「最近は、悲しい事件が多いね」

 変声機でも使っているのだろう。低くくぐもった声で、漆黒のスーツを纏った男が痛ましそうに言った。
 異様な、まさに怪人と言うべき風体の男だった。サラリーマンか何かを思わせる皺一つないスーツは生真面目そうな印象を見る者に与えるが、一方でその顔面は覆面に覆われ、整っているのか崩れているのかさえ窺えない。
 その覆面が、彼の不気味さの最たる所である。目玉の前に人差し指を立てた手をあてがった、何かの暗示とも、何の意味もない前衛的なそれとも取れるシンボルマーク。彼のシンボルであり、彼を慕って集まった"彼ら"のシンボルでもある、始まりのマーク。面の下の表情を誰にも悟らせず、教祖たる男は語る。

「痛ましい事件、事故が、このほんの一ヶ月間で一体どれほど起きただろう。
 そして君達の中にも、それに巻き込まれた子が居るんじゃないかな」

 壇上で滔々と語る男と、整然と並んでそれを傾聴している信者達。その内の何名かが、堪え切れない様子で目頭を押さえ、顔を俯かせた。彼らこそ、今男が触れた、冬木市内で突如急増し始めた事件・事故で肉親や友人、恋人を失った者達に他ならない。たとえ直接実害を被っていなくとも、周りの誰かを害された時点で、既に彼らは"巻き込まれている"。冬木市の影に蠢く深い"闇"の戦いに、意図せずして。
 今回のセミナーの主役――"ともだち"と名乗るこの男に信心を抱く者は数居るが、事の本質を理解している者はまだ居ない。その中で、"ともだち"だけが例外だった。彼は冬木という街の闇の側面、日常の裏側で着々と進行している"何か"の存在と正体を見抜いているかのように、超越者めいた口振りで舌を廻す。

「此処は、いい街だ。東京や大阪に比べればずっと小さくて辺鄙だけど、趣、というのかな。落ち着いて毎日を過ごせる、心地のいい静寂で満ちている。でも、君達も感じ取っている通り、街は既に変わり始めてるんだ。恐ろしい、人に似た顔をした悪魔の使いが入り込んで、皆の平和を脅かしてるんだ」

 それなのに台詞の端々に子供っぽい言葉遣いが交じるのが、信者達に安らぎと親近感を与えていた。
 宗教を統率する者は、畏敬の念を集められる人間でなければならない。人の心を掴むのは簡単だが、人間の中に渦巻く欲望、野心といった感情をコントロールするのは至難の業だからだ。この人には逆らえないと本能的に直感させる、他人とは違う超常性が必要なのである。そうでなければ、教えの力なんてものはすぐに衰退する。それならまだ良い。最悪、自分の築いた教義と組織、その全てを横から掻っ攫われる幕切れにもなりかねない。
 そんな理由から、宗教で儲けようと考える不届き者はあの手この手で超越を演出する。然し、どんな妙手も繰り返せば飽きられる。市井の中にはとっくの昔に、そうした存在への警戒心というものが植え付けられている。過去の事件や偏見(ミーム)から、誰もが自然と耐性を獲得している。
 だが"ともだち"は、過酷な戒律を作らない。禁忌で縛ったり、お布施を強要する浅ましい真似もしない。ただ、優しく語るだけだ。それこそ、まるで友人のように――彼は容易く人の心に近付き、相手から自分の中へ入ってこさせる。気付けばこの通り、誰もが彼の虜になっているという寸法だ。
 実情は殆ど同じだというのに、"ともだち"は新興宗教なんて胡散臭げなものとは違うと此処に集まっている全員がそう信じている。その辺りからも、彼の手腕の巧みさが窺えよう。彼はいつもとても賢く、神を愛するように人に愛される。

「でも大丈夫。恐れることは何もないよ。君達は、少なくとも無価値に死ぬ羊やヤギでは終わらないだろう」

 少なくとも、という言葉に人々の顔色が不安の色を帯びる。
 文面通りに受け取るなら、価値こそ有るものの、結局は死んでしまうんじゃないか。
 確かに、これだけではそう受け取れる。然し、壇上の彼は穏やかに首を横に振り、皆の不安を否定した。

