――――――走る。
彼の世界、彼の宇宙、獣の夢が終わる神殿。
今にも崩壊し、落ちていきそうな断崖を"彼女"は走っていた。
全身に小さな傷を作って。苦しそうに息を切らして。
心臓は張り裂けてしまいそうなほど痛んでいるのだろう。両脚は鉛を巻きつけてるように重いのだろう。
遠くから見ているだけでも分かるほど、"彼女"はとうに満身創痍であり。同時にまだ走り続ける気力を失ってないことも分かるのだった。
彼女を見下ろす天蓋は蒼い。散らばる星々は一つ一つが煌めく命である。
惑星の記録に留めるに値する、価値ある魂。英霊達の尊厳。
平均で平凡で、何の超越性もない普通の人間であり。その在り方のままここまで走り続けてきた彼女だからこそ駆けつけた、極天の流星雨。
けれどその輝きももうない。力を振り絞り役目を果たし、英霊達は宇に還った。
彼女は孤独に走り続ける。隣に誰もいない喪失に叫びそうになりながらも足が止まることはない。
だが見るがいい。その瞳は絶望に染まっておらず、走る体は恐怖への逃避に憑かれてはいない。
進む先は帰る場所。どこにでもいる少女は戻ってこれる家がある嬉しさを知るがゆえに。
死を憎み、宇宙から死を無くそうとしたある式に拳とともに叩きつけた命の答えを示している。
生きることを諦めない意志。
あらゆる命が消え失せ、空間そのものも今まさに爆散する間際においてただひとつ残った命は、この上なく美しかった。
最後の刻が訪れる。
あと一歩で転移(シフト)を行う地点に到達するという寸前に、踏みしめた大地はひび割れて奈落に落ちた。
落ちる先は虚無の領域。秒を置かずして消滅する暗黒。
必死に手を伸ばす彼女。だが表情には生にもがく以外の、死の諦観の色。
力は尽くした。やるだけのことはやった。だからそれで終わるのなら仕方ないかな、と納得してしまう。
―――手は虚しく空を掴む。
そうだ。奇跡は起こらない。彼女の手を掴む人は現れない。
善き人々が妥当した獣の夢が起こした奇跡は、ここにいる彼女には与えられない。
奇跡とは一握りのもの。それを受ける価値があるのは"彼"であり、彼女の運命は、彼女の世界はここで剪定される。
これもひとつのワールドエンド。ワタシは最後に、静かに目を、
「、―――――――――!」
ああ、いけない。
そんな表情(かお)をされたら、そんな声を上げられたら、どうにも昂ぶっていけない。今すぐ下半身を脱ぎ捨てたくなるではないか。
おお、アイワスよ。根源の先達よ。これが超越者(あなた)方の視点か。
この光景を目に収め、それでも救う選択を取れない全能者がゆえの縛り。
ならばワタシはやはり失格だ。この最期に、この終幕に利益を見出してしまったぞ!
彼女の運命は途絶えている。
彼女の価値はここで潰える。
彼女の存在は宇宙には不要だ。
「ならばここで、僕が奪っても何の不利益もないよね?廃品利用は現代社会の流行だというしね」
手を伸ばす。
虚無(うみ)に沈む塵(ゴミ)を拾うように掬い上げる。
細い腕を掴み、そこで、彼女の手の中にある先客に気づいた。
「なるほど、やられた」
瞬間。
制御を失った魔力の光帯が解放され、超新星に匹敵する衝撃が全てを呑み、玉座を残して神殿は崩壊した。
◆
「―――ゥ。ゥゥゥゥ……」
>くすぐったい……
頬をなぞる、懐かしい感触。
脳裏で連想される、リスともネコともつかない愛らしい姿。
こうして眠ってる時、決まって頬を舐めて起こしてくれるのがあの獣だ。けど飼い主には全力で突っ込んだりと無垢でもない性格。
そういや、誰かの夢の記憶だと、かなり毒を吐いていたような気がするが。クロロホルム……マーリンシスベシ……うっ頭が。
ともあれチロチロとくすぐったい感じは実はちょっとクセに……
>って、なんかいつもよりザラザラしてない……?
