「シロッコさん、ちょっとあそこ!?」
「わかっている」
ミオが指さすほうをシロッコは興味深く観察していた。彼と彼女は、今ヘルモーズの側にいる。
シロッコの考えた策とは、簡単に言うと、ヘルモーズの襲撃だった。
ユーゼスが死亡し、統制がとれていない状態で、今現在首輪を外した自分たちが強襲し、機体を奪取。
それが簡単な青写真だ。もっとも、あの空間転移式バリアがまだあるかどうかチェックした上での予定だったが。
首輪がない以上、牙を剥いても首輪を爆破される心配はない。
さらに、バリアが利いていて無効化されるならこちらに攻撃を仕掛けることはないとシロッコは計算していた。
なにしろ、その攻撃を決定する統括者がいないのだ。
加えて、それだけで攻撃を仕掛けてくるなら、首輪をはずしている段階でなんらかのアクションを取っている筈。
そう考え、ウィングガストの背に乗り舞い上がって、さて仕掛けるかどうか状況を見て最終判断を下そうと思った矢先。
突然、ヘルモーズの後方が爆発したのだ。
急行しようとするミオを手で制止し、ウィングガストに一発だけミサイルを撃たせる。
すると、ミサイルはヘルモーズの外壁にあたり、炎を上げた。

しめた……ッ!

ラミアが戻ってくるときに解いてそのままにしていたか、それともあの爆発で機能に障害が生まれたか……

どっちにしろ、いまあそこにバリアはない!
やはり自分に運が向いていることを確信し、シロッコは言う。
「もし、誰かが先に乗りこんでいるとすれば支援せねばならん」
「おっけーッ!」
移動だけなら、グルンガストの状態は良好なのだ。一気にバーニアが火を吹き、機体を加速させる。

もし、シロッコがもうあとわずかにでも冷静なら、気付けただろう。

――そんな偶然、本当にあるのか?


 ◆   ◆   ◆


『よく報告してくれた、W17。お前の出番はないと思っていたが、思わぬところで使いどころができた』
「……はい」
どこかどうでもいいような調子でラミアはユーゼスの声に答えた。
『どうやってあの修羅王が生きていたかは知らんが、ここでとどめを刺せ。最もお前が勝てるとは思っていない
 だから……死んでも構わん、全力で足止めしろ。中身を抜いたとはいえ大きすぎる卵だ、棺桶にしては十分だろう?』
「……はい」
『ついでに、愚か者2人もまとめてそこに向かっている。全員を足止めするのがお前の役目だ』
「……はい」
ユーゼスは、ラミアの調子の変化に、全く気を払っていなかった。
いや、調子の変化というものがあること自体気付きもしない。
『試作型のゼストのできそこないも、封印処理を解いておいた。死ぬことを許す。もう会うこともないだろう』
「……はい」
ユーゼスとの通信の断絶とともに、ヘルモーズのあらゆるウィンドウに、ある文字が表示される。
たった3文字の、簡素なシステムコード。

ATA

その文字が、赤をバックに点滅する。
フォルカは、その意味がわからないだろう。
ATA……コードASH TO ASH。灰は灰に。塵は塵に。吸血鬼……命なきヒトカタを無に還すためのうたい文句。
元の世界で、レモンが自分の作った人形が所詮心なきものであることを皮肉ってつけられたコードだ。
無に還すためのコード。つまり、それは自滅……自爆コード。

あと30分でヘルモーズは爆発する。

それを使い、フォルカ・アルバーグと、不明の2名を殺害すること。
そのために爆発までヘルモーズ内で足止めせよ。……死亡する許可も与える。
自分は人形。命令なくば死ぬことすら許されない。そんな、存在。

もう、それでいい。

結局彼女は人間だった。人間だったが故に、自分の否定しきることができることができなかった。
そのことが人形であることを否定するのにもかかわらず、人形であることを強要する。
解けることのないパラドックスが、彼女を磨耗させた。
ラーゼフォンでなくアンジェルグに乗った理由は、そんなこすれあい悲鳴を上げる心が選んだささやかな自由。
もっともこのアンジェルグは彼女が過去潜入で乗ったアンジェルグとは違う贋作にすぎない。
それでも、彼女はこの機体を選んだ。

