さあさあ、思い出作るにゃ今の内、話題を作るにゃ今の内!!
友人と一緒に見てもよし、恋人と睦まじく見るのもよし、家族と一緒に見てもよし!! 
会社のイヤな上司とだって、反りの合わない先輩とだって、無愛想な後輩とも、これを見りゃ打ち解けること間違いなし!!
日本中を沸かせたあの凄いエンターテイナー達が、この冬木の町にやって来た。タチミサーカスの奴らが、この冬木にやって来た!!

 あの今世紀最大のイリュージョニスト、マキシミリアン・ギャラクティカの大魔術が見れる!!
猛獣使いのエリカによる、インドゾウのアジゾウの玉乗り、ライオンのレオンとトラのラトーの白熱としたショーが楽しめる!!
アクロとバットの兄弟演じる、ハラハラドキドキ、見てる側に極限のスリルを提供するアクロバットに息を呑める!!
ピエロのトミーの……、いや、まぁこれは忘れていいぞ!!

 そして今回新たに加わった仲間のデビューが見れるのは、この冬木でだけ!!
エキゾチックな踊り子が、この冬木の地で舞う!! その女ダンサーの名は、マルガレータ!! こんな美人のダンスを見逃すなんて、こりゃもう損だ!!

 こんな奴らが集まったコンサートがこの街で見れるのは一週間だけ!!
指定のコンビニで、大人は2900円、子どもは1500円を持って前売り券を買うんだ!! 当日券はこれにプラス500円だから、買うのなら前売り券の方がお得だぞ!!
更にこれらの値段にプラスすれば、席も指定できるが、ままそれは、詳しくは後で調べてくんな!! それじゃあ、ショー当日は冬木の新都で待ってるぜ!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ゴオオオォォォジャス、ゴージャス!! デビューだって言うのに随分サマになってたじゃないかマーガレット!!」 

 この冬木での初公演が終わった後の、サーカスの団員達のミーティングの事だった。
今日の公園でパフォーマンスを披露したミリカやトミー、アクロとバットの兄弟や、腹話術師のリロが、ミーティングルームに集まっていた。
そして感極まった様に、タチミサーカスの顔であり花形エンターテイナー、魔術師マキシミリアン・ギャラクティカことマックスが叫んだ。
嬉しいような、褒めるような。そんな声音だ。恐らくは両方だろう。そして、マーガレットと呼ばれた女性に入れ込んでいると言う事もあろう。
――それ程までに、マックスがマーガレットと呼んだ女性は、美しかったからである。

「あら、そうかしら? 私としては、ちょっと動きが固いかなぁ、って思っていたのだけれど。初めての舞台は緊張するわ」

 マックスの言葉に反応するように、件のマーガレットと言う女性が反応した。
月並みな言葉と解っても、美女である。見事なまでの髪質を誇る、後ろ髪を長く伸ばした茶髪。ハイビスカスの様な赤色をした、雛菊の如き髪飾りが良く似合う。
女性の嫉妬がさぞ凄い事が窺えるだろう、豊満な胸に、見事な曲線を描く腰回り、すらっと伸びた抜身の刀のように細い手足。
身体つきが女性として完成されているのも勿論の事、その顔つきも、実に優美で、母性と知性を感じさせる不思議な何かで満ち溢れていた。
女性――マックスに曰くマーガレット、今回の公演ではマルガレータと言う名前でダンスを披露していた、このオレンジ色のハーレムパンツを履いた女性は、今回の公演でパフォーマンスを演じていた皆々に囲まれ、それぞれの言葉に答えていた。

「あ、あれで初めてぇ? オイオイ冗談だろ、オレっちもこの業界にいて長いけどさ、あーんなスゲーダンスを披露出来る奴なんて、ピッツァちゃんが初めてだぜ?」

「ピッツァ? マルゲリータピザと掛けているのかしら?」

「おっ、わかっちゃう? 教養があって助かるぜ、アヒャ、アヒャヒャヒャヒャ!!」

 自分で自分のギャグが面白かったのか、ニンジンを針金でぶら下げた帽子を被った、ピエロメイクの中年男性。
タチミサーカスにおいて、トミーと言う名前で通っているピエロが、勝手に笑い出した。
本人としてはとても面白かったらしいが、マルガレータを取り囲む皆は全く面白くなかったらしい。白けた様子を露にしていた。なおマルガレータ当人は、未だに笑い所が解らず、キョトン、とした表情を隠せていない。

