限りある永遠の中で(2)


誰もが現状をつかみ切れていない最中、木原マサキが嘲笑をあげた。
「心残りなく、だと?あれだけ裏から手を回していたお前が意味もなく命をさらすはずがない。
 大方……自分が出ていかなければならない事情ができた。 違うか!?」
ユーゼスは何一つ声のトーンを変えず、淡々と答えた。
「好きに受け取るがいい。仮にそうだとしてもそれが何か分からんお前は、私の掌から出ることはかなわん。
 それに、私は役目を終えた道具を残す趣味はないのでな」
そう言うと、そっとジュデッカが2本の腕を上げる。
「第三地獄……トロメア」
ユーゼスが指を鳴らす。すると、何万という虫型ロボットと甲虫が這い出るように生まれた。

「お前の役目は、終わった。一足先にヘルモーズに戻れ。ヘルモーズ内は禁止エリアにしておいた。首輪をはずして入れ」
「しかし………」
「いいと言っている。 聞こえんのか? それならヘルモーズではなくここで分解してもいいが」
「………了解しました」
天使が、ふわりと、闇の空を舞う。そして、そのまま見えなくなった。
「分解、だと? 彼女を……いったいどうするつもりだ?」
「言ったろう、『私は役目を終えた道具を残す趣味はない』と。ラーゼフォンが敵にわたれば厄介なことになる。
 せめてそのわずかに生まれた魂でゼストの糧になるようにひきつぶすだけだ」
「何故だ」
フォルカが目を閉じ、押し殺した声で言った。
「だから言っているだろう、『私は役目を終えた道具を残す趣味はない』と」
「その彼女は、お前のために命すら捨てると言った。……そのことに何も感じないのか」
「残念だが―――あれは目的を遂行するために作った人形だ。そのような感情は持ち合わせていない」
天を覆い尽くさんという勢いで虫は空を飛ぶ。そんな、世紀末の光景の中。
フォルカの頭の芯が、ふつふつと熱くなる。彼自身驚くほどに、怒りがこみ上げていた。
これまで、この地獄の中で戦い死した戦士たち。ただ死んでいった人々。
フォルカが閉じていた眼を開けた。
エスカフローネがジュデッカを見上げる。
「ほう……私の人形も気遣うか。大した余裕だ。だが……
 言っておく。余計な事を考えるのもかまわんが、それで生き残れると思うな」
参加者たちにジュデッカが体を向ける。


