それぞれの仲間の絆と事情(前編)


既に日は暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。
「異常なし、か……」
廃墟のビル街に立つガンダム。
付近の見張りを続けながら、ジョシュアは一人考えていた。
このバトルロワイアルが行われた、その意味について。
――ユーゼス・ゴッツォは、何故こんなゲームを開催したのか?
この殺し合いにどんな意味がある?
ただの娯楽?自分達の憎みあい、殺しあう姿を見て、ただ楽しむためだけにこんな馬鹿げたゲームを開いたのか?
しかし次元を歪めあらゆる時空に干渉して、これだけの世界を作り出して……
そこまでしての行為の目的が、ただの愉悦のためだけなのだろうか……
それでは納得がいかなかった。
このバトルロワイアルを行うことで、奴が得られる利益があるはずだ。
それは何だ?……ここで一人考えた所で、わかるはずもない。
今は自分達にできることをするしかない。
だが……その自分達にできることとは、何だ?
首輪の解除。ヘルモーズのバリアの解除。脱出方法の模索。
やることは山積みだ。にも拘らず、そのどれもが全く目処が立っていない。
情報があまりにも少なすぎる。情報だけではない、戦力的にもそうだ。
こちらの戦力は戦闘力が高いとはいえない妖精型ロボットが2機……しかも損傷付きだ。
それと、車が一台。戦力と呼ぶにもおこがましい。
まともに戦えそうなのは自分の乗るガンダム一機だけと言っていい。
それもビームサーベルくらいしか満足な武器がない、装甲が取り得の、核バズーカ一点豪華主義と来た。
あまりにも心許ない。ここに強力なマーダーが強襲でもしてきたら、ひとたまりもないだろう。
今、イングラムの乗っていた機体を使用できるか、イキマとトウマが調べているが……損傷具合から期待できそうにはない。
ユーゼスに抗うには、何もかもがあまりに足りない。
(どうしたものか……)
とにかく、いつまでもここにいても仕方がない。何をするにしても、行動を起こさねば始まらない。
イキマとトウマの二人が戻り次第、出発したいところではあるのだが。
振り返る。その方向にあるのは、傷ついた妖精、フェアリオンの姿。
先程から、リュウセイはあの機体のコクピットに篭もりっぱなしだ。
そして、そんなフェアリオンの傍にはブライサンダーも停車している。
クォヴレー……彼のことも気がかりだった。
(大丈夫か、二人とも……)



時間は、第三回の放送直後まで遡る。
放送が終わると同時に、その場に鈍い音が響く。
「リュウセイ……?」
地面に叩きつけられた、リュウセイの拳。握り締めたその拳からは、爪が皮膚を裂き血を溢れさせている。
彼の瞳に灯っているのは、激しい怒りと憎しみの炎。
「あの野郎……あの野郎、ふざけやがって……」
その表情は、かつて見せたことがないほどに、怒りで歪んでいた。
おもむろに立ち上がり、その憎悪を隠すこともなく言う。
「ヘルモーズへ行く……あいつだけは……この手で、ぶっ殺してやる……!!」
ユーゼスの挑発に、リュウセイは完全にキレていた。
そんな彼を、ジョシュアは諭そうとする。
「……落ち着けリュウセイ。気持ちはわかるが、今あの戦艦に行ったところで、俺達にはなす術がない」
「……」
「奴を倒すための力を蓄えるためにも、今は……」
「うるせぇっ!!いつまでもこんなとこでチンタラしてられるかよ!!」
リュウセイはその感情をぶち撒けた。怒りは、彼から冷静さを完全に奪い取っていた。
「リュウセイ!」
「あの野郎だけは絶対に許せねぇ……例え刺し違えることになっても、あいつだけは……」
そこまで喋って……再び、鈍い音が鳴り響いた。
「……ッ!?」
「……いい加減にしろ」
拳を握り締め、ジョシュアが言う。その拳は、リュウセイへと向けられていた。
「ジョシュア……?」
「あの男の遺志を継ぐために、できることから始めると言ったのはお前だ……
 死に急ぐことがお前の教官の望んだことか!そうじゃないだろう、そうじゃ……!!」
その目は、リュウセイの目を真っ直ぐに射抜く。
ばつが悪くなり、リュウセイはその目を逸らした。
「お前に……お前に何がわかるってんだよ、くそっ!!」
そう言うとリュウセイは背を向け、そのままフェアリオンのほうへと走っていった。
「おいリュウセイ、待てよ!」
「待てトウマ……」
追いかけようとするトウマを、イキマが引き止める。
「今は下手に刺激しないほうがいい」
「でも……」
「俺が行こう。あいつが暴走しないよう、見ている者が必要だろう」
先程から沈黙を保っていたクォヴレーが、口を開いた。
「わかった……頼む」