「照準セット……」
アンジェルグの腕から青い光が伸び、空だった手に弓が握られる。
「イリュージョンアロー……!」
その声とともに放たれる光の矢。飛来するそれの矢柄を正確に叩き、ソウルゲインは撃ち落とす。
さらに動きを確認するように短くステップを踏み込むと、一気に距離を詰めてきた。
紫の光を引き連れ、天使の羽が大きくはためく。打ち下ろし気味に繰り出された腕は当たることはない。
手の中で回転させると弓はなくなり、今度は光の剣が握られていた。
突くように放たれる剣撃を、機敏にソウルゲインはかわして見せる。
だが、かわした次の瞬間には、第2発目が放たれている。
溶けるように消えていくアンジェルグに替わり、何もなかった場所からアンジェルグが現れて剣を横なぎに振るった。
それを、片手で防ぎ、即座にカウンターを繰り出すソウルゲイン。
しかしまたもアンジェルグは虚空に溶ける。
今度は死角である背後にその姿を現し、ソウルゲインをついに切り裂いた。
厚いソウルゲインの装甲のため、大きなダメージにはならない。だが、それも回数を重ねれば話は別。
切り裂くたびに姿を消し、別の角度から攻撃態勢に入った状態で出現するアンジェルグ。
もし上空から見れば、それが五芒星を描いていることがわかっただろう。
形には残らず、剣の軌跡がうっすらと生み出す幻影の印、ミラージュサイン。
細かくパイロットに合わせてアジャストの行われていないソウルゲインでは、致命傷を避けるのが精いっぱいだった。
腕からノーモーションで放たれる緑色の矢が、ソウルゲインの接近を阻む。
ラミアに与えられた命令は、足止め。そのため、距離を詰めさせることを極力避けていた。
接近戦は、ハイリスクハイリターン。一気に勝負をつける時に選択されるものだ。
それに、いくら調子が完璧ではないとはいえフォルカ・アルバーグ相手に格闘戦を挑む気もない。
シャドウランサー。ミラージュサイン。イリュージョンアロー。そしてファントムフェニックス。
虚構であることこそがアンジェルグに与えられた力。
今の自分に、これほど似合うものもないだろう。
ソウルゲインの拳が、中身のないアンジェルグに打ち込まれる。当然それは幻影。
背中に回った本物が、光の矢を放つ。当たった瞬間掻き消えるこそ、その光の矢は美しい。
お互い決め手に欠き、膠着に近い状態の中、時だけがゆっくりと流れていく。
「なぜ、そこまでユーゼスに手を貸す!」
ひどく空しい、フォルカの声。どうせ、この男にはわからない感情だ。
最初から最後まで、一人で立つことでしか生きられない世界で育ったこの男にわかるはずがない。
自分と対極にある人間には、一生かかっても理解できないだろう。
「………」
ラミアの答えは、ただ沈黙。自分は、もうすぐ焼却される人形だ。言葉など必要ない。
ただ、淡々と繰り出される攻撃のみがはっきりと存在する事実だった。
弓を引く。手を伸ばす。剣をふるう。別に、そんな些細なことに何も感じる必要もない。
そう、それでいい。人工知能に置換可能な戦闘人形。そうなることが最後に言い渡された命令の執行に必要なものだ。
ソウルゲインの肘から延びるブレードと、ミラージュソードがぶつかり、火花を上げる。
剣は本来打ち合わせるものにあらず。細身の刀なら、あっさりと折れてしまうだろう。
しかし、この剣は剣であって剣にあらず。
本来あるべきだったアンジェルグと違う、実態のない収束エネルギーブレードが、羽虫のような音を立てる。
右から左へ。振りぬいた瞬間幻影へと変わり消滅。
そのわずか後ろ、消えていく自分の影を目くらましに本体から放たれる突き。
ガラスの擦れ合うような音が高く、冷たい金属の床に響いた。一合、弐合参合………切り結ばれる二刀。