「ユーゼス・ゴッツォ……天に還る刻が来たのだ!」


「クッハハハハ……私を前にしてその言葉を言いきるか。ならば見るがいい……最終地獄を!」
出力臨界。ジュデッカの瞳が大きな灯火のように燃え上がる。

「「「「「「「「「                                 」」」」」」」」」

巨体が発する圧倒的な音が、空間を激震させる。
目の前に立つだけで、魂を引きはがされてしまうのではと感じるほどの存在感を持って、ジュデッカは立ちふさがる。
しかし、誰一人として引くことはない。ここにいるのは、百戦錬磨の強者のみ。
木原マサキも、この敵を前にしてジュデッカから距離をとっているとはいえ、イキマとフォルカとともに戦おうとしている。
エスカフローネが跳んだ。グルンガストが最大ブーストで突っ込む。
ジュデッカの十分の一ほどしかないマシンが、ジュデッカに拳を打ち込む。
「受けろ!機神拳!!」
蒼い闘気に包まれた拳がジュデッカの右肩をとらえた。確かに装甲は貫く。
さらに、突き刺さった拳が内部から気を発し、波紋のように周囲の装甲を引きはがした。
しかし、あまりにも小さすぎる。それらを加えても、せいぜい5mばかりだ。
「計都!羅喉剣ッ!!」
グルンガストが、振り上げた剣を重力加速も加えて叩きつける。
しかし、それをジュデッカはオオバサミのような腕を使いつかむと、逆に押し返した。
パキリ、と計都羅喉剣にヒビが入る。
「エスカフローネでは火力が足らん、グルンガストは鈍過ぎる……」
ジュデッカの体が青白く光った。その光は、徐々に強くなり、白みを増していく。
次の瞬間、氷塊が溢れかえる。遠雷の如く、氷がぶつかり合う音が轟く!
「く……おおおおおぉぉ!!?」
グルンガストが氷塊の海にのみこまれ、流されるようにジュデッカから遠ざかっていく。
エスカフローネは、氷塊の上を八艘飛びもかくやというステップで踏み越え、さらに機神拳を叩き込むべく接近する。
「まだだ!」
長く戦っては不利、というのを体格差から悟ったフォルカは一気に攻勢を仕掛ける。
両手を打ち合わせると、両の拳が蒼く輝く。
「轟・覇・機・神・拳!」
先ほどと同じかたちで、胴に一発。それでは終わらない。見えぬほど数の拳が現れては消え、ジュデッカの装甲を叩く。
拳が速すぎて衝撃波<ソニックブーム>が十重二十重と巻き起こる。
「はぁぁあああああ!!」
とどめとばかりに、ねじ込まれた腕が一筋の光の柱を撃ち放つ。
見事にジュデッカを貫通し、胴の7割近くを吹き飛ばす。
すごい、と見ていたマイは驚嘆した。ジュデッカがどれだけ恐ろしい機体か彼女はその身をもって知っている。
それを、あれほど一方的に屠るフォルカの実力。端々から見て取れた彼の力は、紛うことない本物だったのだ。
「むんッ!」
拳を引き抜き、後方一回転宙返りまで鮮やかにきめて着地する。
「これほどとはな……なるほど予定通りだ」
涼やかなユーゼスの声。
「そんな……!ジュデッカのコクピットは胴体、今ので終わるはず……ッ!」
「それは、どうかな?」
吹き飛んだ部分に、メギロードとドビシが吸い込まれていく。それだけでは済まず、全身を虫が覆う。
虫が数秒してはなれた時、またジュデッカは元通りの姿を取り戻していた。
いや、それどころか一回りも二回りも大きくなっている。
「そんな……どう観測してもそんな現象起こるはずがありません!」
エルマが、目の前の現象を解析し、うなった。
ユーゼス以外知る由もないが、このジュデッカはCPSにより、因果をある程度ではあるが操作されている。
操作された因果律に比べれば、大きさも、強度も、取るに足らない瑣末なことにすぎない。
ただ、在る。絶対的なものとして在る。
世界そのものを相手にしているといっても、決して過言ではないのだから。
ジュデッカが身をふるい、動き出した。

次の瞬間、ジュデッカは消滅した。

「コクピットや一部を吹き飛ばしても無駄なら……全身ならどうだ?」
木原マサキの声。後ろに下がって、静かにしていたのはなにも戦う気がなかったのではない。
この男は、直接ブラックホールクラスターを、ワームホールを通してジュデッカに転移させたのだ。
結果、体内に発生した超重力を受けて、一見突然消えたように見えた……というわけだ。