そこで、いつもと違う触覚の反応に気づいた。
質感は柔らかい肉のそれだが、ヤスリでなぞられてるような、おぞましいような、
「オォーーーウ!」
>犬声!?
耳元で!?
耳朶を叩く大声にバチリと瞳を開ける。
涎でべたついた頬を手で拭う。次いで頭、胸、全身を手で確かめる。
……よし、五体揃ってる。そんな当たり前に安堵と感謝が漏れた。
そうして私―――
藤丸立香の自意識はいつものように目覚めた。
―――ええっと?
<―――ここは?
血が巡らぬ頭であたりを見回す。
まず目に飛び込んできたのは、座った姿勢でいた黒い犬だ。
肩に乗るほどではない、両手に収まるぐらいの大きさ。獣の眼は、知恵あるもののように自分をじっと見つめている。
毛皮の色で済む問題じゃない、泥のように濁った黒。
―――唐突に、嫌なイメージが流れ込む。第七の特異点で見た巨大な怪物、人類悪の一つ。触れたものを侵食し改造するおぞましい泥(ケイオスタイド)。
「――――――ゥゥ」
唸る声で、埋もれていた思考が引き上げられた。まだ頭が上手く纏まってないようだ。
……多分、自分の気のせいだが。
美味しそうな食べ物を目の前に置かれながら、飼い主からお預けを食らって必死に耐えているような眼をしているように思った。
状況を確認しよう。どこかの廊下で眠っていた自分。隣で座る謎の犬。
身に纏うのは普段着ではなく全身を覆うスーツ。カルデア戦闘服。
カルデアが開発した、魔術を身につけてない自分でもサーヴァントを援護できる礼装。
今までの記憶が、覚えている経験が、夢(うそ)でない証のひとつ。
<そうだ、私は―――
カルデアはどうなったの?ゲーティアは、人理は―――
最後の記憶は時間神殿。
人理焼却の犯人、ソロモン王を名乗る何者かを倒しカルデアへ帰還する最中。
自分は、墜ちた。
レイシフトで帰還する寸前に道は崩れ、体は底へと投げ出された。
諦めが心を満たしながらもどうにか足掻こうと手を伸ばして―――その時、何かを掴んだ気がするまでは憶えている。
そこから意識を失って、気づけばここだ。色んな場所へ飛ばされるのはもう慣れっこだが、今回はまた混乱度合いが違う。
なぜなら、
<……聖杯戦争、か
「そう。ここは聖杯戦争の舞台。君が訪れた呪われし炎上都市。
血みどろの闘争の果てに『黄金の杯(アウレア・ボークラ)』を手に取る獣の儀式だ」
胸中を代弁するのは、自分ではない男の声だった。
振り返ると、黒いローブに身を隠した男がいつの間にかそこにいた。
それが過去の英雄を霊として呼び出した最上位の使い魔、サーヴァントの霊体化を解いたことによるものだと、自分はもう知っている。
紫系の頭髪。理知的な顔立ち。頬にまで昇る禍々しい刻印。身体の所々に見える装飾品。
これみよがしな魔術師そのものの姿はカルデアで契約した数くの英霊のひとつ、キャスターのサーヴァントにいるタイプとよく似た雰囲気を想起させる。
……即ちは、悪逆を成した者。社会を脅かす事で人類史に名を刻まれた正統なる流れにいないカテゴリの英霊だ。
「眼が覚めたかい、緋色の君」
>……緋色?
何そのネーミング。
会っていきなり、サーヴァントから変な呼び名をつけられた。
「お気に召さないかな?君の髪の色にかけたいい名だと思うんだけど。
いっそ僕の上にまたがってみるかい?そしたら「もっと踏んでください!」と叫ぶべきだろうか……」
>なるほど。アレな英霊か。
なるほど。ヤバイ英霊だ。
こういうタイプにもだいたい耐性が付いている。英霊というのは大概性格も拗れてたりしてるのが多いのである。
主に黒髭とか。
「ハハハ、言いたい放題だね。初対面の英霊に流石の胆力だ実に結構」
「……ゥグ」
自分の脇を抜けて、黒犬が男の傍にすり寄った。男は優しく顎を撫でてやる。
この英霊のペット……使い魔だろうか。
「いい仔にしてたかいエセルドレーダ。彼女の髪の一房ぐらい食べてないだろうね」
えっ?