 だがトミーの言う通り、マルガレータの踊りは実に、堂に入っていると言うか、サマになり過ぎていた。
目鼻立ちからも解る通り、彼女は日本人ではなく西洋系の女性である。団長の立見七百人(たちみなおと)に、ある人物が紹介し、
そのままタチミサーカスに所属する芸人の一人となった。今から三日ほど前の事だ。
一端の芸人になるにはもっと時間のかかるプロセスが必要なものかと思うが、流石にサーカスと言う数多の芸人達の集まりを統括する、一座の団長。
即ちプロフェッショナルである。このマルガレータと言う名の女性が秘める『才能』を見抜いたらしく、直に団員として受け入れ、それだけでなく、
そのまま今日の公演にねじ込んだのだ。凡そ芸人の世界では考えられない程の、スピード出世である。
下積み等の日の当たらない期間を全てすっ飛ばして、いきなりデビューなど正気の沙汰ではない。誰もがそう思った。

 しかし、その心配は杞憂も杞憂に終わった。
マルガレータの踊りは、タチミサーカスが有するダンサーどころか、日本のトップダンサー顔負けの練度を誇っていたのだ。
マックスは、本場アメリカでもトップを張れるレベルだと褒めちぎっていたが、これは恐らく彼特有の、美人に対するリップサービスではない。
本心からそう言っている事が、言葉の端々からも伝わるレベルだった。明らかに、今日初めてダンスを踊る人間の踊りではない。
それこそ、今日のタチミサーカスの様な大観客を前に何回も何回も踊って、技や胆力を鍛えていなければ、到底出来ない踊りの冴え。それをマルガレータは、今回の公演で完璧に見せつけたのである。

「でもすごいよね、マルガちゃん。踊りも上手いけど、緊張しないって所が。ミリカなんて初めて舞台に出た時は、もうガチガチだったのに」

「うふふ、あぁ言うのにはね、コツがあるのよミリカ。今度二人きりの時間になったら教えてあげるわ」

「本当!? 嬉しいなぁ、約束だよマルガちゃん!!」

 鞭の代わりに彼女、ミリカと呼ばれる猛獣使いが調教に使うステッキを握り締めながら、ピョンピョンと飛び跳ねていた。
喜びの表現らしい。実に解りやすい。そしてその表情の方も、自分は喜んでいる、と言う事を如実に表すキャンバスの様なものだった。とても明るく、ヒマワリの様な笑みだった。

「とは言え、こんなに頼もしい仲間が増えるのは、我々としても喜ばざるを得ないな。タチミサーカスはまだまだ成長し続ける。マルガレータ、一緒に頑張ろう」

「えぇ、そのつもりよ、アクロさん。あなた達のアクロバット、とっても素敵だったわ」

「え、そ、そうかな……そうだよな!!」

 と言って、アクロよりもやや線が細いが、それでも、アクロバットを生業にしていると言う説得力に溢れた身体つきをした青年。
バットこと、木下一平が、恥ずかしそうに頭を掻いた。マルガレータが浮かべた笑みに、ドキッとしたらしい。顔にやや朱が差していた。
「オイオイ、ミリカが妬くぞ」、とふざけて、彼の兄にあたるアクロこと、木下大作がバットの事を小突いた。「お、オイ兄貴!!」、と恥かしそうにバットが叫ぶ。
それを見て、一座の全員がドッと笑った。平和で、和気藹々とした、一芸を飯の種にする集団の日常風景。
時に数千人にも上る大勢の客が見ていると言うある種の非日常的な空間が産み出すプレッシャーの中で、パフォーマンスを行う人間達が見せる、日常の一幕。それが、この部屋では繰り広げられていた。