「言っただろう? 恐れることは、何もないんだ。君達はこれから、大いなる運命の目撃者になる」

 "ともだち"は緩慢な動作で、三本の指を立ててみせた。

「三日だよ。三日間の内に、街には必ず平和が戻り、皆が笑顔で外を出歩ける毎日が帰ってくる」

 根拠は何だ、などと無粋な事を口にした者がもし居たなら、周りの全員から冷たく敵視され、顔を覚えられていたことだろう。その証拠に、今日このセミナーにやって来た者達の中に"ともだち"へ疑いを感じている人間は誰一人として居ない。彼らはもう全員、"ともだち"に揺るがぬ信心を抱いている。
 "ともだち"を馬鹿にされたなら心の底から憤り、たとえ家族に諭されようと"ともだち"を慕うことをやめはしない。それどころか、"ともだち"が命じたなら社会に許されないような行為だって平然と働くだろう。昨日、"ともだち"を嗅ぎ回って消された哀れな刑事が居たが、彼の言う刑事の勘とやらは極めて正しかったといえる。

「それまでの間、僕が皆を導こう。赤信号も大縄跳びも、皆で一緒に挑めば怖いものじゃないんだから」

 "ともだち"は決して善人などではない。
 運命を語り、弱き民を導けるような器の持ち主でもない。
 寧ろ真実はその逆。彼はどうしようもなく小さくて、下らない性根の持ち主だ。
 複雑という言葉では足りない程屈折した歪みを抱えながら大人になってしまった、過ぎ去った20世紀の亡霊。
 それでも――彼は紛れもなく稀代の才人であり、人心掌握の天才だ。慣れたやり口で人の心を掴み、まともな人間が聞いたなら鼻で笑うような突拍子もない話(しんじつ)を大真面目に語り、それを全員に苦もなく信じさせた。人として当然の恐怖を別な感情に転換させて、逆に一蓮托生の連帯感と勇気を植え付けてやった。

「忘れないで。僕は、君達皆の"ともだち"だ」

 そう言って、立てた三本指の内二本を折り曲げ、人差し指だけを真っ直ぐ立てた状態へ変える。
 彼が"運命の目撃者"と称した人々は皆歓声をあげながら、自分達も同じように指を立て、アイドルのライブにコールを送るみたいに力強く掲げた。ともだち、ともだちと、熱に浮かされた声が空間を満たす。
 ――既に"ともだち"のセミナーは、辺鄙な一室では収まらない規模になっていた。今日はそれこそ歌手や著名人の講演会が行われるような市民ホールで、ほぼ満員と言っていいだけの人を集めている。"ともだち"が出現してからの時間を鑑みると、明らかに異常な速度での勢力拡大であった。

 "ともだち"の一挙一動全てに熱狂する信者達。然し彼らは、未だ知らない。
 "ともだち"は、自分達を導く救世主などではないということも、冬木に平和が戻ってくる日は決して来ないということも。何も知らぬまま、腕っ節の強いガキ大将を持て囃す子供のように盲信する。だが、それも詮無きことであろう。
 一と零の数列で成り立っているような木偶人形に――ある人類史にて最悪と称された程の虐殺者の囁きを跳ね除ける強靭な理性や気概など、ある訳がないのだから。


  ◆  ◆


「新興宗教だァ?」
「そ。何か、きな臭い奴らが居るみたいでね」

 非行と犯罪の温床であるダンスクラブのその地下、社会的な一線を越えてしまった者達だけが集まるバーに、ケイトリン・ワインハウスとそのサーヴァント・ランサーの姿は有った。此処は、事実上の彼らの拠点だ。留学生というロールを持つケイトリンには当然、Chaos.Cellにより住居が用意されているのだったが、何分彼女はアウトロー。与えられた部屋に黙って住み、ロールに甘んじる程行儀の良い性格はしていない。
 それに、いざという時の避難場所として残している、という側面もある。此処が割れたらあちらに逃れるし、あちらが何らかの理由で割れる分には何の問題もない。塒は複数用意しておいた方が確実というのは、裏社会の常識だ。
 このバーのオーナーは狡賢く、力の何たるかをよく理解している人間だった。場合によっては体に上下関係を教育してやる事も吝かではなかったが、ケイトリン達を一目見た瞬間"敵わない"と認識したのか、すんなりと彼女の要求に従ってくれた。作り物のNPCにしちゃ上等な奴だと機嫌を良くしたのをケイトリンは覚えている。

「厳密には宗教とは違うみたいなんだけど――"ともだち"って名乗ってる奴らよ。聞き覚え……ないわよねえ」
「ねえな。有ったとしてもこんなド田舎でイキってるだけの劣等集団なんざ、秒で頭ん中から消し飛ばしてるだろうよ。
 第一何だ、その巫山戯た名前は? 神サマと手ェ取り合って酒でも飲むのかよ、下らねえ」