「けど……お前も大丈夫かよ……?」
「何?」
「いや……さっきから、なんか思いつめているような感じでさ……」
トウマが心配そうに声をかける。
リュウセイからイングラムとバルマー戦役の話を聞かされ、その後放送を聴いて……
それから、クォヴレーもまた少しだけ様子がおかしかった。
「……心配ない。リュウセイよりは、冷静なつもりだ」
そう言って、クォヴレーはリュウセイを追った。そんな彼に……トウマは、どこかぎこちなさを感じたような気がした。
「……ほんとに大丈夫か、あいつ?」
「あいつも混乱しているんだろ。しばらく、一人にさせておいたほうがいい」
ジョシュアは言う。リュウセイにしろクォヴレーにしろ、今の状態のまま行動するのは危険だ。
憎悪に囚われた心が、自分に対する迷いが、時として致命傷になりかねない。
「わかった……けど、俺達はいつまでこうしてりゃいいんだ」
トウマもまた、その歯痒さに感情を昂らせていた。
今すぐにでも、あの外道・ユーゼスの所まで乗り込んで、蹴り飛ばしてやりたい。
「俺達はいつまで、あいつの手の上で踊っていればいい!?」
「急いた所で何も始まらん。言っただろう、今は出来ることから始めると」
「そりゃそうだけど……具体的に何から始めたらいいんだ」
「ならば、あの巨人の調査というのはどうだ?何か情報を引き出せるかもしれん」
イキマが提案した。
結局、リュウセイ達の頭が冷えるまで、この島に留まる羽目になりそうだ。
ならばその案は悪くはない。どうせ、他にできることなどないのだから。
「何なら、俺も手伝うぞ。もし戦力として機能できるなら儲け物だ」
「そうだな……俺は見張りをしている、行ってきたらどうだ」
ジョシュアもその案に同意した。
そんな二人を見て、トウマは巨人の調査のもう一つの目的を察した。
「……わかったよ。あんた、顔に似合わず気が利くんだな」
「……何?」
「いい奴だってことだよ。じゃ、そうと決まれば、先に行ってるぜ!」
トウマはメガデウスのほうへと駆けていった。
「全く……あいつまでお前と同じようなことを言うな、ジョシュア?」
「いいんじゃないか?お前の提案、トウマの気を紛らわせるためでもあったんだろ?」
「……考えすぎだ、くだらん」
イキマは一言そう言うと、トウマの後を追いメガデウスへと向かった。そんな彼らを見ながら、ジョシュアに微笑が浮かぶ。



「……エルマ、アル、戻るわよ。もう、この島に用は無いわ」
<ラージャ>
「えっ? も、戻るって、セレーナさん……」
第三回放送を聞き終え、暫しの沈黙の後。
セレーナの口から出た言葉に、エルマは戸惑う。
既に小島への潮は引き、浅瀬を使ってわたることはできる。しかし……
「イングラムはもういない。今の放送でわかったでしょ。そうなれば、あの島に向かう意味は無いわ」
「セレーナさん……」
今探していた人物の名が。そして以前出会った少女の名が。放送で読み上げられた死者リストの中にあった。
彼らを殺した相手を探し倒すか、ゲームを潰す手段を模索するか。
いずれにせよ、ここで足踏みしている暇はない。でなければ……悲劇がまた繰り返される。
(あんた達の無念は……必ず晴らして見せる)
イングラムもまた、彼女にとって背中を預けることが出来たかもしれない「仲間」だった。
リオも同じだ。もしこんな世界などでなく、違う形で出会っていれば、あるいは……
そんな彼らの死に、平静でいられるほどセレーナは冷徹な人間ではない。
「……出発するわよ」
<ラージャ>
「はい……アル?どうかしましたか?」
<いえ、問題ありません。行きましょう>
気のせいだろうか――エルマにはアルの言葉がどこか寂しげに聞こえた。
それは、彼の前の――本来のマスターの名が、放送で呼ばれたせいか。