「ハハハ、やはり君を採用した私の眼には狂いはなかったようだな、ミス?」

 と、マルガレータに向かって、トミーのものとは違う年配の男性の声が聞こえて来た。
彼女を取り囲む団員達がササッと横に別れる。彼女の向ける目線の先に、特徴的な髭を生やした、恰幅と愛想の良さそうな四十、五十代程の男性がいた。
立見七百人。このタチミサーカスの団長であり、マルガレータを団員として採用、今日異例のスピードデビューさせると言う英断を下したキレ者である。

「素晴らしい舞台を用意していただいて、感謝していますわ。ミスター・ナオト。次の舞台でも精一杯、全力で尽くさせて頂きます」

「ほう、頼もしい言葉だ。私としても期待しているよ、マルガレータ」

 其処で七百人は、パンパンと柏手を打ち、皆の注目を集める。
所属している芸人から、照明、大道具、マネージャー、動物の飼育係などが一斉に、彼の方に目線を向け始めた。

「さて、初日の公演、先ずはご苦労だった皆。初めて芸を披露する場所ではあったが、我々タチミサーカスの底力を、この冬木の市民達は理解してくれたのではないかと私は思っている」

 団長が今日のサーカスを見に来てくれた観客の、退場の様子を見ての言葉だった。
誰も彼もが、満足したような笑みを浮かべ、サーカスを後にしてくれた。手応えがあった、団長はそう判断していた。

「とは言え、冬木での公演は一週間もある。早く寝て、枕で今日の成功を噛みしめつつ、ゆっくりと英気を養って貰いたい。以上、解散!!」

 再び、パンッ、と柏手を叩く。「おやすみなさい」、と皆が団長に対して挨拶をする。「うんうん」、と満足そうに彼が頷く。

「っと、そうだ。おい、草太くん!!」

「あ、はい。何でしょう、団長」

 七百人の言葉に反応し、芸人達が固まって集まっている所から、やや離れた所で雑務をこなしていた男が返事をした。
赤い髪をした男で、前髪を二つに結わき、ピエロのようなダボついた服を纏った気弱そうな男だ。彼は小道具をあっちこっちに運ぶと言う作業を今終えたばかりであった。

「片づけを終えた所すまんが、最後にもう一回、動物達の檻の様子を見回りしてくれんか? まさかとは思うが鍵をかけ忘れていた、何てのがあったらコトだからな」

「良いですよ。それじゃ、早速行ってまいります」

「頼んだよ」

 そう言って、軽く伸びをしてから、草太と呼ばれた男が外に出ようとする。

「あぁ、待って下さる? ミスター草太」

「? 何でしょう、マルガレータさん」

「私も一緒に行っても宜しいかしら?」

「えぇ!?」

 と、マルガレータの予想だにしていない要求に、草太は勿論、他の団員達も大いに驚いた。
まさかそんな事を口にするとは思っても見ていなかったからだ。てっきり、もう疲れて眠ってしまうものかと、皆は思っていた。

「いやいやミス、君も疲れただろう。今日はもう寝ておきなさい」

 七百人の言葉に、彼女は反応した。

「あら、でもこう言う最後の見回りって、入団して間もない人のお仕事でしょう? なら、私も一緒に手伝って上げた方が、ミスター草太の負担も少なくなるのでは?」

「むぅ……まぁそれはそうなんだが、こう言う雑務は芸をする側より裏方のだね……」

「もう、パパ。マルガちゃんが行きたいって言うんだったら行かせてあげなよ。二人ならすぐ終わるよ」

「ミリカまで……まぁ、よかろう。それじゃ、二人で行ってきなさい」

 七百人は、娘である立見里香には非常に弱い。
団員や部下には非常に優しく、それもあって非常に慕われるが、この親バカが玉にキズと言われるぐらいの親バカだ。
ミリカにこう言われると、団長は弱い。当初は行かせないと言う心持ちであったらしいが、すっかり折れてしまったらしい。「これだよ……」、と、七百人がサーカスを発足する以前からの古株であるトミーが頭を抱えた。

「それじゃ頑張ってね、ソウタくん。変な事しちゃダメだし、女の子は退屈させちゃダメだよ?」

「む、ムリムリムリ!! こんな綺麗な人と一緒なんて……、ぼ、ボク一人が良いです!!」

「ハハ、ハニー、要らない心配だったようだ。ソータくんのような小心者が、内緒でヘンな事が出来る筈がないからね!!」

 と、マックスは軽く茶化すと、ドッと笑いの波がその場に波及した。
それがちょっと耐え切れなくなった、と言う様子で、草太はそそくさとその場を後にし、七百人に言われたように、動物達の檻の様子を視察しに行った。
「あ、待って!!」と、先に行った彼の背中を追うように、マルガレータも小走りに移動し始める。その様子を、ミーティングルームにいる全員が見送った。