 ピジョンブラッドルビーを思わせる真紅の酒を喉奥に流し込みながら、心底つまらなそうにランサーは言った。
 彼は生粋の戦闘者であり、虐殺者であり、百年に近い年月を生きる魔人である。生前から人の枠組みを逸脱した超越者として現世を歩いてきたランサーには、あくまで"人"にとっての脅威でしかない宗教団体など、ちっとも恐ろしいと思えない。基督だのイスラムだの、そうした大御所を連れて来るのならばまだしも、極東の地方都市で講釈を垂れているだけの連中をどうやって脅威と看做せばいいのか。
 とはいえ、ケイトリンもそれについては解っている筈だ。彼女は"成って"日が浅い幼童だが、間違いなく人間を超えた存在なのである。本当に只の宗教であったなら、端から問題にもしていない。黙って無視するか、力で付け込んで資金源にでもしてやるか。そのどちらかだ。
 にも関わらずケイトリンがわざわざランサーに話して聞かせたということは即ち、聖杯戦争……ひいてはサーヴァントの存在が其処に見え隠れしているからに他ならない。白貌のランサーは既にそのことを察していたし、ケイトリンもそのつもりで話している。

「これは現地のヤツから聞いた話だけど、日本人(ジャップ)ってのは怪しげな宗教への警戒心がとっても強いそうよ。
 だからどんなに説得力の有る教えを携えてセミナーを開いても、大体は鳴かず飛ばず、よしんば成功しても後は細々とゲットした信者を囲って金を集めるやり口にシフトしていくんだって。まあ要するに、繁盛しないって事ね。決まったメンバーをとことん絞って、一人二人たまに信者が増える程度」
「で? そのともだちだか何だかってのは、それとどう違うんだよ」
「文字通り爆発的なのよ、その増え方が。頭角を現し出してからほんの一ヶ月程度で、市営の大ホールを埋めるくらいの人数を集めてるって話。……どう思う?」

 試すようなケイトリンの問いかけに、ランサーはまた酒を一口呷って答えた。
 ただ、その顔は、相変わらず至極退屈そうなものであったが。

「確かに、きな臭えモンはあるが――」
「それに、"ともだち"の信者と近い間柄に有ったり、"ともだち"を勘繰ったりした連中が妙な死に方をしてるってのもあるわ。怪しい教団の十八番じゃない? 都合の悪いヤツの暗殺やら、信仰心の暴走やら。それを一ヶ月そこらで引き起こせるって時点で、大分まともじゃないと思うけど?」

 それにね、と、ケイトリンは衣服の内ポケットから一枚の写真を取り出してみせた。
 カウンターの上に置かれたそれを、グラスを拭いていたオーナーが何の気なしに一瞥し、すぐに目を背けた。喧嘩に麻薬中毒、性病、場合によっては凄惨な殺し。そうした社会の裏側の悲惨さを数え切れない程目にしてきた彼をしても、正視に堪えないような有様が、其処には収められていた。
 ランサーは流石にこれ以上の光景も見慣れているからか表情を変えないが、先程までのつまらなそうな顔に比べると、少しは興味の色が出てきた風に見えないこともない。

「覚えてない? 此処によく出入りしてた、ジャパニーズマフィアの幹部なんだけど。
 名前は――ええと、何だったかしら。イトーだったかイゴーだったか覚えてないけど、とにかくそんな名前の奴」
「いちいち小汚え親父の顔なんて覚えてるかよ」
「何だ、冷たいわね。銃やら何やら色々斡旋してくれたの、確かこいつだったのに」

 正確には、男の名前は佐藤、である。
 彼はこのバーに出入りしている常連だったが、ケイトリンと出会い、その人生を狂わされた。組の銃器をケイトリンに横流しし、それは彼女の個人的な武装と、その部下達の同じく武装として与えられる事になった。地位が地位なだけに、金も道具もよく回してくれる利用価値の大きい男だった。
 だが、その彼はもうこの世には居ない。ケイトリンの持って来た写真に写っている、この光景が全てだ。

「暇潰しにその辺彷徨いてる時に偶然見つけたのよ、この死体。凄いでしょ、全身から血噴き出してるのよ? いつから日本は、エボラウイルスが平然と生息してる魔境になったんだって話じゃない?」

