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三島8日目・No.2

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私のやんごとなき王子様














 午前、午後と各担当責任者同士との連絡係として宿舎中を走り回り、気付けばすっかり夜だった。

 廊下には人も少なくて、皆それぞれ部屋に戻ってたり遅くまで作業していたりするんだろう。私は足早に階段を昇る。

 あれ?


 ふと人の話し声が聞こえて来て私は足を止めた。

 辺りを見回してみると、丁度実行委員本部のドアから明かりが漏れていた。三島君、まだいるのかな? だとしたら今日の各担当の修正とかを報告しておきたいな。

 とそんな気持ちで薄く開いたドアに手を掛けた時だった。


「私、会長の事が好きなんです……」


 ――え?


 私は思わず息を飲んだ。真摯な思いがこちらまで伝わってくるような静かな声は、水原さんのものだ。


「水原君」


 細いドアの隙間から見えたのはすごく困った顔をした三島君と、その前でじっと三島君を見つめている水原さん。

 その緊張がこちらにまで伝って来るようで、私は指一本動かすことも出来なかった。


「会長はいつも的確に私を導いてくれます。会長に自分をゆだねると、すごく安らぐんです。こんなに慌ただしくて、トラブルも絶えない合宿中であってもです。絶対の信頼で持って、私は会長について行けます」


 水原さんの言葉に私はドキリとした。

 同じだ。水原さんも私と同じ気持ちなんだ……。

 三島君はいつでも私達が一番動きやすいように気を使ってくれる。実行委員だけじゃなく、全体を見て一番良いと思われる方向に導いてくれる。

 だから私達は絶対の信頼で従える。それはとても――

 ううん、違う。

 私が好きなのはそんな事ばかりじゃ無い。

 私が好きな三島君は、もっと自由に笑ったり困ったり……一緒に海に行った時に見せてくれた、はにかんだあの笑顔。あの時のあんな風な三島君の素の姿が私は――

 私は……三島君が好きなんだ。

 水原さんの告白に促されるような形で自分の気持ちに気付くなんて、なんて私は馬鹿なんだろう。

 ううん、本当はもっと早くから気付いていた。

 でも変化が怖くて……怖くて目を背けてた。気付いてしまったら、せっかく仲良くなれた三島君との距離が、また離れてしまうかもしれない。

 でも水原さんは……? 水原さんはそれを恐れずに――


「今すぐに返事はいりません。少し、私の事を考えて下さると嬉しいです。私が会長の隣に存在するに相応しい人間かどうか」

「水原君、俺は……」


 三島君が何か言おうとしたそこまで聞いて、私はゆっくりとドアから離れた。

 一歩二歩後ろに下がり、音を立てないように階段へと向かう。

 それ以上二人が話している所を見るのが辛かった。立ち聞きをしてしまった事に対する罪悪感と、水原さんの三島君に対する真剣な想いが容赦なく襲って来て、胸が苦しかった。

 私は一体何をしているんだろう?

 階段を昇ると、丁度窓から月が見えていた。
水原さんは本当に三島君の事が好きなんだ。

 私は?

 私だって好きだ。でもそれは変化を恐れてしまうようなか細い心の元に立っているような弱い気持ちなのかもしれない。

 水原さんは恐れずに――ううん、本当は怖いに決まってる。でもそれでも三島君に自分の気持ちを伝えた。

 私は自分の気持ちを伝えるどころか、そんな水原さんの告白を聞いて、やっと自覚したばかりだ――自分が、三島君を好きだという事を……。


「はあ……」



 無意識に溜息がこぼれた。

 三島君はなんて答えたんだろう? そんな事が気になって仕方が無い。

 窓から見える月を睨むと、私は思い切り階段を踏みしめ、一気に駆け上った。


 もうっ! 私のバカ!












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