修羅と囁きと
空が青い。
殺し合いなんてウソの様に晴れ渡っている。
「リュウも…この青い空を見ているのかな…?」
自分と同じ空を彼も見ていると思うと少しだけ、気が楽になる。
そう思いマイはこの何処までも広がる空をR-1越しに見つめつづけていた。
風が気持ちいい。
殺し合いなんてウソのように心地よく頬に風が当たる。
「だが…こうしている間にも…戦いを望まない人が修羅と化す…」
自分と同じ様に心地よい風を感じている人々が殺し、殺される。
そう思うとフォルカは自分の無力感に押しつぶされそうになる。
「…俺は修羅王に言ったんだ…殺しあわなくても人は生きていけると!!それを証明してみせると!!」
自分が乗る機械仕掛けの飛竜のスピードを上げる、心地良かった風が、今度は痛みに変わって行くのが分かる。
「…!?」
R-1のセンサー音により我に返るマイ。
自分の直ぐ近くに自分の下へ近寄る機体が居る事を示している。
「…敵?…けど…!!」
殺し合いをする気で自分に接触を試みるつもりなのかもしれない。
逆に向こうも戦闘を好んでいないのかもしれない。
どちらにしても兎に角接触を試みなければ始まらない。
G-リボルバーの安全装置を解除して、センサーが示す地点をモニターに移す。
「…これは…竜?」
そこには、大空を駆ける、美しい白竜が写されていた。
この会場に入ってから初めて自分以外の機体を見た。
やはり…と言うか自分の機体は他の機体に比べ小さい。しかも今の形態では生身を晒しているというトンでもない状態。
そう、フォルカは思った。
「無闇に接触を試みるのは危険か…?」
だが、話してみなければ分からない。
本当は通信機で話す事が出来ればいいのだが、この機体には元々通信機がついなかったのか、
外付けのお世辞にも使えるとは言い難いレベルの通信機しかついていない。
ある程度まで近寄らないと音声通信を聞くのさえままならない状態だ。
「…そうだな…」
向こうの射程ギリギリだと言うところまで近寄り、その上空をグルグルと回りだす。
そうやって敵意は無いと言う意思表示をする事にした。
「…敵意は…無い…のかな?」
距離を置き、自分の周りをグルグルと飛びつづける飛竜、攻撃するのならばとっくに攻撃をしているだろう。
しかし通信回線はオープンにしているのだが、反応は無い。
「どういうつもりだろう…罠…?けど…ウグッ!!」
そう悩んでいるマイに突如激しい頭痛が襲い掛かる。
『何をためらっているのだ?ここは殺し合いの場なのだぞ…?』
そして、頭の中に響く、地獄の使者の声。
「ううっ!!うあ・・あああ!!」
『ごらん、あの邪竜を…お前が近寄るのを待っている、お前の命を食らおうと待っている…さあ…』
頭痛は止まらない、囁きも止まらない。
「ああっ!!あああああ!!!」
『そう…お前はそれでいい…あの邪竜はお前の命を狙っているんだよ…?さあ!引き金を!!』
安全装置を外したG-リボルバーを飛竜に向ける。
「ああああ!!う…ぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
そして 引き金を 引いた。
今まで動きが無かった相手の機体から放たれる弾丸。
自分の機体のサイズが幸いしてか、その弾丸は間一髪のところでエスカフローネの横にそれる。
「くぅっ!!此方は闘う意思は無いのに!!!!」
今まで飛竜として運用していたエスカフローネ、それを人型──戦闘モードにする。
そして、相手──R-1に向かい剣を構える。
「ならば!!近寄って…」
フォルカは駆ける、敵意を向けているR-1に向かって。
『ほらごらん?邪竜が本性をあらわした…ホラごらん?あの禍禍しい姿を…アレはお前を死へといざなう悪魔の使い…』
囁きがマイを惑わす、地獄の使いの囁きが。
「うわぁあ!!うわ!!く、くるなぁぁぁぁぁああああ!!!」
その囁きの目論見どおり、マイは狂ったかの様に人型になった飛竜に向け、弾丸を放つ。
ただ、サイズが小さすぎて中々当たらない。
「来るな!来るな!来るなァアァァァ!!」
狂った様に、そう、正に悪夢に魘されているかのように打ちまくる。
その内の一発が相手の機体の剣に当たる。
その衝撃で、唯一の武器と言ってもいい、剣が中を舞う。
だが、それに怯まずに尚自分に近寄ろうとする機体。
「な、何で止まらないの!!」
『それは悪魔の使いだからさ…さあ、早くアイツを倒してしまえ…』
「うわ!来るなあぁぁぁ!!う、うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ちぃ…腕が痺れる…!!」
このエスカフローネ、機体のダメージを操縦者にダイレクトに伝えるマシーン。
先ほど剣で受けた弾丸の衝撃が自分の腕に直接来る。
「だが…もう少し、もう少しなんだ!!」
もう少し近寄れば通信機の有効範囲に付く。
「うおおおおお!!」
弾丸の嵐を避けながら機体に近寄っていく。
通信機が使える距離まで50…40…25…20…15…
「はぁぁぁぁぁぁあっっ!!真!!覇・光・拳!!!」
そして、相手の機体──R-1のG-リボルバーに向けて閃光を放つ拳を放つ。
リボルバーは空中を舞う。
そして通信を開ける。
「聞いてくれ!!俺は!!戦うつもりは!!無い!!!」
『聞いてくれ!!俺は!!戦うつもりは!!無い!!!』
今まで反応が無かった通信機が反応する。だが、マイはもうそんな事は関係は無かった。
「ウソを付くな!!来るな!!来るなぁあ!!」
機体からゴールドメタリックナイフを取り出し、近寄ってきたエスカフローネに向け、それを放つ。
『本当だ!信じてくれ!!君と戦う気は無い!!』
「ならば!!それを証明してみせてよ!!」
元々接近戦は余り得意では無い方のマイ、ナイフの攻撃はいとも簡単に避けられる。
「私に…証明させて見せてよ!!」
そして、再び頭の中で囁きが聞こえる。
『そうだ…お前に殺されると言う形でのみしか証明できないんだよ…』
と…
「証明…か…難しい事を言ってくれる…」
このまま逃げるという選択肢はあった。それはとても楽で、一番確実な手であった。
だが、フォルカはその選択肢はしなかった。
通信の様子を見るに、怯え、錯乱する少女を投げて置いたら確実に誰かが死ぬ。
あの少女の手によりやられるか、それともあの少女がやられるか。
フォルカは思う。ならば修羅王ならどうする?