彼女が出発しようとした矢先――
<マスター、10時方向上空より機影が接近中です>
「!!」
何かが、物凄いスピードでこちらへと飛んでくる。
2本の角に、悪魔のような顔。それは、鬼を彷彿とさせる機体。
(あれは……?)
右手両足はなく、遠目にも全身の装甲は大破寸前のボロボロだとわかる。
だが……その手負いの鬼を見て、何故だかセレーナの背筋に寒気が走った。
計り知れない威圧感。傷つきながら、まるで失われていない闘志。
鬼は、ECSが発動しているアーバレストに気付くことなく、そのまま島のほうへと飛び去っていった。
(あいつ……何なの?)
ひどく嫌な予感がする。
根拠はない。ただ直感的に、あれは危険だと自分の勘が告げていた。
「エルマ、アル。やっぱりこのまま島へ向かうわ。……アイツを追跡するわよ」
<ラージャ>
「え?は、はい……」
あの鬼の機体を放置してはおけない。
そう判断したセレーナはECSを解除すると、小島への浅瀬を渡っていった。



「やっぱり、どうやってもダメか」
メガデウスの操縦席から降り、トウマは言う。
ここまで壊れているのではどうにもならない。この巨人の修理をするには、せめて専門の知識や部品がなければ無理だろう。
「だが、得られた情報は大きい、と言えるんじゃないか」
「そうだな……空間操作装置、か……」
メガデウスの中にあったデータから引き出せた情報。
それはイングラムの調査した、空間操作装置の存在。
これを探し出し、破壊することで……あのヘルモーズのバリアを破ることが出来るかもしれない。
バリアさえなければ、切り札である核も通用するはずだ。
それだけではない。これをどうにかすることで、この空間からの脱出も可能なのではないか。
あるいは、ユーゼスの所に直接乗り込むことも……?
とにかく、当面の目的が出来た。これを見つけ出し、壊す。
脱出、及びユーゼスの打倒の目処がついたと言えるかもしれない。
……それでも実際は、首輪の爆弾をなんとかしなくては手も出せないわけではあるが。
「ジョシュア達の所に戻るぞ。この情報をもとに、今後の方針を決定しなければならん」
「あ、先に行っててくれないか。この近くにワルキューレが転がってると思うんだ」
ワルキューレ。以前この島に来た時、乗り捨てていったトウマの支給機体……と言うより、ただのバイクである。
ちょうどここは、それを乗り捨てた場所……トウマ達とイキマ達の出遭った場所から近かった。
あれを見つければ……戦力にはならないが、足として、何かの役には立つはずだ。例えば、連絡役であるとか。
いつまでも、何もせずクォヴレーの車に乗せてもらっているわけにはいかない。
「そうか……この辺りだったな」
ここでワルキューレを乗り捨てるきっかけとなった事件を思い出す。それは、彼らが初めて出遭った時。
「ほんと、あの時は悪かった……頭に血が上っちまって、あんたの話を聞こうともせず……」
「その話はもう気にするなと言ったぞ」
「そういえば、礼を言ってなかったな……ありがとう。アルマナの最期を……看取ってくれて」
アルマナの最期――それを思い出すたびに、イキマは後悔の念に苛まれる。
「いや……俺があの時もっと早く駆けつけていれば、彼女も殺されることはなかっただろうに……」
「アルマナを殺した奴は、一体……?」
一瞬返答に悩んだが、イキマは答える。
「……顔の右半分を覆う銀の仮面をした、黒い長髪の男だ。
 名前はわからん。今まだ生きているか、それとももう死んでいるのかすらな」
「そうか……」
「だが忘れるなよ。俺達の本当の敵は……」
「ああ、わかってる。復讐に飲まれたら、それこそユーゼスの思う壺だ。
 ……それに、アルマナもそんなこと望まないだろうしな」
強い男だな。イキマはそう思った。こうした部分もまた、人間の強さということか。
「しかし、派手に破壊されてるな……壊れてなきゃいいんだけど」
見渡してみると、近辺の廃墟はさらに荒れ、その光景は四半日前から変わり果てていた。
イングラムとラミアの戦闘がこの付近であったせいか。
この惨状では、イキマの作った古墳も原形を留めてはいないだろう。
「俺も捜すのを手伝おうか」
「いや、俺だけで大丈夫だ。あの空間操作装置の情報を、少しでも早くみんなに知らせてほしいし……
 それに、今敵に襲ってこられたら、まともに戦えるのはあんたとジョシュアだけだしな」
「わかった。早く見つけて、戻ってこいよ」