<毛っ?
思わず両手で頭を押さえた。
大丈夫、どこも噛まれていない、はず。
「さて、目も覚めて血液も回ってきたところで早速だが話を進めようか。君と僕の話をね」
眼差しを細め、サーヴァントは確認を取る。
黙って頷く。聞きたいこと、伝えたいこと、それは多くある。
それで、呼び方はキャスターでいいのだろうか?
「ああ、すまない……本来であればそう呼ぶべきなのだけど今回は事情が違くてね。クラスはキャスターではないんだ。
アルターエゴ、それがこの霊基を満たす器(クラス)だよ」
アルターエゴ……?
<聞いたことがないクラスだ……
「特殊と言っただろう?まあキャスター用のスキルは持ってきてるしさほど問題でもないさ。
呼び方についてはこれから考えればいいしね。それにはまず僕を語る必要があるが」
そこで、男の穏やかであった雰囲気は一変した。
揺るぎのない意志。普段は内に秘められし激した情動。
少なくないサーヴァントと出会い、戦いを経た今だらこそ分かる、その英霊の本質の声だ。
「先に言っておこう。少女よ。人理焼却を見事防いで見せたマスターたる緋色の君よ。
僕は最悪の魔術師だ。生前散々そう呼ばれてきたし、自分もそう在るよう生きてきた」
鋭い爪をつけた右手を翻して言葉を綴る。
「君の生きた頃より100年にも満たぬ前。偉業にせよ悪業にせよ、それが英霊へと昇華される責足り得ることは極めて稀な時代だ。
今や人は世界を簡単に破壊でき、その阻止もまた些細に済ませられる。その中で英霊の座にまで昇った僕の責は、ああ、それなりのものであると自負するよ。
そして僕には、聖杯に託す願いがある。全ての人類が意志の大元へ繋がること……魔術師たらぬ君には思い当たらぬ話だろうけど。
けれどわかるだろう?二度あの『獣』を退去せしめた、人類最後のマスターである君であれば」
……ああ、なんとなくだけど
<そんな気は、してたよ
魔術師としてはからきしな自分だ。魔力や力量から図る目なんか持ってはいない。
けど直接あの存在を目にすれば誰であろうと、それが纏う大気を肌で感じてしまう。
一度はバビロニア。全ての生態系を塗り替える混沌の海から来た原初の母。
二度目は時間神殿。ある王の肉体に巣食った、生きた魔術式。
人類悪と呼ばれる、人類の淀みであり汚点。
些細なものだけど、目の前の男を見た時、その姿が脳裏に思い起こされた。
錯覚ではなく、きっと直感として。
「そうだ。僕は人類史に仇なす原罪の名を刻んでいる。ほんの一滴の残滓だけれども、それだけでも君が不信を持つには十分過ぎる動機だ。
人類悪は連鎖的に現れる。たとえ僕が望まずとも、この因子を鎖に新たな獣が到来する可能性は無視できない」
ゆるりと、手が差し伸ばされた。
こちらを試すかのように。誘惑する蛇のように。
「そんな最悪なる者を、ただひとつの戦力であるサーヴァントにしなければならない君は。どうするか。何を選ぶか。
君の意志を問おう。全てはそれひとつで決まる」
この手を取り、我が運命とするか。選択を迫ってきた。
七つの特異点、あるいは小規模な特異点を巡る旅。
聖杯探索の源流ともいえる、冬木という地で行われる聖杯を懸けた闘争。
忘れもしない。最初の特異点で見た全てが燃えた都市の本来の場所に、立香はいる。
特異点を解決する人類最後のマスターではない、聖杯を求める多くのプレイヤーの一人としてだ。
ここに連れたったサーヴァントは一人たりともいない。
カルデアからのサポートもなく、ダ・ヴィンチちゃんの声も届かない。
一番信頼のおける、常に隣にいた少女も。
自分を守ってくれた、守り通してくれた小さな背中。それがいないだけでこんなにも不安が募る。
そして――――――
『はーい、入ってまー ―――って、うぇええええええ!?
誰だ君は!?ここは空き部屋だぞ、ボクのさぼり場だぞ!?
