三者三様


 蒼き流星が草原を駆け抜ける。
 流星――レイズナーが目指すのはエリアG-6。
 流星の主――木原マサキの悲願、首輪からの開放を達成するためだ。
 レイズナーが飛行を続けていると、レーダーに二つの機影が映った。
 進行方向から察するに、こちらと同じ場所を目指しているらしい。
「レイ、この二機の詳細を表示しろ」
「レディ」
 返答から数秒でモニターに情報が現れる。
 無論、これはレーダーに捉えた機影からの推察でしかないのだが。
 一機は低空を飛行中の戦闘機。
 もう一機は、
「小型で判断が難しいが機動兵器でない事は確実……」
 これはいい。
 戦力に圧倒的な差があるものが行動を共にしている。
 それは、この二機が戦力という壁を乗り越えた信頼関係にあるということだ。好戦的な参加者でないことはほぼ確実だろう。
「こんな馬鹿共を見つけられるとは運がいい。
 できるだけ奴らの悪評を振りまいておく必要もある。外の情報も欲しいところだ。レイ! この二機に接近する機動を取れ!」
「レディ」


「おぉっと。こいつは…」
 レーダーが未確認機を察知したことに気付き、フォッカーは声をあげた。
「先生、未確認機が近づいています」
 指示を仰ぐため、遷次郎に通信を送る。
 暫しの沈黙の後、
「私が話してみよう。情報も欲しいし、人手は多いほうがいいからね」
 という返事が返ってきた。
 フォッカーは相手を警戒しつつ、遷次郎に交渉をゆだねた。
 ほどなく、通信が可能な範囲に未確認機が到達した。

 通信が可能な範囲に達したとたん、開いておいた回線に通信が入った。
 地上を走行する小型の物体(映像を拡大することによりバイクだとわかった)かららしい。
「私達は、司馬遷次郎とロイ・フォッカーという。
 もし良ければ、我々との情報交換に応じてくれないだろうか?」
 年老いた男の声がコックピットに木霊する。
「僕は…木原…マサキです。かまいま…せん。
 でも…余り気分のいい話じゃ…ないですよ?」
 声のトーンを落とし途切れ途切れに言葉をつむぐことで、精神が磨耗しているような印象を与える。
 年寄りというものは、大抵こういう若者に同情的だ。
「かまないよ。その話を聞くことで、私達にも何かできることがあるかもしれない」
(かかった!)
 ここからが腕の見せ所だ。
 先程のゲームの内容を、マサキは語り始める。
 登場人物、マサキとチーフの設定を捻じ曲げて。

 マサキの語った話はあまりにも酷すぎるものだった。
 プレシアという少女と行動を共にしていたマサキは、
クォヴレー、トウマ、イングラムという三人組と出会い、信用して機体を止めた所を攻撃された。
 プレシアの機体が盾になってくれたお陰で、何とか無傷で攻撃を逃れたマサキをさらなる悲劇が襲う。
 病院を目指す途中で怪我人を連れていると語った、
ボロボロの機体の搭乗者(チーフと名乗ったらしい)と合流し、辿りついた病院で惨劇は起こる。
 マサキが薬を探していたところ、後ろから突然殴られ気絶してしまった。
 その間に、チーフが怪我人の少女とプレシアとを殺害し、首輪を得ようとしたのだ。
 不幸中の幸いは、マサキが気絶していた部屋の近くにレイズナーがいたことだ。
 刺激臭で目を覚ましたマサキは一瞬の隙を突き、チーフから首輪を奪いレイズナーに乗り込んだ。
 そして、ミサイルで病院を爆破し逃げてきたという。
「なんて酷いことを…」
「全くですね。…人のすることじゃない」
 フォッカーが遅れて同意する。
「あの…そちらの話を…」
「…すまない」
 答え、自分達の出会った機体のことを話す。
「まるで、悪魔のような風貌の機体だった」
 そう締め括り、フォッカーと別件の相談を開始する。無論、マサキには聞こえない回線で。
「どうだろうフォッカー君、私は首輪のことを話し彼と協力体制に入ろうと思うのだが?」
「そうですね…いいことだと思います。こういうときこそ、大人が子供を守らなければ」
 頷き、遷次郎は説得を開始する。相手が非道の全てを行った人物だなどと思いもせずに。

