぎ続ける。

「言仁の奴、二人で平も源も潰せるはずやったのにまさかあいつがオレの提案蹴って人身御供何ぞするとは思わんかったわ。お陰でこんな女も男も抱けんちんちくりんで召喚されるし、誤算もええとこやでホンマ」
「ごめんバーサーカー。話がよく見えない」
「ま、取り敢えずオレは聖杯でこの刀からその人身御供した奴の魂を引っぺがす、元々はオレの刀なんやからな」

そこで「だから」とバーサーカーは言葉を区切り、



「オレはあくまでやりたいようにやる。願いを叶えるために闘うし、そのために障害は残らずブチ散らす。大将がどうであれな」
「でもバーサーカー、僕には」

人の命を踏みにじってまで叶えたい願いなどない。
そう言おうとした時だった。

「そうか?守るって約束した子がいるんやろ?その子守れるだけの力が欲しくないんか」

言葉に詰まった。
確かに、力が欲しかった。
約束を守るための力が欲しかった。
理不尽に踏みにじられないだけの力が欲しかった。
あの子を脅かそうとする者に負けないだけの力が、欲しかった。

「…けど、それでも僕は殺し合いなんかするために魔法少女になったんじゃない」

震えていたが何時もよりワントーン低い声で、己に言い聞かせる様に少年は告げた。
具体的なプランなんて何もないし、どうすればいいか、まだわからないけれど。
願いの為に人を殺してしまったら、それはもう魔法少女ですらない。ただの人殺しだ。
後悔しないように選んだ選択肢であり、最後の、意地だった。
子供のバーサーカーは颯太の言葉を聞くと、意地の悪そうに笑んで、静かに言う。

「ほんなら、オレはオレの願いの為に大将を利用しましょーか。
大将も生きて帰るためにオレを利用すると良いやろ」

白く尖った八重歯を覗かせて、彼、或いは彼女はそう返し再び酒を煽る。

「……もし、僕が君の邪魔をしたら?」

腹の底から絞り出すような声。
そう、できるのだ。颯太には、その為の力が聖杯から与えられている。
絶対命令権である、三画の令呪が。
それを使えば、バーサーカーが意にそぐわないことをした時、自害させることすら可能だろう。

「そうやなぁ―――まぁ、こうするやろな」

尋ねられたバーサーカーは目を細めて、頭を一度掻き、
次の瞬間、颯太の首筋に冷ややかな刀身が当てられていた。
少し力を込めれば、綿の様に颯太の、魔法少女ラ・ピュセルの首は飛ぶだろう。
今のバーサーカーの瞳は先程までとは違い、生も死も肯定する、正しく『人でなし』の眼だった。
ある意味ではクラムベリーに似てすらいた。
一応自分を買ってくれているようだけど、方針が根本的に食い違っている以上、何時背中を刺されるかは分からない。

「……分かったよ、バーサーカー。僕は君を利用する」

だから今は拙い頭脳を総動員して、事実だけを汲み取る。
自分はバーサーカーにとって今は必要な存在である、という事実のみを。
こんな言葉を小雪が聞いたら悲しむかもしれないけど。
今は夢を見ているだけではいけないから。死ねば全てが終わってしまうから。
何時か清く正しくなるためには、おっかなびっくり、現実の世界で戦わなければいけない。
それが分かっていなかったから、自分はドンキホーテにしかなれなかったのだ。

「――そら結構。こっちとしても大将みたいなアホは見てておもろいから嫌いやない
かと言って守れだの何だのはバーサーカーに期待されても困るけどな」

刀を引っ込めたバーサーカーはカラカラと笑い、杯をまた颯太の前に突き出して。

「バーサーカー、真名を八岐大蛇
取り敢えず、もう一杯どや大将(マスター)」




少年は前に進む。
バッドエンドで終わってしまった物語の、その続きを目指して。
全ては白い少女の隣で、夢の続きを見るために。


【クラス】バーサーカー
【真名】八岐大蛇
【出典】日本神話
【性別】男性(肉体的性別は不明)
【属性】混沌・中庸→狂(宝具使用時)
【ステータス】筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:EX