「ソウタくん、あれでもうちょっと気が大きければ、もっといい猛獣使いになれるんだけどなぁ」

 二人がいなくなってから、ミリカが残念そうに口にする。

「いや、全くだな。彼には感謝しているのだから、もうちょっと胸を張った態度でもバチはあたらんのだがなぁ」

 これに関しては七百人も、特有の親バカと言う訳ではなく、本心からそう言っていた。
草太は少々気が弱すぎる。裏方作業に従事する事が多いとは言え、彼はこのタチミサーカスの立派な仲間の一人である。
それに、七百人やミリカから、トミーやマックスがアクロとバットに至る全員が、胸を張って欲しいと思うのには訳があった。

 そう、あのマルガレータをタチミサーカスに紹介したのは、他ならぬ彼なのだ。
タチミサーカスの諸々の雑務をこなす、猛獣課の見習い猛獣使い、『猿代草太』なのだった。




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「あなたはそんな変な髪形をするより、髪を下ろした方がかっこいいわよ、ミスター」

 二人で、猛獣達が待機している檻の接地された、タチミサーカスの移動式業務用テントの前まで赴き、二人きりになるや、
マルガレータと呼ばれる女性は草太に密着し、結わいた彼の前髪を器用に下ろしてやった。
髪を下ろすと途端に、印象が変わる男だった。――否。髪を下ろしただけじゃない。普段は眠たげに閉じられている瞳は完璧に見開かれ、その瞳には例えようもない、鋭く剣呑な光が揺らめいているのだ。

 果たして今の猿代草太を見て誰が、普段タチミサーカスで雑務にひいこら弱音を吐き、上司であるミリカにコキ使われている男と同一人物だと見ようか。
まるで彼とは違う、何か別の幽霊のような物が憑依したとしか思えない程、発散される空気も雰囲気も違っていたし、そのせいか見た目すら違う印象を見る者に与えるのである。

「何でオレに着いて来た、『アサシン』」

 声も、普段の気弱そうなそれとは全く違う。ドスの効いた、低い声である。

「あら、サーヴァントがマスターの近くにいつもいると言うのは、何もおかしい事じゃないでしょう? 私、決めた男には尽くすタイプよ?」

「よく言いやがる。勝手にわがまま言って、自分もサーカスに出たい何て抜かした酔狂な女がな。何が尽くすタイプだ」

 吐き捨てるように草太が言う。
マルガレータと呼ばれた女は、反抗期の子供を手を焼き、しかしどこか愛情を隠せない母親の様な顔で、悪態を吐く草太の事を眺めていた。

 ――草太の言う通りである。彼女、アサシンのクラスで呼び出された、このマルガレータと言う名の女性は、彼のサーヴァントなのである。
彼女は非常に特殊なサーヴァントだ。アサシンクラスのクラススキルである気配遮断を持たない限り、誰にも敵だと認識されない特殊なスキルを持つ。
そのスキルを利用して、自分が親しい間柄の存在だと誰かに誤認させ、情報を集めに集めて暗殺に徹する。それが、彼女と言うサーヴァント。
その特殊なスキルはこの街の、聖杯戦争などと言うは露も知らぬ一般人にも有効だ。そう、彼女はこのスキルを利用して、タチミサーカスの全員を欺いた。
彼女は、草太がどんな所に勤めているのか訊ねるや、自分もそれに出たいと口にし、嘗て将官達を巻いた手練手管の話術と、何よりも己の美貌で七百人にアピール。
そうして見事、タチミサーカス新進気鋭の女ダンサーとしての地位を勝ち取った、と言う訳だ。勿論草太は、彼女を自分の職場に紹介する事は反対だった。
しかし、この冬木の町に於いてこのアサシンは、弱いのは事実だが自分の唯一の味方なのである。無碍にする訳には行かず、結局折れて紹介する羽目になった。勿論、草太はその事を根に持っているし、その事をマルガレータは気付いている。