誰の断りがあって入ってくるんだい!?』
「……どうして、ここで泣くんだい?」
<泣いてないよ。
目の錯覚だよ。
うつむいて、唇を噛んで、こみ上げるものを必死で堪える。
それがあの人物に向ける、当然の感謝だと信じるから。
息をして、立つ足があるのならここで止まってはいられない。
人に憐憫を抱き死を奪おうとした王に、『生きる』と叫び返しその夢を砕いた。
あの言葉を、彼の最期を、嘘にしてしまうかもしれないと思うと―――足は自然と立ち上がる。
生きてカルデアに帰りたいと、当たり前に願える。それにここが特異点だとしたらやはり放ってはおけない。
<何をするべきかはわからないけど。
手を握り返す。
精一杯の力を込めて、目を逸らさずに自分の意志を伝えた。
<もしその時になったら、止めてみせるから。
今はこの力に頼るしかない状況だからといえば、それもそうだ。
けど彼が悪かどうか、それはまだ確かな判断はつかない。
悪を成した者であっても道を違えなければ共に進める。そういう思いもある。
すぐ敵になるというわけでもない。自分のような未熟なマスター、操る手段なんて幾らでもある。
信頼できるのか、やはり敵対するしかないのか。それはこれから一緒に戦う中で見つけていけばいい。
互いの道が別れるまでの、短い間だとしても。
「―――これで契約は成立した。離別の刻が訪れるまで、この身は汝の剣とならん。
その信頼の報酬に、我が真名を教えましょう」
浮かべた笑みの意味がいかなるものか、まだ分かる時は来ない。
離された自分の掌には、二枚のカードが置かれていた。
一枚は雄々しい獅子の姿。この戦争の参加の証である星座のカード。
もう一枚は、多頭の獣に跨る女性のカード。タロットの絵札。
獣を傍らにして、そう彼は告げる。
そうして、漸く。ひとつの主従は正式に結ばれた。
先行きは変わらず見えないが、目的が定まれば自然と足も向くもので。心は少し軽くなったし、行けるとこまで行ってみよう。
まだ見ぬ出会い。まだ見ぬ戦い。
まだ見ぬ先の、地平線の景色。
―――獣の兆しは消えずとも、胸の奥には、新しい旅の予感が残っていた。
「ところでだけど、普段もその格好でいるのかい?いや僕としては喜ばしい限りだ。
なにせ戦闘用の礼装だ。身につける価値はあるし、僕も興奮する。これは良いことずくめというやつだね?」
………………………………………………。
全体強化
<ガンド
「あっこれが数多の英霊の一挙動を止めてみせたカルデア製のガンドかなるほど五秒足らずだがまったく動けない。
そしてエセルドレーダ、なぜそこで僕を噛むんだい?いつの間に君とマスターの間に指示もなく連携を行える信頼関係をいた、けっこう本気噛みだやめいたたたたたたた」
…やっぱり不安だ。
とりあえず、如何にいして他人の目に映らずに記憶にある家に辿り着くかが、目下の悩みなのであった。
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
アレイスター・クロウリー
【出展】
史実(20世紀・イギリス)
【性別】
男性
【身長・体重】
177cm・66kg
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運B+ 宝具A
【クラス別スキル】
陣地作成:B
自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”の形成が可能。
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
陣地作成共々、本来はキャスタークラスであった名残り。
獣の権能:E
対人類、とも呼ばれるスキル。
英霊、神霊、なんであろうと“母体”から生まれたものに対して特効性能を発揮する。
人類には持ち得ぬスキルだが何故だか低ランクで所持している。本人曰く「拾い物」とのこと。
【固有スキル】
セレマ:A
「汝の意志することを行え」。
クロウリーの扱う魔術の根幹であり、人の"真の意志"との接触こそがクロウリーの目的である。
自己暗示の上位版。魔術の成功率、威力を向上。更に特殊な追加効果を発揮することがある。
