薔薇の騎士(ナイト)は斯く語りき
「静かだな……」
木々のざわめき。吹き抜ける風。そのようなものは、ただ静寂を際立たせるだけに過ぎない。
その静けさの中、私ことマシュマー・セロは一人考え事をしていた。
無論、私とて自分の役目たる見張り役を怠っているわけではない。
ネオジオンの騎士たる者、任された役目は名誉にかけて全うしてみせる。
しかし、宇宙育ちの私にとってこの森も川も全てが馴染み薄いものばかりで、若干ナイーブになっていないでもない。
その上、この戦争ゲームだ。
(こやつらがいなければ、この私とて殺し合いに乗っていたのだろうな)
ミオ・サスガ。ハヤミブンタ。
今、私が行動を共にする者たちだ。
ふざけた事ばかりを言っているが内に芯の通ったミオ。
生真面目で他人への気配りを忘れないブンタ。
戦力として計算するにはいささか心もとないが、この二人には正直助けられている。
勿論、本人達を前にして言うつもりなどないが。騎士のプライドが許さん。
今から溯ること十時間。
食事の後、私はブンタにネオジオン流のモビルアーマーの扱い方をきっちり手解きした。
ブンタは思いのほか飲み込みが早く、最終的には若干優雅さに欠けるものの一通りの動きをマスターした。
私の教え方が良かったのだろうが、この状況であれだけ動かせれば随分助かる。
それにそのモビルアーマー(ドッゴーラというらしい)が宇宙世紀の技術で造られているのも幸いだった。
ただ私のいた時代とは比べ物にならない出力だったが、もしかしたら未来の宇宙世紀で開発された機体かもしれない。
時間や空間を越えてこの私を含む参加者を集めた男。ユーゼス・ゴッツォ、奴は一体何者なのだろうか。
その疑問をわが胸へと押し込め、次に私達がしたのは見張りの順番決めだった。
「じゃあ、初めがブンちゃん、二番目が私、最後がマシュマーさんね」
「了解だ」
「分かりました。では私はこのまま見張りをしますので、皆さんはお休みになってください」
「は~い。……そうだマシュマーさん、私が寝てるからってヘンなことしちゃ駄目よ?」
「誰がするか」
「え~、だって男はみんな夜は狼なのよって言うしぃ」
「ネオジオンの騎士たる者、そんな破廉恥な真似などせん!」
「あっ、ていうことはブンちゃん!? おとなしそうな顔してるから大丈夫だと信じてたのに!」
「え、ええっ!?」
「おい、ミオ・サスガ」
「ああ、うら若き乙女の純潔はこんなところで儚く散らされてしまうのね、しくしく」
「ななな何を言ってるんですかミオさん、僕がそんなことするわけ」
「落ち着けブンタ。泥沼に嵌っているぞ」
……結局、いつも通りの展開になってしまったが。
そして今。
幸いにも、空が白み始めるまで襲撃など一度も無かった。
たとえゲームに乗っている者でも、放送を聞き逃すリスクを背負ってまで攻撃してくるとは思えん。暫くは安全だ。
「ふあぁ、おはようございますマシュマーさん」
「ハヤミブンタか、早いな。ミオはどうした?」
「まだぐっすり寝てるみたいですね。起こします?」
「そうしてくれ。あと三十分で次の放送が始まる」
「分かりました。ほらミオさん朝ですよ、起きてください」
「むにゃむにゃ……もう食べられない」
「そんな古典的な寝言はいいですから、起きてくださいよ」
「ふっ……」
思わず笑っていた自分に驚く。宇宙にいた頃の自分には、こんな余裕は無かったはずだが。
やはり、あの二人のおかげなのだろうか。
しかしいくら操縦訓練をしたとしても、あの二人は所詮は素人だ。歴戦の戦士であるこの私になどとても及ばん。
つまり、この戦場であの二人を導いてやれるのはこの私だけだという事だ。
このネッサーの性能ではいささか不安だが、やるしかあるまい。私とてあの二人の最期など看取りたくはない。
私は、軍服の胸から外した赤い薔薇を眺めた。
これは我が敬愛するハマーン様から賜ったものだ。瑞々しさを失わぬよう、表面をコーティング処理してある。
(ハマーン様はご無事だろうか)
いくら異なる世界から集められたとはいえ、美しく凛々しくニュータイプの素養もあるハマーン様に勝てる者がいるとは思えん。
ハマーン様のことだ、それどころか他の参加者たちを率いて戦っておられるに違いない。
ならば、この私がすべき事は一つ。
「お待ちくださいハマーン様。マシュマー・セロ、この二人を連れて一刻も早くハマーン様の下へ馳せ参じます」
決意と共に薔薇をまた胸に挿す。それと共に体中に活力が漲るのを感じた。
新たな日が始まる。
【マシュマー・セロ 支給機体:魚竜ネッサー(大空魔竜ガイキング)
機体状況:良好
パイロット状態:良好(強化による不安定さは無くなった)
現在位置:B-5
第一行動方針:ハマーンと仲間を探す
最終行動方針:ハマーンを守り、主催者を打倒する】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:B-5
第一行動方針:仲間を探す
最終行動方針:主催者を打倒する】
【ハヤミブンタ 支給機体:ドッゴーラ(Vガンダム)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:B-5水中
第一行動方針:仲間を探す
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【二日目 5:30】
最終更新:2025年01月13日 12:34