「それは、確かにわがまま言った私が悪かったわ。でもね、私、昔からこう言う生活に憧れてたの。私からのわがままはこれを最後にするから、許して欲しいわ」

「ハッ。定まった所もなく、全国津々浦々を移動して、芸を披露して金をせびる仕事が生前からの夢か。ハードルの低い事だな、生前のアサシンの稼ぎの方が遥かにオレには魅力的だぜ」

「……興味のない男にキスしたり、股を開いて稼いだお金には、何の価値もないのよ? マスター」

 マルガレータの言葉に、途端に冷たく、突き放すような物が孕まされたと、草太は気付いた。瞳の輝きも、何処となく淀んでいる。

「男のあなたに理解して、と言う方が難しいかも知れないけど、お金や宝石の為に、好きでもない男に媚や身体を売るのは、とっても嫌な事なのよ。皆がお金の為を思っている訳じゃないのよ?」

「それは、それは」

 興味がなさそうに、草太は檻の様子を点検する。特に、ライオンや虎、象にゴリラなどの、特に危険度の高い動物の収容されている檻は重点的にチェックしている。

「此処はとっても良い所よ。男達の劣情を引く為の、小さくて、透けてて、恥かしい所も隠せない衣装を纏った下品な踊りをする必要がない。踊りたいような踊りを踊れて、それに善良な観客達が喜んでくれて、団員の皆が良かったねって褒めてくれる。私、それで幸せよ。お金や宝石では、絶対に買えない本当の幸福が、此処にはあるの」

 其処で、言葉を区切る。

「あなたも、そんな生活がしたかったから、このサーカスを自分の場所にしたんでしょう? 皆、良い人だもの。間違ってなんかいないわ」

「違うね」

 其処で草太は、マルガレータの方に向き直り、反論した。瞳は、強い反駁の念が輝いていた。

「オレは権力者が嫌いなんだ。まるで神になったように振る舞って、大人も子供も関係なく人生を滅茶苦茶にしやがる。刃向おうにも、同じ権力者仲間で繋がっててそれを許さない。そして、何処までも腐敗する。そんな奴らから逃れる一番いい所が、サーカス団だった。それだけだ」

「まぁ、マスター。今言った事が本心からでた言葉なら、あなたはとっても正しいわ。だって……私もきっと、同じ事をしていた筈だもの」

 「それにね――」

「私も、権力を盾にして威張る人間が嫌いなの。ふふ、何だか似た者どうしね、私達」

「それは、アンタの生前の境遇からか? 『マタ・ハリ』さんよ」

 その名で言われた瞬間、浮かべていた柔和な笑みを、彼女は崩した。石のような、仮面のような、無表情であった。

「その名前は、嫌いだわ。私から幸せを奪う名前。聖杯戦争に勝って、何処にでもいる普通のマルガレータとして、あなたと過ごしたいわ。そう、思うでしょう?」

「生前の行いのせいで、本心から言ってるとは思えないね。尤も、聖杯戦争に勝ちたいって気持ちは解るけどさ」

 そう。猿代草太は、聖杯戦争に勝たねばならないのだ。
男は何時だって、権力と言う名の雲の上の力によって踊らされる、猿回しの猿であり、道化であった。
猿代草太は、人でありながら、本来彼を庇護してくれる筈の法律の庇護を全く受けられない男だった。彼は、人の姿をした猿だった。
国も、警察も、司法も、全てが彼の敵だった。自分を信じてくれる友達すら、この男には存在しない。ただ何処までも、運命の悪戯に翻弄され続ける男。
それがこの、猿代草太だ。いつまでも強者に、権力に喰われるだけの餌でしかない自分が嫌だからこそ、彼は生きる力を付けて来た。
自由を得る為の聖戦、それが聖杯戦争であると言うのなら、猿代草太は、今度こそ、遥かな昔自分が失う事になった自由を取り返すのだ。