修羅王なら間違いなくこの少女を自分の手で倒すという選択をするだろう。
その業を自分で背負う。そうする事で悲劇の連鎖を自分で止める。
先ほどのナイフ捌きを見たら、接近戦ならば自分に部がある。不可能ではない。
しかし、フォルカはその選択肢も選ぶことは無かった。
「修羅王!見ているか!これが俺の証明の仕方だ!!!」
誰に言うわけでもなくそう叫んだ後、その場から離れ、エスカフローネを飛行型に変身させた。
「誰も戦わなくてもいい、戦わなくてもいい道を探すと!!俺は修羅王と約束したんだぁぁぁぁ!!」
「くぅ!何で!何で私を殺そうとする!何で!!」
再び飛竜型に変形し、R-1に近づいていくエスカフローネ。
「くそう!!来るな!来るなぁぁぁぁっ!!」
頭部のバルカンを飛竜に向けて放つ。
だが、怯まない。
「と、止めを…止めを刺しにくる!!」
早くあの飛竜を止めないと、そう思いセンサーを調節する。
そこには
信じられない物が写っていた。
「…ア…あ…!?」
飛竜の首元に、先ほど通信していた男が立っていた。
先ほどのバルカン方がかすったのか、頬に血を染めながら。
両手を広げ。
此方を見据えて。
立っていた。
バルカンの雨を恐れず。
敵意が無いと言わんばかりに。
両手を広げ。
何も言わずに。
立っていた。
バルカンの雨が止む、そしてR-1の動きがピタリと止む。
賭けに成功したようだ。
正直危険な賭けだった。
幾ら修羅界で鍛えた体といえど、バルカン1発でも食らえば無事ではすまなかった。
だが、これしか方法は思いつかなかった。
実際、数発は肩や頬を掠めていった、それだけなのに血が止まらない。
「分かって…くれたか…」
そしてそのままR-1に近寄り、その肩に着陸する。
それに答える様にR-1のコクピットが開かれる。
そのコクピットの中には、先ほど通信していた一人の少女が座っていた。
先ほどみたいに錯乱した様子は無く、ただ疲れたかの表情をしていた。
そして、フォルカの姿を見た後。
「…リュウ…」
と、呟いた後、ふっと椅子に倒れこんだ。
「お、おい…!?なんだ…気を失っただけか…」
そう、ほっと肩を撫で下ろす。
さて、これからどうするか…
戦いを何とかしたいのは確かだが、このままこの少女をほっておくわけには行かない。
そして、自分も怪我の治療をしたい。
「どこか…休めるところを探すか…」
そう呟くと同時に、気を失っている少女を抱え、怪我をしているとは思えないスピードで
廃墟の中で休める所を探し出した。
まどろみの中、声が聞こえる。
あの仮面の男と、私が何かを喋っている。
何を話しているんだろう…分からない…聞こえない…
ただ…私がここに来た理由が…色んな人が…ここに来た理由が…そこにある気がする…
【マイ=コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置: E-1 廃墟内
機体状況:G-リボルバー紛失
第一行動方針:気絶してます。
第二行動方針:仲間を捜す(リュウセイ優先)
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考:レビ状態かどうかは次の書き手さんにまかせます】
【フォルカ=アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ (天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等に多数の負傷(戦闘には余り支障無し)
機体状況:剣に相当のダメージ
現在位置:E-1 廃墟内
第一行動方針: 怪我の応急処置、目の前の少女が目を覚ますまで待つ
最終行動方針:殺し合いを止める 】
【初日 16:00】
最終更新:2008年05月30日 03:29