「やはり、無駄だ」

何もなくなったはずの空間が、拡張される。
「単純な、事象を操作する……という意味ではCPSに勝るものはない。
 グランゾンの重力操作といえど、CPSをもってすれば打ち消すのは造作もない」
ポップコーンが膨らむように、複雑怪奇な曲面を描きながらジュデッカは拡大し、もとにまた戻っていく。
ちっ、と木原マサキは舌打ちする。
「つまり、切るなりしなければ意味がないというわけか。次元連結システム並みの技術を持っているとはな」
グランワームソードを取り出すと、グランゾンが構えた。
吹き飛ばされたグルンガストも、ヨロヨロと起き上がる。先ほどの攻撃で、さらに装甲の亀裂は大きくなっていた。
「ということだが、いけるか? 寝ておいても別にかまわんがな」
「……黙れ、ユーゼスを倒した後は、お前の番だ」
ニィッと口の端を釣り上げマサキが笑う。
「やれるものならやってみろ」
グルンガストと、グランゾンが剣を構え、一人前衛のような恰好でエスカフローネが拳を構える。
「そうだ、それでいい。可能な限り運命に抗う……それが人の性(サガ)だ」
虫が集まり、60mほどの巨体を2体生み出した。腹部に輝く爬虫類のような一つ目。
その下についた丸い口と、頭頂にパックリ開いた口。片手は、カマ。虫なのか爬虫類なのか判然としない。
「メギロードを利用して強化したカイザードビシだ。破滅を呼ぶものとして、お似合いだろう?ゆっくりと楽しむといい」
(キュィイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!)
奇怪な鳴き声をあげる2体のカイザードビシ。
その両方が、前に出ていたフォルカを完全に無視し、グランゾンとグルンガストの前に降り立った。
「何ッ?」
カイザードビシが、両腕を振り上げグルルガストを押さえつける。
グランゾンに向かったほうは、触手のような下を伸ばし、絡めとろうとする。
倒そう、という攻撃には見えなかった。
あの巨体ならば、そのまま力に任せて暴れるだけでもそれなりの成果は上がるはずだ。
それらの攻撃は、あくまで足止め、と言わんばかり。
「くッ!?」
「おれたちにかまうな!行け!」
フォルカが後ろの二人を助けるか、ユーゼスへ突っ込むか悩む刹那、イキマの声が飛ぶ。
「おれたちではお前の足手まといにしかならん!お前がユーゼスを倒せ!」
グルンガストが、カイザードビシの一撃を受け、膝をつく。しかし、素早くガストランダーに変形。
「うおおおお!!」
ドリルアタックがカイザードビシの腹の口に突き刺さる。
(キュ……イイイイWEEEEEEEEEEイイイEEE!!?)
やはり生物なのか苦悶のような叫び声をあげるカイザードビシ。
しかし、その青黒い血を垂れ流す傷は、あっという間に新たなメギロードとドビシがふさいでしまう。
「長くは持たん、急げ!」
「……すまん、まかせろ!」
エスカフローネがジュデッカに駆けだす。
「そうだ、それでいい!修羅の力を見せてみろ!」
走りながらフォルカはまた力を貯める。
「受けろ!機神双獣撃ッ!!」
拳から放たれた二体の獣魔が、うねりとうなりを上げて3本まとめてジュデッカの腕に食いついた。
そのまままったく足を止めない。逆に加速をつけて、矢が突き刺さるように抉り込む!
拳、  拳、 蹴り、 蹴り、 拳、蹴り、拳、拳拳蹴り蹴り蹴り蹴り!!
どんどん加速していき、もはや次の一手が撃ち込まれた時には、その三発後が撃ち込まれている。
矛盾すらはらむありえない体感を与えるほどの速度で足と腕が飛ぶ。
「機神………猛撃拳!!」
フィニッシュに、地面を踏みしめ蹴り上げの回し蹴り。
地面をこすり、ジュデッカが吹き飛ぶ。
「ククク……本当に素晴らしい力だ。それでこそ、というものだ」
やはり、ジュデッカは再生。
「……まだ笑う余裕があるか、なら」
さらにフォルカが加速。白い光の尾を引いて、エスカフローネを攻め立てる。
「クッククク……」
どんどんどんどんフォルカがジュデッカを削り取る。
ジュデッカの攻撃をかいくぐり放っているにもかかわらず、その速度は徐々にジュデッカの再生速度を上回り始めていた。
「やった!マイさん、見てください!このままいけば、ユーゼスを倒せますよ!」
エルマのうれしそうな声。確かに、どこをどう見てもフォルカの勝ちは揺るぎそうにない。
それでも、マイの顔はうかなかった。
何か見落としているのではないか?
その想いが払拭できない。
―――ユーゼスは、意味もなくこんなことをしない。やつが動くのは、絶対の自信と終わりが見えたときだけだ。
手が汗ばむ。その疑念は、マイのなかで拡大していく。
それでも、マイは見ていることしかできない。コクピットしかないR-1では、何もできない。
このままでは、駄目だ。
そう思っていても、体を動かすこともできないし、口も挟むこともできない。
悪寒の中、時間のみがジリジリとたっていく。状況は、フォルカ優勢のままで。
「機神……猛撃拳!」
いったい何発目の機神拳だったろうか。数え切れないほどの拳が衝突した。