使用可能な魔術は召喚術、カバラ、黒魔術、錬金術、占星術、エジプト魔術、東洋の呪術等で広範。
啓示(偽):B
"直感"と同等のスキル。
直感は戦闘における第六感だが、"啓示"は目標の達成に関する事象全て(例えば旅の途中で最適の道を選ぶ)に適応する。
……一体何処からの"声"なのか、クロウリーが語ることはない。
魔人変生:EX
マスターセリオン。聖書に弓を引く神の敵対者である『獣の魔人』。
ビーストの因子を取り込んだクロウリーの霊基は爆発的な変化をとげており、彼が規定したセレマの神格にも等しい。
アルターエゴである現在ではさほど大差ないが、再臨を繰り返すたびに本体へと近づいていく。
また時間は限定されるが、スキル『ネガ・メサイヤ』と同様の効果を得られる。
【宝具】
『汝の意志するところを為せ、それが法の全てとならん(リベル・レギス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ: 最大捕捉:1人
正式名称をリベル・アル・ウェル・レギス。
元は守護天使アイワスとの交信を受けて、セレマの教えの真理を記したクロウリーの著書。
クロウリーはアイワスを根源の知覚と捉え、全ての人間には自らのアイワスに相当するセレマを宿していると規定した。
常時発動宝具。英霊たるクロウリーは法の書の内容を体現した存在として現界してており、自己の意志、生き様の顕現として肉体、魔術の強化がなされている。
この宝具の真の効果。それは「自己の意志を蚕食する存在への絶対抵抗権」の形成。
常時では自身の内部、魂に向けて展開している。抑え込んだ欲望・破壊・捕食衝動を、クロウリーは魔力として攻撃に転用して逃している。
『黙示咆哮(ラスト・メガセリオン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~9 最大捕捉:1人
エセルドレーダと霊基融合した状態で使用する、暴食の原罪の具現。
バビロンの妖婦が乗る獣の権能のごく一滴。
暗黒から顕れる獣の顎は、肉体、魂、時間、空間、事象、歴史、世界、人理すら噛み喰らう。単純な筋力ダメージはEX相当。
「これでもギリギリまで絞った状態でね、然るべき代償を前提にすればランクと範囲の向上が見込めるんだ。
真の名を人理改変光線、アカシック・バスターというんだけど、どうかな?」
実に嘘くさい。
【Weapon】
『エセルドレーダ』
クロウリーのいるところに常にいる黒い犬。性別は雌。
知能は高く意地悪い。大きさは小型犬ぐらいだが環境によって成長するらしい。
クロウリーの召喚式から現出した泥を加工して生み出した、いわば人造のビースト。
零れ落ちたる神の福音。災いをもって失われた主の愛を証明する黙示録の獣(セリオン)。
人類悪と称される災厄の獣、本来在り得ざるその亜種である。
【人物背景】
エドワード・アレグザンダー・クロウリー。
20世紀のイギリスのオカルティスト。哲学者にして著述家、登山家。詐欺師。
厳格なキリスト教教育に耐えかねて魔術に傾倒、黄金の夜明け団の入団と退団を経てエジプトで新婚旅行中、
妻に憑依した超常的存在「アイワス」と接触し、自動書記で「法の書(リベル・レギス)」を執筆する。
以後セレマ―――「汝の意志することを行え」の教えと法の書の普及と出版の活動に移っていく。
セレマの再発見、トート・タロットの開発、法の書の執筆。またソロモン王の魔術について書かれた魔術書「ゲーティア」を出版している。
近代オカルティズムにおいて影響力の強い人物であり、「20世紀最大の魔術師」との呼び声もある。
しかし同時に、表社会で晒した数多の痴態や弟子のスキャンダルなどからイギリスから国外退去を命じられ、
「世界最悪の変人」「堕落の魔王」とまで罵倒されてもいる。
魔術世界におけるクロウリーの評価は、表社会における評価と概ね同じ。
つまりは「一代にして大成した魔術師」であり、「魔術の存在を社会に漏らした最悪の魔術師」である。
真の意志の発見、神との合一、星幽界との交信というクロウリーの目的は多くの魔術師同様に根源への到達であったが、
それを一般社会にも教え広めようとした点で常軌を逸していた。
人がみな持つ神の意志、全人類の根源接続。その行動を危険視した魔術協会の手で、社会の表裏双方から追われ、最期はみすぼらしい死を遂げた。
