死者殺し
薄暗くなってきた
廃墟の中で、フォルカは沈痛な面持ちで虚空を眺めていた。
先程の、放送。主催者から発信されたそれを聞き、彼は二重のショックを受けていた。
「12名もの人間が・・・」
死んだ。否、殺された。確かにこの状況に混乱し錯乱して、他者を襲った者もいただろう。
先程の少女・・・いまだ眠る彼女のように。だが・・・数が多すぎる。
いるのだ。この状況を楽しんでいる、人間が。
そして、その人物が殺したであろう名前の羅列の中に・・・聞き覚えのある名前が一つ。
「フェルナンド・アルバーグ・・・」
よく知った名前・・・だが、あの男のはずは無い。
なぜなら彼は、確かに死んだはずなのだから。
何者にも、死者は殺すことは出来ないのだから・・・それならば・・・
「・・・・・・・・・」
フォルカは友と同じ名の人物の為に・・・目を瞑り、祈りを捧げた。
『・・・マデノシボウ・・・ピョウ・・・』
何かが・・・あの男の声が聞こえる・・・
(・・・何を言っているんだろう?)
『・・・マコト・・・キザキハヤ・・・コバヤシ・・・シュウ・・・』
頭がぼんやりとする・・・何が何だかわからない・・・ただ・・・
(コバヤシ?・・・マイ・コバヤシ・・・私の、名前)
『・・・アルバーグ・・・ミワモリヒト・・・』
名前が沢山・・・なんだろう?私も、呼ばれた。
『イジョウ、ジュウニメイ・・・ナカナカノケッ・・・』
私は、何を、していたんだっけ?
それに答えるかのごとく・・・ひとつの単語が、耳に入った。
『・・・コロシアイ・・・』
コロシアイ?ころしあい・・・殺し合い。
(そう、私は殺し合いをしていた・・・?)
わからない・・・先程の放送で、名前を呼ばれた気がする・・・何故?
名前を呼ぶ、理由は?あの声は、何と言っていた?
(までの、しぼう・・・しゃ・・・はっぴょう?)
しぼうしゃ、はっぴょう・・・死亡者、発表。
つまり、あの名前は死者の名前なのだ。
そして・・・マイ・コバヤシ。私。
私は呼ばれた・・・?・・・私は、死んだ?
「あ・・・あ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫んだ。気持ち悪くて。あたまがいたくて。
だれかが、かたをゆすっている。だれ?
『落ち着け!大丈夫だ!』
「ああああああ・・・あ、あ・・・?」
赤毛の男の人が、目の前にいた。
どこかで見た気がするが、思い出せなかった。
彼が差し出した水を受け取り、口に含む。ぬるかった。
「・・・落ち着いたか?」
その問いにコクリと頷く。多分・・・大丈夫だ。
「俺は、君を殺すつもりなんか無い・・・
君だって、殺し合うつもりは・・・」
突然、彼の言葉が止まる。そして、笑顔で私に尋ねた。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな・・・君の名前は?」
名前、私の名前、マイ・コバヤシ・・・死人の名前。
じゃあ・・・ココにいる私は誰?・・・私は・・・私の、名前は・・・
「・・・大丈夫か?無理する必要は・・・」
「レビ・・・レビ、トーラー・・・」
口をついて、名前が出た。私の、名前。
「レビか。いい名前だな・・・よろしく頼む、レビ」
「あ、ああ・・・」
自らの名前に、違和感を感じる・・・
私の戸惑いを感じたのか、目の前の男が心配そうな顔をむける。
「・・・もう少し休んだ方がいいな・・・」
そう呟くと、男はこちらに背を向け、床に置いてあった寝床を整え始めた。
(・・・・・・そうだ・・・少し、休もう・・・私は疲れてるんだ・・・)
休んだら、この違和感も、頭痛も、気持ち悪さも、消えているだろうから・・・
(休んで・・・体調が良くなったら、探しに行こう・・・)
何を?誰を?
(もちろん、リュ・・・)
「っと、忘れてた。俺はフォルカ、フォルカ・アルバーグだ。よろしく頼む」
その言葉を聞き・・・私は一気に現実に引き戻される・・・
アルバーグ・・・放送で、呼ばれた名前・・・死んだ、人間・・・
(きもち、わるい・・・)
違和感の、正体がわかった。死んだ人間が、ココにいてはイケナイ。
死者が、言葉を喋っていては・・・イケナイ。
・・・私は、石を拾うと、目の前で蠢いている、死体めがけて、振り下ろした。
紅い・・・手が紅く染まっている。真っ赤に染まったソレで、操縦桿を握り締める。
機体を西へと動かしながら・・・私が考えるのは一つの問い掛け・・・
私は・・・だれ?
(リュウに、会いたい・・・)
【マイ=コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:E-1から西へ
機体状況:G-リボルバー紛失
最終行動方針:リュウセイに会う】
【フォルカ=アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ (天空のエスカフローネ)
パイロット状況:死亡
機体状況:剣に相当のダメージ。それ以外は問題なし】
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最終更新:2009年02月15日 04:42