 聖杯の為に、絶対に生き残って見せる。
そして、復讐をするのだ。小心者の影武者大統領、王帝君を。薄汚い検事局長・一柳万斉を。この身に拷問のトラウマを刻みつけた刑務所々長・美和マリーを。
――嘗て自分を縛り付け、凍死寸前にまで追い込んだ、自分を親友だと思って今も友達づきあいしている間抜け、内藤馬乃介を。
聖杯の力で殺して見せる。その時になって、自分は自由を得るのだ。一人の人間、タチミサーカス専属のサラリーマン、猿代草太として、新しい一歩を遂に踏み出せるのだ。

「思いつめちゃダメ」

 マルガレータ、いや、マタ・ハリに背を向け、檻の様子を見ていた草太の頬を、暖かな手が触れた。
白磁の表面のように滑らかで、いつまでも触われていたいと男に思わせる、白魚のような指であった。

「男の子は、たまにはリラックスしていいの。私に任せて、マスター。あなたが私を裏切らないでくれれば……私は、マルガレータじゃない。アサシンのサーヴァント、女スパイのマタ・ハリとして頑張るわ。……だから、そんな怖くて、寂しい背中を見せ付けないで」

「……母親面するな」

 手を払い除け、檻の鍵が締まっているかどうかを確認する草太。それを言って、草太は気付いた。オレには、母親の記憶がないと言う事を。
反抗期の子供を見るような、優しげな、しかし困った瞳で、マタ・ハリが草太の事を眺めている事に、彼は気付かない。
檻の中には、ショーに疲れた一匹のトラが、スヤスヤと寝息を立てていた。檻の錠は、やはり閉まっていた。
しかし、猿代草太の心の中に閉じ込められていた虎は、既に野に放たれ、聖杯を喰らわんと暴れ狂っているのであった。




【クラス】

アサシン

【真名】

マタ・ハリ@Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運D 宝具A+

【属性】

混沌・中庸

【クラススキル】

気配遮断:-
『諜報』スキルにより、気配遮断は失われている。

【保有スキル】

諜報:A++
このスキルは気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
A++ともなれば味方陣営からの告発がない限り、敵対していることに気付くのは不可能である。ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う

フェロモン:B
フェロモンとは動物の体内から分泌・放出され、同種の他個体の行動や生理状態に影響を与える物質の総称。
傾国の美女とまではいかずとも、男女の区別なく警戒心を溶かし、会話のアプローチさえ間違えなければ最深部の情報まで手に入られるだろう。

【宝具】

『陽の眼を持つ女(マタ・ハリ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大補足:100人
マタ・ハリという伝説の具現化。洗脳宝具。妖艶な舞踊により、思考回路を強制的に麻痺させる。
一般人、マスターは勿論の事、精神耐性スキルのないサーヴァント、狂化していないサーヴァントも男女問わず該当する。
判定に失敗した者は基本的にアサシンの操り人形である。効果は朝日が昇るまで。ただし、宝具を使用したと言う形跡は残らない為、同一人物に繰り返し使用可能。
また一度でも判定に失敗した場合、次回以降の判定にハンデを負う。

【weapon】

【人物背景】

マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ。第1次世界大戦時にスパイとして活躍し、女スパイの代名詞的存在となった女性。十九~二十世紀の人物。
真名である「マタ・ハリ」は踊り子としての芸名である。本業は扇情的な姿で踊るダンサーであり、位の高い男性とベッドを共にする高級娼婦でもあり、
その魅力を利用して敵国の関係者や軍関係者を篭絡し、情報を引き出していたという。
1917年、彼女はフランスとドイツの二重スパイ容疑で逮捕され、有罪判決を受けて銃殺刑に処された。
なぜ彼女はスパイとなったのか、それは、人生の始まりにおいてどうにもならないところで躓いていた。
生まれこそ裕福だったが、父は経営していた会社を倒産させた挙句に浮気を繰り返し、母は心労で病んでマタ・ハリが十四歳の頃に死別。
そうして一家が離散した後、彼女は後見人の下で幼稚園の教諭になるべく勉学を励んだが、学舎の学長が彼女に露骨な干渉を行ったため、後見人によって追放され、
結婚生活すら夫の暴力と酒、浮気癖で失敗してしまう。そして彼女はパリでダンサー「マタ・ハリ」としてデビューした。
青春時代の大半を、男たちの身勝手な欲望によって翻弄された彼女にとって、男たちを翻弄するスパイは恐ろしいほど性に合い、時には高価な財を貢がれた事も。
だが、彼女が本当に求めたのは、「価値なき財」ではなく「愛した者と幸福な家庭を築く」ことだったが、結局のところ彼女は処刑される時までソレを手にする事はなかった。
しかし処刑したフランス側も、ドイツ側もさして重要な情報をもたらすスパイだとは思わず、精々が密告屋程度の扱いだったではないか、とも言われている。
いずれにせよ、フランスはこれ幸いとばかりに軍事面での失敗を全てマタ・ハリに押しつけた。彼らの拙い作戦により出た犠牲も、彼女がスパイとして情報を漏洩したため、と弾劾したのだ。運命に翻弄された美貌の女は歴史に刻まれる存在となった。本来の名を忘れ去られ、ただ芸名だけが伝説となっている―――