光一閃。

ついに、頭部を残し、ジュデッカが砕けた。
「クククク………ところで言ってやるが」
それでもユーゼスの笑いは止まらない。
「これで終わりだッ……!」
最後の一撃が放たれんと、フォルカが拳を振り吹いたとき………―――

「エスカフローネがお前の力に耐えられると思っているのか?」

ガラスが割れるような甲高い音。

「な……に?」

砕け散る。
ジュデッカの頭、ではなく。
エスカフローネの腕が。
ジュデッカに吸い込まれるように、甲が、手首が、肘が。
その芸術品のような右腕が破片と散った。


その光景を、マイは呆然と見ているしかなかった。


「ぐ……ああああああああああぁぁぁあああ!!!」


エスカフローネは、痛みをダイレクトに操縦者に伝える。
今のフォルカの痛みは、腕をばらばらに粉砕するのとまったく同量の痛みだった。
痛み慣れしていた修羅だからこそ意識を手放さないが、常人なら気がふれるほどの痛みだ。

その僅かの間に、ジュデッカはまた再生する。

地面に転がるエスカフローネを、尾でジュデッカは弾き飛ばす。
「というわけだ。全く残念だ。もし、お前が零影のような機体に乗っていれば話は変わっていただろう。
 もっとも、決して手を抜いたわけではない。まさか本当に単騎でジュデッカを追い詰める力が想像以上だったのでな。
これは、次善策だったのだが」
とんだ三文芝居を、とフォルカは歯を食いしめた。
相手はこの会場すべてを牛耳る主なのだ。最初からこうなると予見してのことだったのだろう。
思えば、なぜ自分たちの目の前に現れたかを考えるべきだった。
あれは……わざと自分に今の機体で手を出させるための罠だったのか。
自分の不甲斐無さに、フォルカはどうしようもなく腹が立った。思慮も浅く怒りにかられて戦うなど……!
「さて……」
ユーゼスはもはやフォルカなど眼中にないというように、背を向けた。
今、ジュデッカが向いているのは、R-1のコクピットだ。
その巨体に似合わぬ速度でジュデッカは地面をこすりながら移動。光る腕を振り上げた。
「あ……あ……」
コクピットの中で、マイは息を呑んだ。
今のコクピットしかないマイでは……いやそうでなくてもどうにもならないだろう。
イキマ達も、カイザードビシを捌くので精一杯だ。
「待て……ッ!」
エスカフローネが、なお立ちあがる。そして、回り込んでジュデッカの腕に体をぶつけた。
そのため、腕はそれてコクピットの僅か横に、振り下ろされる。
「フォルカ……」
マイの前に立つのは、フォルカ。マイは、ここに着て何度この男の背中を見たことだろうか。
前に立って、なおも構えるエスカフローネを見て、ユーゼスは息を吐く。
「悪いが……戦えない修羅に興味がない。この状況を打破する力がない以上、脅威にならん。そこをどけ」
フォルカも、そのくらいは分かっている。残った左腕も、一度打てば砕けるだろう。
だが、引けない。引くわけにはいかない。
「よせ!フォルカなら新しいマシンさえあればユーゼスに勝てるんだ!」
「だからなんだッ! ……それではマイはどうなるッ!」
確固たる意志をもってフォルカは答えた。一切の迷いはないと、言外に言っていた。
「私は……リュウを……私なんかより、フォルカが生きるべきなんだ!だから……だから……」
最後はすぼむように小さくなっていくマイの声。すすり泣くような声が通信を通して伝わる。
「なら、二人とも……いや全員で生きればいい!」
けして、やけになっていっているのではない。誰も見捨てない。可能な限り、拳がある限り救う。
それは、散っていって修羅たちとの誓い。ゆえに……引けない。
「今のお前に何ができる、現状を変えられるというならやってみるがいい」
ユーゼスの不快な声がフォルカをなじる。
「なら、見せてやる」

アリオン、メイシス、フェルナンド、兄さん……修羅王!


