人理のうらでは騎士が生まれている

「奪え! 奴らの食糧を! 富を! 全てを!」
「俺たちのムラの為に、奪うんだ!」
「戦え! 争え! 殺してでも奪え!」
「俺たちの繁栄の為に、奴らと戦争をするんだ!」


「見てろよ父上。父上がオレを認めず、拒絶するつもりなら、オレは反旗を翻してやる!」


「主よ、どうか我に進むべき道を示し給え!」
「続け、兵士たちよ! 今こそ我らは、彼女と共に救国の英雄となるのだ!」


「敵船から砲撃あり! 船体が損傷しました!」
「これくらいの擦り傷でこの船が沈むわけがないだろ馬鹿! 撃たれたんなら、口動かす前にさっさと撃ち返しな!」


「最早我らに残された道は自決のみ」
「ああ、だが、鬼畜米英の捕虜となり、家畜以下の扱いを受けるくらいなら、喜んでそちらを選ぼうぞ!」
「万歳! 帝国万ざぁぁぁあい!」


『それ』は、全ての戦争を司り。多種多様な戦争を起こし。あらゆる戦争を知り。どんな戦争でも観測して来た。
『それ』は――戦争そのものだ。
『それ』は人に死滅を与える事で世界を回すシステムに過ぎず、戦場に居る彼らを見た所で、いかなる感想も抱く事は無かった。
戦場で悲劇的な死を迎えた兵士の姿を見ても、悲しみを覚えず。
戦地を駆け抜ける英雄の姿を見ても一切心が踊らない。
心も感情もなく、ただのシステムである『それ』は、まるでロボットのように世界中に戦争を起こし、観測し続けたのだ。
しかし、あの戦争――焼却され、弄られた各時代・各所を舞台とした、数多の英霊が関わった、歴史上類を見ない程の大戦争。
これを観測し、人理修復直後という極めて不安定な状況に晒された『それ』には、一つのバグが生じた。
バグは、『人格』という形で、戦争/システム/『それ』の中に現れた。
これは、本来ならば生じる可能性がゼロパーセントの異常であり、例え不安定な状況下であっても、まず起きるのはありえない奇跡であった。
人類最後のマスター、藤丸立香は、人理(せんそうのきろく)を救っただけでなく、新たな存在を誕生させていたのである。
もっとも、彼/彼女がその事実を自覚しているはずもないのだが……。

▲▼▲▼▲▼▲

「つまり戦士(マスター)、お前は何の異能も持ってない、無力で普通な少女というわけだな」

『レッドライダー』という二つ名を主張するかのように帽子の先から靴の底まで真っ赤な衣装に身を包んだライダーの、青年のような見た目からは想像もできないほどに嗄れた声が、光本菜々芽の自室に響いた。
ナイフで切り裂いたかのように細く鋭いライダーの瞳と、菜々芽の美しい瞳の視線が絡む。
『何の異能も持ってない、無力で普通な少女』と評された菜々芽は元々無愛想だった顔を、更に不機嫌そうに変化させた。
何故そんな変化が生じたかと言うと、まるで『無力なお前に出来ることなど何もない』と言われたかのように感じたからだ。
しかし、事実菜々芽は聖杯戦争においては無力も無力、無能も無能の極みなただの少女なので、そこは認めざるを得ない。
菜々芽の表情からその心情を察したのか、ライダーは、

「いや、別にこれは貴様を貶したくて言った言葉ではないのだ。無能には二種類あると、私は思う。良い無能と悪い無能だ。良い無能は無能なりに何かを成し遂げようと努力するが、悪い無能はただ周りの足を引っ張るだけの愚図だな。戦争を盛り上げるのが前者で、戦争を泥沼にするのが後者だ。戦士(マスター)は間違いなく、前者の方だろうよ」
「それ、褒め言葉?」
「うむ!」

ライダーが言い放った褒めてるのかよく分からない褒め言葉を、不思議に思う菜々芽であった。

「一般人である貴様は、魔術師達の催しである聖杯戦争の参加者に選ばれるには、落第点不可避の戦士(マスター)だが、私は貴様のメンタリティは間違いなく合格点を取れるものだと高く評価しているのだぞ? 齢十歳も超えていない身で、自分が許せぬ理不尽な悪を倒すべく我武者羅に突っ走れるその気力! 実に素晴らしいものではないか!」