【サーヴァントとしての願い】

愛した者と幸福な家庭を築く事


【マスター】

猿代草太@逆転検事2

【マスターとしての願い】

王帝君、一柳万斉、美和マリー、内藤馬乃介を抹殺し、自由と幸福を得る

【weapon】

【能力・技能】

非常に頭がキレ、洞察力、観察力、計算力、記憶力、心理術、弁論術どれを取っても非常に優れている。
本人は動物を操れない気弱な猛獣使いと言うキャラクターで通っているが、実際には鳥や猿、ネズミに兎に猫に豚、果ては虎や象すら操る事が出来る。
また専用の免許がいるであろう大型トラックの運転や気球の操作、施設管理、聞き分け不可能なレベルの声真似、点字翻訳など、多方面の才能に優れる。
長年逃亡生活を行っていた事によって培われた危機察知能力も恐ろしく高く、大抵のピンチを、ピンチになる前に潜り抜けられる。

【人物背景】

サーカス団、タチミサーカスに所属する猛獣使い。自分の身に余る事が起きたらすぐに、ムリムリムリと口にする臆病な青年。
猛獣使いとは言えその力量は浅く、いつも同サーカスで飼われている猿のルーサーに逆に猿回しにされている。

その正体は同作における全ての黒幕。
18年前に唯一の肉親であった父親に捨てられ、ある事情によって親友の内藤馬乃介に縛り上げられ、車の中で凍死寸前になっていた。
そこを偶然通りかかった、殺し屋である鳳院坊了賢により内藤馬乃介と共に救出され九死に一生を得る。
親も身寄りもない為、児童養護施設で生活する事になるが、それから6年後、ある国の大統領がその施設で育てられていた隠し子に会う為にひっそりと、
その施設を訪れる事になっていたのだが、それを利用して大統領になろうと画策した彼の影武者が、当時検事局長だった一柳万斉と養護施設の園長美和マリー、
殺し屋・鳳院坊了賢に協力を要請し暗殺計画を実行する。草太は偶然施設の庭の鎌倉内でその暗殺を目撃。
それと同時に6年前自身の命を救ってくれた了賢も口封じの為に殺される事を耳にし、とっさの機転で庭に火を放ち了賢を逃がす。
その後美和マリーに、了賢を逃亡させた疑いがある事により、後年トラウマとして残る程の厳しい尋問を受け命を危機を感じ養護施設から逃げる。
美和マリーはその後、上記の一件から検事局長・一柳万斉に目を掛けられ刑務所々長の地位に就く。
大統領・王帝君、検事局長・一柳万斉、刑務所々長・美和マリーと三人もの大権力者から命を狙われ、厳しい追撃を受けた草太の生活は当然安定せず、
各地を転々としながら命懸けのギリギリの生活を送っていた。タチミサーカスに入団したのも、サーカス自体が各地を転々としながら行う職業であった為。
そんな中で唯一親友の関係を保っていた内藤馬乃介の父親が自分の父親を殺したという事実を知り、昔縛られた恨みも相まって内藤馬乃介への殺意も芽生え、了賢以外の関わった人間全てに裏切られた人生により、人格は歪み何もかもを信頼出来なくなってしまった。

本編開始前の時間軸から参戦

【方針】

聖杯狙い

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最終更新:2017年05月25日 00:02