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イベント32 新人歓迎キャンペーン【アウドムラ攻略戦戦闘情景】 - (2007/03/06 (火) 21:31:15) のソース
*【アウドムラ攻略戦戦闘情景】 ***作:ゲドー(PL:外道)&那限逢真・三影(PL:那限逢真) 北海道、フィーブル藩国。 ここで大規模な戦闘――いや、戦争が起ころうとしていた。 敵性目標、未確認要塞艦「コマ」。 これを撃破するために、にゃんにゃん各藩国が戦力を出していた。 そこには、中小国である芥辺境藩国の名もあった……。 「これより、作戦会議を始める!」 芥辺境藩国一個中隊に宛がわれた施設の中の作戦会議室。 そこに藩王と摂政、王猫とその娘猫、国民十六名、猫士十一名が顔を揃えていた。 実質的に、現在の芥辺境藩国が動員できる全戦力であった。 正面に立つのは、参謀として出向していた摂政那限逢真である。 「まぁ、ここに集まっている面々は知っていると思うが……。 フィーブル藩国で敵性目標が発見された」 背後にあるスクリーンに、巨大な要塞艦が映る。 ちなみに、藩王荒川真介が偵察部隊に参加してまで手に入れてきたものだ。 「敵性目標は『コマ』。正式名称『アウドムラ』。世界外の要塞艦だ」 ――『アウドムラ』。第四世界で運用されていた要塞艦。 ここに国力のない芥辺境藩国が参戦している理由が全て集約されていた。 かつて、芥辺境藩国は根源種族艦隊に蹂躙されかけた。 用意した防御施設は機能を果たせず、闇星号も役に立たなかった。 だが、世界外からの来訪者――希望号と厳慈号に救われた。 この二機は瞬く間に根源種族艦隊を撃破して去っていった。 結果として、芥辺境藩国は救われた。 しかし、藩王以下の国民はその時の悔しさを忘れてはいなかった。 ――余談だが、摂政那限逢真が闇星号のリベンジに拘っているのもこのせいである。 「参謀本部で立てられた作戦はこうだ。 1:誘導部隊が『アウドムラ』を渓谷に誘導。 2:打撃部隊が足止めを開始。場合によっては、そのまま艦内に突入。制圧戦に移る。 3:渓谷上部に奇襲部隊を配置。打撃部隊の支援及び制圧戦の支援を行う。 なお、誘導部隊はある事情から紅葉国藩王ルウシィ氏貴下の部隊が勤める。 奇襲部隊はオレを含めた整備士と荒川を除くパイロット全員。 打撃部隊は残った国民全員と“長靴を履いた猫”で固める」 会議室が俄かに騒がしくなる。 無理もない。藩王自らが囮になるなど、危険極まりない。 紅葉国は大忙しだろう。 「……あの、俺は?」 「荒川は人員が足りなかった関係で誘導部隊」 「ちょっと待てえぇぇぇぇ!」(×三十) 「仕方ないだろ。うちはアメショーが一機しかないんだから」 「そういう問題じゃないでしょ!?」 会議室は物凄く騒がしくなる。 無理もない。藩王自らが囮になるなど(しかも強制)、危険極まりない。 ……というか、芥辺境藩国も滅亡の危機である。 「静かにしろ」 重々しい声が響く。 芥辺境藩国一の胆力を持つと言われる、王猫コジロー二世だ。 作戦会議室は先ほどとは打ってかわったように静かになる。 「この作戦は、この誘導部隊の活躍如何で成否が決まる。そうだな? 那限よ」 「そうなりますね。 だから、マジックアイテム「猫に小判」を持つルウシィ氏が抜擢されたのですから」 「うむ。ならば、それを護衛する大役を仰せつかったのだ。むしろ誇れ。荒川」 この一言で、全ては決まった。 そして、場面は移る。 北海道のだだっ広い大地を打撃部隊が進んでいる。 大部分の国民は初陣だった。 