 確かに、まともな死に方ではない。人の手によって加えられた外傷の痕跡が全くないにも関わらず、全身の穴という穴から血を噴き出して事切れている、見るも無惨な惨死体。他殺でこんな死体を作り上げるとなれば、とんでもなく大掛かりな手段が必要になってくる筈だ。
 十中八九、病死。未知のウイルスに羅患して死んだものだと、誰もがそう断定しよう。ケイトリンも例に漏れずそうだった。

「ま、普通のウイルスだったら、私にはまず効かないんだけど――これは多分別。直接打ち込まれたなら、私どころかあんたでもひとたまりもないかもしれないわ」
「あぁ?」

 その台詞に、ランサーの眉が不快そうに顰められる。
 たかが細菌如きで、黒円卓の魔徒である自分が滅ぶかもしれないと、ケイトリンは今そう言ったのだ。マスターとはいえ、涼しい顔で聞き流せる台詞ではない。不快感を露わにするランサーに、然し彼女は怯んだ様子を見せはしなかった。当然の事を言っているのだから仕方ないと、実に堂々とした態度だった。

「死体の血を少し嗅いでみたら、有り得ないくらい臭いの。刺激臭ってやつ? 人間には解んないだろうけど、私やあんたみたく嗅ぎ慣れてる奴ならすぐ解ると思うわ。根拠としてはちょっと弱いけど、あれは間違いなく人の手で創られたウイルスじゃないわね。――人の手で創られて、其処から何かもう一プロセス置かないと、ああはならないと思う」
「……幻想への昇華。サーヴァントの宝具だって言いたい訳か」
「ご明察」

 話が早くて助かるわと、ケイトリンはにんまり笑う。

「で、死体のポケットに入ってたスマホをちょろまかして中身を見たら、メモ帳のアプリの中に"ともだち"のワードがあったわ。ビンゴ、って感じよね」

 哀れな犠牲者となった佐藤の部下が、"ともだち"にお熱だった。
 仮にも暴力団組織に所属している人間が怪しいセミナーにハマり、重要な情報やら機密を吹聴されては困る。所謂懺悔ですら、組織にとって致命的な痛手となり兼ねない。それを憂いて、佐藤はメモ帳に記述を残していたのだ。正しくは、何処かで時間を見付けて件の部下にヤキを入れる予定を。
 ……此処まで来ると、どのような経緯でこの死体が出来上がったのかにも想像が付く。
 怒り心頭で部下を呼び付けた佐藤は、"ともだち"を侮辱されて逆上した部下に殺された。それも普通の手段ではなく、未知のウイルスというとびきり凄惨な代物で。

「あれを自由に作って散布出来るんなら、相当厄介なサーヴァントだと思うわ。ダークホースって奴……とは、ちょっと違うかもだけど。――まあ、また何か解ったら教えるわよ。いざとなったら私達でぶっ叩いて、力の差ってのを教えてあげましょ?」

 こうして――偽りの救世主の名は、聖杯戦争関係者達の間にも広まっていく。
 最初は、二人の吸血鬼だった。彼らは強大な力を持つ虐殺の徒であるが、然し、"ともだち"について得た知識はあくまで上辺だけのものだ。かのサーヴァントの真に恐るべき点はチープな虐殺ウイルス等にはないことを、この時彼らはまだ知らない。否、彼らだけでなく、全ての者がそうなのだ。
 人間の、子供の情念の深さを恐れてはならない。人の妄執は、時に神の座へすら届くのだから。


【B-9/繁華街(ダンスクラブ・地下)/一日目 午前】

【ケイトリン・ワインハウス@Vermilion-Bind of Blood-】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:暴力団員の死体写真、暴力団員のスマートフォン、拳銃
[所持金]:数十万円。子供の手には余る額。
[思考・状況]
基本:優勝し、更なる高みへ行く
1:部下を使いつつ、上手く立ち回る
2:"ともだち"について調べる。
3:ランサーへの嫉妬。
[備考]
※"ともだち"が聖杯戦争の関係者、或いはサーヴァントそのものであると考察しています。
※縛血者の嗅覚により、殺人ウィルスの危険性についてかなり正確に認識しました。

【ランサー(ヴィルヘルム・エーレンブルグ)@Dies irae】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本:優勝し、聖杯をハイドリヒ卿に献上する
1:"ともだち"には然程興味はないが、いざとなれば躊躇なく潰す。