俺の中に存在する、この感覚は何だ?
このバトルロワイアルにおいて、俺は何人かの人間と接触してきた。
アルマナ、ジョシュア……そしてトウマを始め、イングラムという男の遺志のもとに集まった者達。
彼らと接することは……何故だか、悪くない気分だった。不謹慎な話だが、心地よさすら感じていたかもしれん。
もちろん、辛く悲しい出来事も多かった。その中で、人間の醜さ、そして脆さや哀しさもまた同時に目の当たりにしてきた。
許せないことも多かった。だが、そうした面もまた人間なのだ。そして、そんな黒い部分も含めて……
俺は人間という生き物に情が沸いてきている。
「お前ってさ、顔は悪役だけど意外といいやつだろ」
「あんた、顔に似合わず気が利くんだな……いい奴ってことだよ」
……違う。俺はそんなものじゃない。
俺は……人類の敵だ。お前達にとって敵。悪と呼べる存在なんだ。
邪魔大王国復活のため、数え切れないほどの人間を殺してきた、悪党に過ぎない。
ヒミカ様のために、何一つ躊躇うことなく虐殺を繰り返してきた。そこに罪悪感など何も持ち得なかった。
……だが、今の俺は何だ?敵である人間どもと馴れ合うなどと……
……この戦いを終えて、元の世界に帰った時……
俺は戦えるのか。
邪魔大王国のために、以前のように躊躇いなく人間を殺せるのか。
言い訳ならできる。ここにいる連中は、皆別の世界の人間達だ。俺の世界の人間どもとは別の存在なのだ。
鋼鉄ジーグ亡き今、自分達の世界の征服などたやすいことだろう。
そうだ、これで俺達の世界における、邪魔大王国の天下は約束されたも同然だ……
……それで俺は納得がいくのか?
答えは出ない。
よそう。そんなことは後で考えればいい。ユーゼスを倒し、この戦いを全て終わらせた後で。
いずれにせよ、この戦いを生き延びられなければ意味はないのだから。
それまでは……共に戦おう。ここに集まった「仲間」と共に。

(俺は……大切なことを忘れている……)
イングラム・プリスケン、バルマー戦役――クォヴレーは、リュウセイからそれらの話を一通り聞かせてもらった。
イングラムという男の存在が、引っかかる。彼と自分との関係は?
それから、放送で呼ばれた、ある女の名前。
それに導かれるように思い出した、第一回の放送で呼ばれた男の名前。
彼らの名もまた、何故だか頭に引っかかる。
記憶はやはり蘇らない。しかし、立て続けに仕入れたその情報が、彼を混乱させる。
(俺も……一度頭を冷やすべきのようだな)
ブライサンダーの窓を開け、外を覗く。
すぐ近くに、フェアリオンが……何故か体育座りをしていたりする。
(ずっとあの調子か……一体いつまで……ん?)
放送から30分近く経過した頃。
ようやく、閉じられたフェアリオンのコクピットが開かれた。
そして中から、」引き篭もっていたカッコ悪い少年が顔を出した。
「はぁ……」
溜息をひとつ。先程まで露になっていた憎悪は影を潜めていた。
勝手に逆ギレして、周りに八つ当たりして、殴られたら拗ねて閉じ篭る。
――ああー、なんてカッコ悪いんだ俺は。
これで、人を救う覚悟だなんてよく大口を叩けたもんだ……などと、自分が情けなくなってくる。
「みんなに迷惑かけちまったな……」
「だったら、素直に謝ればいいだけだ」
突然かけられた声に振り返る。
「クォヴレー……?」
「そっちは、頭が冷えたらしいな」
「……まあ、少しだけどな」