というか「いつの間にか参加していた」と言うのが正しい。 如月一司も、この戦闘のために召集された新規国民の一人だ。 「あの~、この戦争の相手ってどこの国なんですかね~?」 「なんだそんなことも知らなかったのか?」 その問いに、白河輝が答える。 「オーマさんが言っていただろ? 世界外の物だって」 「今度の相手はとっても大きい要塞艦らしいですよ?」 白河輝の言葉を受けて、霧原涼がおっきい。を身体で表現する。 以外とかわいい仕草だが、こう見えてもれっきとした男の子である。 「てか、そもそもなんで僕達はここに居るんでしょうかね~」 「旧友のよしみだろ?」 今度はSydneyが答える。 彼は藩王の旧友であり、ゲーム仲間であった。 『友を助けよ』 参戦理由としては、何時の世もこれが一番ふさわしいのだろう (そんなもんだよな・・・) 荒川とも那限とも顔見知りである東堂悠司は胸中でそう呟く。 その一方で、肩を落としてメソメソしている者もいる。海堂玲その人だ。 「私は現役ナースのはずなのに~(泣」 銃につけた猫の小物をいじりながら呟く通り、この人物は現役のナースである。 この作戦には従軍医療チームの一人として参加している。 ……現状で一人しかいないものをチームと呼ぶかは不明だが。 「いいんじゃねえの? 吏族みてえな仕事やるよりゃ、戦争やるほうが簡単さ」 そう答えたのは常世知行である。 那限逢真と古い親友であるこの人物は、何故か歩兵銃以外にも細長い袋を持っていた。 「なんなんですか……? その袋?」 「これか? これは……」 「あ、毒キノコ見っけ」 常世が海堂の質問に答える直前、松林ぼたんが足下にあった茸を拾う。 そして、迷う事も躊躇する事もなく口に入れ、咀嚼する。 それをゲラゲラと笑いながら見ているのが、辻斬燕丸だ。 ちなみに、こう見えてもこの二人は優秀なI=Dデザイナーである。 アメショーのデザインコンペにも参加している。 芥辺境藩国のI=Dデザイナーは変人ばかりと噂になっているのも頷ける光景である。 「毒キノコを躊躇なく食べますか?」 「だって、良く噛んで食べないと身体に悪いんだよ?」 「それ以前の問題です! 吐き出して! 吐き出して!!」 慌てて吐き出させようとする海堂。 俄かに慌しくなる芥辺境藩国打撃部隊。 そして、そこに輪をかける事態が発生する。 「せんせ~い、磐上君がもういませ~ん」 一方その頃。 悪視界の中、行軍しているI=D部隊があった。 アウドムラを誘い出すために移動をしていた誘導部隊である。 そんな中、荒川はアメショーの振動に合わせるように呟く。 「思ったより……揺れるし、視界が悪いね」 荒川は乗りなれた自分の搭乗機である姫王号を思い出す。 だが、今荒川が乗っているのは姫王号ではなくアメショーである。 そして、振り返れば見慣れた美少女と美女ではなく、二匹の猫がいた。 片方は言うまでもなく、王猫コジロー二世である。 「そうですね」 「そうだな」 「君達……それ……ばっかり?」 荒川が溜息混じりに尋ねる。 それにコジロー二世がニヤリと笑って答える。 「なんだ? なにか答えて欲しい事があるのか?」 「そういう訳じゃないんだけどね」 「なら聞くな」 荒川は大きく溜息を吐く。 「……まぁ、闇星号の方がいい。何せここは狭い上に遠くが見えん」 磐上が誰にも気付かれる事なく行方不明になり、荒川が一人溜息をついている頃。 奇襲部隊は待ち伏ポイントへ向かって、ひたすら崖を進んでいた。 「吏族の服って動き辛いもんやなぁ」 そう呟いたのは真道犀雅だった。 