  ◆  ◆


 時は遡って、開幕前日。
 "ともだち"は、純真そうな少女に"それ"を見せていた。
 彼女こそ、この最悪の虐殺者を召喚し、彼に再び偽りの救世主としての君臨を許してしまった悲運のマスター。今はそのことに気付いておらず、これから気付くかどうかも定かではない生贄羊の名を、市原仁奈という。
 凡そ正攻法では滅ぼせない"ともだち"の心臓は、言うなれば彼女の心臓だ。其処には紛れもなく太い繋がりがあり、他ならぬ"ともだち"自身もまた、仁奈のことをいい子だと気に入っていた。一方の仁奈の方も、彼の事を厚く慕っている。あってはならない歪な繋がりが、確かに主従の間には存在した。
 主従関係というよりも、それこそ友情に近い――けれど決定的に違った何かが。

「そうだ。特別に、"よげんのしょ"の続きを一ページだけ見せてあげよう」
「! ほんとでごぜーますか!?」

 見せてと頼んでも、絶対に見せてくれなかった運命の書。
 自由帳に記されるには余りにも剣呑過ぎる未来予想図……もとい未来予言図が、ゆっくりと捲られていく。

「ああ。今日は特別な日だからね。運命が動き出す、終わりの始まりだ。頁を捲るには丁度いい」

 第二宝具『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』。それが、"ともだち"のいう"よげんのしょ"の真実だ。断っておくが、これは断じて、未来を確定させる宝具などではない。その証拠に、ランクは最低のE。宝具としての分類も、対人宝具として定義されている。然しこの陳腐で安っぽいノートは、只の虚仮では終わらない。この本もまた、"ともだち"というサーヴァントを凶悪たらしめるパーツの一つ。殺傷力に優れたウイルスなど目じゃない、問題にもならない大きな大きな混沌を招く――騙った未来の実現をバックアップする行動補助宝具。

「"カンカンとたいようのてらすごご、新とにあくまのつかいが四人現れて、何百人もの人がしぬ。
  しかし、きゅうせいしゅがあらわれて、みごと人々をすくってみせるだろう"」

 ――カンカンと太陽の照らす午後、新都に悪魔の遣いが四人現れて、何百人もの人が死ぬ。
   然し、救世主が現れて、見事人々を救ってみせるだろう。

 それはまさしく、最悪に近い予言だった。聞いた仁奈の顔も、あまりの物騒さに思わず曇る。
 彼女は"ともだち"を信頼しているが、誰かの死を良しとできるような精神構造は持っていない。あくまでも市原仁奈は只の、普通より少し個性的なだけの子どもに過ぎないのだ。その点で、彼女は彼の信者達とは一線を画している。不安げに見つめる仁奈に不信を生ませないのは、流石の"ともだち"と言えた。

「大丈夫。ほら、よく読んでごらん。救世主が現れて、人々を救ってみせるだろう。そう書いてあるだろう」
「きゅーせーしゅ……うう、難しい言葉はよくわかんねーでごぜーますが……誰か、助けてくれるんでやがりますか?」
「そうだね。ヒーローがやって来て、悪魔の遣いをやっつけてくれるんだ」

 仁奈を安心させるように優しい口調でそう言って、"ともだち"は覆面の下の顔を、不自然な笑顔に歪めた。その表情は覆面のおかげで仁奈には伝わらないが、仮に彼女が見たなら、思わずその場で硬直してしまったに違いない。それは、市原仁奈の知る"ともだち"のイメージとはかけ離れた、別人のような笑顔だった。醜く、幼稚な、とある社会から弾き出された少年の成れの果てが、其処にはあった。
 予言は紡がれ、宝具は静かに力を発揮する。後は、予言の成就を引き寄せるだけだ。まるで、神のごとく。


【C-6/市民ホール・控え室/一日目 午前】

【市原仁奈@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:子供のお小遣い程度
[思考・状況]
基本:お家に帰りたい。
1:"ともだち"の"よげん"が怖い。
[備考]
※『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』を一頁見ました。

【キャスター(ともだち)@20世紀少年】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』
[所持金]:手持ちで百万前後、総資産は数千万円に達する
[思考・状況]
基本:もう一度、ケンヂくんと遊ぶ
1:"よげん"を成就させるために行動する。
[備考]
※宝具『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』の予言は現在以下です。
 1:"カンカンとたいようのてらすごご、新とにあくまのつかいが四人現れて、何百人もの人がしぬ。
    しかし、きゅうせいしゅがあらわれて、みごと人々をすくってみせるだろう"

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最終更新:2017年08月06日 03:39