少しずつ、ソウルゲインのスピードが上がっている。

いや、瞬間的な速度は、そう変わっていない。
ただ、ひとつひとつの動きの間がなくなり始めていた。
ぎこちなかったそれが、水が流れるがごとくなめらかなものへ。
証拠に、ソウルゲインからはアンジェルグの剣の切り跡が減り始めている。
最初の大きな傷は残っているが、それ以外は、自己修復システムがすぐに追いつく程度しか損傷を与えていない。

アンジェルグの幻影と羽が空間を満たす。よどみなく竜巻の蹴撃を繰り出すソウルゲイン。
刃がぶつかるたび、鈴のような音が、沁み入るように波紋として広がる。
まるで、神に捧げる拝舞。お互い、取り決めもなく、全力で戦っている。1秒と、同じ瞬間はない。
なのに、それは完成されきった――神霊も目を奪われるような、戦舞となっていた。

他人に依存するものと、他人への依存を許されなかったもの。
対極にある両者が、

ソウルゲインとアンジェルグ。同一世界でも、因縁を持ってぶつかり合った。
関連をもった力が、

調和を作り出す。

さながら逆説的に。

ついに、ソウルゲインの動きがアンジェルグを上回る。
ミラージュソードを引き戻す際、数cm通常より浮きあがった。
60m級のマシンにおける数cm。機械でなければ分からないようなその差異に、ソウルゲインは肘鉄を叩き込む。
剣のハラにあたる部分にかかる負荷が、アンジェルグの腕へと伝わる。
それに耐えきれず手から離れた剣が、弧を描きどこかへ落ちていった。
だが、どこに落ちたかを確認する暇はない。ラミアは、次の一手を間髪開けず決定する。

「リミッタ―解除、コード入力……!」

時間稼ぎのため、大技を捨てていたラミア。しかし、今のソウルゲインを止めるためには使わざるをえない。
光の粒子が格納庫に広がった後、壁から舞い上がるように空に天使の羽が浮きあがった。
急速加速によって起こる風を翼が受け、速度を落とすことなく宙で機体が翻る。
弦の数は、通常の倍。つまり、先ほどまで違い、それだけ用意せねば引き絞れないということ。
ソウルゲインもまた、両腕に生体エネルギーを収束し、燃やしていた。
ラミアは初めて見た。ソウルゲインの腕が、あれほど輝く瞬間を。
ソウルゲインは、電力を補助ユニットとし、パイロットの生体エネルギーを取り込んで動いている。
大勢のシャドウミラーのクローンたちがソウルゲインを動かしてきた。彼らの命は消耗品。
だから、その戦いで死亡しようとも無尽蔵にエネルギーを注ぎ込んできた。人間のパイロットでは、こうはいかない。

だが、目の前の男は何だ?

クローン1個分の命を使い放つ光よりも、はるかに煌々と輝く青い光を放っている。
何十人のクローンの生命エネルギーも、一人の修羅王の力の前にはかすんでしまう。
命には、軽い重いがある、と言っているようにラミアは見えた。
「……私の命など軽いものだ」
自嘲の笑みを浮かべ、最終セーフティーを解除。同時に、ソウルゲインも解除していた。

「コード・ファントムフェニックス……!」
「コード・麒麟……轟覇機神拳!」

火の鳥が、舞う。
形のない炎と熱気をくゆらせながら、一定の形をもちことなく、羽ばたく。
アンジェルグ……機械で作り出された偽りの天使に与えられた最高の力がそこに在った。
それは、永劫と再生を意味する不死鳥の幻影。ひとたび消えればそこで終わり。よみがえることはない。
そんな空虚な不死鳥が、死体のように横倒しになって動かない機体を飲み込み焼却しながら、青い闘紳へ迫る。
ラミアは、自分の放った不死鳥ではなく、その先にあるソウルゲインと……ほかの機体から外れた剣を見つめていた。

――さあどうする、フォルカ・アルバーグ!