そう言葉を続けるライダーの台詞から、菜々芽は思い出す。
蜂屋あいという名の、天使の姿をした少女を――思い出す。
見た目こそ天使のようであるものの、あいの本性は、多くの人間の人生を、悪戯のような感覚で壊してきた、白い悪魔であった。彼女は、手練手管を用いて蜘蛛のように巣を張り、それに掛かった人々に絶望と悲しみを齎すのだ。
自分の手を汚さずにそんな事を楽しそうにやってのける蜂屋あいの事を、菜々芽は断じて許しがたい存在だと思っていた。
だから、菜々芽はあいの悪行を止める為――彼女との決着をつけ、クラスの平和を取り返す為に、奮闘してきたのである。

「くっ――くっくっくっくっ……!」

と、その時、ライダーが突然笑い声を漏らした。

「いったい、何がおかしいの」
「くっくっくっ――なぁに、貴様のような人間の事を、ふと思い出しただけさ」

そう言うライダーの脳裏には、一人の人物が浮かんでいた。
その人物とは、目の前にいる菜々芽と同じように、全くの凡人でありながら、自分が倒すべき存在を相手に戦い、争った者――人理継続保障機関『カルデア』のマスター、藤丸立香である。
自分という『自我』がこの世に誕生するきっかけとなった存在を、目標に向かって並外れた行動力を持って突っ走れる菜々芽の姿から連想したライダーは、その事実に何だか愉快な気分になってしまったのだ。

「貴様と似たそいつは、人類の歴史を焼き滅ぼさんとした奴を相手に勝利を収め、世界を救った! ならば、貴様でも、学校の一教室分の世界くらい余裕で救えるだろうよ!」
「……ありがとう」

突然知らない人間の名前を出され、困惑した菜々芽だが、ライダーが自分を応援している事に気付き、感謝の言葉を返した。

「戦士(ふじまるりつか)に捧げたかった召喚処女を貴様に汚された時は少しばかり不機嫌になったが――くっくっくっ! そんな気分が帳消しになるほどに愉快な気分だ。まさか、戦争が半世紀以上も起きてない微温湯の国に、これほどまでの意志力を持った戦士(マスター)がいるとはな! 流石あいつを産んだ国、と言ったところか!」

いや――と、彼は言葉を続ける。

「やはり、いつの時代のどの場所でも、人は戦意に満ちた戦士となり得るという事か? くっくっくっ! 」

心の底から湧いてくる人間賛歌を口から吐き出しているかのように、ライダーは再び笑い声をあげた。

「ところでライダー」
「ん? どうした?」
「さっきからよく話に出している、『藤丸立香』は誰?」

これまで何回かライダーが口にしたその人物名を疑問に思っていた菜々芽は、ついにライダーにその詳細を尋ねた。
彼女は他人の事情に自分から深く入り込む人物ではないのだが、聖杯戦争で自分の剣となるサーヴァントがよく知っている(それもかなり強い好意を持っている事が窺い知れる)人物を自分が知らないのは、これからの生活で不便を生じさせると考えた為、そのような質問をしたのである。
菜々芽からの質問を受けた途端、ライダーは細い瞳を真ん丸に見開いて驚いた。まるで、『リンカーンって誰?』と聞かれた合衆国民のような顔である。
しかし、更に次の瞬間には口の両端を吊り上げて、実に嬉しそうな喜色に満ちた笑顔をそこに浮かべ、

「そうかそうか! 戦士(マスター)にはまだ、戦士(ふじまるりつか)の事を教えていなかったな! ならば教えてやろう! いや、教えさせてくれ! あいつの偉業を!」

まず最初にあいつが解決した戦争はだな――と。
そんな風に、まるで自分の好きな物語について語る子供ように楽しげな顔で、『藤丸立香』について語り出すライダー。
世界に混沌と破滅を齎す『戦争』そのものにして、戦争を司る『レッドライダー』の側面も持つ彼に、最初はどうにも良いイメージを持て無かった菜々芽だが、今の彼を見て、何と言うか、自分より年下の子供の相手をするような、そんな微笑ましい感情を感じたのであった。
菜々芽が抱いたその感想は、あながち間違いではない。
何せ、ライダー――『戦争』は、自我と呼べるものを持ってまだ一年未満であり、つまり、人間で言えばまだ乳児の年齢なのだから。