「マサキ君、私達はこの戦いを終わらせる切り札を持っている」
 思いがけない言葉が飛び込んできた。
 奴らの悪評を振りまいて退散しようと思っていたが、興味をそそられる。
「それは、どういった?」
「実は、私達は首輪の解析を行っているんだ」
 ――!
 風貌と行き先からもしやと思っていたが、それが当たりなどと想定もしていなかった。
(俺は本当に運がいい…)
「もし良ければ君も私達と行動を共にして、この馬鹿げたゲームからの脱出を目指さないか?」
 先程の問答から簡単に予想できる誘い。
 答えは、
「…同行します。これ以上あの子のような人を増やさないために。
 ――でも、僕は貴方達を完全に信用したわけではありませんから」
 これで決まりだ。
 同行することに同意はするが、先程の嘘の内容から警戒心を抱いている風に装ってさらに年寄りの同情を誘う。
(ユーゼスめ…この冥王を下らん遊戯に参加させたこと…とくと後悔させてやる)


「わかった。…それでかまわないよ」
(本当に可愛そうな子だ)
 心からそう思う。
 二度も大人に騙され、知り合いも惨殺され、よくも精神が崩壊しなかったものだ。
(見ていてくれ宙。私はもうお前のような不幸を起こさせはしない…!)
 もう若い命が失われるのは嫌だ。



 何か引っかかる。
 見たところ中高校生ぐらいの人間が軍人の隙をつき、あまつさえ首輪を奪ったこと。
 わざわざマサキを襲った男がレイズナーの近くにマサキを残したこと。
 特に怪我らしい怪我が見つからないこと。
 さっきは先生の意思を優先したが、全体的に何かできすぎている感じがする。
(ま…俺が警戒しておけばいい話か)
 先生はすっかりマサキに入れ込んでしまっているようだから、自分が警戒しなければ。
(先生は参加者の希望なんだ)
 そう。
 この人を失うわけにはいかない。
 自分が死んでも、この人が生き残ればまだ希望はある。
 フォッカーは決意を胸に秘め、二人に言う。
「それでは、先生、マサキ君。はやいとこG-6を目指そう」
「そうだな。…この悪趣味なゲームを終わらせるために」
「はい。…絶対に主催者を倒しましょう」
 三者三様の思いを胸に秘め、彼らは行く。再び自由を手にするために。



【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:ほぼ損傷なし
 現在位置:E-6
 第1行動方針:G-6へ 遷次郎を護衛しつつ向かう
 第二行動方針:遷次郎とともに首輪の解析と解除を行う
 最終行動方針:ユーゼスを殺す】

【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:多少の疲労。マサキに多少の不信感
 機体状況:弾数残りわずか
 現在位置:E-6
 第一行動方針:遷次郎を護衛しつつG-6基地へ向かう
 第二行動方針:ユーゼス打倒のた首輪の解析め仲間を集める
 最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】

【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:ダイアナンA(マジンガーZ)→スカーレットモビル(マジンガーZ)
 パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)マサキと宙を重ねている節がある。
 機体状態:本体は粉々、スカーレットモビルは無事
 現在位置:E-6
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析及び解除を行う
 第二行動方針:マサキを守る
 第三行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
 最終行動方針:ゲームを終わらせる】
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
   マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)
   だが、解析結果は正しいと信じている。

【二日目 16:23】





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第190話「海を前に 時系列順 第178話「悪魔は往く

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第161話「誓い 木原マサキ 第177話「集う者たち~宴の準備~
第149話「決意 ロイ・フォッカー 第177話「集う者たち~宴の準備~
第149話「決意 司馬遷次郎 第177話「集う者たち~宴の準備~


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最終更新:2025年01月25日 12:35