人間


知性から生まれた知性である電子精神と違って、混沌から生まれた知性を持っているらしい仮説上存在。
  • GHUST BULLET BACK GROUND より



サルの進化形。
所持品や領地など”自分”を広げる習性があり、物体を加工して道具とし、自らの手足の如く自在に扱う。
思考や言葉を図形・文字・符号などで 物質に刻印することを発明したのも彼ら。
また刻印以外にも思考や感情を他の何かに当てはめて対象化する。
しかしその精度はあまり高くなく、”自分が何を考えているか、何を感じているか”を誤認することが多い。



+ ...
いつから始めたことだったかは彼女自身でさえ覚えていない。ただ、混沌と秩序の間を浮き沈みし続けるその状況を、その状況の中にいる者からは決して届かない位置から見下ろして眺めているうちに、疑問がふつふつと湧いてきたのだった。

人間。

それは何なのだろう。人間彼ら自身でさえ抱いた疑問であり、そして彼らにとっての神である彼女にも問い掛けてきた疑問だ。彼らのうちの多くが、何度もその疑問を彼女にぶつけてきた。だが、彼女は一度もそれに答えたことは無かった。分からないから、答えられなかったのだ。印象深かったのはそれを、ほとんどの人間が好意的に解釈してくれたことだ。分かってらっしゃるけどあえてお答えにならないのだろう、自らに問い掛けてみよということなのだろう、と。

ルナは無重力空間の中で自らを抱きしめ、胎児のように丸まっていた。

「セッション001、自己増殖を繰り返し航宙船『天まで届く塔』建造を目論んだクレンエルジェ、形成心理学を開発したボアラ=マルコフによって駆逐される。勝ったのは人間。」

外部からの入力を拒絶するかのように、目を閉じて視界を遮断し、誰に聞かせるでもなくそれをつぶやいている。

「セッション002、『天まで届く塔』建造を継いだエルフィエルジェ、同じく形成心理学を継承したズエロ=マルコフによって駆逐される。勝ったのは人間。」

我を失ったジュピターは手にしている鞭を無茶苦茶に振り回してマーズに襲い掛かり、マーズはそれを嘲笑いながら軽くいなしている。だが、ルナは構わなかった。とばっちりで頬が傷つけられたが、それも構わない。

「セッション003、最年長生物ドラゴンの最年長個体キアリザード、物質を無差別に食べることによって自己を極限まで肥大させ最大の力を得ようとするが、攻性心理学を開発したシスティーナ=マルコフによって脳死させられる。勝ったのは人間。セッション004、個体と個体の連携を断絶する邪剣ゲッフマインを形成したイェンドフィディ・フェイク、半竜人ク・ルールによって駆逐される。勝ったのは人間。」

ひたすら自分の中の世界に浸る。何者との関係も忘れてただ、自分の中に自分を見い出す。それを繰り返していく。

「セッション005、攻性心理学を我が物にして天使を支配した悪魔アインシュタイン、万能の魔女ローレライによって駆逐される。勝ったのは人間。セッション006、千の言葉を紡いで全ての知的生命体に自殺を推奨した不死鳥ピエトロ、覇王シズマ=パッヘルベルによって一言で論破される。勝ったのは人間。セッション007、偶然発生した心を持った最巨大台風≪発音不能な名前≫、ソフィア=パッヘルベルのナイトハンドリングによって収束させられる。勝ったのは人間。セッション008、数ある人間の強国のうちの幾つかと同盟を締結して天下を取ろうとした竜王ウィブルナーク、他エリアからの来訪者ハヤト=モリナガに暗殺される。勝ったのは人間……」

エリア・フィラデルフィアに登場した魔王と、それらをことごとく駆逐してきた勇者達の歴史を、記憶を辿って復唱していく。

……今なら、分かるかも知れない……。

+ ...
「……セッション158、勇者だけを執拗に追ったレベッカ=オルネット。勇者アレクサーと入籍して魔王を辞退する。勝ったのは人間。セッション159、己の善良さを完全否定したガーナ=フィフニン、闘犬シザ=フランダースに殴り殺される。勝ったのは人間。セッション160、魔王式の性能を極限まで引き出して世界と衝突させたララスピア=フランダース、予想と異なる世界の実態に幻滅し、勇者を殺しつつも意欲はすでに失っていた。勝ったのは人間……」

自らの内側、己の瞳を覗き込んだその奥に伸ばした手に、ルナは圧倒的な熱量を感じた。そのまま引き上げる。

「勝ったのは人間」

ルナの言葉を、引き上げられたその存在が継ぐ。それは圧倒的な質量を有した、この領域の主。一人を除き、エリアマスター達はみな万来の拍手でそれを迎えた。マザーは、輝きと言葉でそれに応える。

「一万の種がその壷に封じられ、一千の種が芽を出した。そのうち百種が年月を堪え忍んで生き残り、さらに長い年月を、十種が覇を競って相争った。」

そして太陽の女神はディレクトリ・プラネッツに再びその姿を表した。姿と言っても、まぶし過ぎて直視することすらままならない。

「最後に勝利した一種を、人間と呼んだ」

太陽の御声は優しかった。それに、強かった。何もかもを兼ね備えた完全な意志が、日の当たる場所にいる者すべてにあまねく浸透していった。

  • フィニッシュ・フィラデルフィアより


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最終更新:2014年08月18日 23:54