国民どころか何気に本人も忘れている事だが、彼も華族である。 そのため、彼も吏族としての資格を持っていた。 ……持っていたのだが、この状況下で宮廷服と言うのはどうかと思う。 「吏族だからね!」 「吏族だからね!(パクリ)」 真道の呟きに同時に答える双海環とゲドー。 ちなみに、この二人は芥辺境藩国の名物吏族である。 特に双海の「吏族だからね!」と言う決め台詞と決めポーズは子供に大人気であった。 「なかなか進みませんね」 遅れて呟いたのは大車座である。 何気に、この人物は行方不明になる可能性が誰よりも高かった。 人見知りもここまで来れば特殊技能だろう? と言われるほどであった。 そして、今度は行方不明にならないように手綱が付けられていた。 そこはかとなく人権無視である。 「あ、青鷺さんだ~! キレイな花も咲いてる!」 「げ! ここ圏外?(ケータイを見ながら)」 ほぼ同時に声をあげる八岐颱梦と荒ポン。 八岐颱梦はこの動員に合わせて編入された新国民。 一説にはロジャー好きと言う噂があり、何気に摂政からは脱藩の心配をされている。 対して、荒ポンは元々別の藩国民である。 元いた藩国が解体してしまい、行く当てがなかった所で藩王が拾ってきた人物だ。 どうでもいいがこの二人、崖を登りながらこういう行動を取れる当たり余裕である。 「こら、お前らちゃんと前を向け!」 声を荒げて歩露が注意した時だった。 「あ。お供え物みっけ」 大車座が供えてあった貢物をつかんで食べてしまったのだ。 なんでこんな場所にお供え物が? とは思わないように。 世の中不思議な事の方が多いのだ。 そして、天罰は可及的速やかに行われた。 大車座は、崖から落ちた。 ……余談だが、ちょうど同じ時、松林ぼたんが毒キノコを食べて騒ぎになっていた。 「これが終わればテストパイロット。これが終わればテストパイロット……」 一人呪詛のように呟く。最近忙しくて仕方がない。 テストパイロットで出撃したと思えば、今度は戦闘出撃。 更にはアメショーが局地対応していない事が分かり、局地対応しなくてはいけない。 ……なんで帰った後の事まで心配しなくてはいけないのか。 「逢真ぁ~? 敵見えた?」 横から双眼鏡で周囲を索敵するサヨコが尋ねてくる。 あまりに進行速度が遅いので、一足先に二人で斥候に出ていたのだ。 狙撃銃のスコープには、小さくアウドムラが映っていた。 「ああ。見えてる。射程外もいいところだがな」 狙撃銃のスコープから目を離して周囲を窺う。 辺りに到着している部隊は一つしかなく、斥候と思われる人が数人いるだけだ。 早い話、展開がどの部隊も間に合わなかったのだ。 足止めしたらしい痕跡が無いのを見ると、打撃部隊も間に合わなかったらしい。 「全く何をやっているんだろうねぇ……」 遠くの空を見て呟く。 天候はあまり良くないが、今はそれがありがたかった。 晴れていると照り返しが厳しいからだ。蜃気楼も面倒臭い。 「雪国行きたいなぁ……」 (北海道なのに砂漠が広がっているってどうよ? あるのはやっぱり、雪で埋もれた銀世界でなきゃなぁ……。 ……あれ? 考えたら砂漠の月夜も銀世界だよな。見た目は アレはアレで綺麗でいいよな。うん。今度散歩に行こう) などと思いながら現実逃避しているとサヨコが再び尋ねてくる。 「……ね~。逢真。『猫に小判』ってアイテムはどんな効果があるの?」 「ん? 『猫に小判』? 確か『敵の集中砲火を受ける』だったはずだが?」 「……なんか、帰ってきたよ?」 慌てて狙撃銃のスコープを覗く。 そこにはちょうど砲撃を開始するアウドムラが映っていた。 誘導部隊の面々は要塞艦の後姿を見ていた。 