【クラス別スキル】

狂化:EX(-~A)
バーサーカーは通常の状態では狂化の影響が一切ない。従ってステータスの向上もない。
このスキルが適用されるのは、後述の宝具を使用したとき。日本神話登場する大化生としての姿に近づくごとに狂化のスキルが向上していく。

【固有スキル】

八岐大蛇:EX
本来の姿であれば龍神、水神、蛇神の側面を持ち、紛れもなく神霊クラスであるバーサーカーの権能を表すスキル。
日本本国であればAランク相当の神聖、竜の心臓、怪力、カリスマ、呪毒を含んだ水の形態を持つ魔力放出等の効果を発揮する混合スキル。
非常に強力なスキルだが、それ故に竜殺しの逸話から成るスキルや宝具を持つ英霊を相手にした場合特攻が刺さりまくってヤバい。
「ゲェーッ!砂の超人!!」くらいの勢いでビビる。

直死の魔眼:B
無機・有機を問わず、対象の“死”を読み取る魔眼。魔眼の中でも最上級のものとされる。
物体に内包された“いずれ迎える存在限界”の概念を、“点”や“線”として見抜く魔眼。
それらをなぞることで起こされた死は、決して癒えることはない。
元々上位の魔眼を有していたバーサーカーが、平家滅亡と言う一時代の滅びを見たことによって後天的に獲得したスキル。

仕切り直し:C
戦線離脱、もしくは状況をリセットする。
バッドステータスが付いていればいくつかを強制的に解除する。

【宝具】

『八塩折之酒(やしおりの酒)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1~8人
「食い物飲み物って、体に悪いもの程美味いやん?」

バーサーカーがスサノオから贈られ、首をブチぎられる発端となった伝説の名酒にして神代の霊薬。
マスターや人属性の英霊が一杯飲めば数時間の間精神干渉を無効化し、状態異常を回復するが、
逆に魔に類する英霊が僅かでものではないかと呑んだ場合、その長さに個人差はあれど確実に昏倒する。
本来の体であればバーサーカーは全く飲めない(呑めば酔いつぶれる)はずなのだが、
尻尾を除けば人としての霊基で現界している今回の聖杯戦争では飲むことが可能。(悪性コレステロールの様なもので体にはよくない)
スサノオはこれをコッソリつまみ飲みする事で八岐大蛇の吐く毒性の吐息やその威容の畏怖に耐え抜いた。

『妖帝変化八岐大蛇』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
「MAX大変身!!」

バーサーカーに内包された八岐大蛇の権能を開放し、一時的に身体の一部を戦闘形態に変化させる、本人曰く変身。
発動中は高い再生能力と狂化スキルが付与され、更に自己進化により全ステータスに+補正がかかる。
狂化のスキルが上昇する毎に魔力消費は大きくなるが、再生能力と+補正値も増えていく。
付与される狂化スキルがBランクを超える変身になれば不死身に近い再生能力に圧倒的な戦闘力を誇るが、魔力の消費が膨大になるので令呪のバックアップが必要。

『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:10~99 最大捕捉:1000人
「盛者必衰―――森羅万象遍く滅び消えていけ、天叢雲剣!!」

三種の神器における武の象徴、八岐大蛇の尾より出でし神剣。
バーサーカーの持つこの剣はスサノオやヤマトタケルが振るったものとは違い、
壇ノ浦で安徳皇が平家一門の怨執ごと人身御供し封じる事によって生まれた、真の完成品である。
発動時にはバーサーカーの全ステータスはワンランクアップし、逆に相手には『衰退』の概念が押し付けられ、ステータス、宝具、スキルの効果が毎ターン急激に減退していく。
このバフと永続デバフは同格の神秘を以てしかレジストは不可能。
そして真名開放した際にはこの刀を中心として半円状に拡散する蒼い神魔特攻の剣気(ビーム)を放つ。
直死の魔眼と組み合わせれば概念、結界等の形の無い物すら切り裂くことが可能。