「すまねぇな、みっともないとこ見せちまって。
 ジョシュアに殴られなかったら、多分あのまま突っ走って、犬死にしてたかもしれねぇ……」
「それ以前にこの島すら出られず湖に沈んでいたと思うが」
「いや、まあ……そうなんだけどさ」
実際、フェアリオンの損傷は激しい。もう単独ではまともな飛行もままならないだろう。
「こんな調子じゃ教官に笑われちまうな」
苦笑するリュウセイ。
イングラムはリュウセイにとってどういう存在だったか、一通りは彼の口から聞いた。
だからこそ――クォヴレーは違和感を覚えた。
「リュウセイ……お前は、何故そこまでイングラムを信じられる?」
話の限りでは、イングラムはそこまで信頼を得られる人物とは思えなかった。
リュウセイから信頼を得られるだけの要素が、教官時代からのイングラムからあまり感じられないのだ。
彼の行動は、第三者の視点から見れば……はっきり言って胡散臭くて怪しい。
実際、話の上ではSRXチーム以外からの評判もよくなかったようだ。
そして、裏切り。そういう展開も、傍から見ればありえないこともなかったといえる。
さらに敵としてリュウセイたちに行ってきた非道の数々。
例えユーゼスを倒すためだとしても。ユーゼスに操られていたとしても。こうまで簡単に割り切ることができるものだろうか?
彼を憎みこそすれ、こうまで信頼を寄せられるのは……むしろ不自然とすら思えた。
「……さあ、なんでだろうな」
リュウセイ自身、それはよくわかっていないのかもしれない。
初めて会った時から、彼にとってイングラムは他人のような感じがしなかった。
仲間に行った仕打ちも、裏切られた時も、本当は何か理由があったのではないか――
心の奥底で、そんな思いがあった。何故?
「ずっと昔、教官は……イングラムはかけがえのない仲間だった、そんな気がするんだ」

――俺は……お前達の事を……
――俺を仲間として認め、共に戦ってくれたお前達の事を……忘れはしない……

バルマー戦役の最終決戦の時、操られたイングラムからリュウセイへと逆流した念。
その時に頭に流れ込んだ映像を、思い出す。それは、イングラムの記憶。
ユーゼスと対峙するイングラムとリュウセイ、ライ、アヤ……
そして、ガンダム、光の巨人、左右非対称の人造人間、メタリックの強化スーツに身を包んだ刑事達、あと自称日本一の変な奴。
見たことのない、でも懐かしい仲間達。

――俺達の行動は無意味ではない……それぞれの世界に、
――必ず何らかの結果を生み出しているはず……

遠い昔、どこか別の世界で、彼らはユーゼスと戦っていた。
その時の記憶が、今のリュウセイ達の世界に、何らかの影響を及ぼしたのか。
その世界の記憶は失われても、そこで生まれた絆は、消え去ったわけではなかったのかもしれない。

――みんな、ありがとう……また、どこかで会える事を祈っている……
――さらばだ、ガイアセイバーズ……俺のかけがえのない仲間達……

「そうか……」
クォヴレーが呟く。こんな説明だけでは、普通はわけがわからないし、納得も出来ない。
それでも、クォヴレーには何故だか理解できた。
それは、彼の中にもまたイングラムの因子があったからなのか。
あるいは……何か大切な、かけがえのない記憶を失った……そういう意味でリュウセイ達も、クォヴレーと同じだと感じたのか。
厳密には、ただ記憶を封印されただけのクォヴレーの場合とはまた違うのだが……
(仲間、か)
自分もそうだ、仲間に囲まれ、支えられて生きてきた……戦い抜いてこられた。そんな気がする。
「だが、忘れるな。ここにいる俺達もまた、同じように仲間だということを」
仲間――
違う世界の、本来出会うはずのない人間同士が、こうして集まった。
底知れぬ闇に包まれた世界の中、その闇を生み出す者に立ち向かうために。
この殺伐とした殺し合いの世界の中、そんな素敵な巡り会わせがあってもいいだろう。
……イングラムの記憶の中の――「あの時」と、同じように。
「そうだな……俺達一人ひとりができることなんてたかが知れてる。
 俺達全員が、ユーゼスを倒すための切り札、なんだよな……」