ソウルゲインの拳の光が、全身に広がっていく。
自分の5倍強の大きさをもち、奇声と爆音を引き連れ迫る不死鳥相手に、一歩も退く様子を見せない。
半身を、前に。拳を前に。重心を前に。すべてを前方にソウルゲインは構えていた。
「はああああああああああぁぁぁ!!」
フォルカの吐く息に合わせて拳が放たれる。
早い。
あと少しで不死鳥が届くという限界のタイミングから拳が繰り出された。
速い。
速射性のマシンガンとか、音速を超えた拳とか、そんなものが子供の戯言にしか感じない。
疾い
ソウルゲインの形が、わからない。ぶれた姿の中、光だけがそこにいることを示していた。
瞬い。
不死鳥に次々と打ちこまれる鉄拳。だが当然実体ないものに手を伸ばしたところで、空を切るだけだ。
そう、ラミアは思った。しかし、そんな常識論が通じないことを一拍置いて理解させられる。

不死鳥が、削れていく。

実態のない炎を、オーラで削っていく。その範囲は必然微々たるものだ。
一発一発は、ソウルゲインのこぶし大ほども削れていないであろう。
だというのに、不死鳥はソウルゲインに届かない。届く前に、壁同然のラッシュがかき消してしまう。
仮に、自分の5倍強のものを掌で削るとして、いったいどれだけ時間がかかるだろうか。
まして、自分に雪崩の如く迫るとして、それを捌ききることなどできようか。
「おおおおおおおッッ!!」

それをやってのける男が目の前にいた。

赤をかすませる青。秒間10000発。
最後に、嵐のような大回転が小さく残った炎を周囲に弾き飛ばした。
まさに、修羅王の実力をいかんなくソウルゲインは発揮している。
エスカフローネでは耐えきらなかった強度を、ソウルゲインは満たしていた。

ラミアは急降下し、落ちている剣を拾うと、技を出し切って弛緩しているであろうソウルゲインへ。
手に取った剣は、実体剣だった。それを全速のスピードにまかせ腰だめに突く!
「相手が悪かったな……」
だが、その隙があるでろうという予想すら甘かった。
回転をやめ、ついたばかりの足を軸足に切り替え、さらに回し蹴り。
クロスカウンターのように剣とのばされた脚が交錯し、アンジェルグを逆に猛烈な勢いでのけぞらせた。
距離を取り直そうと後ろに飛翔。その時、アンジェルグの胸に玄武剛弾がめり込んだ。

そのことを、ラミアはフォルカが予想以上にソウルゲインになじみ始めていると判断した。
それ以外は、意識の外に追い出した。追い出せた。
軋むような音を立て、フレームが歪曲する音がする。
続いて放たれる青龍鱗を、どうにか拾った剣でそらす。
見当違いの方向にエネルギーは飛んで行き、ヘルモーズの内壁にあたり、爆発を起こした。
穴が開き、青空が見える。どこまでも飛べる、吸い込まれそうな青空が………
そちらを見やったわずかな時間。しかしそれは戦闘中では値千金の時間。
腕をつけたソウルゲインが、まっすぐに飛翔し、アンジェルグに迫る。
気付いた時には、もう遅い。一気にソウルゲインは一気に加速し、拳に燐光をまとい目の前にいた。
「く――――!」
無理やりな姿勢のまま振った剣をものともしない。
コークスクリューのように回転した正拳好きが、アンジェルグの右肩を打ち抜いた。
しかし同時に左腕をソウルゲインの腹におしつけ、シャドウランサーを解放した。
無理な射出により、内部で溜まっていたエネルギーが爆ぜた。
左腕の肘から下が、チリヂリの破片になってこぼれていく。右腕も、肩の駆動系をやられたのか、全く動かなかった。
それでも機体を立ち上げ、戦闘モードを維持する。
「よせ、これ以上やってどうする!」
「――どうするだと? どうもしない、戦うだけだ。それが、私に与えられた存在理由だ」
もっとも、アンジェルグの武器はほぼすべて腕に集約されている。
やれることなど何も本当はありはしなかった。
ためらうように、構えたまま動かないソウルゲイン。
時間を稼ぐという意味では、最高だった。そのままでいい。そのまま、あと20分もすれば終わる。