その思想と異名から聖堂教会とも血みどろの関係だった。
しかしクロウリーは魔術師の危惧よりも計算高く、また悪辣であり。そして遥かに常軌を逸していた。
ある時召喚術で呼び寄せた、破壊と捕食衝動の根源のような泥。
そして「アイワス」との交信。受け取った"啓示"で見えた黙示の光景。
己のやるべき事、向かうべき場所を確信し、だから彼はそこから始めた。
エセルドレーダと名付けた犬から採取した因子を取り込み、"獣(セリオン)"を名乗り神秘を極め、限りなく悪名を高め、死後何食わぬ顔で英霊の座に加わった。
この男は偉業をなしたことで英霊になったのではなく。英霊になるために歴史に疵を刻んだ詐欺師なのだ。
必要な霊基と宝具を手にしたクロウリーは、いずれ来たる黙示の時に己を呼ぶ声を座にて待ち続けている。
本来召喚される時はキャスターのクラスであるのだが、今回は人理焼却を食い止めたただの人間に合わせて別人格、アルターエゴを抽出してマスターと契約する。
それは気まぐれなのか、"憐憫"の原罪を打ち倒したことへの称賛なのか、あるいは新たな獣を呼び出す呼び水として利用せんとしているのか。
―――救われる運命にない、剪定された少女に何を見たのか。
最後の時に口にしたとされる言葉、「私は当惑している(俺は困った)」の真意は。
魔術師は語らず、一度(ひとたび)のみ人の守護者としてマスターに付き従う。
秩序を破壊するがゆえ混沌、社会に反抗しているのを知るがゆえ悪。
それを自覚してるため、初対面の相手にはまず自分の正体を明かして選択を促す(本心を語るとは言ってない)。
現代の人間世界を嫌っているが憎悪してはいない。人間を救いたいという思いは(恐ろしいことに)本物である。
英霊の座の存在を認識し、そこに加わるための計画を綿密かつ長期的に立てており、信念を貫き通す情熱家でもある。
ただ、時々持て余した衝動からとんでもない珍行動を起こす時がある。
魔術は普通に使うが、どちらかというと魔術を絡めた格闘術(ボクシング)を好んで使う。
「近代魔術じゃ護身の格闘術は必修科目ではないかな?」との弁。
【特徴】
二十代前半。髪は紫。片側の房を耳にかけている。
左の頬に刻印のある艷やかな青年。美しく力強いが、同時に胡散臭い。
いかにも魔術自然といった夜色のローブの下の体は意外と鍛えられており、格闘向きの装いになっている。
双角の冠、右手の鉤爪の他、各所に獣を象った装飾を身に着けている。
【サーヴァントとしての願い】
本心はどうあれ、全人類の根源接続という目的も偽らざる願いであり、聖杯を手にすればそのための手段に用いるだろう。
【カードの星座】
獅子座。
クロウリー製作のトート・タロットにおいて、【欲望(多頭の獣にまたがる女の絵柄)】のアテュ(大アルカナ)を示す。
【マスター】
藤丸立香@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
カルデアへの帰還。
【weapon】
魔術礼装・カルデア
カルデア機関がより激しい戦闘に備えて試作させた魔術礼装。
味方全体の強化、敵一体の動きを止める魔術ガンド、前線の味方と控えの味方とを入れ替えるオーダーチェンジの3つのスキルが使用できる。
タイトなスーツのため、普段から着るには難儀しそうなのが悩み。
【能力・技能】
特筆すべき能力は一切持たない。
あえて挙げるなら人理修復の旅で培った胆力、善悪問わず数多の英霊と契約を結んだコミュ力が強み。
【人物背景】
人理継続保障機関・カルデアで数合わせに招かれたマスター候補。性別は女。属性は中立・善。
悪の素質がまったく無く、善を知りながら悪を成し、善にありながら悪を許し、悪に苛まれようとも、善を貫こうとする。
歪みのない平均的な善良さを持った、普通の人間。
終局特異点をふたつの命と引き換えに攻略。帰路を急ぐ途中に道が崩れ落ちゆく最中にこの地に召喚された。
―――魔法を超える奇跡で差し伸ばされた手は、"彼女"には届かなかった。
【方針】
カルデアからのサポートもないので慎重に。クロウリーはいまいち信用ならないけど……?
最終更新:2017年07月19日 00:08