僅かでいい、俺に――――――――   力を   !  !


燐光を、エスカフローネが放つ。
白いエスカフローネの装甲が、さらに穢れのない純白の白へと変化する。
闘気を揺らめかせて、ほのかな光輝を放っていた。

「全てなくなっても……俺は諦めない! だから!」

いや、ほのか、などというものではない。陽炎のようにフォルカの周りだけ、歪んでいる。
周囲と温度が、密度が、気迫が違う。闘気で地面が音を立ててへこんでいく。亀裂となって広がる。

「俺が新たな修羅王というのならできるはずだッッ!  不滅の遺志よ!  刃となれ!!」

エスカフローネが残った腕を地面に叩きつける。
その瞬間、残ったエスカフローネの腕は砕け散った。衝撃で、空へと舞い上がる破片たち。
その微細な破片は、陽光浴び、鏡面のように光りを照り返す。七色のプリズムを放ちながら、虚空へ解けていく。
「おおおおお……これが……修羅……魂すら喚び寄せる修羅の力……これが……」

    「「     闘   鬼   転    生     !   !  」」


粒子となった一粒一粒が、光りを放つ。


「え……?」
「何……だと?」
「これは……」

イキマ、マイ、マサキが三者三様に驚きの声をあげた。
なぜなら、ありえない現象が目の前で起こったのだから。

壮観な光景だった。
大きいロボットもいる。小さいロボットもいる。
SF小説に出るようなスタイリッシュで細身なロボットも、生物的な人間に近いロボットいる。

その数、約60。

そう、エスカフローネを中心に、60機以上のロボットが現れたのだ。
6機の修羅神だけのフォルカはつもりだった。しかし、現実使用した闘鬼転生は、60という異常な数の闘神を映し出した。
しかも、それだけではない。闘鬼転生は、あくまで自分が戦った相手を再現するもの。
なのに、戦うどころか見たことすらないものが多く……いやほとんどなのだ。

その中の一体が、マフラーをなびかせて空へと舞い上がる。
玉状の物体が燃えるように輝き、頭部の眼帯のようなものが展開する。
背部と脚部から放たれている光を翼のように羽ばたかせ、空を切り裂く。
その急降下の一撃は、動けなくなったグルンガストにとどめを刺そうとしていたカイザードビシを粉砕した。

……大雷鳳。

それを修復すべく、多量のメギロードとドビシが集結する。
その数えるのも嫌になるような数を……馬の顔を持つ影が割り込み、正確に一体ずつ打ち落とした。
合計、1000発。

……修羅神アガレス。

ジャベリンをふるい、さらに切り裂く者がいる。
青い翼を広げ、五色の光でドビシを飲み込む者もいる。
白い天使の翼をはためかせ、一筋の巨砲でドビシを打ち抜く者もいる。
12体の分身を飛ばし、爆発させる者もいる。
数多の伝説を作った黒歴史の勇者たち。ガンダムの名を連ねるもの達。
……RX-78 ガンダム。
……フリーダムガンダム。
……ウィングガンダムゼロカスタム。
……マスターガンダム。

二体のバルキリーがいた。二体の人型汎用決戦兵器がいた。二体のバーチャロンがいた。
DGGの1号機がいた。ビルトファルケンが。ビルトビルガーが。ザクⅢが。

「あれは……」
マイは見た。そのマシンの中に、R-1がいるのを。
エルマは見た。確かに、セレーナの姿がその中にあるのを。
イキマは見た。そのマシンの中に、鋼鉄ジーグ……司馬宙がいるのを。

巨大な船影が、空を包む。エクセリヲンが、一斉に砲撃を始めた。

一言も言葉を発さぬ姿。
しかし、その身からあふれる生気が、彼らが黙する死者ではないことを雄弁に物語っていた。

――――しかし、その魂全てが清浄とは限らない 。
「外部からのシステム干渉だと……っ!どうした! 何が起こっている!? 動けグランゾン!」
グランゾンが機能を停止したように動きを止める。背面にエネルギーの放出を自動的に始めた。
コントロール画面にスクロールされていく膨大な数のヘブライ語。

