「イベント13 中小藩国に愛の手を【博物館と管理人】」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

イベント13 中小藩国に愛の手を【博物館と管理人】 - (2007/03/06 (火) 10:58:56) のソース

*第0話【博物館と管理人】

 芥辺境藩国に一つの公共施設がある。
 王都の中心地付近。……というか、ど真ん中。
 藩立博物館である。
 摂政が「国民が作ってくれた作品をお蔵入りにしたくない」と言う発言からできた施設だ。
 そのため、藩国の規模の割には収蔵品が多いのが特徴であった。
 その中で、双子の兄妹が道に迷って博物館のある一室に入り込んだ事から事件が始まる。
 

 

 ここのところの忙しさから解放されて、ようやく得た眠り。
 しかし、その眠りは唐突に破られる事になった。
 側頭部に急激な圧力と痛みを感じたからだ。具体的に言えば、何かに踏まれた。
 眠いのを我慢するまでも無く意識が覚醒して目を開く。
 映ったのは少年と少女。その表情からして、踏んだのは偶然であろう。
 その直後に悲鳴が上がり、それと同時に凄まじい勢いで後ずさる二人。
 その光景を眺めつつ、床の上から起き上がる。
「……はて? 何でオレ、床で寝てんだ?」
「し、知らないよ!」
 昨日の記憶を探ろうとする前に、少年の方から返答が来る。
 そりゃそうだよな。と納得しつつ、ある事実を思いつく。
「……ところで、君達は何でここにいるんだ?」
 その問いに二人はハッとした表情で身体を硬くする。
「ふむ。道に迷ったってところか」
「……うん」
「ごめんなさい」
 怒られると思っているのだろう。罪悪感に満ちた顔で少女が頷き、少年が謝る。
 その素直さに笑みを浮かべつつ、二人の頭を撫でて答える。
「まぁ、怒りゃしないよ。……ただ、迷った訳だけ教えてくれないかな?」
「……お兄さん、この博物館にある変な噂って知ってる?」

 
 
 十分後

 

「あ~。話を要約すると、昨日も博物館で道に迷って、どこかの収蔵庫に辿り着いた。
 そこで変な少女に逢って、襲われた。そして、変な模様を書き込まれた。
 そして、その模様を何とかしたくて博物館に来て、また道に迷ったと」
「……うん」
溜息をついて天を仰ぐ。
 心当たり多すぎてどの噂だかわからない、というのが正直な所だった。
 この博物館は芥辺境藩国で発信される情報を全て集めるべく作られている。
 その中にはマジックアイテムの類も含まれている。その手の危険物は幾らでもある。
 まぁ、もう一度博物館に来た着眼点は悪くないが、二人で何とかするには話が大きすぎる。
「その変な模様ってのは、どんなのなんだ? 見せてくれないかな?」
 そういうと、少年と少女は顔を見合わせる。
「あの……本当に見る?」
「? ああ。見せてもらわないと、どんな模様かわからないからな。呪いの類だと危ないし」
 俯き加減で問いかける少女に内心首を捻りつつ答える。
 「あ~」とか「う~」とかつぶやくと、少女は顔を真っ赤にしつつ服の胸元を開く。
そして、その胸元には確かに変な模様が描かれていた。
「……死の刻印に似てるけど随分違うな。独自のアレンジでも加えてあるのかな……」
「お兄さん解るの?」
「まぁ、神話学とかの研究してるからな。多少の事はな」
 少年の問いに、模様から視線を離さないまま答えると溜息をつく。
 話によれば、二人が襲われて模様を書き込まれた後に相手の少女にこう言われたらしい。
 「オーマを連れて来れば助けてあげる」、と。
 この発言から類推すれば、この模様は生死に関わるものだろう。
「これに加えて、オーマネーム持ちを連れて来い……か。厄介だなぁ」
「僕たちが知っているオーマの人って藩王様と摂政様だけだもん……」
 少年は泣きそうになりながら呟く。
 まぁ、オーマネーム持ちの知り合いなんて、ごく普通の家庭にはいないだろう。
「オレの知り合いにオーマネーム持ちはいるにはいるけど……。
 この手のに詳しくて、すぐに動ける人はいないよなぁ……」
「……私、死んじゃうんですか?」
 今度は少女の方が泣きそうになりながら呟く。……いや、既に泣いているが。
「わかったわかった。オレが何とかしてみるよ」
 その台詞に二人は顔を上げる。
「……本当に?」
「まぁ、できる限りって言う前置詞がつくけどね」
 苦笑しつつ答えると、ハンガーにかけてあった上着を着込む。
 ついでに、収蔵庫の鍵の束を引き出しから引っ張り出す。
「お兄さんって、何者なんですか?」
「ん? 何者って聞かれれば、唯の人だなぁ。……まぁ、ここの管理人みたいなもんだよ」
 
 

二時間後

 