苦々しく呟く荒川。 「やっぱり遅れた」 「そうですね」 「そうだな」 「……くそっ」 荒川はがっくりと肩を落とす……が。 先ほどまで小さかったアウドムラが、徐々に大きくなっていく。 そして、大地が爆発する。 「……と思ったら帰ってきた!! その上撃ってきた!!」 「そうですね」 「そうだな」 素早く転進を開始する友軍機を見て、荒川は気を引き締める。 そして、普段のギャグに満ちた顔は影を潜める。 そこにあるのは、歴戦の戦士にして芥辺境藩国の藩王の顔だった。 紅葉国藩王ルウシィの乗るアメショーを護るように移動しつつ指示を出す。 「各部隊に伝令。足で引っ掻き回しながらそちらに誘導する!」 「……さぁ、戦争の始まりだ」 そして、誘導部隊は見事にその役割を終える。 いや、予想以上の働きをしたと言えるだろう。 あと一歩で海を渡られる所まで進行されていたのを、本来の戦場まで引き戻したのだ。 それによって稼がれた時間は、部隊が展開するには充分な時間だった。 「誘導を終えた、もうそろそろ……」 荒川からの通信が突如ノイズに掻き消される。 通信妨害ではなく、通信途絶。 通信機を持っていた東堂が青くなって空を見上げる。 そこには見上げるまでもなく視界に入る、巨大な要塞艦があった。 そして、砲口に光がともる。 「伏せろ!」 東堂が叫ぶと同時にアウドムラからの砲撃が始まる。 慌てて伏せる打撃部隊を護るようにアメショーが展開し、支援射撃を開始する。 周囲を窺えば、他の打撃部隊も戦闘を開始していた。 既に先陣を切って突撃している部隊もある。 「ひえ~~~」 「げらげら(大笑い)」 如月と辻斬の悲鳴と哄笑と銃声と炸裂音が響く中、常世は袋の口を開いて呟く。 「戦闘開始の合図だな!」 その言葉に東堂は頷くと声をあげる。 「みんな、行くぞ!」 艦内から複数の小型無人機が続々と出撃してきていた。 全員が神妙な顔で頷いたその時、霧原が手を上げて発言する。 「せんせ~い、磐上君がもう戦ってます」 「……なんだって!!」(×十九) 一方その頃。 奇襲部隊も展開を完了し、必殺のタイミングを計っていた。 横では首がむち打ち症になって苦しむ大車座がいた。 行方不明防止のための手綱が命綱になったのだ。 むしろ、むち打ち症だけですんだのが僥倖と言えるだろう。 「死ななかっただけマシでしょう」 「そうそう」 歩露の言葉に八岐が頷く。 それに双海とゲドーが続く。止めは荒ポンだ。 「拾い食いはダメですよ!」 「お供え物はちゃんと別にあるでしょう」 「いや、それ違うから」 奇襲のために隠れているとは思えない会話に苦笑しつつ、真道は移動する。 少し離れた所で狙撃銃を構えるもう一人の摂政の元まで移動すると小さく声をかける。 「どうや? 状況は?」 「通信から聞こえる情報を統合するに、徐々にではあるが接近しているみたいだな」 「相変わらず難しい言い方やなぁ。もう少し噛み砕いて言えんのかい」 真道の台詞に苦笑する。 「性分みたいなもんだよ。我慢してくれ」 「まぁ、それはいいんやけどな」 そこで一度、間を空けると呟く。 「……わいら、あんなん相手にして勝てるんやろか?」 「……まぁ、単独では勝ち目無いわな。聖銃でもない限り」 真道の呟きに真顔で答える。 藩王にしろ摂政にしろ、国民の前で胸中の不安を語ることは少ない。 上に立つものの不安は下にも伝わるからだ。 真道の不安はわからなくもない。 なまじ、アウドムラの情報を識っている分、楽観視もできなかった。 アメショーは悪い機体ではないが火力が強くない。かと言って他は歩兵ばかりだ。 