ああ、そうか。
さっきからずっと頭に引っかかっていた、二人の男女の名前。
彼らが何者なのか、その意味は未だわからない。
しかし、今こうして話していて、なんとなくわかった気がする。
仲間。彼らは俺にとって、そういう存在だったのかもしれない。
そして、俺はそのかけがえのない仲間を失ったのだ……

アラド・バランガ。
ゼオラ・シュバイツァー。

「リュウセイ……このゲームを潰すぞ」
「え?あ、ああ……そうだな」
もう、悲劇は繰り返させない。絶対に……
クォヴレーは。リュウセイは。イングラムによって導かれし戦士達は、その決意を新たにする。

(もう大丈夫なようだな)
二人のやり取りを遠目に見ながら、ジョシュアは安堵する。
あのまま憎しみに飲まれ、狂気に走るような、最悪の展開にはならなかったらしい。
(それでいい……怒りはあの男にぶつける時まで溜め込んでおけばいいさ。
 だが、憎しみには飲まれるなよ。憎悪に取り込まれたら……)
……憎悪。
そこまで考えて、ジョシュアはふと思い出した。
人間の憎悪を、怒りを、悲しみを、絶望を。あらゆる「負の感情」を糧とする、恐るべき敵の存在。
破滅をもたらす者達。
その名も、ルイーナ。
(……まさか……)
参加者の負の感情を煽り立てること。それ自体が奴の狙いだとしたら?
放送での挑発もそうだが、ユーゼスの行動は明らかに参加者の負の感情を煽っている。
何故だ?もちろん、それはゲームを進めるためというのも一つの理由だろう……
なら、そもそも何のためにゲームを進める?奴の真の目的は何だ?
自分達が殺し合い、その怒りを、悲しみを、憎悪を……負の感情を煽って、あの男が得られるものとは。
……もしかすると、ユーゼスは奴らと等しい存在なのか。あるいは、そうなろうとしているのか。
とすると、彼は参加者の負の感情を集め、己の力にするために、このバトルロワイアルを開いたのではないか?
しかしどうやって?想像もつかないが、現実にルイーナという存在がある以上、可能性は否定できない。
……ただの推測である。だが、本当にそうだとすれば?
(俺達に、抗う術などあるのか……?)
戦えば戦うほど、憎めば憎むほど、悲しめば悲しむほどに。自分達は、ユーゼスの思い通りに踊っていることになる。
憎悪の矛先はユーゼスだけではない。殺し殺され、それを繰り返す同じ参加者にも向けられるのだ。
今こうしている間にも、さっきのリュウセイと同じように、怒り、悲しむ人間は他にもいるだろう。
ルイーナの時とは違う。事態は……もはや取り返しのつかないレベルまで来てしまっているのではないか……?
(……いや、推測に過ぎない。何か手があるはずだ、あの男を出し抜く手段が……)


突如、海の向こうで何かが光った。
(!?敵か!?)
考察中のジョシュアの頭を現実に引き戻す。
一寸遅れて、レーダーが海側から接近してくる機体の反応をキャッチした。
「ジョシュア!」
イキマからの通信が入る。ちょうど、彼がノルスに戻ってきた所だった。
「イキマ!何かがこちらに近づいてくる」
「こちらでも確認した。警戒したほうがいい」
「ああ……クォヴレー、リュウセイ、聞こえるか」
指示を出しながら、機体を廃墟の奥へと隠し、様子を見る。
まだ何者かはわからない。もし味方となってくれそうな相手ならば、話し合いに持ち込めるかもしれない。
だが……近づいてくるのは、彼らにとって最悪の人物だった。



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最終更新:2008年06月02日 04:10