すべて終われるのだ。

そう思い、ラミアがため息ともつかぬ息をもらしたとき―――

ユーゼス曰く愚か者2人が入ってきた。

「ちょ、方向転換できないんですけど!」
「なんだと!? うおおおおッ!?」

先ほど開いた穴から、飛び込んでくる大型戦闘機型のロボと、その背に乗った小型ロボ。
グルンガストとエステバリスカスタムだった。
アンジェルグの動きは素早かった。
すぐさま、入ってきたグルンガストを盾代りにしながら、それに取りついた。
「動くな! これ以上動けばこの場で自爆する。もちろん巻き込まれればどうなるかはわかっているな!?」
走り出そうとしていたソウルゲインが動きを止める。
転がり込んできたエステバリスも、起き上った後停止した。
「やめろ、本当に命まであの男に捧げるつもりか!?」
「さっきも言ったろう、フォルカ・アルバーグ! それが私の存在理由だ!」
ラミアが名指しで非難するように声を上げた。その声を聞き………
「ええええええ!? フォルカさんって死んだんじゃなかったの!?」
ミオがすっとんきょうな声。

「………」

「………いろいろあって、助かった」

それだけぽつんと返すと、そんなことは今どうでもいいと、すぐにフォルカは話題を切り換えた。
「だからなぜそこまでユーゼスに協力する、人形とはどういう意味だ!?」
「いやだからそれだけでながされ」
「言葉通りだ! 私はユーゼスさまに使えるために製造された人造人間W17、それ以下でもそれ以上でもない。
 命令をこなすために生まれた使い捨ての人形だ!」
人形とは思えないヒステリックな声色で、ラミアが叫ぶ。
フォルカも、さすがにこの事実に息をのむ。
この状況で、自分たちが口をはさむことはできないとミオとシロッコは黙っていた。
「あの時、聞いてまだ答えてもらっていなかった。
 何故、あの時木原マサキにつくことをよしとしなかった? そうしたほうが良かったはずだ」
「答えたはずだ、自分の判断で行動したと!」
息を荒げるラミア。
「そうだった。だから、それは『意志』ではないかと聞いた。それに対する答えだ」
「それは………」

―――ユーゼスさまのみに依存することで自分が成り立っていたから。

あの時答えられなかった答えが、今胸をかけのぼる。違和感が言霊で形となり、喉までそれがせりあがった。
だが、それを応えてはいけない。答えれば……自分が人形でないことを認めてしまうことになる。
自分の意識を二の次三の次にして主のために働くべき人形が、他者のもとに一時的とはいえ下ることを恐れて拒否したなど。
諭すように、フォルカは言った。
「縛るものがないなら、自分の足で立つべきだ。 ……そのうえで、ユーゼスにつくか決めたほうがいい」

―――そうしてお前達と行動してやはり裏切ったらどうする?
―――そのうえで、ユーゼスさまにつくことを決めたらどうする?

駄目だ、そんなことを考えるな、言おうとするな。
耳を押さえた指の隙間から、するりとフォルカの言葉が滑り込む。

「たとえ茨の道であろうと、選ばなければ後悔する」

それは、そうやってお前自身修羅軍から離れたからか?
他の人に、今を投げ出して生きろとお前は言うのか。
そうお前は私に指示しているのか。命令しているというのか。

「―――自分の意思で選べ」

フォルカは、一度も強要するような言葉を発しなかった。決めつけて前提を作らなかった。
だからこそ、ラミアにその声は届く。耳を、ふさごうとも。
ヘルモーズに帰ってきたときのように、ラミアは頭を抱えて体を丸めて踞る。

光の輪が、グルンガストとアンジェルグを真っ二つに切り裂いた。

「え―――」

爆発まで、あと15分。

それは、格納庫の通路の奥、暗闇からやってきた。
赤い双眸だけが、闇の中浮かび上がっていた。
グルンガストとアンジェルグを切り裂いた光輪が、その中に返っていく。

「ゾフィー……!?」
フォルカが信じられないといった調子で呟いた。

それが、通路から出てきた。格納庫の電灯に照らされたその姿は―――


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最終更新:2008年09月06日 19:47