3人同様に、マサキは見た。

グランゾンの内部データが、猛烈な勢いで書き換えられていくのを。
それに飽き足らず、機体の装甲や動力炉が作り替えられるのを。
グランゾンが完全なOUT OF CONTROL に入る。
「これは……なんだ!?」
珍しく焦ったマサキの声。
グランゾンはふわりと浮きあがると、巨大な重力波を形成した。
グランゾンの殻が、外れていく。

「いったいなんだ!何が――――――――

マサキの声の尾を引き、グランゾンから現れたモノは、重力波の中に消えた。

【木原マサキ 搭乗機体:グランゾン?(スーパーロボット大戦OG)
 機体状況:???
 パイロット状態:疲労、睡眠不足 、混乱、胸部と左腕打撲 、右腕出血(操縦には支障なし)
 現在位置:???
 第一行動方針: ???
 最終行動方針:ユーゼスを殺す
 備考:グランゾンのブラックボックスを解析(特異点についてはまだ把握していません)。
首輪を取り外しました。
    首輪3つ保有。首輪100%解析済み。 クォヴレーの失われた記憶に興味を抱いています。
    機体と首輪のGPS機能が念動力によって作動していると知りました】



ジュデッカの前に、ソウルゲインとツヴァイザーゲインが並び立つ。
一瞬の交錯とともに放たれる二奏・麒麟。
ジュデッカが腕を組み、防ごうとするが、それをいとも簡単に貫く。
空を埋め尽くしていたドビシとメギロードは、もうほとんど残っていなかった。
『彼ら』によって殲滅され、ジュデッカは再生のための素材を失った。

「クハハハハハハハハ……フハハハハハ……ハハハハハッ!」

しかし、ユーゼスの笑いはさらに高く大きくなっていく。

「我……成せり! 私の思惑通りだッ!」

ジュデッカが、破損せず残っていた腕を空に掲げた。
空気が鳴動を始める。………ジュデッカが現れた時のように。
「お前たちが解放されたここでッ!闘鬼転生を使えば、寄ってくるのは目に見えていたのだ!
 私という………極上の餌に釣られてな!」

光がひときわ輝いた後、顕れたのは、『門』。これもまた同じように横滑りして開いてく。

しかし、ここからが違った。

逆に、吸い込んでいくのだ。闘鬼転生で形を得た魂たちを。
『門』の吸引を受け、砂になるように崩れ、形を失っていく『魂』。
「闘鬼転生を……狙っていただと!?」
「そうだ!逃げた魂を集めるために……私に仇なすためとなれば、この愚か者たちは力を貸す!
 まして、直接復讐できる器があるとなれば来ないはずがない、お前の闘鬼転生はその呼び水とさせてもらった!」
ジュデッカが、エスカフローネに突っ込んでいく。
よけようとしたフォルカは……後ろのマイのことを思い出し、動きがわずかに遅れた。
ジュデッカは、その両手にエスカフローネと、R-1のコクピットをつかむ。

「待てッ!」
 イキマが、グルンガストを動かそうとする。しかし、その動きはあまりにも鈍い。
フォルカが、逃れようと暴れるが、両腕を失った今のエスカフローネではどうしようもない。
そうしている側でも、確実に『魂』は呑み込まれていく。
「すべては、私の手の上ということだ!何も変わりはしない!」
ジュデッカの出力が、臨界を超えて上昇を続ける。傍目から見ても、明らかに様子がおかしい。
「まさか、これがお前の目的!?」
おかしい、とイキマは思った。いくらなんでも、出力を上げ過ぎている。
この出力のマシンで自爆して生きていられるとは思えない。
なのに、なぜそのような真似を……と思い、ついにたどり着いた。
そう、人魂をささげ、力を集め行うこと……それは、『死者の復活』か、『神の降臨』か。
大きく分けてこの二つに大別される。 真実に辿り着き、顔色を変えたイキマの様子を見て、ユーゼスは目を細めた。
「ついに気付いたか。 その通り、私は神を降臨させる! いや私が神になる!」
もう、7割近くが吸い込まれた。このままでは、結果的にユーゼスの思惑通りになってしまう……!
「そうは……させん!」
エスカフローネが、中空を蹴る。
「が……あああああああッ!!」
その勢いで、手の中から逃れるが、全身の装甲がはがれ、中身が見え隠れしている。
もちろん……その痛みはフォルカにも伝わるはずだ。