「まぁ……みんなを信じるしかないな。根源種族艦隊の時よりは分が良い」 「……そうやな」 「頼りにしてるぜ。槍使い」 そして、また口を紡ぐ。 本当に言いたい事を言えない。そんな雰囲気だった。 「藩王は……荒川は無事やろか?」 突如として起こった荒川からの通信途絶。 手持ちでレーダーがあるわけでもないから、機体の存在は確認できない。 単なる通信機器の故障かもしれない。 だが、もしかしたら……。 「まぁ……少なくとも、オレの知っている荒川はこの程度じゃ死なないさ」 「……そうやな。あの藩王が簡単にくたばるはずないわな」 そう呟いた時、通信が入る。攻撃開始のタイミング合わせだった。 こちらが狙っていたタイミングとほぼ一致する。 「全員、時間合わせ。三十秒後に一斉射撃する」 先ほどまで暢気な会話をしていた一同の顔が引き締まる。 三十秒後、渓谷上部から烈火の如き砲撃が開始された。 渓谷上から奇襲部隊によるアウドムラへの砲撃が始まる。 それにより打撃部隊への攻撃が散漫となり、打撃部隊はジリジリと接近していた。 それを阻むかのように小型無人機が防衛線を敷いていた。 だが、それでもなお戦況は徐々に優勢に傾きつつあった。 「借りパクされた(してる)ソフトが帰ってくるまでわぁ!」 Sydneyが敵の弾幕を回避しつつ射撃を行う。 そのうちの一発が小型無人機のセンサー部分を貫き、爆発する。 それを見てか、小型無人機の攻撃が集中する。 「こんなもの! 式神の城2の弾幕に比べればぁ!!」 訳のわからない事を叫びつつも全ての弾丸を避けきってみせる。 が、その周囲にいたメンバーは堪ったものではなかった。 流れ弾が雨霰のように降り注ぐ。 「も~!なんでこんなことにぃ」 「生きて帰りたいなら、ぼさっとしない!」 松林が銃撃しながら海堂の手を引く。 この二人、先ほどの毒キノコ事件から妙に気が合うようになっていた。 松林の弾幕を強引に突き破りつつ一機の小型無人機が接近する。 回避は、間に合わない。 「そうだ」 そこに割り込むように常世が飛び込む。 そして、歩兵銃を投げ捨てると後ろ腰に差していた袋から得物を抜く。 小型無人機と常世が一瞬だけ交差する。 その直後、小型無人機は両断されて爆発する。 「に……日本刀?」 「野太刀だ」 腰の抜けた海堂の呆れた声に律儀に答えつつ、飛び掛ってきた小型無人機を叩き伏せる。 「油断なんてできないぞ」 そう呟く常世の背後に迫る小型無人機が爆発する。 振り返れば、白河が歩兵銃を構えたまま立っていた。 「そういうことだ」 その白河に迫る小型無人機を、今度は東堂が撃ち落す。 この二人、自覚はないが打撃部隊では撃墜数で一・二を争っていた。 「早く遮蔽物に隠れろ!!」 牽制射撃で小型無人機を追い散らした東堂の言葉に、一同は慌てて移動する。 次の瞬間、小型無人機の放ったミサイルが着弾、爆発する。 活躍している面々がいるその一方で、ひたすら逃げ回っている者もいた。 ……いや、敵を引き付けていると言う面では活躍していると言えなくもないが。 「ひ~!」 「げらげら(大笑い)」 如月と辻斬だった。 必死に逃げる二人の目の前から磐上が現れる。 助かったか? と思ったその瞬間、小型無人機の大軍が続いて現れる。 その数、倍以上。 どうも敵を引き付けていたらしい。……半分は偶然だが。 一行、九十度曲がると合流。再び逃走を開始する。 「磐上! 凄いな、それ!(大笑い)」 「なんでこうなったんだぁ!!(引き攣り笑い)」 「うあはははは!(泣き笑い)」 辻斬、磐上、如月。三者三様の笑みを浮かべた逃走劇はまだまだ続きそうであった。 