「……やれやれ。ここかぁ」
 いくつもある収蔵庫を見て回り、ようやく二人の記憶と合致する収蔵庫を見つける。
 二人が行き着いたのは書庫だったようだ。しかも、割と最近の本だけを集めた部屋だ。
「ここにマジックアイテムあったかなぁ?」
「本当にここだよ。廊下に見覚えあるもん」
「記憶力がいいんだな。吏族向きだね」
 そう呟きつつ、鍵を使って扉を開けて電気をつける。
 中はひっそりとしており、書庫の中を一通り見て回っても誰かがいる気配も無い。
「誰もいないよなぁ……。でも、何か変だな?」
考えてみれば、二人が入り込めた部屋に鍵がかかっているのは変といえば変だ。
そう思った瞬間、電気が落ちる。
「わぁ!」「きゃっ!」
二人が悲鳴を上げてしがみ付く。そして、その視界の先には少女がいた。
「……二人が見たのは、あの娘?」
 心持ち警戒しつつ、二人に問いかける。視線は、外さない。
「うん。間違いないよ。あの子だよ」
「……どういうつもりだ? 一般人を巻き込むのは良くないと思うが?」
「さぁ? 私の傍に来れればわかるかもね?」
 少女はクスクスと笑いながら答える。同時に、足下に魔法陣が広がる。
 次の瞬間、殺気を感じて二人を抱えてその場から飛びのく。
 タイミングが遅かったのか、前髪が数本斬られて宙を舞う。
 相手の姿は見えない。が、気配に覚えがあった。
「闇星号で戦った奴か!?」
「管理人さん! 闇星号乗ったことあるの!?」
 少年の声を完全に無視して再び跳躍。そのすぐ横を何かが薙ぎ払っていく。
 ミサイルが飛んで来ないところを見ると、白兵型だけのようだ。
 数は……おそらく一体。
「敵性ファンタジーだったとはな……」
 一度距離を取って着地すると、二人を下ろす。
「二人とも、ここを動くな」
「管理人さんは?」
「幻想を倒せるのは幻想だけだ」
 答えになっていない答えを吐くと、後ろ腰からナイフを引き抜く。
 一瞬だけ瞳が青く染まる。それだけでスイッチが切り替わる。
 迫る何かが、何かを振るう。
 それを神がかった動きで回避すると、虚空に向けてナイフを振るう。
 何かに突き刺さった感触を充分に確かめる事無くナイフを引き抜き、床を蹴る。
 謎の少女の死角から瞬時に接近し、必殺の一撃を放つ。
 が、謎の少女はそれを上回る速度で肉薄する。
 もはや、近距離ですらない。ほぼ零距離である。
 お互いの吐息が顔にかかり、そして密着する。
 ……早い話、キスされたのだ。
 たっぷり五秒して、お互いの顔が離れる。
「……どういうつもりだ?」
「さぁ? まぁ、でも私の目的は終わったから」
「……こんなことのためだけに呪いの紋様まで描いたのか」
「ああ。あれ? ただの落書きよ? 貴方も使うでしょ? 絶技・お絵描き」
「お絵か……」
「契約は完了したわ。これからよろしくね。ご主人様」
 少女は艶然と微笑むと虚空に消える。
 残されたのは、一冊の本だけだった……。
 

 

「管理人さん。ありがとうございました」
「本当に……ありがとうございました」
博物館の玄関で、二人がそれぞれに感謝の言葉を述べる。
 その言葉に内心苦笑を浮かべる。
 実際問題、今回は完全に手玉に取られていたのだ。
 改めて模様を確認すると、確かに非水溶性の塗料で書かれた落書きだった。
「まぁ、何とかなって良かったよ。帰ったら、模様のあったところはちゃんと洗っておきなよ」
「……う、うん」
 少女は顔を赤くしながら頷く。
「管理人さん。僕、管理人さんみたいになれるかな?」
「オレみたいになるのは止めた方が思うが。まぁ、なれると思うぞ。その想いを抱き続けるなら」
「うん! 僕頑張るよ!」
 少年は元気に頷く。
 その光景に、何となく眩しさを覚えつつ二人の頭を撫でる。
 それが、別れの挨拶だった。
 

 

「オーマ~」
博物館の外に消えていく二人を見送っていると、名前を呼ばれる。厳密には愛称に近いが。
振り返ると、見知った猫士がいた。
「サヨコか。どうした?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。折角の休日だから一緒にお父様に会いに行こうと思ってのに」
 サヨコはこう見えて芥辺境藩国の王猫、コジロー2世の子供の一人だ。
 藩国に来てからの付き合いなので、付き合いは長い方だ。
 むしろ、一日でいえば、顔を合わせている時間は一番長いかもしれない。
「一緒にお父様って……昨日も会ってるだろ。二人揃って。仕事場で」
「い……いいの! 今日も一緒に会いに行ったっていいじゃない!」
 「ごめんごめん。珍客がいたもんでね」
「さっきの二人? 誰だったの?」
「ん~……。未来の吏族候補かな?」
 

 
 同時刻。
 書庫から回収してきた本がひとりでに開かれ、白紙のページに文字が浮かび上がり始める。
 程なくして、本は再び閉じられる。
 その表紙には別世界の言葉でタイトルが記されていた。
 『逢真女人堕伝』と……。

 
 

 

 マジックアイテムを入手しました(嘘

 『逢真女人堕伝』
 原型:マジックアイテム
 A:装飾品(華美に飾られている)
 B:その他(本、もしくは持ち歩けるコンピュータ)
 C:装飾品+その他(魔法の力を帯びている)
 D:普通(普通の大きさの品物だ)

 設定
 芥辺境藩国のアンダーグラウンドで販売されている同書の原本。
 原作者は不明。芥辺境藩国の摂政の天然の誑しぶりを記したものらしい。
 一種の魔道書と化しており、無限のページ数と事象の自動筆記能力を持つ。
 どういう理由かは不明だが、精霊を宿すほどの力は持っている。
 ちなみに精霊の性格は結構悪魔だったりする。
 無意識に誑しこめそうな状況を用意しておき、誑しこんだら記載するという事を平気でする人。
目安箱バナー