「これで最期だ……!」

両腕と、全身の装甲を破壊されたエスカフローネが、『門』へと突っ込んだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
エスカフローネの突撃を受け、『門』がテレビのノイズのように乱れ始めた。
「馬鹿な、物理的な干渉をクロス・パラダイムゲートが受けるはずがない……!
 この男、何をやっている!?」
ついに初めて、ユーゼスが焦りを見せた。
フォルカは、『次元の壁』に直接干渉しているのだ。
エルマを通して、ユーゼスが知りえなかったフォルカの切り札。
たった一度、それだけで人間よりはるかに強い生命力をもつ修羅の……
そのまた選ばれた存在ですら、長き眠りにつかねばならなくなる最終技。
「今が……その時だ!」
「完全な回収どころかそんなことをすればCPSが歪む!
 そうなればどうなるかは完全にわからんのだぞ!貴様、因果地平の挟間を彷徨うつもりか!」
「この修羅の世界を作ったお前とともに逝けるというのなら、それも本望だッ!」
ジュデッカの腕は、2本だけではない。何本か欠損しても、まだあまりはある。
その腕を使い、『門』からエスカフローネを引き剥がそうと、ユーゼスが操縦桿を傾ける。
「させない……そんなことは絶対にさせない!」
ユーゼスのこめかみに、鋭い痛みが走る。R-1のコクピットが発光、というより明滅を繰り返している。
「馬鹿な……念動指数 36だと……レビ・トーラーでも強制出力で28のはず!何をやっているこの木偶人形が!」

「私は木偶人形なんかじゃない……
私は、フォルカやリュウ、アヤ……SRXチームとみんなと一緒にいれて変わったんだッ!」

ジュデッカのシステムが、マイに乗っ取られて動きを止めた。もはやユーゼスにはシステム停止もできない。
結果、あふれ続ける神の降臨に回すはずだったエネルギーが、余計な弁により、暴走を始めた。
「空間の許容限界を突破ッ!」
エルマが現在の状況を知らせた。
『門』が、白む。世界が、白む。イキマの目の前で、すべてが白に塗りつぶされていく。
その中心で、ひときわ白くエスカフローネが、R-1のコクピットが在り続けた。
黒い邪神を塗りつぶす、白い神の力。ジュデッカの内部が、あらわになる。
終わる。終焉する。
「………美しい」
あまりにも場違いな一言だった。しかし、それはイキマ自体の本心から漏れた言葉だった。
今まで見てきた、悪夢的な意味で信じられない光景ではない。
神話を、眼の前でそのまま見ているような……幻想的な光景だった。

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

3つの声が入り混じる中……すべてが消えていった。

残ったのは、ただ流れるままの風。

【イキマ 搭乗機体:ウイングガスト(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:ゲームの終了を確信。戦闘でのダメージあり、応急手当済み。マサキを警戒。
 機体状況:装甲に大程度のダメージ、メインカメラ破損。
ほとんどろくに動けませんが、移動は問題なく可能。詳細は次の人にお任せします。
コックピットの血は宗介のものです。
 現在位置:E-4
 第一行動方針:他者に、ユーゼスの死亡を伝える。
 第二行動方針:トウマに代わり、クォヴレーを支える
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】

備考:ディス・アストラナガンを特に警戒
ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測
ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測
剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測
空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測
C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測


【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状態:精神的動揺
機体状態:装甲に僅かなダメージ、EN 1/3ほど消費
現在位置:ヘルモーズ内
第1行動方針:特になし
最終行動方針:ゲームを進行させる】


【マイ・コバヤシ  消滅】
【フォルカ・アルバーグ  消滅】

【ユーゼス・ゴッツォ  消滅】




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最終更新:2008年09月06日 19:45