【クラス】
ライダー


【属性】
戦争・-→中庸

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A+ 魔力A+ 幸運EX 宝具EX

【クラススキル】
騎乗:A+
この世で起きた戦争そのものであるライダーは、戦争で使用された乗物全てを支配下に置く。

対魔力:A+

【保有スキル】
変化:D
ライダーは血溜まりのような姿と、軍人のような姿、あるいはその中間の形態に変化する事が可能。
自分の体の一部だけを血液や血霧に変化させ、遠隔操作する事も出来る。

扇動:EX
数多くの大衆・市民を導く言葉を身振りの習得。特に個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く。
ライダーの場合、身振り手振りだけでなく、変化スキルで血液に変化させた自分の体に触れた対象にも同様の効果を発揮する。この場合の扇動能力は、精神耐性は勿論、対魔力で軽減・無効化する事が可能。その気になれば、血霧で町中を一気に戦場にする事も出来るが、今はマスターを気に入っており、聖杯戦争にそこまで本気で乗ってるわけではない為、この方法は使用していない。ランクEXは超越性ではなく、この手段の特異性を意味する。

星の開拓者:EX
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
戦争は人類史のターニングポイントそのものである。

戦況把握:EX
戦争そのものであるライダーは、聖杯戦争の舞台の全てを把握出来る――はずだが、そんな彼でも観測出来ない部分がいくつか存在するらしく、その辺りに、今回の聖杯戦争の異常性が確認できる。

対人類:A
戦争――レッドライダーは、地上の人間を殺す権利(マーダーライセンス)を与えられている。
このスキルを持つライダーは、人間、あるいは人間出身の英霊や神霊に対し、特攻性能を発揮する。

【宝具】
【人は皆戦士なり、故に舞台は鮮血に終わる(レッド・フィールド)】
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:- 最大捕捉:-

戦争そのものであるライダーの霊基には、この地球上で起きたありとあらゆる戦争の情報が記録されている。
幾人もの人が戦い、幾人もの人が死に、幾人もの人が記憶した、幾つもの戦争――ライダーは、一種の心象風景であるそれらを、固有結界として再現する事が可能。
この際発動される固有結界はライダー個人の心象風景ではなく、かつて世界の何処かで起きた戦争に参加した者たち全員の心象風景である。
その為、その再現度は驚異のそれといえよう。
また、人類が地球に誕生してから起きた戦争は、大小合わせると数えきれないほどある。
つまり、ライダーは無限に等しい種類のステージをセレクトできるのだ。
更に、ライダーはこの固有結界から戦争で使われた武器だけを現実世界へと取り出すことが出来る。何処ぞの英雄王の宝物庫のようなイメージで想像してもらえれば良い。

【人は皆戦士なり、故に理性は殲滅に終わる(レッド・ライダー)】
ランク:B+ 種別:対人類宝具 レンジ:3 最大捕捉:1

ライダーが持つ剣。
普段は刀身の紅い日本軍刀であり、普通に攻撃用の剣として使う事も可能だが、真名解放をするとそれはライダーの頭身をも越すほどに巨大な西洋剣へと変化する。
この状態の剣はレッド・ライダーの『戦争』の権能の具現化と言ってもいいほどの力を持っており、肉体ではなく精神を切る。
つまるところ、この宝具に斬られた者は精神的アーマーごと心を切り裂かれ、その傷口にライダーが持つ鮮血の魔力――つまり『戦意』を注ぎ込まれ、結果、狂戦士(バーサーカー)じみた戦意の塊と化すのだ。
上記の『扇動』スキルと似たような効果だが厳密に言えば違い、『扇動』スキルは戦意を刺激するが、この宝具は戦意をゼロからでも生み出せる。
ライダーの血による『扇動』が対魔力・対精神スキルで軽減、無効化されるのに対し、この宝具は当たりさえすればかならず効果を発揮する。
また、戦意と共にライダーの魔力も注がれるので、この宝具を食らった者の幸運、宝具以外のステータスは全て1ランク上昇する。
つまり、究極のキャラ崩壊を招く、バーサーカー・メーカー。
ライダーはこの宝具による対象の変化を『赤化』と呼ぶ。
『赤化』した相手をもう一度切る事で、『赤化』を解く事も出来る。

