限りある永遠の中で(3)
「が……はァッ!」
ユーゼスが、
目覚めた。
今まで自分を満たしていた水分を、喉からかき出す。
「フォルカ・アルバーグ………まさかここまでやってくれるとは………」
自分の手を見る。そこにあるのは、老人の腕、ではない。
若々しい張りのある肌。それは……若者のそれだった。
運が、よかった。
いくら、記憶を封入したナノマシンがあるとはいえ……
自らの『魂』が還ってこないのでは、この肉体もイングラムや、クォヴレーのような存在になってしまう。
元々、『あの世界』と同じようにゼストには、事前に調整、強化した完全な肉体で融合する予定だった。
これは、あくまでそのための器のつもりだったが……
「緊急用に、記憶の随時ダウンロードを行っていたのが、功を奏したな」
ふらふらと立ちあがり、そばに置いてあった仮面と衣服をつけようとする。
鏡は、ない。なぜなら……自分の姿を見てしまうからだ。
ユーゼスの顔は、イングラムと全く同じだった。
当然だ。イングラムは、元をたどれば……彼のクローンなのだから。
しかし、そのクローンは一つの人格をもつことで暴走し、イングラムという自分の怨敵となった。
この顔は、自分の顔であると同時に……呪われた顔でもあるのだ
手慣れた――当然だ、中身は同じなのだから――手つきでキーを叩き、現状を表示させる。
『魂』は、十分な数値をたたき出していた。8割……いや9割再回収している。
しかし深刻な異常もあった。それはCPSの破損。
空間転移などは可能だが、肝心の因果律操作に関してのプログラムが破損、消失している。
それ以前に調整したヴァルシオンは影響を受けないとはいえ、あまりよいとはいえない。
修繕は可能だが、1週間はかかるだろう。
とはいえ、ゼストを完成させるためのパーツはそろった。
それは、後々修理し組み込みなおせばいい。大局には、ほぼ影響はない。
「結果的に、成功……とはいえるか」
フォルカ・アルバーグの妨害もあったとはいえ、かなり良好だ。
……これで、ほぼゼストの降臨は確定。
そのためなら、早期にジュデッカとズフィルードを失ったことは、些細な問題だ。
最悪、CPSで強化したヴァルシオンは用意してある。CPSで強化してないとはいえ、幾ばくかのマシンはある。
会場は、さらに良い状態だ。
強念者と修羅、皇帝が落ちた。
ディス・アストラナガンは、クォヴレー以外ならいまさらあわてて乗ったところで力を引き出せるわけもなく。
脅威となりえるのは、姿を消したグランゾンと、ブライガー程度。
そう、良好のはずだ。だが、ユーゼスの頭には、こびりついて離れない。
あの時の戦いで、ウルトラ6兄弟の攻撃で同じ現象、CPSの破損が起こった果てに…………
その不安を、頭を振って打ち消す。
ユーゼスから出るのは、達成感からくる歓喜の声ではなく、くたびれた老人のような安堵のため息だった。
「ついに……ここまで積み立てた」
そう、ここまで積み立てたのだ。溶け落ちて混ざり合う時間の中、必死に積み立ててきた。
崩れるたび、何度となく築き上げてきた。だが、ゼストの降臨が成功したのは過去一回だけ。
あの時から、因果律に飲み込まれ、はや幾歳。一度も成らなかったゼストの降臨は目の前だ。
管理室から通路へとユーゼスは出た。
もう、ヘルモーズにいる必要もない。ヘルモーズは……この肉体を守るための卵だったのだから。
むしろ、今守るべきは、D-6にある地下施設―――アースクレイドル。
あそこには、ダイダルゲートの中枢がある。
あの外殻が、そうそう簡単に破壊されるとは思わないが、最悪の事態はあり得るのだ。
クォヴレーが、その側にいるのも、懸案事項となりえる。
ヴァルシオンで、ヘルモーズと、アースクレイドルの両方は守れない以上、至極当然の判断といえた。
さまざまな機能の本体は、異相空間に移してあるのだ。
ゼスト絡みも、すべてアースクレイドルでもできる。
通信で周囲のパルシェムたちに、最低限要件を告げると、ユーゼスは、ヴァルシオンに乗り、転移装置に入る。
終わりを、告げるために。
【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:ヴァルシオン(CPS強化)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:D-6 アースクレイドル内
第一行動方針:アースクレイドル内で、ゼストの調整
最終行動方針:ゼストの完成】
――――フォルカ!
(誰だ……俺を……呼ぶのは………)
―――――フォルカ!