奇襲部隊は奇襲部隊で大騒ぎであった。 こちらはアウドムラの砲撃こそ少ないものの、小型無人機がより多く飛び回っていた。 「てぁりゃぁ!!」 裂帛の気合とともに繰り出された拳が小型無人機を破砕する。 繰り出したのは八岐であった。ちなみに、三機目だ。 「……オーマさん以外でファンタジーな人がいるなんて……」 そう呟いたのは歩露であった。 まぁ、気持ちはわからなくないが。 パンチ一発で小型無人機を叩き落したわけだ。ある意味ファンタジーだろう。 「そんなことないですよ? 空手やってただけですから」 「既に空手じゃないし」 歩露のツッコミに頷く大車座。 そして、首の痛みにのた打ち回る。 「吏族だからね!」 「双海さん。吏族関係ないですから」 決めポーズを決める双海にゲドーの間髪入れないツッコミが入る。 ちなみに、この二人何故か敵の攻撃が当たらない。 双海が決めポーズをした時には何故か銃撃が止むのだ。 『ヒーローの決めポーズ中は攻撃してはいけないルール』でも適用されたのだろうか? ちなみに、ゲドーがやると逆に攻撃が集中する。 その度にゲドーはクネクネと妙な動きをしながら弾を避ける。 ……あえて、深く突っ込まないように。 ただ、二人同時にやると、戦隊ものの効果か銃撃停止時間が長い。 もっとも、攻撃は止むが照準はされたままなので緊急回避以外に使えないのだが。 「おのれら、遊んでないで戦わんかい!」 真道が愛用品の槍を振り回しつつ叫ぶ。 槍で小型無人機を貫き、その残骸を無事な機体に投げつけて体勢を崩させ、また貫く。 それを繰り返す真道もファンタジーと言えばファンタジーであった。 「当たんないんですよ~。I=Dに乗れればいいのに」 「気持ちはわからんでもないが、ないもんねだりは止めとけや」 荒ポンの呟きに答えつつ槍振るう。 間合いの広い槍の射程に入ってきた小型無人機を薙ぎ払って破壊する。 ちなみに、荒ポンは始めから小型無人機は狙っていなかった。 持っているのは無反動砲であり、荒ポンはアウドムラを狙い打ち続けていた。 砲撃してこようとする砲台を率先して叩き、そこに追い討ちをかける。 そして、真道はその露払いをしている、という状況であった。 拳と槍を警戒して距離を取り始める小型無人機を銃弾が貫く。 接近されると戦いにくい狙撃銃使いとしてはありがたい限りだ。 「……逢真、流石だね~。これで七つ目だよ?」 「そうだっけ? 殺った数なんて一々覚えてないからな……っと」 サヨコに返答しながら、隙を見せた一機に銃弾を叩き込む。 「浅いか」 そう呟くと後ろ腰から投げナイフを取り出し、投げつける。 命中したと同時に爆発する。 「特性の爆弾付き投剣……ちょっと威力ありすぎかな?」 「何時こんなの作ってたのよ?」 先ほどまで続いていたアウドムラからの砲撃がピタリと止む。 同時に、あたりを飛び回っていた小型無人機も大地に落ちる。 「……と……とまったぁ……」 どうにかこうにか味方の陣地まで逃げ延びた如月がへたり込む。 その傍らには同じくへたり込んだ磐上と辻斬もいる。 辻斬にいたっては、息切れしている状態で笑おうとするため、痙攣をおこしていた。 「何かあったのか?」 「わからん」 「これで終わって欲しいですよ~。もう弾が無いです」 物陰に身を潜めつつ白河と東堂が小声で話す。 涙ながらに呟く霧原の言葉に、二人も慌てて残弾を調べる。 「あと、マガジン二つ。そっちは?」 「今つけてるので最後だ。手榴弾はまだ残ってる」 その逆に、遮蔽物も何もないところで騒いでいる者もいた。 Sydneyである。 