【人物背景】
時に歩兵の姿で、時に騎兵の姿で、時に戦車の姿で、時に戦艦の姿で、時に戦闘機の姿で――『戦争』は何かに乗って、人類に破壊と死と混沌を齎してきた。
何より、『ある二つ名』を理由に、『戦争』はライダークラスのサーヴァントとして現界した。
英霊どころか人ですらなく、そもそも生命体ですらない『戦争』が聖杯戦争に召喚されるのは極めてイレギュラーな事態であり、その上、ただ戦争を起こすシステムであるそれが人格までも備えているのは、最早信じられない事態である。
本来ならば単なる『戦争』のシステムに過ぎなかったそれが人格を得るに至ったには、とある人類最後のマスター――藤丸立香が為した偉業が深く関わっている。
彼/彼女が解決してきた人理修復の旅は、数多の時代・場所で起き、多種多様な英霊が戦っていた事からも分かる通り、人理において類を見ない程スケールが大きな『戦争』であり、それを起こし、観測していた『戦争』というシステムにもそれ相応の膨大な情報負荷を与えた。それに人理修復による人理(せんそう)全体の不安定な状態か合わさった事で、『戦争』のシステムにバグが発生。そこから人格と呼べるデータが誕生した。ライダーの幸運ステータスのEXは、この奇跡的な誕生に由来する。
ライダーは、人理(戦争の歴史)を焼却から修復し、擬似的であるとは言え、人格を自分に与えてくれた藤丸立香の奇跡的な偉業に感謝、そして感心し、彼/彼女に何らかの形で関わってみたいと考えている。
そんな彼からしてみれば、聖杯戦争に呼ばれ、更にマスターが自分の愛する藤丸立香ではなかった事は少し不満。本人曰く、召喚処女を汚された気分であるらしい。
しかし、マスターである光本菜々芽が藤丸に負けず劣らぬ程の逸材であると知り、これから彼女がどうなるか少なからず期待している。
人類の歴史は戦争の歴史である為、レッドライダーは人理の始まりから全ての戦争を発生させ、それらを観測していたわけであり、不死身の英霊程度では並べない程に超膨大な情報量を誇るが、人格を得たのはつい最近である為、メンタル自体はテンションの高いクソガキのそれである。
人格を得た『戦争』は、藤丸立香は勿論のこと、これまで数多の戦争を経験してなお滅亡する所か、それらを乗り越え発展してきた人類に対しても、ある種の敬意を抱いている。
それ故、人類を『戦士』と考えており、彼らと対峙した際、『戦士』と呼びかける。
人間賛歌を歌いながら、レッドライダーは地上に向かって滅びの剣を振るうのだ。

ちなみに、もしも戦争を人格のない単なるシステムとして召喚した場合、呼び出されるそれの姿は血溜まりのような不定形の怪物となっていただろう。

【特徴】
パット見は赤い軍服に赤い髪に赤い瞳と、全身赤赤赤なレッドマン。
しかし、その服装をよく見てみると、帽子にナチスの鉤十字の紋章が付いているかと思いきや、胸元にはアメリカ将校のバッヂが刺されており、かと思えば腰には日本軍刀が提げられている。
世界中の軍服からパーツを集めて作り上げたパッチワークのような服装である。

【聖杯にかける願い】
特に無し。手に入れたら、それを使って亜種特異点でも作り、藤丸をそこに招待しようかと考えてる程度。

【マスター】
光本菜々芽@校舎のうらには天使が埋められている

【人物背景】
スーパーウルトラガッツファイトな女子小学生。
ヒステリックな教育ママを持ち、その為家庭環境はかなり最悪。
学校では元々孤立しており、それにいくつかの不吉で不幸な出来事が起きた所為で、彼女は『死神』と君悪がれ、遠巻きにされる。つまりクラスから浮いた問題児と化した。
どのような陰口を叩かれても相手にせずクールな態度を貫いていたが、気にかけてくれたある少女の温かさに触れ、彼女を大切に思うようになった。
彼女がいじめにあっている事を知っていた菜々芽だが、あくまで部外者のスタンスを取り続けていた。
しかし、ある事をきっかけに彼女を守れなかったことを後悔し、部外者のスタンスでいたいじめを止めさせようと行動に出るようになった。
菜々芽のぶっ飛んだガッツと行動力は凄まじく、小学生離れした何かを感じさせられる。
彼女は本当に小学生なのだろうか? 人生三周目とかしてません?

【マスターとしての願い】
聖杯戦争から生還。

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最終更新:2017年10月16日 16:06