耳を叩く、か細い……少女の声。
「マイ……か?」
言葉とともに、眼を開く。
何も、ない。
文字通りなにもない。
遮蔽物一つなく、空には太陽も星も存在しない。
ただ、白い平面がどこまでも広がっている。
「ここがユーゼスの言っていた……因果地平の果て……か?」
(違う……ここは、残骸の世界。かつてユーゼスが生みだし、ほどけ、打ち捨てられた世界)
跳ね返るものが何もない世界で、反響した声が響く。
「お前は……どこにいる? 名前はなんだ?」
(わたしに……今、体はない。 かつて、神となったユーゼスと戦い、失われた
名は……ゾフィー。かつて、ユーゼスと同じ力を手にし、帰る術を失ったウルトラの戦士)
「ユーゼスと同じ力……?」
ウルトラの戦士を名乗る男の声が、厳かな声で言った。
(そうだ。それは……因果を操作する力。
わたしは、ヤプールを倒し、ユーゼスの力を中和するべくその力を使った。
しかし、それにより私は他の兄弟と違い、因果の糸により元の世界にたどり着くことなく、
ここにいる。 わたしは、待っていた。 いつか、また動きだしたユーゼスを止めるため……
誰かがここを訪れるのを)
ゾフィーの声には、悲哀がこもっていた。
(すべては、私たちウルトラ一族が招いたこと……君に伝えよう、ユーゼスの始まりと、
目的を)
ゆっくりとした口調で、ゾフィーは語った。
かつて、宇宙刑事と、人造人間と、光の戦士と、ガンダムがともにいる世界があったと。
そして……その世界で起こった悲劇を詳細に語っていった。
(ユーゼス、彼も決して真に邪悪な人間であったのではない……)
「……そうか」
フォルカは、何も言葉をはさまなかった。相槌を打つことすら忘れ、ゾフィーの話に耳を傾けた。
「つまり……やつは、完全な平和のための神となろうとした。そして、その為に永劫をさまよっているのか」
なんという皮肉だろう。
誰よりも、何よりも大きな規模で平和を守ろうとした男が、逆に手のつけられない邪悪となる。
大きな人々の命を救うために、とっている行動は正逆の人殺し。
フォルカは修羅王を思い出していた。
修羅王もまた、同じ思いで次元の壁を破ったのだ。……ありとあらゆる咎を受け入れる覚悟で。
(ユーゼスを……止めてほしい。 願わくば……彼に魂の救済を)
目の前に霞が集まり、銀と赤の巨人を作った。
身長は、40mか60mか………機体に乗っていないフォルカには途方もないほど大きなものに見えた。
(ここには、先ほど取り込まれず、残った魂がある。それと……私の力を君に預ける。
無論、因果律を操作する力以外を、だが)
靄が、フォルカの体に吸い込まれていく。見かけに、変化があるわけではない。
しかし……何か大きな力の塊が染み入るのを感じていた。それだけではない。
(君が光の巨人になれるわけではないが、君の移し身にそれに近い力を与えることはできる。
それと……君の体は君の体であって君の体ではない)
「おれの体ではない?」
フォルカが自分の手を見る。しかし、それは間違いなく自分のものだ。
どう見ても、他人のそれとは思えない。
(君は、極度に消耗しており、その状態でここに来た。故に、因果が解けてしまったのだ。
それを補強し持ち直させたのは、私ではなく、ともにあった『魂』だ)
全身を、触ってみる。―――その時、気付いた。自分には、首輪がないことに。
まさかさっきの声は………
そっと、何かが手を触る。
――――フォルカ
「やはり……マイ……なのか?」
言葉には、力が宿るという。それが定かか知らないが……確かに舞いは、フォルカの前に姿を現した。
マイだけではない。リュウセイと呼ばれた青年や、手を合わせた赤髪の男もいる。
その後ろには、険しい顔つきの、ウェーブ状の髪の男もいた。
――――フォルカ
声は、聞こえなかった。けれど……口は確かにそう動いた。
全員が、フォルカに手を重ねた。
――――ワ・ズ・カ・ダ・ケ・ド
声は聞こえない。だが、フォルカには澄み切った声で彼らの声が聞こえる。
微細な声のトーンも感じ取れる。
――――イ・ッ・シ・ョ・ニ
「一緒に……」
――――タタカウ
フォルカの頬を、涙が伝う。
彼らは、言った。修羅たる彼に戦えと。
修羅に……他者を救うために戦えと。守るために戦えと。
――――そのために共に、ある
それが、どれだけ温かい言葉か……フォルカは改めて知った。
他者の想いは『背負う』ものではない。『共にある』ものなのだ。
手を通して、彼らの力が流れ込んでくる。一緒に彼らの願いも。
「………聞かせてくれ。なぜ、俺を選んだ?」
(あまり良くないこととわかっていたが……因果がほどけたさい、君の過去を見せてもらった。
そして、彼女たちから、君がどのような男かも)
フォルカは空を見上げた。何もない、空っぽの空。
そこに、青年の、若き修羅王の咆哮が響き渡った。
ゾフィーがその様子を見てうなずく。
(飛ばす場所は、ユーゼスの戦艦の内部。あせらず、戦う力を手に入れるのを心掛けてほしい。
君が望むものが、きっとあるはずだ)
ゾフィーの力で作られた『門』が開く。
フォルカは、その中に飛び込んで行った。
(頼むぞ……若き勇者……私にできることは……きっとここまでだ……
あとは、その世界の者が切り開かねばならない……『運命』を……)
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:なし
パイロット状況:完治 、全快、首輪なし
機体状況:なし
現在位置:ヘルモーズ内部
第一行動方針:ユーゼスと会う
最終行動方針:殺し合いを止める
備考1:フォルカは念動力を会得しました。
備考2:ゾフィーの力により機体の神化が可能となりました
備考3:ユーゼスの目的を知りました】
【三日目 8:30】
最終更新:2025年02月25日 03:53