【weapon】
天叢雲剣

【サ―ヴァントとしての願い】
次から言仁(安徳皇)の魂を引き剝がす

【解説】
かつて出雲に君臨していた日本神話最古の大化生。
その最期はスサノオの謀略によって酔いつぶれた所を、八つある頭全てを斬られ退治されたと伝えられているが、
生存説も存在しており、その説の通りバーサーカーは生きて落ち延びていた。
しかしやはり傷は深く、更に剣をスサノオに奪われた事によって力は全盛期の万分の一程に弱体化。
その後傷を癒すと人間の娘と子を設け、酒呑童子と名づけるがその時には人間の武士の手が迫り子を置いて逃走、非常に情けない。
二度の逃走によってやはり剣を取り戻さなければダメだと言う結論に至ったバーサーカーは三種の神器となった剣に最も近い一族に近づく。天皇家である。
まだ母の腹の中にいた安徳皇に目をつけ、赤子の内に憑りつくことで天皇として転生する事を目論むが、力不足で失敗。
安徳皇はその自我を残したまま人として生まれ、八岐大蛇は安徳皇の中で奇妙な同居生活を強いられる。

数年後、壇ノ浦で滅び行く平家一門の怨執を天叢雲剣に集め、バーサーカーは正しく魔剣となった天叢雲剣、
そして目覚めた直死の魔眼を持ってして平家と源氏の両家を滅ぼそうと安徳皇に提案するが、
安徳皇はそれを拒絶、己の魂を犠牲にした人身御供によって剣を浄化、封印し、壇ノ浦で崩御した。
そして安徳皇を失ったバーサーカーもまた、後を追うように消滅し、その永い生涯に終止符を打ったのである。

何故八岐大蛇が安徳天皇にその様な提案をしたのかは不明、その真意は本人のみぞ知る。
ちなみに某良妻賢狐の如く八つの首ごとでそれぞれ口調、性別、性格に差異があるらしい。


【特徴】
艶やかな黒髪をポニーテールで纏め、白い束帯に身を包んだ中性的な子供。
目つきの悪さと八重歯、蛇の様な尻尾が目を引く。
バーサーカーの霊基の元となっている安徳天皇は女性説もあったが結局どちらなのかは不明。

【マスター】
ラ・ピュセル (岸辺颯太)@魔法少女育成計画(アニメ版)

【マスターとしての願い】
生きて帰りたい。

【能力・技能】
魔法少女への変身。
魔法騎士ラ・ピュセルに変身することで身体能力を大幅に向上させる事ができる。
また、魔力量も増大し、サーヴァントが全力で戦闘するに足る魔力を供給できるようになる。

「剣の大きさを自由に変えられるよ」
彼の固有魔法。持っている剣と鞘をその時々で最適な幅、厚み、長さに変える事が出来る。
ただし、自在とは言っても自分で持つことが不可能なサイズにすることは出来ない。
剣は非常に頑丈にできており、傷をつける事さえ困難。

【人物背景】
数少ない「変身前が男」の魔法少女で、姫河小雪(スノーホワイト)の幼馴染の中学2年生。
小雪とは中学校が別だが、小学生時代は魔法少女好きの同士として良き友人だった。
学校ではサッカーに打ち込む一方、周囲の人間には内緒にしながら魔法少女作品の鑑賞も続けている。
マジカルキャンディー争奪戦が始まってからはスノーホワイトを守る騎士として奮戦するが、森の音楽家クラムべリーとの戦いで敗北。志半ばで斃れた。

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最終更新:2017年07月18日 07:28