「攻撃が止んだ? ボスか? ボス戦か!? まだまだボムはあるぞ、コンチクショウ!」 「落ち着け(鞘で叩く)」 「ぬぁ! ライフが、ライフがぁぁぁ!!」 式神の城張りに攻撃を避け続けた代償でハイテンションボーナス症候群になったようだ。 常世のツッコミですら止まらない状況になっていた。 「えい♪」 海堂がSydneyの頭を掴み、捻る。 ゴキッとボキャッの中間くらいの音をさせて、Sydneyは静かになる。 「うわぁ。凄いね~」 「麻酔がない時はこれが一番です」 松林の言葉に、にっこりと笑みを返しつつ海堂が答える。 倒れたSydneyと相まって、かなりシュールだ。 その光景を、あえて視界に入れないようにしつつ常世は呟いた。 「奇襲部隊の方は無事かな……」 ちょうど常世が周辺を警戒しつつ一人呟いた頃。 奇襲部隊の面々は構えたままの武器を少し下ろしていた。 「終わり……ですかね?」 ゲドーの言葉に答えるものはなく、静寂が辺りを包む。 更にしばらくして、真道が呟く。 「そう、みたいやな……」 真道のその言葉に、全員の緊張が一気に途切れる。 大きく溜息を吐き、安堵に身を浸せる。 最初に声を発したのは八岐だった。 「あ~、怖かったぁ」 「ほんまやなぁ。えらい恐かったわ」 「……あれだけファンタジーを振りまいておいて、何を言っているんですか」 八岐と真道の台詞にツッコミを入れる歩露だったが、当然のようにスルーされる。 「被害の方は?」 「猫士さんたちの報告待ちです……」 いつものように“仕事”が終わった後の被害報告を尋ねる。 普段ならサヨコが勝手に持ってくるのだが、今日は足下でへばっていた。 「平気か? お前」 「……逢真、いつも思うけど、体力ありすぎじゃない?」 「そうか? 走りこみ以外に特に訓練はしてないが……」 「あ、来たようですね」 そんな風にサヨコと話していると、伝令役らしい猫士がやってくる。 双海が猫士が持っている書類を受け取る。 見慣れた服装からして“長靴を履いた猫”の一人であろう。 一瞬目が合うと、ペコリとお辞儀する。 「……」 「どうしました?」 書類を見たまま絶句している双海に大車座が尋ねる。 反応がないので後ろから書類を覗き込んで、大車座も絶句して固まる。 「どうかしたの?」 「荒川の身に何かあったのか?」 訝しげにサヨコとともに尋ねると、双海は驚愕を顔に貼り付けさせたまま報告する。 「いえ、奇跡としかいえません。し、死傷者0人です」 そして、その後小さく付け加える 「……全軍で」 「それって……」 荒ポンの言葉を最後に、辺りに静寂が満ちる。 そして、それは歓喜の叫びで打ち消される。 死傷者なしでアウドムラ沈黙。 アウドムラの性能を省みれば、奇跡と言ってもおかしくない結果であった。 そんな中、異変に最初に気がついたのは荒ポンだった。 「ちょっと、戦艦の様子がおかしいですよ」 先ほどまでの歓喜は静寂に変わり、全員がアウドムラの方向を向く。 アウドムラが怪しい微震を繰り返していた。 その光景に全員がある結論に行き着く。 「まさか、自爆そう……」 「総員退避!!」 一方その頃。 誘導部隊の面々は被弾してボロボロのアメショーから出て渓谷を見ていた。 アウドムラは火薬庫に火が回ったのか、発行物体を打ち上げつつ大地に落ちる。 その光景を荒川は頭の無くなったアメショーのコクピットから見ていた。 「花火のようだね」 「そうですね」 「そうだな」 「あぅ……」 戦闘中と全く変わらない返答に脱力する。 しばらく、発光物体打ち上げるアウドムラを眺め、満足気に呟く。 「そうだね……」 「そうですね」 「そうだな」